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注目のプロダクトが続々、関連企業のフィロソフィーも紹介

ウェアラブル専門イベント「Wearable Tech EXPO」レポート

 3月26日~27日の2日間、東京でウェアラブル技術専門のカンファレンス、「Wearable Tech EXPOウェアラブル テック エキスポ) in TOKYO 2014」が開催された。主催は朝日新聞メディアラボ、博報堂DYメディアパートナーズ、博報堂、TMC。

 Wearable Tech EXPOは、米国のTMCが設立したカンファレンスだ。昨年、第1回がニューヨーク、第2回がロサンゼルスで開催された。主に開発者やデバイスベンダー、投資家を対象としているが、注目されているウェアラブル製品やさまざまな企業による取り組み、近年増えつつあるハードウェアを手がけるスタートアップ企業についてなど、開発者でなくても興味深い内容。いくつかを抜粋してレポートしよう。

注目の「Ring」の実機デモンストレーション

ログバーの吉田氏

 ログバーの吉田卓郎氏は、同社が開発中の指輪型デバイス「Ring」を披露した。

 セッション自体はデモンストレーションが中心だったため、その模様をお伝えする前に「Ring」について説明しよう。「Ring」は、Bluetoothによる通信機能と加速度センサーを搭載するインターフェイスデバイスだ。指輪型ということで、「指に装着したまま空中に文字や図形を描く」というジェスチャーを行うと、コマンドを入力したことになり、スマートフォンやタブレットなどを操作できる。バイブレーション機能やLEDも搭載していて、通知を受け取る機能もある。

 クラウドファンディングのサイト、Kickstarter(キックスターター)で進行中のプロジェクトでもある。今年の2月28日より出資者を募集し、3月27日までに81万ドル(約8200万円)の出資を集め、今年7月の発売が予定されている。

 非常に個性的なデバイスであり、先端ユーザーの一部で注目を集めている。一方で、「スタートアップ企業が短期間で、指輪にバッテリと電子装置を詰め込み、製品レベルに仕上げるのは難しいのでは」という懐疑的な声もある。

 今回のデモンストレーションは、吉田氏が壇上に設置したタブレットをRingで操作するという内容だった。冒頭でBluetoothが切断され、ジェスチャーもしばしば意図しないコマンドとして入力されるなど、若干のもたつきもあったが、ハードウェアとして一定の完成度に達していることを示す内容だった。

フリクションレスなデバイスを心がけるMisfit

Misfit WearableのPuliafito氏

 「SHINE」を手がけるMisfit WearableのAmy Puliafito氏は、「ナチュラルに楽しく、ファッショナブルなウェアラブルのススメ」と題して講演した。

 「SHINEは」は500円玉程度のサイズの活動量計。au +1 collectionでも販売されている。リストバンドやクリップと組み合わせ、さまざまなスタイルで着用できる。

 Puliafito氏は「われわれはフリクションレスを主眼に置いている」と語る。バッテリー寿命や装着のしやすさ、価格、耐久性など、“身につけることへの抵抗”(フリクション)をなくし、自然と身につけてもらおうという考えだ。デザインについても、「ほかのファッションとバッティングせず、センサー機能がなくても身につけてもらえるようなものにするのが重要」とも語っていた。

FOFF BEHAVAIOR MODEL。右上のものほど「必要」になっていく

 身につけてもらえるかどうかの判断基準としては、横軸に使いやすさ、縦軸に使いたいと思うモチベーションを取った「FOGG BEHAVIOR MODEL」というチャートを紹介。このモデルの中である段階を超えると、「外出時に忘れたとき家に取りに帰る」となることを指摘し、そういった観点から製品を開発していると語った。

アスリートのためのウェアラブルのアディダス

アディダスジャパンの山下氏

 アディダスジャパンの山下崇氏は、アディダスの「miCoach」(マイコーチ)という製品シリーズを中心に、同社のウェアラブルへの取り組みを解説した。

 miCoachにはいくつかの製品があるが、山下氏は心拍センサ内蔵のリストデバイス「smart run」とプロ向け製品「elite」、一般アスリート向け製品「speed_cell」の3つの製品を紹介する。

 smart run(スマートラン)は、心拍数をリアルタイムで計測することで、目的とする運動強度を正確かつ適切に保てるようにした機器。日本でも発売中だ。オンラインサービスからコーチングプログラムをダウンロードすることもできる。

