第2期「KDDI∞LABO」最終プレゼン、スタートアップはどう成長したか


 スタートアップ企業、個人レベルの開発者を支援し、日本発のインターネットサービスを発掘する――そんな試みでスタートしたKDDIの取り組み「KDDI∞Labo(ムゲンラボ)」の第2期が終盤にさしかかっている。

 「KDDI∞Labo」は、誕生から間もないWebサービスをKDDIが支援する試みだ。昨年8月下旬にスタートした第1期に続き、今年3月から第2期が進められてきた。ベンチャー企業や学生によるチームなど4チームが審査の上、第2期に参加し、さらにKDDI社内から1チーム、KDDI研究所から1チームも肩を並べてサービス開発に取り組んだ。

 7月上旬に、第2期参加チームのうち、社外4チームから優秀なサービスを選ぶ予定となっており、それに先立つ6月6日、KDDI社内で、参加チームによる最終プレゼンテーションが行われた。審査の場には、KDDI代表取締役執行役員専務の高橋誠氏、“ラボ長”の塚田俊文氏、新規事業統括本部 新規ビジネス推進本部長の雨宮俊武氏、新規事業統括本部 新規ビジネス推進本部副本部長の増田和彦氏、新規事業統括本部 戦略推進部長の江幡智広氏と、コンテンツ関連を中心に、KDDIのキーパーソンが並ぶ。

 冒頭、これまでの3カ月間を振り返った塚田氏は、KDDI社内のスタッフが“メンター”として参加チームと二人三脚で進めつつ、モバイル向けサービスを提供する事業者などからもアドバイスを得たとコメント。7月上旬に、KDDIのコンテンツ関連部門が移転する「渋谷ヒカリエ」での発表会での最終的な結果に向けて、参加チームにベストを尽くすようエールを送った。

KDDIの雨宮氏ラボ長の塚田氏

意欲的なプレゼンテーション、さまざまなサービス揃う

 計6チームがサービス開発に取り組んできた、第2期の「KDDI∞Labo」だが、3カ月前の開始当初と比べ、その内容に磨きをかけることに注力したチームもあれば、コンセプトを変更しつつサービス完成にこぎ着けたチームもある。

KDDIのキーパーソンが審査

 第1期の最優秀賞に選出された「ソーシャルランチ」は、ソーシャルサービス上で先端ユーザーを中心に話題のサービスとなっており、着々と事業展開を進めている。こうした実績を背景に、第2期の参加チームも、結果によっては、Web上で評判を呼び、話題のサービスとしての立ち上げをはかれる可能性もある。さらにはKDDI側の出資、事業提携の可能性も期待できる。

 プレゼンのあとに設けられた質疑の際には、KDDI側から投げかけられた質問を先回りしてプレゼン資料を披露したり、「やります!」とコミットメントを示したりするなど、参加チームは滑らかにプレゼンテーションを展開。この状況には「各チームのプレゼンテーションは、(3カ月前の)第2期開始当初から格段に上達した」と雨宮氏が評したほどで、100チームほどの応募から勝ち残って「KDDI∞Labo」に参加した各チームの意欲が見て取れる場となった。

 それでは各チームのサービスがどのような形になったか、最終的な選考結果の発表を前に、その内容を見てみよう。

 第2期開始時の初回ミーティングで、当初予定していたサービスには課題があるとして新規サービスの開発を宣言した株式会社エウレカは、今回「pickie(ピッキィ)」というアプリリコメンドサービスを披露。iPhone、Androidのアプリストアのランキングはマス向けで、個々人の趣味・嗜好に合っていない、として開発された「pickie」は、Facebookのアカウントでログインし、自分の使っているアプリを「pickie」に覚えさせると、その情報をもとに似た趣向のユーザーの情報を参考にして、ユーザーが関心を持ちそうなアプリを教えてくれる。

