本日の一品

Windowsの「サスペンド復帰失敗」を250円で解決する、人差し指の代用品

 筆者はかつて社内で役員室へ向かう時、ThinkPadの液晶とキーボードの間に人差し指を挟んで歩いていた。何とも間抜けな姿だが、当時のモバイルパソコンではこれが意外に重要だった。フタを閉じればサスペンドする。

人差し指の代役を務める250円の小道具

 しかし、本来「一時休止」のはずなのに、再び開いた時には復帰しない、ブルースクリーンになる、勝手に再起動するなど、そのまま「永遠の眠り」につくことも珍しくなかったからだ。

 今回見つけた約250円の「サスペンド防止フィンガー」は、そんな筆者の人差し指を21世紀になって3Dプリンターで再現したような商品である。カラーバリエーションは3色。製品をよく見ると3Dプリンター特有の積層痕もハッキリ見える。

3色そろえても1000円でお釣りが来る

 当時は役員室へ移動する社員が何人か乗ったエレベーターで、筆者と同じようにパソコンに人差し指を挟んでいる人を見かけることもあった。問題は混雑したエレベーターだ。誰かがパソコンにぶつかれば指を挟まれる。サスペンドを防ぐために指を負傷していては何をやっているのか分からない。

昔はこんな姿の社員をよく見かけた(AIで生成したイメージ)

 そもそもノートパソコンは、フタが閉じたことをどうやって知るのだろう。ThinkPadの商品企画や製品戦略を10年以上担当していた筆者も「フタを何度まで閉じればサスペンドするのか」など真面目に考えた記憶がない。

 昔から機械式スイッチやリードスイッチなどいくつかの方式が使われてきたが、現在では磁石とHallセンサーを利用した検出が一般的だ。液晶側と本体側の一方に磁石、もう一方に磁界を検出するHallセンサーを配置し、両者が近づくことでフタが閉じたことを検出する。

 そこで筆者の「ThinkPad X1 Nano」(X1 Nano)で実験してみた。金属製のクリップを本体周辺へ近づけていくと、ある場所でピタッと吸い付いた。なるほど、ここに磁石があるらしい。

発見!クリップが吸い付く磁石の位置

 では、何度まで閉じればサスペンドするのか。実は単純な「角度」の問題ではない。磁石とセンサーが反応する距離まで近づいたところが、そのパソコンにとって「もう寝ます」というポイントになる。メーカーや機種によって磁石やセンサーの位置も違えば、反応する距離も異なる。X1 Nanoのフタをゆっくり閉じながら確認すると、かなり狭いところまで画面は生きている。

この辺りから先でThinkPadは眠りに入る

 しかし人間が毎回この微妙な位置で止めるのは難しい。手を離せば液晶はそのまま閉じてしまう。そこで「サスペンド防止フィンガー」を取り付けてみた。物理的にフタを支えるので、先ほど確認したサスペンド開始位置よりはるかに大きな隙間を確保できる。画面も当然そのままだ。極めて原始的な方法だが目的は完全に達成している。

サスペンドする角度より大きく開く。効果は十分

 昔のWindows パソコンでは「ACPI S3」と呼ばれるサスペンド方式が広く使われていた。CPUをはじめ多くのデバイスを停止し、DRAMには通電して状態を保持する。しかし復帰時にはGPU、ネットワーク、USBなどさまざまなデバイスとドライバーを正常な状態へ戻す必要があった。どこかひとつが機嫌を損ねれば復帰しない。ブルースクリーンや再起動という悲劇につながった。

 現在のWindowsノートでは「Modern Standby」(S0 Low Power Idle)を採用する機種も多い。昔のS3よりスマートフォンの画面オフに近い仕組みで、素早い復帰が期待できる。その一方、スリープ中の電力消費やバッグの中での発熱など、昔とは違った問題が話題になることもある。つまり、昔よりはるかに進歩したが「絶対に失敗してはいけないプレゼンの直前」に100%の安心を約束してくれる魔法ではない。

 さて、約250円のサスペンド防止フィンガーは構造も極めて単純だ。液晶側とキーボード側をそれぞれコの字型の部分で受け止め、物理的にそれ以上閉じなくするだけである。

汎用品ゆえX1 Nanoには受け側が少し広い

 ただし汎用品なので、薄型のX1 Nanoにはキーボード側の受けが少々大きすぎた。このままでも使えないことはないが、持ち歩く道具ならガタつかない方がいい。そこで消しゴムを適当な大きさに切り、両面テープで内側へ貼り付けてみた。これだけで隙間が埋まり、X1 Nanoにもかなりしっくり収まった。

消しゴム+両面テープでジャストフィット

 そして実際にパソコンを手に持ってみる。かつてなら、この隙間を確保していたのは筆者自身の人差し指だった。混雑したエレベーターで誰かにぶつかられる心配をしながら歩く必要もない。

人差し指を挟むより、はるかに安心だ

 筆者は新しいテクノロジーが大好きだが、肝心な場面になると驚くほど保守的になる。Wi-Fiよりイーサネット、Bluetoothよりケーブル、そしてサスペンドより……人差し指である。

 ワイヤレス接続が99.9%大丈夫でも、残り0.1%が重要なプレゼンの瞬間にやって来ない保証はない。同じことはパソコンのサスペンドにも言える。サスペンドは本来「一時休止」である。しかし長年パソコンを使ってきた人なら、一時休止のつもりが「永遠の眠り」になった経験が一度くらいはあるだろう。役員を前にして「ちょっと待ってください。いま再起動しています」は通用しない。理論上は大丈夫でも、過去の痛い経験が人間の行動を決めることはある。

プレゼン直前のモバイルパソコンに小さな保険

 約250円の「サスペンド防止フィンガー」は、最新テクノロジーとは正反対の、単にフタを閉じさせないだけの3Dプリンター製ガジェットである。

 しかし、その単純さこそ最大の信頼性だ。パソコンのサスペンドより自分の人差し指を信用してきた筆者にとって、ようやく人差し指を危険な任務から解放してくれる時代がやって来たのである。

製品名発売元実売価格
サスペンド防止フィンガー-約250円