幅広いプロダクトレンジで提供されるmiCoachシリーズ

 elite(エリート)は、打って変わって、一般人をまったく対象としない、サッカーやラグビーなど多人数のプロスポーツ競技を対象としたシステムとなっている。プレーヤー全員が専用のセンサーを着用し、そこから得たデータをベースステーションで収集、リアルタイムに選手の状況を確認したり、試合後の分析に利用したりする。ターゲット層であるプロスポーツチームでは、たとえばイタリアのACミランなどが導入しているという。

 eliteはシステムとして導入するもので、トップアスリートが利用するものだが、それをより簡単にしたものがspeed_cell(スピードセル)だ。speed_cell自体はコインサイズのデバイスで、靴に装着して運動パフォーマンスを計測できる。サッカーなど、競技中での利用に特化しており、試合中のどのタイミングでどれだけの速さで走ったか、といったデータをグラフで可視化する。

メッシ選手のデータ。ちなみにmiCoachのWebサイトにはほかの選手のデータもある

 山下氏はこのシステムのデータ例として、FCバルセロナのリオネル・メッシ選手のデータを紹介する。サンプルのデータでメッシ選手は試合中、約7kmを走っているが、時間の割合で見ると、走っている時間自体は多くない。しかし試合中のどの時間帯にも最高速度のスプリントをしており、山下氏は「走り続けないで済むプレイをしていると分析できる」と指摘する。

 speed_cellはパソコンとの連携用のバージョンが6900円(税抜)で販売されており、山下氏は「トップ選手だけでなく、誰でも利用できる」とアピールする。

 最後に山下氏はアディダスの創業者、アドルフ・ダスラーの「すべてはアスリートのために」という言葉を引用し、アスリートのパフォーマンスを向上させる製品を作っていきたいと語った。

「メイカーズ」について語るTelepathy井口氏とCerevo岩佐氏

Telepathyを開発中の井口氏

 Telepathyの井口尊仁氏とCerevoの岩佐琢磨氏は、「ウェアラブルはIoTの夢を見るか? メイカーズが創造する新時代」と題したトークセッションが実施された。

 井口氏は、拡張現実(AR)という言葉を世に知らしめた「セカイカメラ」の生みの親としても知られる人物。「セカイカメラ」は今年1月にサービスを終了したが、その一方で井口氏はスマートなデザインのヘッドマウントデバイス「Telepathy」を開発中だ。

Cerevoの岩佐氏

 岩佐氏は13人だけでハードウェアの開発・販売する小規模メーカーCerevoの代表取締役。PCレスのライブ配信機器「LiveShell PRO」など、多数の機器を手がけている。

 ディスカッションのテーマになっている「メイカーズ」とは、数人レベルの小さな規模でハードウェアを開発・販売する企業、集団のこと。3Dプリンターや小型機器向け規格や電子部品の汎用化、小ロットでの生産技術、クラウドファンディングなどで可能になったスタイルだ。既存のハードウェアメーカーが作らないような、一見すると突拍子もないようなアイディアの製品が登場している。

 Cerevoはメイカーズとして成功した典型例。一方、Telepathyは「一見すると突拍子もないアイディア」で旗揚げしてチャレンジしている典型例と言える。

 岩佐氏はまず最初に「ハードウェア作りのハードルが下がった。スマホのアプリと比べると、とっかかりの部分で難しいが、5年前、10年前よりはるかに楽になっている」と語る。

 井口氏が「スマホやタブレットはみんな同じものを持っているのに、これだけカンファレンスに人がいても、同じ服を着ている人がいない。カバンや眼鏡もそう。IoTという未開の荒野には可能性がある」とすると、岩佐氏は「洋服はパッと見回しても同じ服を着ている人がいない、多種多様なもの。どうしてそうなったかと言えば、作るのが簡単だから。だからハードウェアも(開発、量産の)敷居が下がれば種類が増えて、それぞれの人が選べるようになる」と答え、ハードウェアの敷居が下がるであろうメイカーズ時代には、ウェアラブルが最適であるとの意見を一致させる。

