法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

auショップを軸に新しいコマースを目指すau WALLET Market

 8月24日、KDDIはプレス説明会を開催し、2015年夏モデル発表会でアナウンスしていた「au WALLET Market」の詳細を発表した。翌25日には「au SHINJUKU」をはじめ、直営の4店舗で正式にサービスを開始した。

 なぜ今、ケータイショップがスマートフォンや携帯電話以外の商品を販売しようとしているのだろうか。そこにはどれだけの勝算があるのだろうか。今回はau WALLET Marketの内容と可能性について、考えてみよう。

東京・新宿のau SHINJUKUでは8月25日から正式にサービスを開始
au SHINJUKUの入り口を入ると、au WALLET Marketで扱われる商品が展示されていた

いよいよスタートしたau WALLET Market

 これまで各携帯電話事業者は、ユーザーと回線契約を結び、通話料や通信料を得ることで成長してきた。海外に比べ、国内はiモードなどのコンテンツサービスが普及したことで、通話料や通信料以外の収入が多いとされ、スマートフォン時代に入っても各携帯電話事業者はビデオや音楽といったコンテンツビジネスに積極的に取り組んでおり、徐々に売り上げを伸ばしつつある。

 こうした携帯電話のビジネスを陰で支えているのが販売の最前線である各携帯電話会社の系列店、いわゆる「キャリアショップ」だ。端末の販売や回線の契約にはじまり、各種手続きの受付やサポート、問い合わせの対応など、各携帯電話会社とユーザーを仲介する役割を担い、携帯電話業界の成長を支えてきた存在だ。

au WALLET Market

 今回、auがスタートさせた「au WALLET Market」は、こうしたキャリアショップを活用し、新しいECビジネスを展開しようという取り組みだ。基本的な概要は、auの2015年夏モデルの発表会においてアナウンスされていたが、8月24日にプレス説明会を開催し、詳しい内容について説明が行われ、実際に店頭で販売する商品などの展示も行われた。

 基本的なサービスの内容は、ユーザーが何らかの手続きをするために、auショップに出向いたとき、手続き開始までの待ち時間にショップスタッフがタブレットを使いながら案内し、スマートフォンやケータイ以外のさまざまな商品をその場で注文できるというものになる。店頭在庫はないため、購入した商品はすべて配送という形を取っており、基本的にauショップの店頭で受け取ることはない。

 取り扱う商品については、夏モデル発表会のとき、「auならではのちょっといいもの」を販売するとしていたが、今回の発表では軽井沢の丸山珈琲が販売するこだわりのコーヒー、秋川牧園の野菜や肉などの食材をはじめ、フルーツやお米、ペットフード、サプリメントなどの健康食品、ウォーターサーバーなどが紹介された。これらの商品は単品でも購入することができるが、auとしては、定期購入に力を入れていきたいとしている。

24日のプレス説明会で展示されていたau WALLET Marketで取り扱う商品例。お米や野菜など、健康に気を遣いたい人向けの食品をラインアップ
弁当のお惣菜セットやこだわりの飲み物など、加工食品も数多くラインアップ
飲料やペットフード、フラワーギフトなど、多彩な商品をラインアップ
プレス説明会では秋川牧園や丸山珈琲の関係者がブースを構え、商品の説明を行っていた

 また、auショップで展開されるau WALLET Marketと並行する形で、オンラインでの「au WALLET Marketサイト」もオープンする。こちらはECサイトのルクサが運営するサイトで、au ショップのau WALLET Marketで扱うような物販商品だけでなく、レストランやエステ、旅行、エンターテインメントといった体験型の商品も扱う。ちなみに、ルクサは2010年にビズリサーチの事業としてスタートしたセレクト・アウトレット型ECサイトで、今年4月にKDDIが発行済み株式を取得し、連結子会社化している。

au WALLET Marketオンライン版で扱われる商品例。エステなど、体験型商品も取り扱う

 auショップでの購入については、auのアカウント情報であるau IDを利用するため、面倒な情報を入力する必要がなく、契約する携帯電話番号と暗証番号(回線契約時に決めた暗証番号)を入力すれば、あとは契約者の住所などが送付先に選ばれるため、住所や決済に関する情報を入力する手間はない。

 支払いについては、auかんたん決済が利用可能で、auの利用料金との一括払い、au WALLET プリペイドカード、au WALLET クレジットカードで支払うことができるほか、現金で支払うこともできる。ちなみに、8月25日からau WALLET Marketオープニングキャンペーンが開始されており、au WALLET プリペイドカードとau WALLET クレジットカードで支払うと、通常よりもポイントが多く貯まるようになっている。

