石川温の「スマホ業界 Watch」

「AirPods Pro 2」の新機能「ヒアリングチェック」、登場直後からすぐ日本でも使えるようになった理由とは

 先月10日に開催されたアップルのスペシャルイベント。iPhone 16シリーズの発表に注目が集まる中、個人的に驚いたのが「AirPods Pro 2」の進化だった。

 「ヒアリングチェック機能」が搭載され、ユーザーが自宅にいながら数分で、聴力をチェックできるという機能が盛り込まれる。さらに軽度~中程度の難聴が認められる人向けに処方箋が不要のヒアリング補助機能を提供されるというアナウンスがあったのだ。

 とはいえ、「どうせ、日本での提供は後回しだろうな」なんて諦めていたら、Appleのヘルスケア担当バイスプレジデントであるサンブル・デサイ博士から「世界的な保険期間からこの秋、製造販売承認を受ける見込みで、アメリカ、ドイツ、日本を含む100を超える国や地域で、この秋から使えるようになる」という発言があったのだ。半ば、期待していなかっただけに、対象国に日本が含まれていることに驚きを隠せなかった。

 実際に日本も9月30日に医療機器認定がされたのだった。これで世界に遅れることなく、日本でも上記の機能が使えるようになったのだ。

 日本でも世界と同時に使えるようになった背景について、東京都医師会の目々澤肇理事(日本医科大学脳神経内科非常勤講師、脳卒中専門医)は「武見敬三厚生労働大臣(当時)とPMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)の理事長に、尾﨑治夫東京都医師会会長から『よろしく』とお願いしてもらうことで実現した」という。

目々澤理事

 実は尾﨑会長は2021年、日本でもApple Watchに心電図アプリケーションが提供される際のプレスリリースにも登場するなど、アップル製品による健康サポート機能を日本で使えるよう、医療現場から尽力している医師でもあるのだ。

尾﨑会長

 日本でもアップルの健康サポート機能がすぐに使えるようになったのも、東京都医師会の功績が大きいというわけだ。

Apple Watchで計測した心電図を医師に渡す方法

 ここ最近、アップルのスペシャルイベントでは冒頭に、Apple Watchで心房細動と呼ばれる状況が把握でき、すぐに手術して健康な生活を維持できている人の紹介するムービーが結構な頻度で流されている。

 心房細動は治療せずに放置すると脳卒中につながる恐れがあると言われている。Apple Watchでは本体背面にあるクリスタルとデジタルクラウンに組み込まれた電極が心電図アプリと連携する。

Apple Watchの心電図アプリ

 心電図アプリを開き、デジタルクラウンに指を当てると回路が起動し、心臓を通る電気信号を記録すると30秒後、心房細動、洞調律、低心拍数、高心拍数、判定不能のいずれかを示してくれる。万が一、心房細動の可能性があった場合は通知が受けられるので、医療機関に出向き、キチンとした医療機器で改めて診断してもらい、治療に進むのが望ましい。

 また、Apple Watchでは心房細動以外の不整脈(脈の乱れ)についても記録が取られており、そうしたデータを医師に診せると治療が必要か診断してくれる。

 ただ、医師の前でiPhoneの画面を見せ、心電図をひたすらスクロールして見せても、医師としては判断に困ってしまう。

 iPhoneのヘルスケアアプリでは、心電図をPDFファイルに出力することが可能だ。とはいえ、PDFとして出力したとしても、このPDFファイルをどうやって医療機関に持ち込めば良いかという問題に直面してしまう。さすがに医師とLINEを交換し、メッセージで添付して送るというわけにもいかないだろう。

 目々澤理事は「自分のところであれば電子カルテの入ったMacにAirDropで飛ばしてもらうことは可能」というが、そんなアップル製品に精通した医師など、なかなか出会えるものではない。

 目々澤理事は「紙であれば、医療機関のスキャナで電子カルテに取り込むことができる。PDFを医療機関に持ち込むには3回分の記録を紙に印刷して持参するのが望ましい」と語る。

心電図アプリで記録されたデータ

 最先端のウェアラブルデバイスであるApple Watchで心電図を取り、PDFファイルに出力でき、iPhoneという通信機器のなかに入っているにもかかわらず、最終的には「紙にプリントする」というアナログな作業が必要になるのは、イマイチ納得できない気もする。

 しかし、目々澤理事は「大病院では特に外部から持ち込まれたデジタルデータはセキュリティの面から嫌う傾向が強い。紙資料で渡してくれた方が、電子カルテに取り込みやすいのは間違いない」と語る。

 万が一、AppleWatchから通知を受け取ったときに備えて「PDFをプリントアウトして医療機関に駆け込む」ということを頭の隅に置いておきたい。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。