石川温の「スマホ業界 Watch」
アドビが「Adobe MAX」で“不要な被写体を消せる”機能を発表――「スマホ×生成AI」競争への影響は?
2024年10月18日 00:00
アドビは10月14日、アメリカ・マイアミにおいてクリエイター向けイベント「Adobe MAX 2024」を開催した。
アドビはどちらかといえば、プロのクリエイター向けソフトというイメージが強かったが、数年前からはユーザー層を拡大しようとスマートフォンやタブレットアプリに注力していた。
しかし、最近ではモバイル向けプラットフォームの強化というよりも、クリエイティブツールに生成AIを導入することによって「誰でも簡単に思いのままの画像や映像が作れる」という方向性を打ち出し、ユーザー層の拡大につなげている。
そんななか、今年のAdobe MAXでは、数少ないモバイル関連のニュースとして、写真を管理・編集できる「Lightroom」のアップデートが紹介された。
写真に写っている被写体の輪郭、口や目などのパーツ、さらに服や背景などをAIが認識し、それぞれに対して撮影状況にあった編集を提案してくれる。自動で見た目をよくしてくれたり、それに対して手動で微調整を行うことも可能だ。スマホで撮影した写真に対して素早く編集できるのが魅力となっている。
写真関連では画像編集ソフト「Photoshop」の進化も注目に値する。
画像の被写体を自動的に認識しており、「不要な物を検出」というメニューを選ぶことで、自分やケーブルなど一般的に不要なものをワンクリックで自動的に削除できるようになった。
基調講演では建物の前に大量にある電線を一発で綺麗に消すというデモを行ったが、観客から歓声がビックリするぐらい大きかった。おそらく、これまでそうした不要なものを消すという途方もない作業をさせられてきたデザイナーは喜ばすにはいられなかったのだろう。
実は、過去にもそれらの物体を削除する機能はあったが、消したいものに対して、自分で丸で囲む必要があった。
今回の発表は、まさにアドビ版の「消しゴムマジック」と言えるものだ。
ただ、「消しゴムマジック」といえば、グーグルが自社ブランドのスマホ「Pixel」の目玉機能として打ち出してきている。
「スマホにAIが搭載された」と言っても、一般的なユーザーには何が便利なのかさっぱり伝わっていないが、この「消しゴムマジック」は、CMという短い動画で説明されても、本当にわかりやすいし、自分も「使ってみたい」と思われるAI機能ともいえる。
最近ではこの秋からアメリカで提供開始となるアップルの「Apple Intelligence」も「Clean Up」という名称で、不要なものを消せるというアピールをしている。
アップルとしてもAI機能を訴求する上で「不要な物を消せる」という機能は、グーグルを追随していると指摘されても、避けては通れなかったのだろう。
アドビの考える「生成AIでの差別化ポイント」
アドビとして“消しゴムマジック”を訴求するのはいいのだが、個人的にここ最近、疑問に感じているのが、グーグルやアップルがスマホのOSレベルで写真編集機能を強化しており、かなりバッティングしているのではないか、という点だ。
「AIスマホ」という地位を確立したいグーグルやアップルにとって、一般的なユーザーにわかりやすい写真のAIによる編集機能は、今後もますます強化されていくだろう。
一般的なユーザーであれば、OSに標準搭載されている編集機能で満足してしまうかもしれない。
一方、アドビとしてはユーザー層を増やしたいという狙いからスマホ向けアプリの機能強化を図っていくなかで、「消しゴムマジック」を売りにしたいというのも理解できる。
ただ、OSの基本機能として「消しゴムマジック」が使えるのであれば、わざわざアドビのアプリを入れる人は少ないのではないか。アドビとして、スマホOSに載っている画像編集機能にどうやって対抗していくのか。
そんな疑問に対して、アドビのジェネレーティブAI&Adobe Sensei担当バイスプレジデント、アレクサンドル・コスティン氏は「ユーザーのニーズを満たすことが重要だ。やはりOSに載っているものは機能的にはシンプルなものに過ぎない。アドビとしてはそれよりも多機能で使いやすいものを提供していく。プロが十分に満足できるレベルの成果物ができあがるはずだ。(グーグルやアップルのような)競合が出てきたことは歓迎したい。しかし、アドビには長年、クリエイターと向き合ってきた歴史があるし、彼らの期待に応える製品を出しているという自負がある」と語った。
グーグルやアップルは自社でチップを設計し、OSを開発し、写真アプリとしてAI機能を提供する垂直統合型のビジネスモデルだ。さまざまなプラットフォームにアプリを提供するアドビがどのようにグーグルやアップルの「消しゴムマジック」に対抗していくのか。今後のAIに進化に注目していきたい。