石川温の「スマホ業界 Watch」

NTT法の議論で考える、「全国あまねく電話」を届けるユニバーサルサービスは固定のままか、スマホにすべきか

 総務省は4月23日、NTTのあり方を議論する有識者会議を開催した。

 すでに今月17日には改正NTT法が成立し、NTTに課せられていた研究成果の開示義務は撤廃された。一方で、全国一律に固定電話を提供する義務を負うユニバーサルサービスについては検討が続けられている。

 1984年、日本電信電話からNTTへ民営化される際、NTTには固定電話の提供を「ユニバーサルサービス」として義務づける規制がかかった。

 しかし、民営化から40年が経過し、固定電話の契約者は減少を続けている。実際、固定電話の契約者数は1997年11月の6322万件をピークに減少し、2024年3月末には1241万件になる見込みとなっている。NTTの島田明社長は「毎年150万件ずつ減っている。ここ数年で1000万を切ることになる」として、固定電話の維持がNTTにとっての重荷になっていると指摘する。

 今後、メタル回線を光回線に切り替えていくだけでも経営的には相当な負担だ。

 実際、ユーザーの多くはスマートフォンを持ち歩くようになっており、固定電話に依存しない生活環境になっている。NTTが引用した令和5年情報通信白書によれば、固定のみを所有する世帯は2%に留まっており、固定とモバイルを両方保有するのは61%、モバイルのみ保有というのも36%にまで上昇している。

 一人暮らしであればモバイルのみというのも納得するが、2人以上の世帯でもモバイルのみ保有するというところも多く、世帯年収においても、あまりバラツキがない状態となっている。

 NTTでは「もはや固定電話ではなく、音声通話やメール、LINEなど携帯電話を中心としたコミュニケーションが主流になっている」と指摘。固定電話ではなく「モバイルを中心としたユニバーサルサービスにすべき」と主張する。

 そんななか、NTTでは新たなユニバーサルサービスの、想定される必要コストを示した。

 まず、全国を光回線電話のみでカバー率を100%、実現しようとすると整備費に2200億円が必要となり、年間770億円の赤字を垂れ流すことにあるという。

 一方で、興味深いのがワイヤレス固定方式、いわゆるNTTドコモが提供する「homeでんわ」やKDDI「ホームプラス電話」、ソフトバンク「おうちのでんわ」といったようにモバイルの回線を内蔵したデバイスに電話機を接続して固定電話として利用できるサービスでユニバーサルサービスを実現してしまおうという考え方だ。もちろん電話番号は従来の0ABJ番号である03や06などが使えるというものだ。

 ビル影などモバイルの電波が届きにくいところはNTT東西が光回線電話を提供するが、今後、固定電話が必要な人は基本的にワイヤレス固定方式を提供するという割り切った考え方に振り切っている。

 NTTによれば、これであれば整備は410億円となり、年間の赤字額も60億円に収まるという。ただ、有識者会議ではコストの算定に納得ができないという意見も多く、議論が先送りになってしまっている。

 NTTが光回線電話ではなく、原則、NTTドコモやKDDI、ソフトバンクや楽天モバイルが提供するセルラー回線で電話サービスを提供すれば良い考えにシフトしたというのは結構、驚きではある一方、とても現実的な考え方をしており好感が持てる。

 確かに大きな災害があったときには、自宅から逃げ、近所の避難所や病院に移っていることもあり、固定電話への連絡は何の意味もなさない。

 それより、モバイル回線がしっかりしていて、どこにいても、安否確認をできる状況を維持することこそが国民に対するユニバーサルサービスのあるべき姿だ。

 NTTとしては「人があまり住んでいないような場所に光回線を敷設するのはコストでしかなく儲からないからやりたくない」というのが本音ではないか。

 そうした過疎地域であれば、NTTが回線を提供しなくても、KDDIやソフトバンク、楽天モバイルが近くに基地局を建てていれば、そこからの電波で、ワイヤレス固定方式を提供すれば良いと押しつけたいのだろう。

NTT執行役員経営企画部門長の服部明利氏

 一方で、KDDIやソフトバンク、楽天モバイルはそうした儲からない場所でサービス提供を強制させる恐れがあるために「NTTはきっちりと光回線をユニバーサルサービスとして提供すべき」と反発するのも理解できる。

 ただ、ここ数年で、スターリンクといった衛星通信サービスが一般化したことで、過疎地においても、光回線を敷設しなくても基地局を容易に設置できるようになったという追い風もある。

 もちろん、スターリンクという海外企業に日本国民のユニバーサルサービスを委ねて良いのかという指摘も納得できる。

 将来的にはNTTグループやソフトバンクでHAPSと呼ばれる成層圏を飛ぶ飛行機によるエリア化というのも視野に入っている。

 日本の人口が減っていき、過疎地域からの人がいなくなっていくなか、モバイルを中心とした「持続可能なユニバーサルサービス」が現実味を帯びているようだ。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。