法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

「2013 INTERNATIONAL CES」で見る、2013年のトレンド

 1月8日~11日、米国ラスベガスにおいて、世界最大のIT・家電展示会「2013 INTERNATIONAL CES」が開催された。本誌ではすでに現地から多くの速報レポートが掲載されているが、ここでは筆者が見た新製品などのインプレッションなども踏まえながら、モバイル関連の全体的な印象について、レポートしよう。

テレビは4K、スマートフォンはフルHD

 毎年1月はじめに行われる世界最大のIT・家電展示会「INTERNATIONAL CES」。この「CES」は「Consumer Electronics Show」の略で、一般消費者向けの家電製品などが数多く出品される。日本の消費者にとって、「家電」というと、僚誌「家電Watch」などに掲載されているような冷蔵庫や掃除機、洗濯機といった白物家電を思い浮かべてしまいそうだが、CESの主役はAudio&Visual製品、PC関連製品などで、最近はスマートフォンやタブレットなどのモバイル関連製品が幅を利かせている。CESは時代と共に、主役となる製品群が変わってきたこともあり、出展する企業や出展内容、CESで発表される新製品などを見ると、IT・家電業界の流れを読むことができる。

2013年1月8日~11日まで、米ラスベガスで開催されていた「2013 INTERNATIONAL CES」

 モバイル関連製品については、2月に「Mobile World Congress」を控えているため、各社がこぞって新製品を発表するという状況にはないが、それでも北米という巨大な市場で催される展示会ということもあり、例年、何らかの新製品が発表される。特に、最近はスマートテレビをはじめ、スマートフォンとテレビ、スマートフォンと家電製品の関わりが深くなる方向性が示されているため、各社の「CES」における展示において、スマートフォンやタブレットは欠かせない存在となっている。

 同様の傾向は昨年の「CES」でも見られたことだが、やや感覚的な印象ではあるものの、昨年よりも一段とスマートフォンやタブレットが『当たり前の存在』になったように見えたことが今年の特徴でもある。つまり、これまではテレビなどを手掛けるメーカーがそれらの機器と連動できるように、「こんなスマートフォンを開発しました」「タブレットはこういう製品を用意しました」といった解説が多かったが、今年はテレビのデモには当たり前のようにスマートフォンが使われ、タブレットもごく自然に存在しているという印象だ。ちょっと表現がおかしいかもしれないが、鉛筆やペン、ノート(紙)のように、ごく普通に使われるものとして扱われていた。つまり、スマートテレビやスマート家電のような使い方をするうえで、スマートフォンやタブレットを利用することは、誰もが当たり前のように捉える時代に入りつつあるというわけだ。ただ、ここで注意しなければならないのは、『当たり前』として扱っているのはあくまでも『デモ』のレベルの話であり、誰もが当たり前のようにスマート家電を利用できる環境が整っているというわけではない。たとえば、洗濯機に入れられた衣類を判別して、最適な選択方法や洗剤を選び、仕上がったときにはメールなどで知らせるといった使い方は、確かに素晴らしい世界なのだろうが、それをユーザーが現時点で必要としているかどうか、導入できる状況にあるかは、まだまだ疑問が残る。

シャープはプレスカンファレンスで、4Kテレビの新製品だけでなく、日本で販売するIGZOによる液晶を搭載したAQUOS PHONE ZETA、AQUOS PHONE Xxを紹介。同社ブースでも展示
シャープが参考出品で展示した85インチの8Kテレビ。来場者の関心も高く、常に人だかりができていた

 そんな中、もっともわかりやすい形で次なるトレンドを示しているのがテレビの世界だろう。すでに昨年あたりからサムスンやLGエレクトロニクスは「スマートテレビ」の方向性をアピールし、着実に存在感を増してきたが、今年はもうひとつのトレンドとして、以前から注目されていた「4Kテレビ」(Ultra HD対応テレビ)の新製品を各社が出品し、話題を集めた。4Kテレビの詳細については、僚誌「AV Watch」のレポートなどを参照していただきたいが、簡単に言ってしまえば、現在の1920×1080ドット表示が可能なフルHD、その縦横が2倍ずつの解像度、3840×2160ドット表示が可能なパネルを搭載したテレビだ。現在、国内でも多くの人が視聴しているフルHD対応テレビの4倍の解像度を実現したテレビで、サイズ的にも60インチオーバーのモデルがずらりと並ぶ。これに加え、ソニーやパナソニックが4K対応有機ELテレビを展示したり、参考出品ながら、シャープが8Kテレビを出品するなど、テレビはさらに高解像度、高画質化の道を突き進もうとしている。

