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「KDDI ∞ Labo」第3期終了、赤字でも仕掛ける「超重要」なこと

「KDDI ∞ Labo」第3期終了、赤字でも仕掛ける「超重要」なこと

 KDDIは、起業したての企業やエンジニアチームなどを対象とした起業支援プログラム「KDDI ∞ Labo」(ムゲンラボ)の第3期を終了し、参加チームを表彰した。3月よりスタートする第4期プログラムについても発表された。

KDDI田中氏と、最優秀賞を獲得したLive Stylesの松田氏

 「KDDI ∞ Labo」は、グローバルで通用するインターネットサービスを日本から送り出すべく、アプリやサービスの開発支援や経営支援などを多角的に実施する起業支援プログラム。自身を「元エンジニアで、今もエンジニアでありたい」と語るKDDIの田中孝司氏(同社代表取締役社長)の肝入りの企画となり、今回で第3期が終了した。

 第3期に参加したのは、100チームの応募の中から選出された5つのチーム。マナボの学習支援システム「mana.bo」、tritrueのソーシャル連携型の街育成プラットフォーム「LogTown」、世界中のユーザーで起こしあうという「Morning Relay」、REVENTIVEのプライベートSNS「Close」、Live Stylesのスマートフォンを使った電子チケットサービス「tixee」の5チームとなる。

 30日、各チームが最終プレゼンテーションを実施して、最優秀賞が決まった。第3期からは、会場の投票で人気チームを選ぶオーディエンス賞も用意された。最優秀賞は電子チケットの「tixee」が受賞し、そのほか各チームも表彰された。新設のオーディエンス賞はマナボが獲得した。

 「tixee」で最優秀賞を獲得したLive StylesのCEO、松田晋之介氏は、「優勝の手応えはあった。グランプリをとるために参加した」という。松田氏に「KDDI ∞ Labo」への参加について聞くと、「1~2週間ではわからない価値を感じている。ヒカリエの32階という恵まれたスペースで企画を考える上での視座ができた。これからKDDIの看板を背負っていける。そのようにふるまっていかないといけない。有意義な時間だった」と話していた。

第3期プログラム参加チーム

ラボ卒業生シンクランチについて

 登壇したKDDIの田中氏は、「頑張るエンジニアを応援したい」と話し、プログラムに参加した全てのチームが3カ月の期間内にサービスを完成していると強調した。開発したアプリはauスマートパスなどで先行配信されており、第3期についてアプリが用意される。

 起業支援の取り組みとともに、KDDIでは、ベンチャー向けのファンド「KDDI Open Innovation Fund」も実施し、ギフティやシンクランチといった「KDDI ∞ Labo」参加者にも出資している。

 こうした説明の中で田中氏は、シンクランチがDonutsに株式売却したことに触れて、「卒業生初のEXIT(ベンチャー企業の投資回収出口、創業者や投資家などが売却して利益を得ること)。決してKDDIがマネタイズ(収益化)したいわけじゃない。もう少し頑張ればもっといけたかもしれないが、彼らが自らEXITした」と話すと、会場からは笑いが聞かれた。

 なお、登壇後の質疑応答の席において、「KDDI ∞ Labo」のラボ長で新規事業統括本部 新規ビジネス推進本部 副本部長の増田和彦氏は、「最終的な選択は各チームにある。最初に立てたゴールをそのまま消化していく場合と、そうじゃない場合がある。彼らのチームは方向性の軌道修正があった。(売却について)これはこれでありではないか。実業は市場のフィードバックや時代背景でどんどん変わる。それに順応できるかというのもある」などと話した。

田中氏の語る「超重要」

 起業支援の取り組みは米国にならって「Seed Accelerator」や「Incubation Program」などと呼ばれ、起業初期のチームは米西海岸のシリコンバレーにならって「スタートアップ」と呼ばれる。田中氏は、国内でも起業支援の取り組みが活発になっているとし、スタートアップ企業の質と量が充実してきたとする。

 ただし、スタートアップ企業が次の段階に進むために、KDDIのような事業会社が果たす役割が「超重要」(田中氏)という。アイデアが形になり、それ世に出して、多くのユーザーに使ってもらうためには、KDDIのような顧客基盤を持った事業会社が必要となる。「サービスとアプリがあっても、面白いよね。で、終わってしまう。これではまずい」と話した。

 また質疑応答では、「製品が良くても企業として存続して大きくなっていくのは非常に難しい。プロモーションをやろうとネットに載せるだけでは厳しいし、記事を書いてもらって拡散するだけでも厳しい。彼らのコンセプトやプロダクトを広げるために支援する人達がいる。スマートパスの中に入れば、400万人に見てもらい、機会が格段に増える。使い始める行為にまで押し上げる」と話した。

