ケータイ用語の基礎知識

第940回:eMarkerとは

 eMarkerとは、USB3.1以上に対応するUSB Type-Cケーブルに内蔵されているICチップで「イーマーカー」と読みます。このeMarkerには、ケーブルの製造者情報や通電容量といった仕様データが登録されており、接続された機器から読むことができるようになっています。

 eMarkerが内蔵されたケーブルのことを"E-Marked" ケーブル、またEMC(Electrical Marked Cable)と呼ぶこともあります。

ケーブルの中にeMakerチップが搭載されている

安全に高速充電を実現するために

 USB PD(Power Delivery)での送電の際には、途中経路となるこのケーブル内のeMarkerから読み出された情報と、送電側機器、受電側機器の状況を考慮して最適な電力制御が行われるようになっています。

 最近では、スマートフォンの高速充電用にもおなじみとなったUSB PDですが、この規格自体は最大で20V×5A=100Wの電力を供給することもできる規格です。

 USB BC(Battery Charge)の5V 1.5Aのような古い規格に比べるとUSB PDのそれは非常に大きな電力です。電力を出力する器具、ケーブル、それに供給を受ける器具とも電力を通せるだけの設計をしていなければならないでしょう。さもなければ異常な加熱や最悪の場合、発火ということもあり得ます。

 そのためUSB PDでは、事故の危険性を減らすための工夫としてUSBケーブルにも仕掛けがいくつかされました。そのひとつが、このeMarkerなのです。

 USB規格では、Type-Cケーブルが3Aを超える電流をサポートする必要がある場合、あるいは、Type-Cケーブルがフル機能のケーブルの場合、つまりケーブルがUSB 3.1 Gen. 1またはGen. 2のどちらかの信号をサポートしている場合にはケーブルにこのeMarkerというICチップを搭載することが必須とされています。

USB-PD高速充電ではケーブルがボトルネックになることも

 USBケーブルがUSB機器と機器の間につながれた瞬間にeMarkerの動作は始まります。まずはケーブルの素性を知るために、機器からケーブルに問い合わせを行います。

 これは、PDで送受電を行う前、USB機器は機器が接続された際に「ハードリセット」と「ケーブルリセット」など特別な制御機能のために用意された「Kコード」という通信で行われます。

 Kコードは、この手続きの最初の一連のデータであるSOP(Start of Packet、パケットの開始)、SOP’(Start of Packet Sequence Prime、パケットシーケンスの開始)通信を含んでいます。SOP通信はケーブルを素通しする機器同士の通信、SOP’は機器からケーブルへの通信です。

 SOP’では、ケーブルから、自分の属性として製品タイプ(アクティブ/パッシブケーブル・ALTモードアダプター)、ベンダー名・製品型番・ファームウェアバージョン、応答したeMarkerの反対の形状(Type-C・Type-Aなど)、ケーブルレイテンシー、通電能力(1.5A、3A、5A)逆端のeMarkerチップの有無、USBデータのスーパースピードサポートなどを返します。

 その後USB-PD機器は、さきほどKコードで受け取ったケーブルに通電して良い電力を考慮しつつ、デバイス間で、供給・受給する電圧、方向や機能などの情報を取り交わし、そのプロトコルに基づいて電力供給を実行するのです。

 たとえば送電側のACアダプターと受電側のスマートフォンがどちらも(PPS) 3.3~11.0V/4.05A対応で、ケーブルも5Aまで対応できることが確認できれば、ACアダプターは(条件さえそろえば)3Aの壁を突破し約4Aでの充電を試みるでしょう。

 逆にもし、このときのeMarkerから「電流は3A以内」というデータがあったら、送電側と受電側両方が5Aを送受電できる機器であっても、途中のケーブルのために3A以内までの電流しか流しません。つまりケーブルが高速充電のボトルネックとなる(ケーブルのために充電速度が遅くなる)ということもあり得るわけです。

さらなる真正性のために「C-AUTH」

 ところで、そのeMarkerですが、残念ながらeMarkerが返してくるID情報を調べても、現在では、他社のID情報をコピーして不正使用する「偽造品」が存在することもあるそうです。eMarkerチップ自体をコピーして粗悪な海賊版を作るようなメーカーもあるということですね。

 そこで、USBの規格標準化団体USB-IFでは、USB PDにおける機器間認証「C-AUTH」という仕組みもオプションとして用意しています。これは、インターネットでの、たとえばSSLサーバー証明書の基礎などともなっている「PKI(公開鍵暗号基盤・Public Key Infrastructure)」を採用したもので、他メーカーのeMarkerデータの盗用や改ざんを防げるようになります。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)