 こうしたテレビの高解像度化の流れと符合するように、今年はスマートフォンも「フルHD対応」という形で新しい製品が発表された。本誌の速報レポートでも取り上げているソニーモバイルの「Xperia Z」「Xperia ZL」、ファーウェイの「Ascend D2」、ZTEの「Grand S」だ。対角サイズには違いがあるものの、5~6インチクラスで1920×1080ドットという高解像度表示を可能にしている。現在販売されているハイエンドモデルの主流が1280×720ドットのHD表示であるため、単純計算で約2倍以上の情報量を表示できることになる。ちなみに、この5インチクラスのサイズでフルHD表示が可能な液晶パネルは、今のところ、おそらくLGエレクトロニクス、シャープ、ジャパンディスプレイの3社しか生産できないため、当初は端末メーカーの間で、パネルの取り合いになるのではないかと見る向きもあるものの、フルHD液晶が今年のトレンドになることは、ほぼ間違いなさそうだ。

 ただ、ディスプレイやカメラ、プロセッサなど、これまでにケータイやスマートフォンに搭載されてきたデバイスが定着してきた経緯を振り返ってもわかるように、この1920×1080ドットのフルHDという高解像度をスマートフォンにおいて、どう活かすかが普及のカギを握ることになる。たとえば、メールなどのテキストベースの情報であれば、今ひとつ高解像度のメリットを実感できないが、スマートフォンで利用頻度の高い地図などではより広いエリアを表示できることになる。また、国内市場においては、レコーダーなどのDLNA対応機器との連携も徐々に普及しつつあるため、録画したコンテンツの再生なども利用環境が整えば、フルHDの高解像度を活かすことができそうだ。

 こうした新しいデバイスをどう活かすかという点については、4Kテレビの世界でも同じで、今回の「2013 INTERNATIONAL CES」で登場した多くの4Kテレビでは、フルHD画質の映像を4Kテレビに映したとき、より美しく再生するためにどうすればいいかといった技術説明も数多く見られた。こうした取り組みは当然のことながら、スマートフォンにも活かされることが想定され、その意味で考慮すれば、やはり、テレビなどを手掛ける家電メーカーはフルHD対応スマートフォンなどにおいても一日の長があるということになるかもしれない。

スマートフォンと「つながる」

 冒頭でも説明したように、ここ数年の「INTERNATIONAL CES」ではくり返し、テレビとスマートフォンの連携がアピールされてきた。スマートフォンで表示している内容を有線(MHL)、あるいは無線(Wi-Fi)で大画面テレビに映し出すといった使い方は、現在販売されているスマートフォンでも標準的な機能として、定着しつつある。

 ただ、こうした使い方をするには、当然のことながら、つなぐための操作が必要になる。有線であれば、とりあえず、ケーブルをつなぐだけだが、無線ともなれば、何らかの設定が必要になる。この「つなぐ」という操作について、非常にわかりやすく提案しているのがソニーの『NFC』を利用した「One-touch」連携だ。昨年ベルリンで開催された「IFA 2012」のときにはBluetooth対応ワイヤレススピーカーやワイヤレスヘッドホンにNFCを搭載することで、Xperiaと簡単にペアリングできる環境を提案したが、今回は同様の手順でテレビやシアターシステムとのペアリングを実現し、さらにはスマートフォンで撮った写真などを簡単にバックアップできる「Sony Personal Content Station」もNFCのタッチをきっかけに、Wi-Fi経由でバックアップできるようにしている。テレビについては、ユーザーがテレビの近くまでスマートフォンを持っていく必要がなく、テレビのリモコンにNFCを搭載することで、テレビとの連携を簡単に実現している。