 アプリの推薦という点では、アプリをレビューするサイトが競合となる、としつつも、これまで蓄積された情報ではなく、ユーザーの現在を反映することから、旬な情報を取り入れられることが強みとアピールする。ユーザーのアプリ利用情報を用いることになるが、プライバシー情報の取り扱いでミログの「app.tv」が“炎上した事例”を踏まえ、ユーザーの事前承諾・事後承諾を得る形として、許諾前に情報は取得しないこと、必要ないデータを取得しないこと、他社に情報提供をせず、マネタイズの際には自社で広告配信システムの開発することなどが説明された。またFacebookのアカウントでログインするものの、他人にFacebook上のプロフィールを見せるかどうかの設定もできるようにしている。「KDDI∞Labo」で進めた3カ月間の開発期間中には、個人情報の取り扱いについては検討を重ねたようだ。6月20日にはiPhone版、7月18日にはAndroid版の提供が予定されている。

ソーシャルグラフを活用解散したミログ社の事例を踏まえた取り組みも

 続いて株式会社Connehito(コネヒト)が「Creatty(クリエッティ)」というサービスを紹介。当初からのコンセプトを貫いて開発された同サービスは、ハンドメイドの作品を手がけるクリエイターにとって、エンドユーザーとの接点の場として提供される。クリエイターが作りだした作品を撮影し、「Creatty」にアップロードし、より多くの人の目に触れるようにする――オンラインのギャラリーとも言える機能が提供され、作品の販売機能は用意されない。

クリエイターに場を提供する「Creatty」リアルイベントも

 当初はパソコン向けしか用意されていなかったが、この3カ月で、iPhoneアプリ、Androidアプリも用意できたとのことで、3カ月間で3つのプラットフォームに対応。ブログサービスのように、クリエイターがアカウントを取得し、自らのページを開設して作品を紹介していく。苦心したのはスマホアプリのカメラ機能という。作品の写真をいかに美しく撮るか、という点に注力し、Instagramほどではないものの、カメラ機能に明度などを補正できる機能を入れ込み、構図を整えやすい補助機能を用意した。マネタイズがすぐ期待できるようなサービスではないが、アートなどで活動する人々を支えるWebサービスを目指す。

U-NOTE

 平均年齢が約20歳、大学生で構成されたチームによる「U-NOTE(ユーノート)」は、“ソーシャルノートサービス”だ。今回のプレゼンにあわせるかのように、6月7日には起業することが明らかにされた。当初は授業の聴講内容を、受講中の学生が聞き取ってメモを投稿し、優れた投稿があれば自分のノートに取り入れる……というサービスが想定されていたところ、今回のプレゼンでは、カンファレンスやセミナーなどのイベントにおける“実況”をまとめる、という形で紹介された。

 コンセプト自体は「学びをぼくらのサービスで解決する、みんなの顔が見えるソーシャルノート」「リアルタイムに、簡単にシェア」と、他者の投稿をまとめるサービスという大枠に変更はないものの、マネタイズについて、主催者へのログの提供、ターゲッティング広告などが盛り込まれ、9月に提供するというiPhone、Android向けアプリについては「最も簡単にノートが取れるアプリ」とアピールする。高橋氏にTwitterでの実況との違いを問われると、「Twitterは、ハッシュタグを使っていても関係のない投稿も多い」「実況に興味のない友人にも投稿が見える」と説明。タブレット版の開発については「今年中にやる」と断言した。

アプリイメージ特徴

スキコレ!

