第548回:EV-DO Advanced とは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


 携帯電話の電波の繋がりやすさは、基地局の「数」のみに依存するわけではありません。数があっても、どれだけ効率よく基地局からの電波を携帯電話に割り当てられるか、といった問題も存在します。

 KDDI(au)が2012年4月から全国で展開する「EV-DO Advanced」は、そんな「利用効率」に焦点を当てる技術です。簡単に言うと、トラフィックが高い基地局のデータを周辺の基地局に分散する技術です。この技術により、混雑するエリアの通信品質の向上、トラフィック増加による品質の劣化を回避できます。

 特に、都心の駅など、基地局と通信する端末が集中する場所では、このサービスの開始により、データ通信スピードが従来よりも速くなることが実感できるでしょう。KDDIの調べによると、スループットは平均2倍向上するとされています。

 EV-DO Advancedを利用するには、特に専用端末が必要というわけではなく、既存のau端末(EV-DO Rev.AやEV-DOマルチキャリア対応機)のユーザーも恩恵を受けることになります。基地局側も、既存設備のソフトウェア更新で導入可能な技術とされています。KDDIでは2012年4月から全国で導入する予定です。

混雑する基地局の通信を、隣接する空いた基地局にオフロード

 EV-DO Advancedは、CDMA2000やEV-DO Rev.Aなどと同じく米国クアルコムが開発した技術です。

 もともとは、4つのEV-DO Rev.Aキャリアを使い、さらにMIMOを組み合わせることで、下りのデータ転送速度は最大34.4Mbpsに達することもできる技術として開発されましたが、この部分は日本では採用されなかったようです。日本では、「スマートネットワーク」と呼ばれる技術のみが導入されることになりました。

 スマートネットワークの技術的な内容を見てみましょう。

 現在のauの3G通信では電波の強さに応じて通信する基地局が決定します。一方、EV-DO Advancedのスマートネットワークでは、基地局同士が混雑度合いの情報を交換し、混雑している基地局の通信の一部を、近隣の基地局への接続へハンドオーバーさせます。これで、電波の強さに加えて、最も近い基地局が混雑している場合、一部の通信を混雑していない近くの基地局に端末を接続させることで、トラフィック量の多いエリアでも、高速で通信できるようにするのです。

 EV-DO Advancedに関しては、昨年10月の「CEATEC」など展示会のKDDIブースといった場所で説明がありました。それによると、基地局のトラフィックを検証すると「混雑している局とそうでない局が、隣同士にあることはままある」ということで、この技術による効果が期待できます。

 境界にいるユーザーを、トラフィックが空いている局に割り当てて負荷を分散することで、混雑エリアの通話品質の向上を図るとともに、トラフィック増加による品質の劣化を回避することが期待できるわけです。

 EV-DOは、その名前の一部が示す通り「Data Only」の通信規格であり、残念ながら音声通話には効果はありません。しかし、最近、スマートフォンなどの増加によって増えているデータ通信において、より一層の効率化には大きな威力を発揮するでしょう。




(大和 哲)

2012/1/17 11:56