本日の一品

エモさの正体は不自由の先にあるのか? 「ESCURA Retro1」で探るデジタルミニカメラの深淵

 最近、WebメディアやSNSの広告で、やけに「ミニデジタルカメラ」の文字を目にすることが増えた。手のひらに収まるどころか、指先でつまめるようなサイズのデジカメだ。

 実を言うと、筆者もそのブームに抗えず、昨年から今年にかけて、2980円の「mini いつも持ち歩きたくなるデジタルカメラ」(SMC01-YE)や、Kodakの「Charmera」(シャルメラ)を立て続けに購入してしまった。

 これらミニカメラを語る上で欠かせないキーワードが「エモい写真が撮れる」という謳い文句だ。

 正直なところ、この「エモい」という感覚は、世代によっては分かったようで分からない、掴みどころのない言葉だろう。単に解像度が低く、ピントが甘いレトロ風の写真であれば、高性能なスマホのフィルター機能でこと足りるはずだ。

 エモさの定義とは何なのか。それはカメラのスペックなのか、被写体の選択なのか、あるいは不完全な道具を操る撮り手の人生観が投影された結果なのか。3台目のミニカメラを手にし、その正体を少し掘り下げてみたい。

 今回、筆者のコレクションに加わったのは「ESCURA Retro1 デジタルミニカメラ」である。購入の最大の動機は、エモい写真への欲求よりも、その外観に尽きる。古くからのカメラファンなら一目でピンとくるはずだ。

 かつて一世を風靡したポラロイドのインスタマチックカメラ、とりわけ「One Step(ランドカメラ)」を完璧にオマージュしたデザインなのである。あの虹色のストライプこそないが、台形のフォルムと象徴的なフロントマスクをこのサイズに凝縮した姿は、往年のガジェット好きの心を激しく揺さぶる。

 気が付けば手元には5台ものミニカメラが並んでいた。しかし、今回のESCURA Retro1には、ほかのモデルにはたいてい備わっている決定的なパーツが欠落している。背面の液晶画面、つまりビューファインダーが存在しないのだ。

 被写体を中央に捉えることも、意図的に構図をずらすことも、すべては「勘」に頼るしかない。現代のデジタル機器としては極めてスパルタンな仕様である。

 パッケージは環境に配慮したようなクラフト感のあるデザインで、中にはカメラ本体、USBケーブル、ストラップ、キーチェーン、そして取扱説明書がぎっしりと収まっている。スペックを簡単に記すと、静止画解像度は2560×1440ピクセル(約500万画素相当)、動画は1920×1080ピクセル。

 記録メディアはこのクラスの定番であるmicroSDカード(最大64GB)を使用する。充電を開始したり、シャッターボタンを長押しして起動させたりすると、ファインダーの奥で赤いLEDが点灯するギミックは、どこかアナログな手応えを感じさせて面白い。

 外観は非常に魅力的なESCURA Retro1だが、実際に運用を始めると、令和のガジェットとしては首を傾げたくなる仕様に直面する。この手のカメラの主戦場はSNSであり、撮影データを見たいメイン層はスマホユーザーのはずだ。

 しかし、付属のケーブルは「USB Type-A to USB Type-C」なのである。PCでもUSB Type-Cポートが標準となりつつある現代において、スマホ直結もままならないこのスペックは、率直に言ってミスマッチだ。

 筆者はやむを得ず、普段使いのThinkPadではなく、レガシーなUSB Type-Aポートを備えた富士通のノートパソコンを引っ張り出してデータを転送した。ちなみに、2980円のより安価な「SMC01」でさえ最初からUSB Type-Cの直結アダプターを同梱し、スマホへの直接転送を意識したパッケージングになっている。

 本機をスマホにつなぐには別途、変換プラグを用意するか、カードリーダーを介す必要がある。この不親切さは「作法」として楽しむには少々ハードルが高い。

 肝心の撮影結果だが、100枚ほどシャッターを切ってみた感想は「手強い」の一言だ。室内での撮影はそれなりにまとまるが、屋外では天候に左右されやすい。特に逆光には弱く、少しでも光が回り込むと画面全体が白飛びするか、奇妙なフレアに包まれる。

 また、夜間のネオンや発光体の撮影も、露出の制御が効かないため非常に困難だ。正直、画質クオリティとしては筆者が所有する他のミニカメラに一歩譲る印象である。

 液晶モニターがないため、近接撮影では視差(パララックス)によってフォーカスポイントが大きくズレる。遠景ならまだしも、狙った被写体を思い通りに切り取るには相当な習熟が必要だ。

 しかし、この「思い通りにいかない」ことこそが、思わぬ幸運、いわゆるセレンディピティを生むきっかけになるのかもしれない。

 逆光での激しいハレーションや、制御不能な光の滲み。これらを欠点と切り捨てるのではなく、演出として使いこなすことができれば、それこそが現代における「エモい写真」への近道なのだろう。

 利便性と高画質というテクノロジーの恩恵にどっぷりと浸かっている筆者にとって、このカメラが叩き出す予測不能な結果は、まだ「失敗写真」の域を出ていない。

 あえてマイナスのスペックから出発し、不自由を楽しむ。それがデジタルミニカメラの醍醐味だ。とはいえ、スマホ社会におけるデータの出口戦略、つまり転送手段の改善だけは、メーカーに早急な対応を望みたいところである。

 この小さな不便な箱が、いつか筆者の感性を「エモ」の領域まで引き上げてくれることを期待しつつ、今日もファインダーのない暗闇を覗き込んでいる。

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