 さらにメイカーズとして実績のある岩佐氏は、「ウェアラブルでもハードルの高低がある。Telepathyのようなものは1発1億円といった規模が必要だが、たとえばリストバンドタイプの活動量計のようなものは、比較的簡単で、2000万円で納期半年といった形でも受注できるのではないか。そうなると5000万円もあれば事業を創出できる」と語り、ハードウェア開発・販売の「具体的な敷居」を説明した。

 一方、メイカーズとしてスタートしたばかりの井口氏は、「ハードウェアは製造や流通が伴う。また販売のディストリビューションをどうするか、ということもある。資金調達や基礎体力が必要」と語り、その困難さを指摘する。

 これに対し岩佐氏は、「勇気と気合いのある若者が3人が半年無休でアプリを作る、というのとは違う。先立つもの、つまりファイナンシング(資金調達)が必要で、『まずお金』という身もふたもない話になる。お金を借りに行くと、『作れるの?』『売れるの?』という話になる。そこはわかってもらうしかない。僕がおすすめするのは、まず『作れるの?』をなくすこと。『作れるの?』のノウハウは、Cerevoはたくさん持っている。このノウハウを提供するので、(メイカーズを立ち上げようとする人は)まずCerevoに話を聞きに来て欲しい。お金を使って一気にやる手法もあるが、日本人らしく、人脈ネットワークで世界と戦っていきたい。ノウハウは出し惜しみしていない。スタートアップする人がみんな無理して、“脱臼骨折”するのはおかしい」とし、Cerevoがメイカーズのスタートアップに対して力になれることをアピールした。

「攻殻を見るべき」と力説する夏野氏

冲方氏(左)と本広氏(右)

 フィクションをテーマにした、「日本のアニメに見るウェアラブルの未来」と題したパネルセッションも行われた。登壇者は映画監督の本広克行氏、作家の冲方丁氏、慶應義塾大学教授の夏野剛氏、Telepathyの井口尊仁氏の4人で、井口氏が進行役を務めた。

 夏野氏はNTTドコモでiモード立ち上げに携わったあと、2008年にNTTドコモを退社、現在はドワンゴの取締役にも就いている。

 本広克行は「踊る大捜査線」シリーズで知られるほか、SFアニメ「PSYCHO-PASS」の監督も務めている。また冲方丁氏はSF小説、時代小説を執筆する人気作家である一方、SFアニメのシリーズ構成や脚本も担当し、「攻殻機動隊」のアニメ最新作「攻殻機動隊 ARISE」にも携わっている。ちなみに「PSYCHO-PASS」と「攻殻機動隊」のアニメ各作品を制作するProduction I.G.は、「Wearable Tech EXPO」のオープニング映像を手がけた。

 まず最初に井口氏が「日本と違い、アメリカではアニメファンと技術者で人が重なっていない」と指摘すると、夏野氏は「ウェアラブルは日本の時代だと思う。ウェアラブルを作るにはソフトとハードの両方が必要だが、日本は両方持っている。そしてもっと大事なのは、新しい技術に対し、どういった用途があるかを想像できていること。攻殻機動隊とかを見ているとイメージができる。日本人が作ればGoogle Glassみたいなセンスがないものは作らないと思う」と答える。

井口氏(左)と夏野氏(右)

 補足すると、夏野氏はさまざまなところで「攻殻機動隊を見るべき」と語る“攻殻ファン”だ。攻殻機動隊は、1990年代に発表された士郎正宗氏によるSFコミックで、多数のアニメシリーズ、アニメ映画も展開されている。その物語は、サイボーグを主人公とし、脳神経のネット接続、電子的な仮想空間、ロボット、マイクロマシンなど、多数のSFギミックが登場している。

 夏野氏は「問題は日本の製造業の経営者が攻殻機動隊を見ていないこと。60歳前後の経営者は若いころにコンピューターに触れていないし、SFを見ていないから、アプリケーションがわからない。だからクリエイティブな事業に投資できない。そういった人が去れば、ウェアラブルの時代がくる。入社試験には不要だが、役員には攻殻機動隊の感想文を書かせたい。僕が前いた会社(NTTドコモ)でも役員は誰も見ていなかった。わかっていない」と夏野氏独特の調子で持論を炸裂させた。