 実際の店舗への展開については、まず、8月25日からau SHINJUKU、au OSAKA、au NAGOYA、au FUKUOKAの直営4店舗からスタートし、9月1日から全国108店舗、年内には全国のauショップに展開する計画だ。

もうひとつ工夫が欲しい商品ラインアップ

 詳細なサービスの内容が発表され、翌25日にはau SHINJUKUをはじめとした直営4店舗でのサービスも開始されたが、読者のみなさんはサービス内容をどう見ているのだろうか。実際に、au SHINJUKUで購入した印象も踏まえながら、筆者自身の捉え方を説明しよう。

 まず、au WALLET Marketで扱われている商品については、どちらかと言えば、付加価値の高い商品で、いわゆる安売りの商品は扱われていない。たとえば、プレス説明会では丸山珈琲のコーヒーやFRECIOUSのミネラルウォーターを試飲したり、マスカットなどを試食することができ、いずれも非常に美味しいという印象を得たが、こうした商品の良さをタブレットの画面やカタログだけで、どこまでユーザーに訴求できるのかは未知数だ。プレス説明会での試飲や試食はあくまでも取材のために用意されたもので、auショップではこうした試食や試飲のサービスは提供されないようだ。全国の店舗で展開することは難しいかもしれないが、たとえば、集客の多そうなauショップをいくつかピックアップして、週末などに店頭での体験会を催すなどの工夫が必要かもしれない。ただ、それはキャリアショップで行うべきことなのかは、やや疑問が残る。

 auショップのau WALLET Marketでどんな商品が扱われているのかは、店頭に置かれているカタログなどでしか知ることができず、auスマートフォンでau WALLET Marketにアクセスしても、ルクサの運営するオンライン版しか表示されない。たとえば、本稿やプレス説明会のレポートで取り上げられた商品に興味を持ったユーザーが「どんな商品があるのだろう?」と思っても、auショップに出向かない限り、何が売られているのかを知る術はないようだ。いい商品を揃えることは重要だが、それを知ってもらうための方策が店頭以外にないというのも、ちょっともったいない気がする。

スマートフォンでau WALLET Marketにアクセスすると、オンライン版が表示される

 また、auとしては定期購入の商品に力を入れていきたいとコメントしているが、定期購入の商品は食材などが多く、いわゆる生活用品などはあまりない。たとえば、Amazonやネットスーパーなどではトイレットペーパーなどの生活用品の定期購入がよく利用されていると言われているが、そういった商品もラインアップに加えた方がはじめての人も買いやすいのではないだろうか。

 オンラインショッピングでよく購入される商品として、重い商品やかさばる商品が挙げられるが、au WALLET Marketではウォーターサーバーこそあるものの、ペットボトルのお茶やジュースといった飲料、酒などは扱われていない。酒類については販売店の免許の関係もあるので、なかなか実現しにくいのかもしれないが、全国の名産品を扱うというテーマを掲げているのだから、地元以外にはあまり出荷されていない各地の地酒や焼酎などを限定的に扱うなどの販売も検討できるはずだ。

 次に、販売されている商品の価格については、それぞれの商品の価値があるので、高いとも安いとも言えない。ただ、デジタル関連製品などを見ると、やはり、他のオンラインショップなどで販売されているものの方が安いケースも見受けられた。スマートフォンのアクセサリーなどを見ると、必ずしももっとも安い店で買うというわけではなく、身近で買えるところで買うことも多いので、最安値を追求する必要はないかもしれないが、もう少し価格面でお得感のある商品もラインアップに加えて欲しいところだ。

 同様に、送料も気になるところだ。商品によって、設定されている送料が違うため、何とも言えない部分があるが、筆者がau SHINJUKUで購入した丸山珈琲の商品は、送料が全国一律800円に設定されていた。同じ丸山珈琲の商品を他のオンラインショップで探すと、500~800円程度の送料が設定されており、一定額以上購入した場合は送料が無料になるというショップもあった。どちらも同じ商品を扱うのだから、同じ送料で当たり前とも言えるが、たとえば、定期購入のときは送料を割り引くなどの工夫も欲しいところだ。