テレビのNFC対応はリモコンにNFCを搭載することで実現。リモコンの背面にはNFCのロゴが表記されている
ソニーのカーオーディオのブースでは、カーオーディオとXperia Zの連携(ミラリング)のデモが行われていた。カーオーディオとスマートフォンの連携は、今後も増えることになりそうだ

 ソニー・エリクソンの時代はソニーとの資本関係がありながら、今ひとつソニー製品との連携が実現できない状況にあったが、昨年のIFA 2012や今回の「2013 INTERNATIONAL CES」の展示内容を見ていると、ソニー全体として、ソニーモバイルやXperiaシリーズをうまく連携させようとしている取り組みがハッキリと見え、今後の各製品の展開が非常に楽しみだ。

 こうしたスマートフォンとAudio&Visual製品との連携は、スマートフォンで楽しんでいる映像や音楽といったコンテンツをテレビやスピーカー、ヘッドホンなど、より大きな画面、より高音質な環境に転送したり、スマートフォンから他の機器を操作するようなスタイルが多い。言わば、「ミラーリング」や「リモコン」的な使い方をしているわけだ。

クアルコムブースでは「AllJoyn」と呼ばれるPeer-to-Peer技術を利用したエデュテイメントアプリのデモを見ることができた。テレビとタブレットの画面をシームレスに利用できる環境は、今後のスマートフォンやタブレットの連携に大きな影響を与えそうだ

 これに対し、非常にユニークだったのが米クアルコムブースに出展されていた「AllJoyn」という技術を利用した教育用コンテンツだ。AllJoynはPeer to Peer通信によって、複数の機器間で通信を可能にする技術で、このデモではテレビとタブレットを組み合わせ、セサミストリートのキャラクターの案内によって、ユーザーはタブレットを操作しながら、楽器を鳴らしたり、写真を撮ったりといった使い方を実現している。なかでもユニークなのがテレビ画面内のキャラクターがタブレットの画面内に移動し、ユーザーに操作を促したり、ユーザーがタブレットで撮った写真をフリックすると、あたかも写真がテレビへ向けて飛んで行ったようにテレビの画面内に表示されたりと、テレビとタブレットの画面をそれぞれ独立して使いながら、シームレスに利用している。今回の「2013 INTERNATIONAL CES」ではさまざまな形でテレビとスマートフォン、テレビとタブレットなど、複数の機器を組み合わせたデモを見てきたが、筆者が見た範囲ではもっとも工夫されたデモだったという印象だ。ミラーリングやリモコンも使い方としては重要だが、本当の意味で「つながる」と言えるのはこうしたシームレスな使い方なのかもしれない。

今夏のSnapdragon 800シリーズ搭載モデルに期待

 スマートフォンやタブレットをテレビやスピーカー、ヘッドホン、家電製品など、さまざまな製品の組み合わせることで、新しい世界を切り開こうとするコンシューマ家電だが、個々の製品についても少し触れておこう。各製品の詳しい仕様などについては、本誌の速報記事を参考にしていただくとして、ここでは筆者が会場で得た印象について、説明しよう。

ソニーのプレスカンファレンスでは「Xperia Z」を軸にアピール。One-touch連携なども紹介された

 まず、今回の「2013 INTERNATIONAL CES」で発表された製品の中で、本誌読者からももっとも関心が高かったのは、やはり、ソニーモバイルの「Xperia Z」だろう。約5インチのフルHD液晶に、裏面照射型CMOSセンサー「Exmor RS for mobile」による1310万画素カメラ、CPUにSnapdragon S4 Pro クアッドコアの1.5GHz、2GBのRAM(システムメモリ)、防水防塵対応など、現時点でもっともハイスペックなスマートフォンとして、仕上げられている。バッテリーは本体に固定式を採用しているが、設定画面のPowerManagement(電力管理)にソニーおなじみの「STAMINA」モードが用意されており、待機中のアプリの動作を制限することで、大幅な省電力を実現している。