 また井口氏が「SXSW(サウス・バイ・サウスウェスト、3月に米国で開催されたイベント)の講演で、スモーキングNG(禁煙)の隣に“Glass NG”という看板があった。新しいものは警戒されるのが常だが、そこまではっきり“No”と言うようになった。ここはどうなのか」と聞くと、夏野氏は「ソーシャルアダプテーション、新しいものを社会がどう受け入れるかについては、常に問題が起きている。そこでNGと書かれているのは、逆に言えばほかで受け入れられているということで、良いことだと思う。ここはダメというセーフティゾーンを作るのは、良いと思う」との考えを語った。

プロトタイプでアプリを模索するプラントロニクス

プラントロニクスのBran氏

 Bluetoothヘッドセットなどを手がけるプラントロニクスのCary Bran氏は、「ライジングウェアラブル」と題した講演で、同社のウェアラブルへの取り組みや考え方を披露した。

 Bran氏は、「どのような産業も、1つのブレークスルーテクノロジー、1つのアイディアから作られるのではない」と指摘。その例としてBran氏は自動車産業をあげる。自動車は、発明されてすぐに産業として立ち上がったのではなく、タイヤやガソリン、道路、規則などさまざまな発明があり、産業として成立した。

 そしてウェアラブル産業については、IT機器がどんどん小さく高性能になったこと、電子技術によって通信機器が持ち歩けるようになったこと、さらにインターネットで仕事や生活が変わったこと、という3点をベースとして、「(ウェアラブルデバイスを1つの産業とするに)必要な発明はある。これをどうまとめていくかが大事」と指摘する。

 また、プラントロニクスが考えるウェアラブル製品としては、「快適に装着できること」「身につける人にメリットをもたらすセンサーを搭載すること」「センサーのデータを処理するソフトウェアを持つこと」の3つのコンポーネントがあり、それにユーザーのコンテクスト(たとえばいまどこにいるか、といった情報)を組み合わせることで、高度なユーザー体験を提供できると語る。

Vovager Legendをベースにしたプロトタイプ

 プラントロニクスの具体的な取り組みとして、同社のBluetoothヘッドセット「Voyager Legend」に改造を加えた実証実験向けのプロトタイプを実機を持ち出す。

 このプロトタイプは加速度センサーなどで歩数を計測したり、着用中かどうか、あるいは落下したなど現在の状態を検知したり、あるいはタップされたかどうかチェックして、スマートフォンやタブレットへ通知できる。本プロトタイプは300個が生産されており、プラントロニクスでは開発者向けツールキットとして提供したり、米国のハッカソンなどに持ち込み、これを活用したアプリケーションを模索しているという。

機械的なウェアラブル「義足」はスポーツ分野で進化

遠藤氏(左)と為末氏(右)

 アスリートソサエティ代表理事の為末大氏とソニーコンピュータサイエンス研究所の遠藤謙氏による「ウェアラブルはスポーツを変えるか」と題したパネルセッションも興味深い。ジャーナリストの湯川鶴章氏がモデレーターを務めた。

 このパネルセッションでは、これまでと少し異なり、「ウェアラブル」と言いつつも、ITテクノロジーというよりも義足のような機械技術に言及している。とくに遠藤氏は義足の研究に携わり、今回は義足がどのようにスポーツに、ひいては社会に影響を与えるかが語られた。

 たとえば近年、技術の進化によりパラリンピックが盛り上がっている。圧倒的な強さを誇る両脚義足のランナー、オスカー・ピストリウス選手がロンドンパラリンピックの男子200mで世界記録を残し、決勝では銀メダルを獲得したなど、全体のレベルが向上している。こうした例をあげつつ遠藤氏は「普通ではあり得ないことを技術の力でやってのけている」と語る。

さまざまな義足。競技用義足は右下のものに近い

 こうした動きに対し、湯川氏が「ルールがないと技術競争になる」と指摘すると、遠藤氏は「これからルールは大変でしょうね。現状でもコイルはダメ。競技に有利な構造もダメ。しかし板バネはOKになっている。レギュレーションは倫理観とからめつつ、競技性を高めるように変わっていくのでは」と語った。

