インタビュー
KDDIとKCCSに聞く車載型基地局運用の裏側
KDDIとKCCSに聞く車載型基地局運用の裏側
江戸川区花火大会で激写、意外と中は涼しい?
(2014/8/11 10:00)
KDDIが7月31日にキャリアアグリゲーション対応の車載型基地局の導入を発表した。こうした車両は、平時には多数の人が集まるイベントなどで活用され、災害時には現地での通信手段を確保するために緊急出動する。
そんな車載型基地局が、どのように運用されているのか、KDDI 技術統括本部 運用本部 運用品質管理部 特別通信対策室長の木佐貫啓氏、同 品質管理2グループリーダーの松本俊英氏、京セラコミュニケーションシステム 関東OSエンジニアリング事業部 フィールドサービス課 副グループ長の尾形遼平氏、同 技術統括部 技術1課 兼 ワイヤレスソリューション事業部 車載設計課の関善彦氏に伺った。
キャリアアグリゲーション対応は5台から
――KDDIとして車両は何台所有しているのでしょうか?
木佐貫氏
KDDIとしては25台を所有しています。沖縄セルラーが所有するものを除いた数字です。
――車両の運用はどうされているのでしょうか?
木佐貫氏
それぞれの地域でそれぞれの協力会社さんにお願いしているのですが、イベント対策の場合、8割程度はKCCSにお任せしています。車両の制作はほとんどのところをKCCSさんにお願いしています。
――先日、キャリアアグリゲーション(CA)対応の車両を発表されましたが、対応の車両と非対応の車両の見分けはつくのでしょうか?
木佐貫氏
正直、見た目では全く分からないと思います。
松本氏
一応、「CA」のロゴのシールを貼っていますから、それで対応かどうかは分かるかもしれません。
――回線はどういう風に用意されているのでしょうか?
木佐貫氏
イベントに関しては事前に光ファイバーをひくような段取りをとります。災害時には計画的にはいきませんので、衛星を使います。イベント時でも車両まで光ファイバーを引き込めない場合がありますので、ある程度のところまで光でひいてきて、その後を無線エントランスで対応することもあります。
――帯域はどれくらいのものを使われるのでしょうか?
松本氏
1Gbpsをひけるところであれば1Gbpsを、1Gbpsのエリア外であれば100Mbpsのものを何本か束ねる形にしています。1Gbpsあれば、容量的には十分です。
――イベントへの出動はどれくらい前から計画されるのでしょうか?
松本氏
だいたい年度内に翌年にどういう対策を行うかを決めています。免許の申請も必要ですし、3~4カ月前から実際の準備に取り掛かります。難しいのは、どこに置かせてもらえるかという主催者側との交渉ですね。場所が限定される場合もあり、本当はここがいいんだけど……と思いつつも、どういう機材で対応するかを検討することになります。直前にならないと分からないことも多いというのは、災害時に向けての訓練にもなります。
――電源はどうされるのでしょうか?
関氏
電源が取れないことも多いので、大きめの発電機を車載しています。だいたい24時間動くようには作られています。
木佐貫氏
場合によっては、電源車を持って行って供給運用するようなことも災害時には行っています。
――設置から運用を始められるまでにかかる時間はどれくらいですか。
木佐貫氏
良い場所があれば1時間前後で運用できます。ただ、場所によっては、衛星が捕捉できず、そこで30分かけてみたけど、やはりダメだったとか、そういう状況でもう一度場所を移してやるということで数時間かかることもあります。水平をとらないと衛星を補足できないので、空が開けていて水平な場所を確保することが大事になります。
災害時には行ってみないと分からないということも多々ありますが、各県庁の駐車場などは事前にお話をさせていただいて、ここだったら確実に繋がるといった場所は確認しています。
夏が出動のピーク、意外と中は涼しい
――災害はいつ起きるかわかりませんが、イベント対策で出動される機会というのは、年間にどれくらいあるものなのでしょう?
松本氏
だいたい100カ所ぐらいです。シーズン的には、ちょうど今が一番多く、7~8割がこの時期になります。夏フェスや花火大会などが各地で開催されますので、こうしたところに車両を出しています。
全体のトラフィックを見ながら、通常の基地局、車載基地局、可搬型の基地局といったアイテムをどうやって使い分けるかというのを適材適所で選んでいます。
まずは基地局の増強から始まり、チューニングできるところはチューニングし、臨時で作らなければいけないところに車両を出すなり、可搬型のものを設置するなりするという形になります。
――車両を出す際には何人で出かけることになるのでしょう?