 そして、デザインについても今までと少しアプローチが違う印象だ。Xperiaと言えば、Xperia X10(国内はNTTドコモのXperia SO-01B)以来、背面や側面に曲線を使いながら、他のスマートフォンにはない独特の存在感を演出してきたが、今回のモデルはフラットな板のようなデザインで、角をうまく曲面で丸め、前面と背面をクリアな強化ガラスで挟み込む構造を採用する。このガラス面により、ボディカラーも一段と映えるようになったが、今回は定番のブラックとホワイトに加え、パープルという今までのXperiaシリーズにはあまりなかったカラーを採用している。グローバル市場へ向けた製品だが、日本向けの展開もアナウンスされており、発売が非常に楽しみな端末だ。

「2013 INTERNATIONAL CES」で発表されたモデルで、もっとも注目を集めたXperia Z。美しいデザインとハイスペックを実現
Xperiaシリーズには珍しいパープルも用意される。背面には前面と同じ強化ガラスがあしらわれている
Xperia Zよりも少しスペックを落とした「Xperia ZL」。とは言え、昨年冬のハイエンドモデルと比べても遜色のないスペック
背面はXperia Tなどにも似た少しラウンドさせたデザインを採用。底面側のカバーを空けると、SIMカードなどを装着できる

 ファーウェイは、約5インチのフルHD液晶ディスプレイを搭載した「Ascend D2」、約6.1インチのHD液晶ディスプレイを搭載した「Ascend Mate」を発表した。「Ascend D2」は約5インチの大画面ながら、狭額縁で仕上げ、背面や周囲に曲線を使うことで、持ちやすさを考えたデザインにまとめられており、自社製の1.5GHz動作のクアッドコアCPU、13Mピクセルカメラなど、全体的にかなりのハイスペックモデルに仕上げられている。日本市場への投入もアナウンスされているが、日本向けモデルに三種の神器をはじめとした日本仕様がどの程度盛り込まれ、どのような仕様で登場するのかが気になるモデルだ。「Ascend Mate」の方はスマートフォンのメインストリームよりもひと回り大きなボディのモデルで、どちらかと言えば、サムスンの「GALAXY Note II」やLGエレクトロニクスの「Optimus Vu」などの対抗モデルに位置付けられそうだ。大画面でのタッチ操作を快適にするため、ユーザーインターフェイスを工夫するなど、ソフトウェア面でも積極的なアプローチが注目される。

Huaweiが発表した「Ascend D2」は、約5インチのフルHD液晶を搭載。日本市場にも投入される計画があるという
約6.1インチのHD液晶ディスプレイを搭載した「Ascend Mate」。「GALAXY Note」などの同クラスのサイズ感
ZTEが発表した「Grand S」は、ハードウェアのスペックもさることながら、今までのZTE製品とはひと味違った質感の高いデザインが目を惹く

 ZTEも約5インチのフルHD液晶ディスプレイを搭載した「Grand S」を発表した。ZTEというと、グローバル市場でのエントリー向けモデルをはじめ、日本市場では、みまもりケータイを供給するなど、どちらかと言えば幅広い製品ラインアップを展開してきた印象が強い。一方、今回の「Grand S」は約5インチのフルHD液晶に加え、Snapdragon S4 Proクアッドコアの1.5GHz、2GBのRAMを搭載するなど、他社のフラッグシップモデルに真っ向勝負を挑めるハイスペックモデルに仕上げられている。日本市場への展開はアナウンスされていないが、豊富なカラーバリエーションも揃えており、コストパフォーマンスの高いモデルとして、十分に受け入れられる可能性がありそうだ。

 また、これまで中国メーカーの端末はコスト面での優位性が評価される一方、少しデザイン的に他のグローバルメーカーに一歩譲る感があったが、今回の「Ascend D2」や「Grand S」はどちらもグローバルメーカーのスマートフォンにひけを取らないデザインで、細部の仕上げも格段に向上している。日本国内でもHTCがauとのコラボレーションにより、「HTC J」や「HTC J butterfly」からデザインのイメージを一新したが、それに迫るくらいの仕上りと言って良さそうで、今後の展開が期待される。

 新機種を発表した3社に対し、サムスンやLGエレクトロニクスは2月に「Mobile World Congress」を控えていることもあり、目立った新製品を発表することはなかった。しかし、米国市場でのブランド力はテレビなどの家電製品と共に強く、両社ブースのスマートフォンのタッチ&トライコーナーは常に盛況で、安定した人気ぶりを見せていた。

