ケータイ用語の基礎知識

第907回:エンティティリストとは

米製品輸出禁止対象企業一覧「エンティティリスト」

 2019年5月現在、中国の携帯電話・通信機器メーカーのファーウエイと、日本支社などを含む関連会社約70社が、米国商務省の「エンティティリスト(Entity List)」に登録されたことを受けて、各事業者がこのメーカー製の新製品(スマートフォンなど)の発売を延期したり予約受付を中止したりするといったことが起きています。

 このエンティティリストとは、米国にとって貿易を行うには好ましくない相手と判断された、米国外の個人・団体などが登録されたリストです。大量破壊兵器の拡散懸念がある、米国の国家安全保障・外交政策上の利益に反するなどの理由から、1997年2月に最初のエンティティリストが公開されて以来、登録の対象は、国務省により制裁規定を設けられた行為や、米国の国家安全保障・外交政策上の利益に反する行為と広がっていき、リストは随時更新されながら、現在のような運用に至ります。

 今回の件で、各事業者が発売を延期したり予約を中止したりしたのには、いくつかの理由が考えられますが、そのひとつとしては「米国産のソフトであるAndroidを搭載したファーウェイ製スマートフォンを発売した場合、自社がエンティティリスト掲載企業の製品を再輸出(または移転)したと看做される恐れ」があるからでしょう。

エンテティリスト、さらに厳しい輸出権利剥奪者リスト

 日本では法律に基づいて、省令政令、ガイドラインなどがあり運用されるように、米国での貿易管理規則は、輸出管理改革法(ECRA)があり、その下に貿易管理規則(EAR)があって、運用されるという形態になっています。

 エンティティリストは、このEARの一部(15CFR Part 744)として掲載、随時更新されており、企業が米国製品を再輸出するなどの際には、確認が必須とされているリストのひとつです。このリストに掲載されている個人・団体等と取引する場合は、申請し許可を取得しないければなりません(申請してもまず許可はおりません。なお、同じPart744.16にはエンティティリストからの削除の手続きについても記載されています)。

 同様に米国商務省の指定する、海外貿易の際に注意を要する相手を確認するためのリストがいくつかあります。

 たとえば、エンティティリストよりもっと重いものとして、輸出規制違反を行ったなどの理由により輸出権限を剥奪されており、原則として輸出管理の必要な取引が禁止されている個人及び団体のリスト「輸出権利剥奪者リスト(Denied Persons List)」、それから、米国商務省が許可前のチェックや輸出の出荷後検証の実施によって貿易管理品目の最終用途・最終需要者の正当性や信頼度が検証できない個人・団体を掲載した「未証明者リスト(Unverified List)」などがあります。

 これらもエンティティリスト同様、特に輸出管理業務に携わる人は必ずチェックすべきデータとされています。

米国の貿易管理規則違反は米国外でも適用される

 これらが注意しなければならないのは、米国の貿易管理規則が、(たとえそれが管轄権が及ばない)他国との取引であっても、適用されるためです。米国の貿易管理規則に違反した場合、米国の個人・団体だけでなく、米国外、たとえば日本の個人・団体であっても、米国政府による制裁の対象となりえます。

 たとえば、米国産の製品を日本を経由して第三国に輸出したり、あるいは単純に国内への移転であっても、米国の貿易管理規則が適用されます(ちなみに、日本から海外への輸出に関しては日本の法律「外為法」の規制も同時に適用されます)。

 しかも、もともとは、このリストは米国産もしくは米国内に存在する貨物の輸出先禁止リストだったのですが、近年、非米国製品であっても制裁が可能な法律が立法化されています。

 これは、場合によっては、たとえば、エンティティリストに掲載された企業の物品を米国外に輸出したり国内に移転した場合なども、制裁措置として米国製の製品・技術を一切、調達・利用できなくなるだけでなく、米国での自社の市場の喪失、場合によっては世界中の企業や団体と取引ができなくなる可能性もあることを意味します。

 この事態に直面することはどの国の、どんな大きな企業にとっても存亡に関わる問題となるでしょう。

 そのため、多くの日本の企業も、日本にありながら米国の貿易管理規則に違反しないよう検討を重ね、対応をしていると考えられます。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)