法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

「ZTE AXON 10 PRO」は5G普及を狙う高コストパフォーマンスモデル
2020年7月9日 06:00
今年3月27日に5Gサービスの提供を開始したソフトバンク。同社の5G対応端末のラインアップの中で、手頃な価格を実現しているのがZTEの「ZTE AXON 10 PRO 5G」だ。十数万円以上が当たり前の5G対応端末のラインアップにおいて、当初から10万円を切る低価格を実現したモデルになる。筆者も実機を購入したので、レポートをお送りしよう。
5G対応端末は高い?
NTTドコモ、au、ソフトバンクの主要3社は、3月下旬から順次、5Gサービスの提供を開始した。3社の内、NTTドコモはキャンペーンという形ながら、auは正式な料金プランとして、両社共にデータ通信サービスを使い放題にする環境を実現した。
これに対し、ソフトバンクは従来から提供していた「動画SNS放題」に、50GBのデータ通信容量を組み合わせた「メリハリプラン」を5Gサービス向けのプランの主軸に据え、月額1000円の「5G基本料」(8月末までに申し込めば、2年間は無料)を請求する構成で、5Gサービスを提供している。ちなみに、料金プランとしてはデータ通信量が少ない人向けに、0~5GBまでの「ミニフィットプラン」も提供されているが、データ通信量の区切りが1/2/5GBとなっており、極端に利用が少ない環境しかメリットがないため、実質的にはほとんどの5Gユーザーに「メリハリプラン」を契約して欲しい構えだ。
5Gサービス対応の端末ラインアップについても主要3社の中で、ソフトバンクはもっともバリエーションが少ない。ソニーのXperia、サムスンのGalaxyといった人気シリーズもないため、シャープの「AQUOS R5G」が孤軍奮闘する形だが、もうひとつの選択肢としてラインアップに名を連ねているのがZTEの「AXON 10 PRO 5G」だ。
ZTEは国内市場向けにケータイ時代から多くの端末を供給してきた実績を持つが、2018年に米商務省から受けた制裁により、国内市場でも一時、販売が停止されたことがある。その後、米商務省と和解し、国内外での販売を再開させたものの、販売停止の影響は大きく、この2年ほどの間はソフトバンク向けにモバイルWi-Fiルーターを供給する程度で、やや存在感を失ってしまった感は残る。
そんなZTEが5G時代に入り、再び国内市場に注力するモデルのひとつが今回の「AXON 10 PRO 5G」になる。ちなみに、ZTEは今回取り上げるソフトバンク向けのAXON 10 PRO 5Gのほかに、au向けに5G対応の専用モデルとして、「ZTE a1 ZTG01」を供給することが発表されており、これらのモデルによって、国内市場での巻き返しを図りたい構えだ。
今回のAXON 10 PRO 5Gはハードウェアとしての特長もさることながら、やはり、注目点は各キャリア向け5G対応端末として、もっともリーズナブルな価格設定が挙げられるだろう。ソフトバンクの5Gサービスの発表時は、ソフトバンクオンラインショップ価格が8万9280円(税込・以下同)とアナウンスされたが、購入者に対しては1万円相当のPayPayボーナスがプレゼントされるキャンペーンも実施された。
その後、5月1日には突如、端末の価格が従来よりも1万5000円以上安い7万2720円に値下げされることが発表された。これは新型コロナウイルスの影響で、端末販売が大幅に落ち込んでいることへの対策の面もあったが、それでも5G対応端末が7万円台で購入できるというのは、かなり魅力的だ。ちなみに、前述の1万円相当のPayPayボーナスがもらえるキャンペーンは、5月31日まで実施されていたため、5月中にAXON 10 PRO 5Gを購入したユーザーは、かなりトクをしたことになる。6月に入り、ファーウェイのHUAWEI P40 lite 5Gがオープン市場向けで4万円を切る低価格を実現したが、各携帯電話会社向けの5G対応端末としては、今のところ、AXON 10 PRO 5Gが最安値のモデルということになる。もちろん、今後、ライバルメーカーの各携帯電話会社向け5G端末も控えており、5G対応端末の値下げ競争のゆくえも気になるところだ。
6.4インチフルHD+対応有機ELディスプレイを搭載
まず、外観からチェックしてみよう。ボディは前後面ともに側面へ向けて湾曲したデザインで、幅73mmの持ちやすい形状に仕上げている。あまりデザイン的な特徴は感じられないが、他メーカーのAndroidスマートフォンと比べても遜色のないデザインで、仕上げも美しい。防水防塵には対応していないが、重量は約176gと、比較的軽い部類に入る。
本体前面には2340×1080ドット表示が可能な6.4インチのフルHD+対応有機ELディスプレイを搭載する。有機ELディスプレイらしく、発色も鮮やかで、太陽光の下でも十分な視認性を確保している。「AXON Vision」と呼ばれる映像の最適化技術により、さまざまなコンテンツを美しく再現する。
ディスプレイには画面内指紋センサーを内蔵しており、画面ロックの解除などに利用できる。指紋センサーの認証のレスポンスは十分な速度で、画面がAlways on Displayの状態でも指紋センサーの位置に指を当てれば、画面ロックを解除できるなど、使い勝手は良好だ。インカメラによる顔認証には対応しない。
