ケータイ用語の基礎知識

第908回:HDR10 とは

 今回紹介する「HDR10」とは、ディスプレイの性能を示す言葉のひとつです。HDRとは、高ダイナミックレンジを意味する英語「High Dynamic Range」の略です。その名の通り、より広い明るさの幅(ダイナミックレンジ)を表現できる技術のことです。

 一時は、ディスプレイのHDR表示機能のことを単なる「HDR」と言うと、スマートフォンのカメラ機能のHDRと混同されてしまう可能性があるため、「HDR10」と呼んでいたこともあったようです。現在では「HDR10」と言われたら、「HDRディスプレイのメディアプロファイルのひとつ」を指すと思っていればいいでしょう。

 HDR10は、2015年に全米民生技術協会(Consumer Technology Association・CTA)によって策定されました。

 ディスプレイが機器と接続された際、「HDR10」の受信や処理に成功し、対応できると、映像をディスプレイにHDRで写せるようになります。

 HDR10は、さまざまな規格が存在する「ディスプレイやデータ配信される」HDRの中でも、最もよく使われている規格となっています。

 たとえば、ソニーのAndroidスマートフォン「XPERIA 1」はHDRディスプレイを搭載しており、「HDR10」コンテンツの再生に加えて、SDRのコンテンツをHDR相当にコンバートする「HDRリマスター」という機能も備えています。これでさまざまなコンテンツをハイクオリティで観られるようになっています。

 シャープの「AQUOS R3」も「HDR10」「Dolby Vision」というHDR映像方式に対応し、やはり対応配信映像をハイクオリティで鑑賞できるようになっています。

 配信コンテンツの方もHDR10対応のHDRコンテンツが広がっています。たとえば、NetflixやAmazonプライム・ビデオ、Google Play Video、YouTubeなどの動画配信サービスのHDR対応コンテンツでは、「HDR10」と「Dolby Vision」のどちらかが利用できる、というケースがほとんどです。

最高輝度10000nit、バンディングを抑える処理はUHD Blu-rayと同じ

 HDR10の特徴は、明暗差を10ビットデータ・1024階調で表現し、最高輝度1000~10000nitを実現しています。ちなみに標準的なダイナミックレンジ(SDR)では8ビット・256階調です。

 人間の視覚が「明るい部分とより明るい部分」よりも、「暗い部分とより暗い部分」の方が鋭く見分けられるという特性を考慮して、HDR10では、明部より暗部の明暗差をより多くの階調で表現します。

 これで、HDR10対応の映像では、明暗や色調がグラデーションが縞状の濃淡のパターンになる「バンディング」のような現象が起きにくい、という特徴をみせます。これには、バンディングを抑える階調処理「ETOF」(Electro-Optical Transfer Function)に、UHD Blu-ray規格も採用した「SMPTE ST 2084」というPQカーブ技術が使われています。

 HDR10の映像は、屋外などの明るい環境でも観やすい、目に優しいというメリットもあります。というのも、モバイル機器を使った動画視聴はたとえば電車内などが多いでしょう。これは、家の中よりも過酷な環境です。HDR10では再現ピーク輝度が高まるので、周辺が明るい環境でもクッキリとした映像が楽しめるというわけです。

 HDR10の規格上の特徴としては、カラーサブサンプリングはYUV420、色域はITU-RのBT.2020、映像収録に伴うスタティックメタデータはSMPTE ST 2086、MaxFALL(Maximum Frame Average Light Level)、MaxCLL(Maximum Content Light Level)といった仕様が採用されている点も挙げられます。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)