 さらに、配送までの期間もそれなりにかかる。これも商品によって、期間が異なるが、プレス説明会の記事でも触れられているように、au WALLET Marketで扱われる商品は百貨店などと同じように、「消化仕入れ」のしくみを採用しており、注文があると、販売者に発注がかけられ、販売者側の手続きで商品が送付される仕組みになっている。そのため、一部のオンラインショッピングに比べると、少し配送に時間がかかる印象で、筆者が購入したコーヒーの場合なら、8月25日に購入し、9月5日に配送となっている。配送の早さを求める商品ではないのかもしれないが、もう少し早めの対応を期待したいところだ。

au WALLET Marketで実際に買ってみたが……

 実際に購入するときの流れだが、店頭にはau WALLET Marketのカタログが置かれており、まずはそこから商品を選ぶことになる。今回、au SHINJUKUに置かれていたカタログは、クリアブックに商品情報印刷された紙が入れられたもので、スマートフォンや携帯電話のカタログのような印刷物ではなかった。商品が頻繁に入れ替わることを考えて、こうした方法を採用しているのかもしれない。

 カタログはジャンルごとに商品がまとめられ、それぞれの商品の説明や価格などが記載されている。ここで購入したい商品が決まったら、スタッフに声をかけ、タブレットを使い、商品を購入することになる。スタッフが空いていないときは、空き次第、声がかかるはずだ。

 タブレットの購入では前述の通り、契約者情報として、auの携帯電話番号と暗証番号を入力する。商品選びなどの操作は基本的にスタッフが対応するが、この部分だけはユーザー自身が操作することになる。少し気になったのは回線の手続きを行うときと違い、タブレットでの購入は店内の待合スペースなどで操作することがあるため、周囲から画面などが見えやすい状況にある。暗証番号の入力などについては、もう少し何らかの配慮が必要かもしれない。

 商品選びの画面は、先ほどのカタログとほぼ同じのもので、購入時には1回のみの購入か、定期購入を選べる。送付先などの情報は契約者の住所が指定されており、今のところ、誰かにプレゼントするときのような操作には対応していないようだ。あらかじめスマートフォンで送付先を登録しておき、選べるようにするなどの工夫が必要だろう。

 支払いも当初の説明通り、WALLETポイントなどで支払うことが可能だった。筆者はかなりポイントが貯まっていたので、全額をポイントで支払ったが、一部分をポイントで支払い、残りをauの利用料金と一括で支払う形にも対応する。

店頭に置かれたクリアブックを使ったカタログで商品を選ぶことができる
筆者が実際に購入手続きをしているところ。この後、ポイント利用や支払い方法を選ぶと、最終的に決済され、購入が完了する

 支払いの手続きが終われば、これで完了ということになるのだが、ここでひとつ残念なことが起きてしまった。

 商品の購入が完了すると、ユーザーに対し、登録されているメールアドレスに購入完了のメールが届く。ところが、迷惑メールフィルターを設定していると、au WALLET Marketからのメールが弾かれてしまい、購入したことをメールで確認できなかったのだ。ちなみに、auお客さまサポートのQ&Aに掲載されている情報によれば、「@mail.wm.auone.jp」というドメインからメールが届くそうだが、au SHINJUKUではスタッフもau WALLET Marketからのメールのドメイン名などがわからず、何も対応できなかった。

 携帯電話会社が自ら提供するECサービスにおいて、自社が提供する迷惑メールフィルターの影響で、購入確認のメールが届かないかもしれないということは、当初の設計段階で考えるべきことだ。ましてやその宛先のメールアドレスが携帯電話会社のメールアドレスで、販売システムには自動的に携帯電話番号と関連付けられる形で登録されているのに、そこにメールが届きませんというのは、お粗末な設計と言わざるを得ない。

 かつてケータイの時代、auは迷惑メール対策にいち早く取り組み、EZwebのコンテンツサービスから届くメールについては、迷惑メールフィルターで弾かれないように、統一したドメイン名で配信するなど、優れたしくみを持っていたのだが、どうもその時代の配慮は失われてしまったようで、ちょっと残念な印象だ。

 購入した商品の情報や確認については、au WALLET Marketのサイトにアクセスすれば、見られるとのことだったが、スマートフォンでau WALLET Marketにアクセスすると、前述の通り、取り扱う商品が異なる、ルクサが提供するau WALLET Marketのオンライン版が表示されてしまう。しかしここで、au IDでログインし、メニューから[マイページ]を表示し、「auショップ取扱品」の「定期購入商品をチェックする」を選び、[購入履歴]タブを選ぶと、ようやく購入した商品の情報が見られる。ちなみに、今回、購入した商品は定期購入の商品ではないが、この手順で進まないと、1回のみの購入の商品でも確認できない仕様になっていた。これらのメニュー構成も今一度、見直しが必要だろう。

au WALLET Marketオンライン版にアクセスし、右上のMENUボタンをタップして、マイページを表示する
マイページで「auショップ取扱品」の「定期購入商品をチェックする」を選び、[購入履歴]をタップすると、購入したものが確認できた

脱ケータイショップは実現するのか?