サムスンのプレスカンファレンスでは、Verizon向けのGALAXY Note 10.1が発表された
サムスンブースのタッチ&トライコーナーでは、GALAXY NoteやGALAXY S IIIなどの最新機種が人気を集めていた
LGエレクトロニクスのブースでは米国でGoogleが販売する「NEXUS 4」が展示されていた。日本市場での発売も期待したいところだ
LGエレクトロニクスのプレスカンファレンスでは、Optimus VuやOptimus Gと同等のモデルを紹介

チップセットの動向

 スマートフォンやタブレット本体以外の関連製品では、NVIDIAがモバイル向けSoC「Tegra 4」、クアルコムがSnapdragon 800/600シリーズの発表が注目される。

 「Tegra 4」は、スマートフォンやタブレットに搭載されてきた「Tegra 3」の後継に位置付けられるモバイル向けプロセッサ。コアにCortex-A15を4つ採用し、GPUも従来の6倍の72コアを搭載するなど、かなり強化が図られている。プレスカンファレンスのデモではブラウザの動作やグラフィック処理のパフォーマンス、リアルタイムでのHDR処理など、高いパフォーマンスがアピールされたが、Tegra 3搭載モデルで不満の多かった省電力や熱対策などについては具体的な説明がなく、Tegra 4の細かいスペックや出荷時期、供給する端末メーカーなどについての言及もなかった。

Tegra 4を搭載したAndroidプラットフォームの携帯型ゲームを開発

 その代わりというわけではないが、Tegra 4を搭載した「SHIELD」と呼ばれる自社開発の携帯型Androidゲーム機が明らかにされた。「Tegra 3」では一部のモデルで高負荷時の発熱やバッテリーの消費が問題視されたものの、タブレットなどではおおむね安定した動作を実現し、さまざまなモデルが市場に登場した。今回のTegra 4は未知数の部分が多く、NVIDIAとしてもまだ具体的なことをアナウンスできる状況にはないようで、早くても年内に搭載モデルが登場するかどうかというレベルのようだ。ただ、同社ブースにも展示されたSHIELDに対する来場者の関心は高く、今後の反響次第ではスマートフォンやタブレットへの搭載の前に、ゲーム機で市場をにぎわせることになるかもしれない。

開催前日のプレ・キーノートスピーチには、クアルコム CEOのポール・ジェイコブス氏が登壇。発表したばかりのSnapdragon 800シリーズによる新しいモバイルの世界を紹介
クアルコムブースに設置されたシアタールームでは、スピーカーによる7.1chサウンドをヘッドホンのみで再現するデモが行われていた

 一方、クアルコムの「Snapdragon 800/600」シリーズについては、「Snapdragon S4」までのラインアップ構成を一新するもので、ハイエンドの「Snapdragon 800」シリーズは、新世代のCPUコアである「Krait(クレイト) 400」を採用したクアッドコアCPUを搭載。クロック周波数は最大2.3GHz、LTE Category4対応、IEEE802.11ac対応の無線LANなど、現時点でもっとも進んだモバイルプロセッサとして設計されている。これに続く「Snapdragon 600」シリーズは、「Krait 300」クアッドコアCPUを最大1.9GHzのクロック周波数で動作させる。「Snapdragon 800」シリーズは2013年中頃、「Snapdragon 600」シリーズは2013年第2四半期に、それぞれ搭載製品が市場に登場するとアナウンスされているため、各社の2013年夏モデル及び冬モデルのフラッグシップモデルに搭載されることになりそうだ。「2013 INTERNATIONAL CES」の同社ブースでは、「Snapdragon 800」シリーズが持つポテンシャルについて、さまざまなデモが行われていたが、スマートフォンやタブレットでの利用例だけでなく、タブレットから4K対応ディスプレイに映像を出力するなど、テレビとの連携やテレビそのものへの搭載も視野に入れたデモが目立った。

