ケータイ用語の基礎知識

第891回:オンデバイスAI とは

 オンデバイスAI(on device)は、端末に内蔵されたAIといった意味で、最近使われるようになってきているワードです。スマートフォンで流行しているオンデバイスAIは、カメラ機能の高機能化などに貢献しています。

 従来はオンデバイスAIではなく、いわば対義語となるクラウド上のAIが主流でしょう。たとえば対話型のエージェントもクラウドAIと言えます。

 ここで、あらためて「AI」とはどういったものか考えてみましょう。

 AIとは、「人工知能」つまり学習や推論といった、人の振る舞いをそれらしく真似る機械のことです。最近では、写真から、人の顔や物を認識、検出したり、言葉や会話を処理したりする技術を指す言葉してもよく使われています、

 そうした最近のAI技術では、機械学習と呼ばれる仕組みが用いられています。多くのデータを使い、学習させてパターンを作り、そこから推論する、といった流れです。

 これら一連の技術のうち「パターンを利用して、入力データから推論を行う」部分をデバイスに最適化して、ソフトウエア、あるいはチップとして搭載したものがオンデバイスAIということになるわけです。

カメラなどリアルタイム性が必要な用途に

 現在、オンデバイスAIが使用されている例としては、先にも挙げましたがスマートフォンのカメラなどがその好例でしょう。

 たとえばグーグルの「Pixel 3」「Pixel 3 XL」はAI専用チップを搭載しているだけあって、カメラなどはその恩恵を非常に多く受けています。

 写真撮影は、内蔵する画像処理モデルを通じて、クラウドへ接続せずに、写真から、人の表情やモノ、テキストなどを認識できます。Pixel 3のフォトブースモードでは、画像スコアリンクモデルが顔の表情と写真のクオリティをリアルタイムに分析、笑顔やおかしな表情の顔を自動検出し、最適な瞬間に自動的にセルフィ撮影をします。

 スマートフォン上で処理をする「オンデバイスAI」が実現した背景には、AIモデルの軽量化のほか、AIを処理するチップセット(GPU、NPU)がパワーアップしたことが挙げられます。たとえばGPUはグラフィックの処理を行うためのプロセッサーですが、シェーディングなどの処理のために行列の和積算を得意としているため、同じ行列演算を必要とするAI処理には役立つのです。

 かつてはクラウド上のコンピュータで処理しなければならなかったような機械学習モデルやコンピューティングが、端末上で処理できるようになりました。

 オンデバイスAIが、クラウドAIと比べて優れている点は、なんと言ってもリアルタイム性です。たとえば、写真撮影での利用など短時間での処理が必要なときに、時間のかかるインターネット通信を必要としません。さらにいわゆる圏外で使えることも特徴でしょう。

 そうした視点とは別の切り口として、プライベートな場面を切り取ることも多いスマートフォンのカメラでは、写真をクラウド上へ転送したくない、といったニーズがあるかもしれません。オンデバイスAIであればそうした懸念にも対応できるでしょう。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)