バッテリーは4000mAhのものを内蔵し、別売の「USB Type-C PD対応ACアダプタ」を利用することで、約130分でフル充電ができる。ワイヤレス充電などには対応しない。
チップセットは米クアルコム製Snapdragon 865 5Gを採用し、6GB RAMと128GB ROMを搭載する。外部メモリーは最大2TBのmicroSDXCメモリーカードを装着できる。通信関連は5GがBand 77(3.7GHz)のみの対応で、4GはFDD LTE及びTDD-LTE(AXGPを含む)、3G(W-CDMA)、2G(GSM)に対応しており、国内対応は当然のことながら、ソフトバンク向けとして、カスタマイズされている。
Wi-FiはSnapdragon 865を採用していることもあり、IEEE 802.11a/b/g/n/ac/ax対応となっている。なかでもIEEE 802.11ax対応は、同時接続でのパフォーマンス低下を抑えられる意味からも有用だろう。
プラットフォームはAndroid 10を採用し、セキュリティパッチは2020年2月1日のものが適用されている。ユーザーインターフェイスはAndroid標準に準拠しており、ホーム画面にショートカットやウィジェットが設定でき、ホーム画面から上方向にスワイプすると、アプリ一覧が表示される。アプリ一覧は頻度順やアルファベット順で並べ替えることが可能だが、アプリ一覧内でフォルダが作成できないため、アプリが増えてくると、少し管理が面倒になりそうだ。日本語入力はAndroid標準のGboardが搭載される。
ユーザーインターフェイスはAndroid 10標準のジェスチャーに加え、従来のナビゲーションキーによる操作にも対応する。ナビゲーションバー(ナビゲーションキー)の配列を変更したり、画面を一時的に縮小表示する片手モードなども用意されている。
AIトリプルカメラを搭載
本体背面にはAI対応のトリプルカメラを搭載する。仕様としては、本体背面の最上部から順に、800万画素/F2.4望遠カメラ、4800万画素/F1.7の広角カメラ、2000万画素/F2.2の超広角カメラで構成される。トリプルカメラの下側にはLEDフラッシュが内蔵されている。
カメラを起動すると、[写真][ビデオ][ワイド][その他][ポートレート][背景ぼかし]の撮影モードを選ぶことができる。[写真]モードでは広角カメラを「1x」とし、画面中段下のボタンをタップして、超広角カメラによる「ワイド」、望遠カメラを利用した「3x」に切り替えることができるが、このときの「ワイド」は撮影モードの[ワイド]と同じものとなっている。
また、標準的な「1x」で撮影したときの解像度は「12M(4:3)4000×3000」の12Mピクセルで、最高解像度で撮影したいときは[設定]-[解像度]で、「48M(4:3)8000×6000」に切り替える必要がある。ビデオも同様で、最高解像度は「4K 16:9」だが、標準は「1080P 16:9」に設定されている。
[背景ぼかし]では曲線のゲージを左右に動かして、絞り値を変更したり、[ポートレート]では「スタジオ照明」や「輪郭強調照明」などのエフェクトを選ぶことができ、ビューティモードも自動でオンにできるなど、スマートフォンのカメラを楽しむための機能もひと通り揃っている。
インカメラは2000万画素/F2.0という仕様で、[自分撮り][ポートレート][ビデオ]の撮影モードを選ぶことができ、ビューティモードもサポートされる。
全体的に見て、派手さこそないものの、AIによる被写体認識や夜景などの撮影も十分なレベルに達しており、大きな不満はない。あまり使う人は多くないかもしれないが、最近のスマートフォンのカメラに搭載される「ウォーターマーク」の機能が用意されているものの、「902ZT」と地味な型番しか書き込まれないのは、ちょっと残念な印象も残った。せっかくウォーターマークを入れるのであれば、「AXON 10 PRO 5G」の商品名のロゴくらいは入れて欲しかったところだ。
バランス良くまとめられたリーズナブルな5G対応端末
静かにスタートした主要3社の5Gサービス。新型コロナウィルス感染防止のための各社のショップが一時閉店したり、営業時間を短縮したことが大きく影響したと言われているが、その一方で、昨年の電気通信事業法改正により、端末購入補助が厳しく制限されてしまったことも関係している。期待の5Gサービスだが、対応端末が高く、なかなか手が出しにくいと考えるユーザーも少なくないのも実状だ。
そんな中、ソフトバンクの5Gサービス開始時に発売されたZTEのAXON 10 PRO 5Gは、当初から10万円を切る価格を実現し、5月からは1万5000円以上も値下げされ、4G対応端末のミッドハイクラスに近付くほど、リーズナブルな価格で購入できる端末となっている。1万円相当のPayPayボーナスのキャンペーンは終わってしまったが、現時点でもかなりお得感の高い端末と言えるだろう。
ちなみに、発売日から先着順で提供されていた「VRゴーグルもらおうキャンペーン」は、ソフトバンクのWebページでも終了のアナウンスがないため、もしかすると、これから購入しても入手できるかもしれない。VRゴーグルが入手できるのであれば、ソフトバンクの5Gサービスで提供されるVRコンテンツなどを手軽に楽しむ一台としても適しているだろう。