 なかでも筆者が個人的に驚いたのがブース内に設置されたシアタールームを利用したサウンド環境のデモだ。シアタールームには7.1chのサラウンド環境が用意されており、まず最初は周囲に設置されたスピーカーから順に、「right channel」「left channel」といった具合いに音を発し、どのように聞こえるのかを体験する。続いて、ソファーの横に置かれたヘッドホンを装着し、同様の音を再生し、その差を確認するというデモを体験した。最近はヘッドホンもサラウンド対応のものが増えていて、かなり音の広がりが楽しめるようになってきたが、なかなかシアタールームのサラウンド環境とは同じようなサラウンドは楽しめないというのが一般的な解釈だ。しかし、このデモではシアタールーム内の7.1chのサラウンドとヘッドホンのサラウンドがほとんど変わらないほどの音の広がりで聴くことができた。特に、シアタールームのサラウンドのリアスピーカーから音を発したとき、少し遠めの後ろから音が聞こえる印象がそのままヘッドホンでも再現できていたのには、かなり驚かされた。このサウンド機能は「Snapdragon 800」シリーズに標準で搭載されているもので、スマートフォンに搭載されれば、ヘッドホンを装着して映画などを楽しむときでも、より臨場感のあるサウンドを楽しむことができるわけだ。今年の後半にはフルHD液晶ディスプレイとSnapdragon 800シリーズで、スマートフォンを利用した手のひらサイズのプライベートシアターが流行ることになるかもしれない。

プラットフォーム競争の行方

 ところで、最後にプラットフォームについても少し触れておきたい。現在、スマートフォンのソフトウェアプラットフォームとしては、Androidが圧倒的多数を占めており、これにiPhoneやiPadに搭載されるiOSが続いている。

 そして、もうひとつの選択肢として、海外ではWindows Phoneが展開され、昨年末からは本命と目される「Windows Phone 8」搭載スマートフォンの出荷が開始されている。しかし、「2013 INTERNATIONAL CES」におけるWindows Phoneは、MicrosoftがCESから撤退したこともあってか、ほとんど存在感を示すことができなかった。ごく一部のブースにデモ機が置かれているのみで、AndroidスマートフォンやiPhone、iPadのように、他製品との連携をアピールするようなデモもほとんど見かけることはなかった。

Windows Phone 8でLumiaシリーズを展開するノキアは、ブースの出展をやめ、会場前のスペースにラッピングバスを設置。プライベートミーティングなどを行っていた模様

 「2013 INTERNATIONAL CES」の開幕前夜に催されるプレ・キーノートスピーチにはクアルコムのCEOであるポール・ジェイコブス氏が登壇し、モバイルの可能性について、さまざまな側面からスピーチを行ったが、この枠は昨年まで、MicrosoftのCEOであるスティーブ・バルマー氏が担当していた。今回のプレ・キーノートスピーチではバルマー氏がサプライズゲストとして登場し、ジェイコブス氏と共に「Snapdragon S4 Pro」を搭載したWindows Phone 8スマートフォンを紹介していたが、おそらくこのコーナーの時間帯が「2013 INTERNATIONAL CES」の中で、もっともWindows Phone 8の存在感を示していた時間帯という非常に残念な印象だった。

ファーウェイブースに出品されていたAscend W1
プレス向けイベント「Digital Experience」に出品されていたHTC 8X

Windows Phone 8については、HTCやノキアなどが非常に魅力的な端末を開発し、国内からも市場投入を期待する声は多いが、「2013 INTERNATIONAL CES」の状況を見る限り、日本市場どころか、お膝元の北米でもまだまだアピールが足りない状況と言えるのかもしれない。特に、これからのスマートフォンやタブレットにとって、他の家電製品との連携が欠かせない機能のひとつになっていることを考慮すると、Microsoft自身が積極的にアピールすることはもちろん、端末以外の企業も巻き込んで、積極的にWindows Phone 8の世界をプロモートしなければ、もはやWindows Phone 8には先がない状況に追い込まれてしまうかも知れない。

法林岳之

1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows 8.1」「できるポケット docomo AQUOS PHONE ZETA SH-06E スマートに使いこなす基本&活用ワザ 150」「できるポケット+ GALAXY Note 3 SC-01F」「できるポケット docomo iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット au iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット+ G2 L-01F」(インプレスジャパン)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。