本日の一品

充電式ピクセルコンパスで令和のデジタルワールドを彷徨う

 コンパス(方位磁石)という道具が地球上に現れたのは、一体いつのころだろうか。数千年の歴史を持つとされるこの単純な道具の目的は、単に地図上の位置を知るためだけのものではない。

 それは、大海原で進むべき道を示し、冒険家を宝島へと導き、時には人の心が目指すべき理想や、人生の指針となる「心のコンパス」にも例えられてきた。コンパスとは、不確かさの中にひとつの「確実な指針」をもたらす存在であったはずだ。

 しかし、筆者は先日、AliExpressという現代の混沌としたEC市場を徘徊中、そのコンパスの定義を根本から揺るがす、実に奇妙なガジェットを手に入れた。果たしてこれは、現代社会において使えるモノなのか、それとも全くの無用の長物なのか。その正体は、実際に手にしてみるまで誰にも分からなかった。

 手に入れたのは、「充電式ピクセルコンパスキーホルダー」と名付けられたアイテムである。パッケージを開けてまず驚いたのは、そのサイズ感だ。筆者が愛用している一般的なアウトドア用のコンパス(リストコンパス)と比較しても、優に二まわりは大きい。キーホルダーとしてバックパックに下げるには、なかなかの存在感である。

その巨大さが際立つ。厚みもあり、チープだがガジェットとしての雰囲気は十分だ。お約束の充電用USB Type-Cポートがある

 最大の特徴は、方角を示す「磁針」が物理的な金属片ではなく、デジタル表示である点だ。通常は「NORTH(北)」を指し示すはずの赤色の針は、7~10程度の四角いピクセルの集合体として表現されている。このレトロなピクセルアート風のデザインは、人気ゲーム「マインクラフト」の世界観を強く意識していることは明らかだ。

手前の電源スイッチを入れた状態。ピクセルで構成された赤の針(N極)が「North」を指している(ように見える)

 本体を手に持って軽く回転運動をしてみると、確かに本物のコンパスのように、ピクセル表示の磁針がカクカクと回転し、再びNorthを探す仕草を見せる。その挙動は一見、健気で、デジタル全盛の令和の時代において、アナログな温かみさえ感じさせる演出だ。

本体を回転させると、ピクセル針が地磁気に反応して(いるかのように)動く様子が見られる

 しかし、ここで冷静に考えてみなければならない。普通の方位磁石は、地球の磁力という物理法則のみで動作するため、電池は一切不要である。遭難時など、あらゆる電力が絶たれた極限状態でも北を指し続けるからこそ、サバイバル道具として信頼されているのだ。

 対して、この「充電式ピクセルコンパス」は、その名の通り電力がなければただのプラスチックの塊と化す。つまり、「電池が切れると北が消滅する」という、コンパスにあるまじき脆弱性を抱えているのである。

 しかも、このデバイスが指し示す「北」は、地球の磁場を感じ取った結果ではなく、内蔵された安価なセンサーとロジック回路、そして乱数(Random)によって生成された、いわば「自称・北」である可能性が極めて高い。

 実社会でこのコンパスを信じて行動すれば、目的地はおろか、精神的な迷子になることは必定だ。では、この「おバカすぎる」ガジェットの正しい使い道とは何だろうか。それは、現代人が失いつつある「偶然性」を楽しむための道具ではないだろうか。

 「赤いLEDの磁針が指す方角が北だ」と盲目的に信じることで、GPSが導く最短ルートではなく、誰も知らない路地裏や、思いがけない出会いのある場所へと、あえて迷い込むことができる。つまり、これは実用的なナビゲーションツールではなく、ユーザーの心構え一つで「日常を冒険に変える」ためのエンターテインメント・デバイスなのかもしれない。

 充電は、現代の標準的なUSB ACアダプタで行う。本体側面にはType-Cの充電ポートと、電源のオンオフを行う小さなスライドスイッチが配置されており、ここだけは無駄に現代的な仕様となっている。

 筆者は、この不条理なプロダクトの内部構造に強い興味を抱き、本体を分解してみた。内部には150mAhのリチウムポリマーバッテリー、ピクセル磁針を作り出すための38個にも及ぶLED、そしてそれらを制御するロジック回路が、余裕をもって収められていた。その様子は、高度なテクノロジーを無駄遣いすることに対する、ある種の狂気さえ感じさせる。

分解された内部構造。バッテリー、LED基板、ロジック回路が確認できる
基板のアップ。38個のLEDが円状に並び、ピクセル表示を構成している

 この、愛すべきいい加減さを形にしたピクセルコンパス。筆者には、これを携えて挑みたい場所がある。4年の長いお休みを経て再開した「本との出会い」を最大化してくれるという三省堂書店 神保町本店だ。

 新装開店したその広い空間へ、開店直後に行った筆者は信心不足からか残念ながら“偶然の出会い”を得られなかった。今度は、このあてにならないピクセルコンパスを信じて、本棚の間を彷徨ってみようと考えている。

偶然をマキシマイズするなら、ある意味で理想的なピクセルコンパスだ
ピクセルコンパス(右)と、特製ノーモン付きの日腕時計(左)。最強の「あてにならない」コンビだが……

 もちろん、腕には友人に日本で使うのに最適な高さと角度で特別に作ってもらったノーモン(日時計の指針)を取り付けた、これまた天候次第であてにならない「日腕時計」を装着して。

 二つの「あてにならない」道具が導く先で、果たして運命の一冊に出会えるのか、それともただの迷子として一日を終えるのか。その不確かさこそが、デジタルワールドに生きる大人の、最高に贅沢な楽しみかもしれない。

商品名購入元価格
充電式ピクセルコンパスキーホルダーAliExpress340円
(2026年3月7日購入)