インタビュー

「モバイルプロジェクト・アワード2014」受賞者に聞く

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iPhoneで着せ替えを実現し、世界に広がる「CocoPPa」

 難しいと思われていたiPhoneでの着せ替えを、URLスキームを利用することで実現した「CocoPPa」。「カジュアルなゲームを出すノリで、とりあえず出した」(ユナイテッド 取締役兼執行役員 スマートフォンメディアカンパニー長 手嶋浩己氏)サービスだが、またたく間に急成長し現在では全世界で2500万ダウンロードを突破している。

インタビューに答える、ユナイテッドの手嶋浩己氏
5月には累計ダウンロード数が2500万を突破した

 URLスキームとは、ブラウザを経由してiOS内にインストールされたアプリを呼び出す仕組みのこと。CocoPPaはこれを活用しており、アプリが指定されたブックマークをショートカットの形でホーム画面に置くことで、疑似的にアイコンの着せ替えを可能にしている。大ざっぱに言えば、アプリのアイコンそのものを置き換えるのではなく、そのアプリに対してリンクが張られた別のショートカットを作るということだ。それをアプリで簡単に行えるようにしたのがCocoPPaの技術的な特徴だ。

URLスキームを駆使して、アプリのアイコンをあたかも着せ替えたように見せることができる

 開発は、担当者のかわいい「アイコンが並ぶとうれしいという素朴な意見」を受けて進められた。そこに「こうやるとできる」「投稿制にするとおもしろい」といったアイディアが加えられていき、今のCocoPPaの原型ができあがっている。ただ、iOSと対をなすもう1つのプラットフォームであるAndroidには、「ホームアプリ」という仕組みが用意されており、ホーム画面を丸ごと変更することができる。OSにきちんと用意された機能を使うという点では、技術的に見ても、Androidでアプリを出す方が簡単だ。なぜiPhoneであえてこうしたサービスに着手したのか。手嶋氏は次のように答える。

「逆に言えば、iPhoneだからやろうとなりました。当時もAndroidには着せ替えサービスがたくさんあり、iPhoneだとできないという固定観念はありましたが、我々が考えた方法でやればできないことはないと気づきました。iPhoneなら、ほかにはこういうサービスもなさそうでした。ただ、ニーズがあるかどうかは、正直分からなかったんですけどね(笑)」

コミュニティサービスの色合いが濃く、アイコンなどもユーザーが投稿できる仕組みだ

 手嶋氏いわく「軽い気持ち」で始めたサービスだったが、CocoPPaは開始当初から日本のApp Storeで10位以内にランクインしている。その起爆剤の1つが、「アイコンのお手本として起用した」というクリエイターだ。

「元々、デコメクリエイターとして有名だったカナヘイさんという方に、アイコンを作っていただきました。CocoPPaは投稿制にしたたため、模範例がないとユーザーがどうしたらいいのか分からなくなります。そのため、最初に素材を1000個ほど用意しました。その中のいくつかが、カナヘイさんのものです。これはあとから分かったことですが、カナヘイさんのTwitterにはものすごく影響力がありました。カナヘイさんのファンの方が最初にダウンロードしてくれたのが、伸びた理由の1つです」

 もう1つの理由が、アプリのレビューメディアに取り上げられたこと。CocoPPaはAppBankに取り上げられ、その相乗効果で10位内にランクインした。

 ここまでは日本での事情だが、「同時にタイと台湾のランキングでも上がった」というのがCocoPPaならではの珍しい現象と言える。理由は「謎」だが、「日本のメディアやランキングはあちらのユーザーも見ていて、それを元にダウンロードしたのかもしれない」という。LINEも、海外ではまずタイや台湾で火がついたことを考えると、この2カ国と日本のサービスは比較的親和性が高いのかもしれない。サービス開始当初からCocoPPaは英語、中国語、韓国でリリースしており、それも功を奏した格好だ。ただし、先に述べたように、CocoPPaは「軽い気持ち」で開発されたサービス。多言語化も戦略的に行っていたというより、「海外で当たったらいいよね」というスタンスを取っており、クラウド翻訳サービスを利用している。

ダウンロードはアメリカが多く、日本は2位だがその比率はわずか16%。世界各国に広がっていることが分かる

 CocoPPaのサービス開始は2012年だったが、その翌年の2013年に入り「アジアで急に伸び始めた」という。これも手嶋氏は「調べても理由がよく分からない」というが、事実としてダウンロード数が急増した。年末には「アップデートでエンゲージメントの高いユーザーにレビューを書いてもらう施策を入れた」というが、これも直接的な伸びの理由ではないという。アジアではまず「マレーシアから始まり、その後、欧州ではイギリスで火が付き始めた」。当初は「自分の中のCocoPPaに対するマインドシェアはごくわずかだった」という手嶋氏も、このころから「興味を真剣に持ち始めた」という。その後、スウェーデンやノルウェーのApp Storeでも総合1位を獲得するなど、海外でのダウンロード数を順調に伸ばしていった。今では、日本のユーザーはわずか16%。どちらかと言えば、海外が主要な市場になっているほどだ。