尾形氏
基本的には1台2人で運用します。何日にもわたるようなケースでは途中で交代することになります。中でメンテナンスしたり、外で待機したりして過ごします。
――正直、夏は暑くて嫌じゃないですか?(笑)
尾形氏
KDDIさんの手前、何とも言えないですが(笑)、水分補給が難しい場所に出動する場合もありますので、そういった場所では結構大変ですね。
――実際、中はどのようになっているのでしょうか?
木佐貫氏
空間としては2人入ると身動きが取れないぐらいのスペースしかありません。一面に機材が並んでいるイメージです。
――空調は整っていますか?
木佐貫氏
人間のためではなく、機材のための空調はあります(笑)。あくまで機材を守るためのものですが。
――ひょっとして、狭いけどこの時期は中の方が涼しいということですか?
尾形氏
正直、中にいたいです(笑)。
木佐貫氏
中にいちゃダメという規則ではないですし、作業スペースですから、あくまで点検をするために中にいます、という位置づけであれば問題ありませんよ。
1台のお値段は?
――ちなみに、車両は1台いくらぐらいするのでしょう?
木佐貫氏
通常の車と違い、アンテナを10m以上伸ばすため、安定性を取るために重量計算して車両を作ります。それ以外に無線機のところがかなりかかりますので、中身によっていろいろと変わってきます。中身によりますが、数千万から億の単位になる場合もあります。
サイズ感としては、何種類かあるのですが、大きいもので8トンクラスのトラックサイズ、小さいものでハイエースぐらいのサイズのバリエーションがあります。
――車として何か面白い機能がついていたりしますか?
木佐貫氏
風速計が付いていますね。アンテナをあげるのですが、風が強くなると倒れる危険性があるので、それを避けるために風速計を付けています。
――他社の車両との違いはありますか?
木佐貫氏
最新の状況は把握していないのですが、昨年度末の時点で、弊社の車両はすべてLTE対応にしています。現時点で、このうち5台がCA対応になっており、順次増やしていく計画です。
――今は音声とパケットのどちらを重視されているのでしょうか。
木佐貫氏
災害時にはやはり音声を守る必要があります。ただ、イベント時には逆にパケットの方が割合としては大きくなります。
松本氏
花火大会などでは、開催の前後で音声のトラフィックの山があり、花火を打ち上げている時間帯には音声が少なくなります。パケットの方は花火を打ち上げている間にトラフィックが上がります。皆さん、写真や動画を撮って、アップロードされているということでしょうね。
――イベント開催中にもトラフィックをモニタリングされているんですね。
松本氏
モニタリングも行っていますし、リアルタイムでエリアのチューニングも行っています。車両の場合はアンテナのチルト(角度)は変更できませんが、周辺の基地局とあわせて各種パラメーターを調整しています。実は、この時期は車両で出動される方も大変ですが、表に見えないところでモニタリングしているチームも大変なんです。
――現状、見えている課題はありますか?
木佐貫氏
立ち上げを開始して電波を吹けるようになるまでに、うまくいった場合でも1時間ぐらいかかっています。それは今の車両の大きさでやろうとしているからという部分が若干あって、もう少し簡易的なもので、もっと短時間で電波が出せるようなものができればいいな、とは考えています。例えば、100m圏内とか、場所は特定されてしまいますが、避難所などピンポイントでまずはサービス提供できるような形にして、1日すると大型の車両が到着してエリアが広がるとか、できるようにしたいですね。
――お忙しい中、ありがとうございました。
100万人が集まる江戸川区花火大会で見た車載型基地局
KDDIでは、8月2日に開催された江戸川区花火大会に車両を1台出動させていた。同大会は、対岸の市川市の花火大会とあわせると100万人を超える爆発的な集客力を誇る。それだけに、各社ともに車載型基地局を配車。NTTドコモとソフトバンクは江戸川区側に1台、市川市側に1台という2台体制だったが、KDDIは周辺の基地局が充実しており、1台だけでも周辺基地局のチューニングで対応可能と判断したという。
各社ともに開催当日の午前中には配車を完了し、お昼前後からアンテナを伸ばし始め、夕方の大会スタートに向けて準備を進めていた。河川敷での花火大会ということで、車両周辺には電源も回線も無い状況。電源については車載の発電機を使用。回線については、光ファイバーを使用しているが、信号機の支柱等を利用して堤防沿いの道路の上を渡すなど、各社工夫して車両まで回線を引き込んでいた。
KDDIの車両を担当するのは、インタビューにも登場した尾形氏を含むKCCSの2名。当日はとくに大きなトラブルもなく終了したが、そのまま河川敷に残って宴会を続ける観客も多く、撤収できるのは深夜になってから。
筆者も当日、会場で写真を撮ってTwitterでつぶやいたり、家族とLINEで連絡を取ったりしたが、100万人超のイベントで普段通りにスマートフォンを利用できるのは、こうした裏方の存在があってこそ。モニタリングスタッフとあわせて感謝したい。