 株式会社22によるサービス「スキコレ!」は、Web上で見つけた、好みのものをコレクションできるというもの。先日、楽天が出資した「Pinterest(ピンタレスト)」との類似も感じさせるサービスだが、「スキコレ!」は、独自のリコメンドエンジン(嗜好性DB)を用いる。

 プレゼンでは、「Twitter、Facebook上のプロフィールや行動をもとに自動的に
  オススメの食堂を教えてくれる」と説明。22の一員が、実家周辺で高校時代に通っていた食堂がわかる、といった説明を行っていると、高橋氏と同じ出身県で、さらに通っていた高校まで同じということが判明、会場が笑いに包まれる場面もあった。画像、動画、飲食店情報など、さまざまなコンテンツをコレクションできることがウリとなり、8月にはスマートフォン向けアプリの提供が予定されている。アバターが用意され、着せ替え用のアバターアイテムの販売なども想定されている。

アプリイメージ収益化について

KDDI研究所もアプリを披露

 社内チームの1つ、KDDI研究所から参加したチームは、当初、同研究所開発の音声合成エンジンを活かす道を探っていた。そして今回、発表されたのは、「ぺらたま」というキャラクター育成ゲーム。タマゴ型のキャラクターに触れて、餌のきのこを与えてそだてて行くゲーム。成長すると言葉を覚えて、しゃべるようになり、外見も変化していく。育成ゲームとしては定番の展開に見えるが、肝になるのは、やはり音声合成エンジン。育っていくと、声の質、しゃべり方が変わっていくということで、担当者は「音声合成技術は、世界的に見ても最高峰。アプリを通じてSDKの拡販、広告あり版と、広告なしの有償版などを検討する」と説明した。この音声合成エンジンは、通信ありきのクラウド型ではなく、端末内に格納される小型のファイルサイズにまとめられていることが特徴の1つ。その分、軽快なレスポンスが期待できるという。

ぺらたまの特徴アプリ画面

kiminoe

 もう1つの社内チームである“7本木チーム”は、Facebook上で、友人間でイラストを描いていく「kiminoe(きみのえ)」を紹介する。ブラウザベースのWebアプリとして提供される同サービスは、指でイラストを描き、友達としりとりできる、というもの。「ビデオパス」「スルメ」などとイラストを続けていき、10枚揃えば、1つの画像としてFacebook上で公開できる。友人同士で楽しむことから、内輪受けに留まるのでは、との指摘もなされたが、全く知らない人が突然参加してイラストが挿入されても、面白みが伝わらない可能性が高い、と説明し、「友達の得は面白い、だから流行ります!」と断言していた。多くの画像は、「友達がこんな変なイラストを描いた」「あいつは意外と絵がうまい」など、友人同士だからこそ面白がれるテイストに留まる可能性はあるが、ソーシャル上ではユニークな写真・画像はいったん話題になると世界規模で広まったり、数年かけて人の目に触れることもある。場合によっては著名人によるしりとりイラストも楽しめそうで、コミュニケーションツールの新たな取り組みとして興味深い取り組みと言えそうだ。

kiminoeの特徴「友だちの絵は面白い」とアピール

若い人を応援したい

 最終プレゼン終了後、代表取締役専務の高橋誠氏に話を聞いた。
――プレゼンを聞き終えて、いかがですか。

 プレゼンを聞きながら採点は終えました。結果は後日ですが、アプリの質、プレゼンの内容ともに第1期より向上したという印象です。

KDDIの高橋氏

――そうなるよう意図的に取り組んできたのでしょうか?

 メンターとなるKDDI側も第1期から得たことが多く、そうしたことが重なって全体的に向上したのではないでしょうか。

――評価結果は後日とのことですが、第2期スタート時と比べ、印象が変わったものはありましたか。

 中間報告を受けていますが、全体的に完成度が高まり、順調にきているな、と思います。たとえば「Creatty」は、僕らからすると、すぐ通販機能やマネタイズのことを考えてしまいますが、彼らはずっと「クリエイティブを大事にする」と言っている。そうした考え方で、ビジネスに寄りすぎていると、気付かされたところはあります。

