本日の一品

手のひらに凶暴なアナログシンセサイザー! KORG「monotron」

KORG monotron

 手のひらに乗る小さなボディ。スピーカーとヘッドフォンジャック。スイッチひとつにツマミが5つ。そして鍵盤がプリントされた横長のタッチパネル。スイッチを入れ、ツマミを適当に回し、リボンと呼ばれるタッチパネルにふれると、スピーカーからは強烈な電子音――。

 これはシンセサイザーだ。今回紹介する「monotron」は、シンセサイザーの老舗コルグが生み出した、小さくも凶暴なサウンドを放つ、立派な「アナログシンセサイザー」である。

 シンセサイザーとは「音を電子的に合成して発する機械」である。その中で、デジタル処理を使わず、アナログ回路を用いて音を合成するものがアナログシンセサイザーだ。電圧と周波数をそのまま変化させて得られるアナログの音は、電化製品が近くにあればノイズが乗るし、室温など環境の変化にも影響を受けてしまう。

 しかしアナログシンセサイザー独特の味を好むファンは多く、デジタル時代以前に発売されたヴィンテージ・アナログシンセサイザーは、高値で取引される製品もあるほど。そんなアナログシンセサイザーの世界を、monotronは手軽に楽しむことができる。

 monotronは電源を入れ、5つのツマミを回し、リボンコントローラー鍵盤にふれるだけで音が出る。ツマミの回し具合で劇的に音が変わるのが面白い。単4乾電池2本で動作し、小さいのでどこでも遊べる気軽さだ。

 タッチパネル状のリボンコントローラー鍵盤は、見た目どおり音階に対応している。しかしドレミなど音階をハッキリと弾きわけることはできないので、複雑なメロディを奏でるの苦手。鍵盤よりもギターのネックをイメージすると演奏しやすい。音はひとつだけ鳴らすことができ、和音を出すことはできない。これをシンセサイザーではモノフォニックと呼ぶ(一方、和音を奏でることができるシンセサイザーはポリフォニックと呼ばれる)。

5つのツマミ。左からVCO pitch、LFO rateとint. VCFのcutoffとpeak。rateツマミはLFOに合わせて点滅する
電源はモジュレーションモード選択を兼ねる。右上のスリットがスピーカー、音量小さめなので近所迷惑にはならない(笑)
本文では割愛したが、外部入力端子もありmonotronの音声とミックスして出力できる。
大きさは昨今のスマートフォン程度だ。音がとにかく個性的なのでオフィシャルサイト等で一聴していただきたい

 5つのツマミを詳しく見てみよう。これらは電子音を変化させるVCO、VCF、LFOという3つの回路を操作できる。

 「VCO」(Voltage-controlled oscillator:電圧制御発振器)は、音を作り出すオシレーターだ。pitchツマミでリボン鍵盤のオクターブ高低を調整できる。ギターに例えれば弦を巻くチューニングペグをイメージするとわかりやすい。リボンで音を鳴らしながらpitchツマミをグニグニ回すと、音がウィィンウィィンと変化する。左に回せば低音が、右に回せば耳をひっかく高音まで調整が可能だ。

 「VCF」(Voltage-controlled filter:電圧制御濾波器)はフィルターだ。こし器のようにVCOが発する音声の周波数を一部カットする。monotronのフィルターはローパスというタイプで、cutoffツマミで設定した周波数「以上」の高音をカットし、残った低音域を通過(パス)させる。左に回せば、こもった暗い音。右に回せば、高音域を含んだままの明るい音になる。

 さらにpeakツマミはcutoffツマミで調整した周波数付近の音を強調する。強力な音の変化をもたらすツマミで、設定によっては激烈な音に化ける。monotronはコルグの名機と呼ばれるアナログシンセサイザー「MS-20」と同じVCF回路を使用しており、MS-20ゆずりの凶悪な音色は本製品のウリとなっている。

 「LFO」(Low Frequency Oscillator:低周波発振器)はモジュレーションと呼ばれ、電源スイッチを兼ねる切り替えスイッチによってVCOかVCFに接続される。

 スイッチをpitch modに合わせるとVCOに接続され、VCOの発する音高をLFOの低周波に合わせて周期的に変化させる。またギターに例えるならば、弦を上下させるチョーキングやビブラートレバーだ。くりかえしピューンピューンと、うねりのある音を生み出してくれる。

 スイッチをcutoff modに合わせればVCFに接続され、LFOの低周波に合わせてVCFのローパスフィルターを開閉させる。VCFでフィルターされる高音域が発音と消音をくりかえすので、ピコピコ、リズムを刻む音を得られるわけだ。

 どちらのスイッチでも、LFOの効果はint.ツマミで深さを調整できるので、LFO抜きのクリーンな音や、中間で微妙な音具合を楽しめる。またrateツマミで周波数、すなわちモジュレーションをくりかえすスビードを調整でき、うねりやリズムの速さをコントロールできる。ツマミを最速にすれば、ピューンピューンやピコピコが聞き取れないほどの連続音となり、それそのものが強烈な音色と化す。

 VCFとLFOの組み合わせで合成されるmonotronの音は本当にユニーク。テクノやノイズミュージックが大好きな方なら、このぶっ飛んだサウンドに心がトキメくと思う。それにシンセサイザーの基本に忠実かつシンプルな設計は入門機として本当におススメである。筆者はmonotronにふれて改めてシンセサイザーの基礎を学ぶことができた。

 ガジェットとして見ても、デジタル全盛の時代に、完全アナログな電子機器を触っているのは、ちょっと楽しい。音楽好き、楽器好きな方だけでなく、ガジェット好きな方にも触れてみてほしいアイテムである。

製品名製造元購入価格
monotronコルグ2980円

はやしだ