DATAで見るケータイ業界
自営ネットワークの選択肢として注目を集める「sXGP」の動向
2023年7月15日 10:00
医療機関や鉄道施設などの自営PHSの置き換えニーズとして、sXGPへの注目度が高まりつつある。今回は、2023年3月にサービス終了した公衆PHSの割り当て幅が増加し、更にはeSIM対応することでスマホ利用が可能となるなど、法人向けに利便性が向上してきているsXGPの動向を取り上げたい。
sXGP注目の背景
公衆PHSでは1.9GHz帯が利用されてきたが、それ以外にも2010年からはデジタルコードレス電話規格のDECT方式が、2017年にはsXGP(shared eXtended Global Platform)方式が導入されてきた。両者はTD(時分割多重:Time Division duplex)方式を採用しているため、電波送出タイミングを分けることで共存してきた。
当初のsXGPはデータ通信にしか対応しておらず、同じ周波数帯を上記で述べたように自営PHS方式やDECT(Digital Enhanced Cordless Telecommunications)方式と共用するため、必ずしも使い勝手がよくなかった。
しかし、公衆PHS終了に伴い制度見直しで今後は10MHz幅(現在は5MHz幅)を使えるようになる。しかも自営PHS方式やDECT方式と共用せず、sXGP専用で使える帯域を新たに(2023年秋?)設けるという。
これに加え、sXGPが近年注目されている大きな理由は普段使いしているスマホを利用できる点ではないだろうか。sXGPはSIMカードを利用するため、デュアルSIMのスマホであればキャリア回線とsXGPの併用が可能となっている。
対応スマホは、これまではAndroid数機種に限定されていたが、2023年3月からはiPhone/iPadもiOS16.4から利用が可能となったり、最近ではeSIM対応サービスも登場してきている。
sXGPの通話対応が進んできていることも大きい。当初、sXGPの通話はVoIPで行おうとしてきたが、十分な品質確保ができなかった。そのため、VoLTE対応へと切り替えることで、優先制御と帯域確保を行い、安定した通話品質が実現した。
他の自営ネットワークソリューションとの比較
sXGPと競合する他のワイヤレスソリューションとの比較では、まずはローカル5Gとの競合が挙げられる。ネットワーク構築の点では、sXGPは無線局の免許取得が不要なのに対し、ローカル5Gは免許取得が必要となる。また、コスト面ではローカル5Gが最小構成でも数百万円の投資が必要になるのに対し、sXGPはその10分の1程度の規模に抑制できるとされる。
Wi -Fiとの比較では、両者とも免許取得は不要だが、sXGPの基地局は半径100m前後の広いエリアをカバーできるため、Wi-Fiより基地局の数は減らすことができる。また、s XGPは、基地局が連携してハンドオーバー処理を制御する。これにより、移動しながらでも通信が途切れることなく、確実な通話が可能となるのに対し、Wi-Fiはアクセスポイント間の連携が弱く、接続するアクセスポイントを切り替える際に通信が途切れるケースが多いというデメリットがある。
自営BWAは、1台の基地局で半径2km前後の範囲をカバーでき、2.5GHz帯の周波数を専有して利用するため、安定した通信が可能である。そのため、広い敷地を持つ工場や農場などでの利用に適しているとされる一方で構築・運用には無線基地局の免許取得が必要で、地域BWAのエリア内には設置できないなどの条件に縛られている面がある。
携帯会社が広く提供している公衆サービスの4Gや5Gに障害が生じても通信を継続できるというのは、sXGPやローカル5Gなど自営ネットワークの強みだ。
但し、今回取り上げたsXGPが万能という訳ではない。これまで述べてきたように免許不要で手軽にプライベートネットワークを構築できるメリットがある反面、使用帯域が10MHz幅に拡大しても通信速度は下りで最大毎秒28Mbps、上りで同8Mbps程度しかない。また、遅延速度も40msecとローカル5Gと比較すると性能は低く、以上の点からも大量のデバイス間で通信するIoTや、大容量データのリアルタイム伝送するような使い方には向いていない。
携帯会社による公衆ネットワークの通信トラブルなどもあり、法人向けの自営ネットワークへの注目度が高くなっていくことは間違いないだろう。sXGPの進化は、そうしたニーズに応えるソリューションとしてローカル5G一択で進んできた流れに大きな一石を投じていくことになるのではないだろうか。