 2015年夏モデルの発表会において、au WALLET Marketの発表内容を聞いたとき、正直なところ、「なぜ、ケータイショップで、いろんなものを売るの?」という印象しかなかった。待ち時間を有効に活用するとは言うものの、その待ち時間の理由は手続きやサポートなど、場合によってはネガティブな理由でショップを訪れていて、待たされている可能性もある。そんなときにタブレットで商品を勧められても商品を購入する気にはならないだろうという印象を持った。

プレス説明会後、囲み取材に答えるKDDI株式会社のコンシューママーケティング本部コンシューマビジネス開発部長の村元伸哉氏

 この点について、プレス説明会後の囲み取材でKDDI株式会社のコンシューママーケティング本部コンシューマビジネス開発部長の村元伸哉氏に質問してみたが、「必ずしもネガティブなときばかりではないので、十分に価値を見出していただける」という回答が得られた。auショップには月間約1000万人、年間1億人以上が来店しているそうで、ひとつの商圏としてのポテンシャルは大きいが、来店時の心理状況は必ずしもフラットではなく、ユーザーをひきつけるだけの施策が別途必要であるという筆者の印象は変わらない。

 また、auショップのスタッフが商品を説明できるのか、専門的ではない人に説明を受けて、買う気になるのかという疑問についても「より深い説明はカタログやタブレットで見ていただきたい。動画のコンテンツも提供する」「そのときに買わなくてもそれがきっかけになって、次の機会に購入を検討していただければ……」という説明だった。もし、そうであれば、auショップのau WALLET Marketで扱っている商品について、本稿でも触れたように、もっとアピールする機会を作るべきだろうし、auショップで扱っている商品についての情報提供が不足している感は否めない。

 しかし、それでも多くの人には「なぜ、キャリアショップがコーヒーやフルーツを売るの?」という疑問が残っているだろう。

 それはやはり、キャリアショップを取り巻く環境が大きく変わりつつあることが挙げられる。ここ数年、キャリアショップはケータイからスマートフォンへの移行で、端末もある程度、販売し、光回線のセット販売でも一定の成果を上げつつある。しかし、もう少し長いスパンで見ると、発表会のプレゼンテーション資料でも触れられていたように、今後は少子高齢化が進む一方、共働き世帯が増えるなど、市場環境が大きく変化し、消費行動も多様化すると予想されている。こうした消費の多様化に対応するための施策のひとつが、今回のau WALLET Marketへの取り組みに結び付いているという。

 ただ、これはauとしての言い分であり、もう少しユーザー寄りに分かりやすく説明すると、auは全国に約2500店舗のauショップを抱えているが、スマートフォンの完成度向上などにより、次の機種変更までの期間が長くなり、手続きなどもオンラインで対応できるようになるなど、ユーザーがショップを頼るシーンが徐々に少なくなってくることが予想される。端末の販売機会が減り、手続きによる手数料収入なども減るとなれば、当然のことながら、auに限らず、キャリアショップは苦しくなることが予想される。だからこそ、auはキャリアショップをひとつの経済圏と捉え、脱ケータイショップを図ろうとし、au WALLET Marketをスタートさせたわけだ。

 au WALLET Marketという取り組みについて、村元氏は「auショップとしてのチャレンジだ」と位置付けていた。長く携帯電話業界の成長を支えてきたキャリアショップを進化させるものとして、注目される取り組みではあるが、現時点では十分に材料が整っているとは言えず、商品ラインアップのアピールや商品購入のスキームなど、見直しを求めたい点が多いのも事実だ。

 auはケータイ時代の「着うた」をはじめ、スマートフォンでの「auスマートバリュー」や「auスマートパス」、最近では「au WALLET カード」など、ユーザーをうまく巻き込み、乗せながらサービスを展開してきた印象がある。今回のau WALLET Marketは業界として注目できる部分があるが、はたして今回もユーザーをうまく乗せることができるだろうか。今後のau WALLET Marketの展開に注目したい。

法林岳之

1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows 8.1」「できるポケット docomo AQUOS PHONE ZETA SH-06E スマートに使いこなす基本&活用ワザ 150」「できるポケット+ GALAXY Note 3 SC-01F」「できるポケット docomo iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット au iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット+ G2 L-01F」(インプレスジャパン)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。