 一方で、世界的な広がりがあまりに急速だったこともあり、「長時間サーバーがダウンしてしまった」というトラブルも起こった。

「よく分からない言語の問い合わせはたくさんくるし、目視でしているアイコンの審査もガンガン上がってくる。チャンスではありましたが、準備はまったくできていませんでした。わずか1~2週間で、ユーザーが一気に増えましたからね。開発責任者がふんばってくれたおかげで復旧はできましたが、かなりハードでした」

 これを契機に、サービスのグローバル化を本格的に開始。アプリに使われる言語やサポート体制、審査の仕組みなどを抜本的に改善した。

「利用したクラウドの翻訳サービスが悪いわけではなく、もともとそういうサービスという前提で低コストで翻訳していましたが、よくよく見ると翻訳が粗いところがかなりありました。英語ぐらい、僕が見ればよかったのですが……全部ノーチェックだったので改めて見てみるとやはり間違いもありました。英語がこれだと、自分が読めない中国語や韓国語も相当なことになっているのではと思い、この部分はすべて作り直しました。この翻訳のやり直しや、サポート体制、審査の仕組みの変更で、2013年の1月から3月はすべて終わってしまいました」

 この直後にダウンロード数のピークが訪れ、アメリカのApp Storeで無料総合2位にランクインを果たした。手嶋氏も「ゲームを除き世界で9番目にインストールされたiOSアプリとして、アップル純正アプリやFacebook、マイクロソフトの中に名を連ねることができました」と胸を張る。

 こうした状況を見て、着手したのがCocoPPaのAndroid版だ。「元々、Android版を出す予定はまったくなかったが、これはヤバいと思い開発を決めた」といい、2013年5月にはリリースにこぎつけた。ただ、冒頭述べたように、CocoPPaのような着せ替えサービスはiOSの世界でこそ珍しいもの。Androidにはホームアプリが乱立している。CocoPPaとしての、差別化はどのようにしていったのか。

 手嶋氏によると、ここに一役買ったのがiOS版で培ったコミュニティだ。CocoPPaは主に女性ユーザーに支持されており、“カワイイ”を軸にしたアイコンが多数集まっている。「CocoPPa自体それなりにエッジは立っていたし、“カワイイ”に完全に寄せたサービスは、ほかにそこまでなかった」といい、Android版も一気に注目を集める。

「CocoPPaは一定の地域コミュニティの中で、元々それなりに話題になっていました。そのため、Android版を出してほしいという要望も多く、事前登録ページを用意して、リリース時に『Android版が出たよ』とiOSのユーザーにいっぱいシェアしてもらいました。女性系の着せ替えサービス、アイコン、壁紙という分野ではそこそこのブランドにもなっていましたからね。たとえば、スペインでもそういう(人気の女性向けサービスのような)取り上げられ方をしていたようです。スペインには1回も行ったことはないのですが(笑)」

 ホームアプリという仕組みがあるAndroidは、「本質的にCocoPPaと親和性が高く、スムーズなユーザー体験を提供できる」。そのため、手嶋氏は「中長期的に言えば、Androidがメインになる」と見ている。世界的に見るとOSのシェアではAndroidが他のプラットフォームを圧倒していることもあり、「Androidの方が1日のインストール数は多いし、定着率も高い」という。各国のGoogle Playでも上位にランクインしているそうだ。手嶋氏の言葉を借りれば、「iOSで突破口を開き、Androidで広げる」状況と言えるだろう

Androidにはもともとホームアプリの仕様があり、UIの変更に対する柔軟性が高い。アイコンの変更も簡単だ。CocoPPaでも一括でアイコンの変更を行えるほか、ウィジェットも用意

 このような話を聞くと順風満帆に思えるCocoPPaだが、まだ課題はある。1つは、「いかに定着率を上げるか」ということ。これについては、「サービスとして来てもらえる頻度を高めるために、様々な視点でアクションをしている」ところだ。もう1の課題は収益化だ。現時点では広告と課金の2つを軸にしているが、まだ大きな金額にはなっていないという。

「マネタイズには3段階ぐらいあり、売り上げが立ち始める、単体で利益が出る、大きく儲ける、がそれです。この事業はある程度投資をし続けても、利益が出る状況を作りたい。そこまで行けば、あとは拡大再生産で大きくできます。そのためには定着率を上げることが必要です。今のアクティブユーザーは微増で、毎月入ってくるユーザーもいますが、一方で逃げてしまうユーザーもいます。今も多くのアクティブユーザーがいますが、そこがさらに上がれば、ポテンシャルはもっと高くなります。今、ドコモさんの『スゴ得コンテンツ』に入っていて、僕らにとってはありがたい収入源ですが、これがビジネスモデルかと言われれば、そうではありません。きちんと本体で収益モデルを確立したいですし、派生で始めたアバターサービスの『CocoPPa Play』にもすごく期待しています」

 2500万ダウンロードというと非常に大きな数字に思えるが、世界的には「ホームアプリや壁紙まで含めた大きなくくりで見ると、数億ダウンロードされているサービスもある」。中には「きちんと収益モデルを作っている会社もある」といい、手嶋氏もCocoPPaに本腰を入れてからこうした状況が見えてきたという。つまり、同ジャンルのアプリも、十分に市場性があるということだ。

 手嶋氏が「カワイイ系のサービスより、クール系のサービスが多いため、このポジショニングをずらさなければ勝てる」と語るように、勝算もある。世界中に広がる日本発のサービスとして、今後の動向も期待して見守りたい。

石野 純也