 為末氏はモータースポーツのF1をモデルケースにあげ、「F1の技術で乗用車のレベルも向上した。F1のようにチームで取り組み、パラリンピックで技術が向上すれば、結果として一般人向けの製品のレベルも向上する」との持論を披露した。

 遠藤氏も「技術だけでなく、いろいろな問題がある。国や地域によって障害者への見方が違う。パラリンピックでヒーローが生まれれば、障害が劣等感の元にならなければ社会が変わる」と意識的な側面でのパラリンピックの役割を指摘する。

 IT技術を使ったウェアラブルがスポーツに及ぼす影響については、とくにオリンピックでは試合中に着用するのは難しいことを指摘しつつも、ウェアラブルセンサーにより競技中の体の状態、フォームなどを可視化できれば、トレーニングに大きく役立つとの考えが述べられた。

通信規格の標準化に向けて動き出したクアルコム

クアルコムの山田氏

 「ウェアラブルが加速する“Internet of Everything(IoE)”」と題する講演では、クアルコムジャパン特別顧問の山田純氏が登壇した。

 クアルコムは、通信技術やスマートフォン向けチップセットなどを提供している企業。2012年まで日本法人の代表取締役社長だった山田氏は「スマホやタブレットがモバイルの定番商品として大きくなるのはほぼ確実。その次に何が来るか、というところで、私たちはIoTとウェアラブルを考えている」と語る。

 IoT(Internet of Things、モノのインターネット)については、クアルコム社内では「Internet of Everything」と呼びかえ、面白いユーザー体験の提供を考えているという。ウェアラブルについては、今後数年で、現状から10倍ほど成長する余地があると考えており、その領域の中で、クアルコムがメジャーなプレーヤーとなることを目指しているという。

Toq。市場実験的な要素もあり、まだアメリカでしか販売されていない

 具体的な取り組みの1つが、クアルコムがアメリカで発売したリストデバイス「Toq」。クアルコムがToqを開発する上で強く意識したのは、「消費電力」と「IoTのための通信プロトコル」の2つだという。

 Toqは低消費電力で常時表示できる、電子ペーパーに近いカラーディスプレイ「Mirasol」を搭載している。このほかにも低消費電力のプロセッサーなど、あらゆる省電力技術を使い、ヘビーユーザーでも4~5日は使い続けられる性能があるという。また、充電しやすくなるように、非接触充電機能にも対応している。

AllJoynフレームワーク

 「IoTのための通信プロトコル」としては、「AllJoyn」というフレームワークを搭載していることを紹介する。AllJoynはスマートフォンやウェアラブル機器に限らず、AV機器や家電など、さまざまな機器での相互接続を想定した通信手順のフレームワーク。これにより、たとえばToq着用者が近づくと自動的にエアコンがオンになる、といったことが実現できるという。

 山田氏は「実際にデバイスを手がけてみて、それぞれの機器が独自プロトコルで通信していることがわかった」と現状の問題を指摘する。そこを解決するために、クアルコムは、AllJoynをLinuxファンデーションに寄贈して、オープンソース化し、さまざまなメーカーとともに「AllSeen Alliance」を設立。このアライアンスで、ウェアラブルだけでなく、さまざま機器の通信言語を共通化することを目指しているという。

 最後に山田氏は「クアルコムもIoT、ウェアラブルを金脈のひとつとして掘り下げたいし、一緒に育てて行きたいと痛切に思っている。いろいろな取り組みをするので引き続きご注目いただきたい」と語った。

ボイスコマンドを重視するMartian Watches

Martian WatchesのHsieh氏

 リスト型デバイスを手がけるMartian WatchesのJeffrey Hsieh氏の講演は「ヴォイスコマンドの重要性とノーティフィケーションの未来」というもの。

 Martian Watchesは、すでにいくつかの製品が登場している。いずれも腕時計型で、アナログ時計のムーブメントを搭載する、腕時計らしいデザインながら、通知情報を表示するディスプレイ、ボイスコマンドに対応したマイクとスピーカーを備えるなど、アナログとデジタルが融合したユニークな製品だ。

ウェアラブルの用途

 Hsieh氏は、ウェアラブルデバイスについて「ケータイを置き換えるものではない。ケータイは人間が持つ最強のデバイス。しかし、ハンズフリーでいたいときもある。そこにウェアラブルデバイスが当てはまる」との考えを述べる。