「赤字です。」

 プレゼンテーションの中で田中氏は「はっきり言います。KDDI ∞ Laboは赤字です」と語った。会場からは笑い声が上がった。

 続けて田中氏は「でも、こんなことを気にしていたらダメ。志の高い若いエンジニアを応援したいと本心から思っている。最近、利益を上げることにいそしみすぎとの批判もあるが、もっとお金を使います。ちょっとぐらいの赤字はどうにかなる。こんなこと平場(公の場)で言うのはなかなか勇気がいる。赤字になってもいい。驚きを常識に。いつか黒字になればいい」と話した。すると、来場者から拍手が起こった。

 質疑応答では、さらにつっこんで語った。「僕自身、若いときにもっと支援をいただけたならやれたんじゃないか、という強い想いがある。赤字の話になるが、そこまでやらなきゃいけないんじゃないか。出資のリターンだけが目的だとやってられない」とした。

 KDDIでは、「KDDI ∞ Labo」の参加者からなる「エンジニアプール」を創設し、卒業生に仕事を提供する。今回の発表会は、卒業チームのエウレカが手がけたものだった。田中氏は「ゴハンを食べられなくても困るので支援する」と述べた。

 なお、KDDIは営利企業だ。赤字とはいえ、田中氏の想いだけでこのプロジェクトが動いているわけではない。ただし、「KDDI ∞ Labo」に参加チームを契約で縛ることはしていないという。田中氏は「縛っても意味がない。信じられないかもしれないが、純粋にインキュベーションプログラム(起業支援プログラム)を運営している」と話す。

 KDDIは、2012年に3M戦略を打ち出し、通信インフラを提供する、「土管屋」や「ダムパイプ」になることを避けた。田中氏は「スマートパイプになりたいと思っている。そのための1つがスマートパス。世の中にあるアプリから面白いものを集めて、それを提供する担い手になりたい」と語っている。

 また、KDDIは、スマートパスをプラットフォーム化することで、起業まもないチームにKDDIが一番近い存在になろうとしている。田中氏は「一番近いとブランド化されれば、最初にサービスに触れる場所になるのではないか。当面はないが、いつか黒字にしたい」と話した。

田中“アマ”の期待はHTML5、数年先にはWeb OSの端末も

 このほか田中氏は、第4期のプログラムからHTML5の部門を設置するとした。以前、発表会で「私はプロだ」と語ったことから、ネットユーザーなどを中心に「田中プロ」と呼ばれる田中氏。今回は「田中プロとよく書かれるので田中アマからの期待」として、HTML5の部門を作ったという。

 田中氏は「前回、Web OSのスマホっていいよね、と話した。エンジニアの人にもっと広い土俵でやってもらうためのHTML5」と語った。登壇後の質疑応答の席では、「(HTML5が)好きだからやる。若い頃にHTMLがはじまって、Webベースの世界ができた。JAVAではないが、OSインディペンデントなのはすごく良いこと。今はまだやれることが限定されるが、時間が解決するだろう。HTML5の枠を設けることで、若い人にもっと注力してもらいたい。1~2年のうちに表に出せればと思う」とした。

第4期プログラム

KDDIの増田氏

 「KDDI ∞ Labo」のラボ長の増田氏は、第4期プログラムについて説明した。

 4期プログラムへの応募期間は1月30日~2月22日。プログラム期間は3月下旬~6月下旬。場所は3期同様に東京渋谷のヒカリエで、開発スペースが提供されるほか、スマートフォンやクラウドサーバーなどが提供される。また、経営共創基盤による経営関連のアドバイスなども受けられる。

 3期に新設された学生枠に加えて、今回はHTML5枠が用意される。HTML5枠は、サービスだけでなく、活用するようなツールについても募集する。

 増田氏は、KDDIのコンテンツ部隊がメンターとなって「3カ月間、寝食を共にしてバックアップする。KDDIの社員も刺激を受けている」などとした。選考の際、KDDIでは書類選考後に面談を行い、書面だけではわからないチームの状況をチェックするという。増田氏は「エンジニアリング能力の高いチームの応募が多い。お金儲けの人より、アイデアにどれだけ思い入れを持っているのかを見る」としていた。

 イベントの後半には、「世界最大のSNS、Facebookの秘密」と題してトークセッションが開催された。KDDIの代表取締役執行役員専務で新規事業統括本部長の高橋誠氏と、Facebook Japanの副代表である森岡康一氏が、ソーシャルサービス関連について語った。

トークセッション
Facebook Japanの森岡氏

津田 啓夢