ケータイ用語の基礎知識
第956回:エレクトロクロミックガラスとは
2020年6月16日 12:15
電圧・電流をかけることで色調濃度を変えられるガラス
エレクトロクロミックガラスとは、ガラス板の中に化学物質が封入されており、電圧・電流をかけることで、色調や濃度を変えることができるガラスです。電圧、電流のかけ方で色を付けたり、また、元に戻したり可逆的に変化させることができます。
エレクトロクロミックガラス(Electrochromic glass)という呼び方は、実は日本独特で、世界的には、エレクトロミックデバイス(Electrochromic devices)やスマートガラス(Smart glass)というように呼ぶことの方が一般的なようです。
エレクトロミックガラスの用途はさまざまで、たとえば、米ボーイング製の旅客機「ボーイング 787」では、客席の窓にこのエレクトロミックガラスが使用されています。窓脇にあるスイッチを押していくと、窓全体が段々と青みを帯びていき、最後は真っ暗になり調光窓の役割を果たすようになっているのです。
窓ガラスのみで日射を遮ったり、取り入れたりすることができる調光窓は、省エネなどの観点から、最近では建築用の窓などにも取り入れられ始めており、今後さまざまな場所で使われていくだろうと考えられています。
また、スマートフォンの例でいうと、中国OnePlusがCES 2020にて、コンセプトスマートフォン「Concept One」を公開しました。この機種では、背面にエレクトロクロミックガラスを採用することで、その下に配置されたメインカメラを隠したり露出させたりできるようになっています。
エレクトロクロミックガラスによって適度に光量を調整することができ、ちょうど減光フィルターの役割を果たすこともできるので、強い光の下でも、より撮影者の意図したような絵を撮りやすくなります。
ちなみに、この「Concept One」は、スポーツカーメーカー「マクラーレン」とのコラボレーションモデルで、「マクラーレン720S」で採用されている、エレクトロクロミックガラスを利用した調光ガラス屋根パネルをイメージしたものになっています。
メモリー性を持ち、書き換え時だけ電力消費
色が変わる物質にはさまざまなものがあります。
たとえば、触ると温度によって色が変わる「サーモクロミズム」、光(赤外線・可視光線や紫外線)を当てると変わる「フォトクロミズム」といった例です。
そのうち、電気によって、物質の色が変わる性質を「エレクトロクロミズム」と呼びます。エレクトロクロミズムを利用したガラスだから、「エレクトロミックガラス」なわけです。
このエレクトロクロミズムをもつ化合物としては有機化合物、無機化合物どちらも存在し、有機化合物の場合は、電圧を印加すると分子が酸化・還元反応や、ラジカル状態になることで色が変わります。また、無機化合物の場合、酸化・還元反応で色が変化します。
有機化合物の場合は、構造の変化によって発色状態時の色を変化させることができるというメリットがありますが、電気により分解しやすく繰り返し特性に弱いことが多いというデメリットもあります。
また、無機化合物の場合には、有機化合物とは逆で、材料によって発色できる色がほぼ決まっているので、実用上使いにくい色を発色する材料も多いものの、繰り返し特性には強いというメリットもあります。
ところで、多くのエレクトロクロミックガラスの特徴としては、電気を切っても色が保ち続ける「メモリー性」があります。
この特性は、たとえばウェアラブル機器など、省電力を最優先しなければならない機器のディスプレイなどに力を発揮するでしょう。画面書き換えが必要なときだけ電力を使用すればいいからです。
反面、エレクトロクロミックガラスは、その原理に化学反応を利用しているため、応答時間は、液晶やOLEDなどに比べると遅いといえます。たとえば、さきほどのConcept Oneのエレクトロクロミックガラスであればカメラが全露出するのに0.7秒程度かかっています。
そのため、一画面の書き換えが気になるほどではないかもしれませんが、動画などを再生するのには向いていないと言えるでしょう。