 用途としては、「入力デバイスにもなるし、ソーシャルポイントにもなる。あるいはホームソリューションのタッチポイントにもなるし、ファッションにもなる。フィットネスモニターにもなる。そういったものがすべて共存し、それによって人生を変えるようなインパクトがもたらされるだろう」と多様な可能性があると語る。

Martian Notifierについて

 Hsieh氏は同社の最新製品「Martian Notifier」も紹介。同製品はiOSのBluetooth通知機能に対応し、通知センターの情報をすべて受けとれる。一方でどの情報を通知するかといったスマートフィルター機能も搭載し、同社製品の特長であるボイスコマンドもサポート。価格は129ドル(約1万3000円)で4月後半の出荷開始を予定している。

 最後にHsieh氏は、「ウェアラブル業界に必要なものは揃ったと感じている。起業家もいて、ベンチャーキャピタリストもいる。いま足りないのは市場に対する教育。それは簡単ではない。業界全体の力が必要で、ウェアラブルで何ができるかを教えないといけない」と語って講演を締めくくった。

失敗しないスタートアップの見極め方

HAXLR8RのJoffe氏

 HAXLR8RのBenjamin Joffe氏の講演は、「ウェアラブルスタートアップへの投資とその見極め方」というもので、ハードウェアを手がけるスタートアップへの助言といった内容。

 HAXLR8Rは「Hardware Startip Accelerator」、つまりハードウェアのスタートアップ企業に対して、出資しながら支援し、その立ち上げを加速するインキュベーションプログラムだ。中国の深センと米サンフランシスコで活動している。これまでに40のスタートアップに投資し、16件のキャンペーンはすべて成功したという。こうした経験から、どういったスタートアップが成功するか、どういったところに失敗要因があるかを語る。

近年の動きを「ハードウェアルネッサンス」と表現

 Joffe氏はハードウェアの分野でも「プロトタイプを迅速に作れるようになった。製造を担当する工場も、いまはスタートアップの話を聞いてくれる。クラウドファンディングも増えた」とし、環境が整っていると語る。しかし一方で、「1年でハードウェアをデザインし、製造工程まで整えるのは大変」とも語る。

スタートアップのチェックリスト

 その上でスタートアップ企業を見るときの「チェックリスト」を提示する。その企業がすでに実働するプロダクトを持っているか、チームに十分な技術と情熱があるか、さらにその製品のセグメントや市場ニーズ、販路、次回以降の製品予定、製品の価格を見極める必要があるという。

 また、ただのハードウェアは簡単に一般化し、コピーも簡単なので、ハードとソフトを組み合わせることが重要だとも指摘する。さらにウェアラブルカメラの「GoPro」のように、ユーザーのコミュニティを形成することも重要だという。

避けるべき12個の「WARE」

 その上で、差別化や市場投入のタイミングなど、12個の避けるべき「WARE」を紹介する。

避けるべき12個の「WARE」

  • ビジネスにならない面白いだけの「FUNware」
  • 簡単ですぐにマネされる「EASYware」
  • 差別化できていない「SAMEware」
  • 解決するべき問題が存在しない手段先行の「SOLUTIONware」
  • 技術的に作れない「WAPOware」
  • 素晴らしい技術でも市場では使えない「LAMEware」
  • 誰も買わない「FAILware」
  • 市場投入が遅すぎた「LATEware」
  • 利益を出せないコスト構造の「LOSSware」
  • 1週間で飽きる「BOREware」
  • 市場投入が早すぎる「FUTUREware」
  • ローカルなエコシステムに依存しすぎる「LOCALware」

 中でも、BOREwareについては、「多くのウェアラブルがこうなった」と指摘。FUTUREwareについては、「Google Glassがちょっとそんな感じ。大手企業じゃないと難しい」(同氏)、LOCALwareについては、「日本で言うガラパゴス」と指摘する。ちなみにJoffe氏は日本に住んでいたこともあり、日本市場への理解も深い。

日本人の弱点

 最後にJeffe氏は日本における起業についても言及する。日本人の弱点として、「失敗や大きく考えすぎるのを恐れること」「自己PRやソフト文化、相互補助、英語能力の欠落」があると指摘。たとえばアメリカでは大きな考えを持ちがちで、それにより投資につながり、リソースも集まり、スタートアップが売れる商品を作れているという。