――KDDIのような大きな存在が、誕生間もないサービスを支援することについて、マネタイズの要素が薄いコンテンツを支えるべきかどうか、議論がありそうです。

 そうかもしれませんがが、誰かの助けがあったほうが、より可能性は広がりますよね。個人的には、良い循環ができればいいと思っています。たとえば、半導体メーカーや携帯電話メーカーが、自社製品の採用・販売に役立つことを見越して、新しい会社に出資し、出資を受けた会社が上場してさらに新技術が生まれる、という形があります。こうしたロールモデルを参考に、コンテンツレイヤーでも仕組みが作れればと思います。

 (アプリなどが使い放題の)「auスマートパス」は500万契約を目指しているのですが、そのためにはユーザーとの接点をしっかり確保する、という原点回帰を狙っています。イノベーションの仕組みがうまく回ると、マネタイズが難しいサービスへの送客の可能性も広がります。

 なにより、新しいサービスがあれば、元気になりますよね(笑)。うちのメンターも元気になって、雰囲気が変わりましたよ。

 それにユーザーの利用動向を見てみると、どうもフィーチャーフォンっぽい使い方が多いんです。たとえば最初は「ウイルスバスター」のような安心・安全系のアプリが導入され、その次に着信メロディや待受画像のカスタマイズと、フィーチャーフォンと同様の使い方になっている。やっぱり安心して使えるとなれば、同じスタイルになるんだろうなと思いますね。その一方で、ちゃんとスマホっぽい使い方もできるよう環境を整えたい。今回の「KDDI∞Labo」もそうだけど、当社では北米に拠点を置いて、2人のスタッフを常駐させて、さまざまな新サービスをまわってます。

――海外の新規サービスのチェックも欠かさないと。個人的な印象として、ITリテラシーの高い層は、海外発、特に米国発のサービスを積極的に利用しているところがあるように思えます。「KDDI∞Labo」で育てるサービスは、きちんと多くのユーザーへリーチしていくでしょうか。

 確かにそうした印象はあります。でも第1期で最優秀賞になった「ソーシャルランチ」はメディアでも話題になりました。5社のうち1社だけでもそういう状況になった、というのは1つの成果ではないでしょうか。

――参加チーム全てが、とはいきませんね。

 そんな簡単なものじゃないですよね。また、スタートアップの企業にとっては、オフィスも回線もない、という状況で、KDDIの用意した設備が利用できて、Google Playの最新状況もKDDIから得られるというのは、「KDDI∞Labo」ならではの意義あることだと思います。

――コンテンツに関するKDDIの取り組みは、オープンなインターネットサービスとの共存を図るという印象です。

 社内ではいろいろ議論しますが、ソーシャルメディアであるFacebook、検索エンジンを中心にしたグーグルとは共存していきますし、そこは大事にしていきたい。一方で、その上位レイヤーにあるHulu、NetFlixといったサービスには対抗していきます。ビデオパス、LISMO Unlimitedはまさに対抗サービスです。

――そのあたりはどういった基準で共存、あるいは対抗するのでしょう。

 今、KDDIではマルチデバイス、ストリーミングという形で、楽曲と映像のサービスを手がけています。次は電子書籍になるかどうかわかりませんが、そうしたこれまで手がけてきたサービス分野は、対抗していい。今まで責任を持って、ユーザーに近い分野を提供してきたところを、わざわざ海外の事業者にはいどうぞ、と渡すことはない、と考えています。

――コンテンツ分野全般での取り組みですね。その中で、今回の「KDDI∞Labo」のような取り組みは、先述したように、良い循環を作っていく要素の1つであると。

 そうですね。若い連中が、暗いと言われる日本のなかで頑張っているのですから、単純に応援したいと思います。そうした方々は増えているな、という手応えはありますし、たとえば20歳で起業なんて、個人的にも、すごい、真似できないと思います。その一方で、KDDIは、モバイル分野が発展してきた一世代前の業界の課題もよく分かっていて、そうした知見も伝えていきたいですね。

――ありがとうございました。




(関口 聖)

2012/6/7 11:15