一方、日本人の優位点も

 一方、日本人は物作りについて、「エレクトロニクスでもデザインでもクオリティ、サービス、アフターケアに強い」と指摘。「日本にもチャンスがある。ぜひガラパゴスを脱却して欲しい」と語り、講演を締めくくった。

ウェアラブルのスタートアップに最適なソリューションを提供するNordic

NordicのSoderholm氏

 Nordic SemiconductorのThomas Soderholm氏は、「低電力ワイヤレスチップが変えるウェアラブルデバイス市場」と題した講演を行った。

 Nordicは一般消費者向け製品を作っている企業ではなく、低消費無線通信チップ専門のチップベンダーだ。この分野では圧倒的ナンバーワンの事業者で、たとえば低消費電力の通信規格である「ANT+」の子機側についてはほぼ100%のシェアを持っている。ちなみに親機側には統合RFチップが存在するが、Nordicは手がけていないという。

 Nordicの製品は、リストバンド型のトイデバイス「Moff」や指輪型の「Ring」、眼鏡型の「雰囲気メガネ」、体に貼り付ける血中糖度モニター「Dexcom」などに採用されているという。

ウェアラブルがつながるネットワーク

 現在、ウェアラブルデバイスを含む機器は複雑なネットワークを形成しつつある。従来はハブとなる機器(腕時計型デバイスやサイクルコンピューターなど)に心拍センサーやケイデンス(自転車のペダル回転数)センサーが接続するだけだった。今は、従来のハブ機器がパソコンやスマートフォンに繋がり、さらにクラウドと連携するようになっている。この要因としては、スマートフォンが高機能化し、アプリによってクラウド連携などが容易になったことが挙げられる。

NordicのnRF51

 このような状況で機器を接続する手段としては、Soderholm氏はBluetooth LE(BLE)とANT+が最適だと指摘し、同社製品「nRF51シリーズ」を紹介した。同シリーズはANT+とBLEの同時通信が可能で、いろいろな機器のハブとして機能できる。ARM M0ベースのプロセッサー、フラッシュストレージなども内蔵し、ワンチップコンピューターとして機能する。

 Nordicは今回、ブースも出展し、実際にチップを展示したほか、それを利用した製品も紹介していた。Soderholm氏の講演ではあまり触れられていなかったが、ブースで披露された製品エコシステムも、nRF51シリーズの特徴だ。

nRF51シリーズの開発キット。左上の小さな四角がチップ

 たとえばnRF51チップを使った開発ボードは、販路によるが、2万円程度で購入できるという。これにプログラムを書き込み、アンテナやLEDなどのインターフェイスをつなげば、ウェアラブルデバイスのプロトタイプを作ることができる。スタートアップ企業は、これをベースにハードウェア量産に繋がればいいわけだ。Nordicが必要に応じて量産工場をアレンジするなど支援もできるという。

サードベンダーが手がける各種モジュール

 量産時にはnRF51チップを直接購入し、モジュールを自前で作るだけでなく、サードベンダーが作るモジュールを利用する手もある。モジュールにはアンテナなどが搭載されているので、極論を言えば、インターフェイスとバッテリーを用意するだけで製品が完成する。nRF51チップを購入するよりも単価は高いが、モジュールであれば世界各地の電波認証を受けているため、自社で手続きする手間を省ける。またモジュール設計やアンテナ特性のテストなどの手間とコストも省けるため、小ロットであればモジュールを採用する方が、トータルで見れば安くつく可能性が高い。

Nordicチップの採用製品。多くのスタートアップメイカーズが採用しているのもわかる

 サードベンダーのモジュールにはいくつかの種類がある。ブースに展示されているものでも、小さいものは小指の爪ほどの大きさで、ウェアラブルに利用するにしても、相当小さな製品に適用できることがわかる。

 Soderholm氏は「無線チップを提供するのではなく、完全なソリューションを提供する。優れた開発キット、いろいろなプロファイル、サンプルコード、リファレンスデザインなど、必要なものは私たちから提供する」と語り、同社のチップの優位性をアピールした。

白根 雅彦