「F-04B」開発者インタビュー

世界初のセパレートケータイが秘めた可能性


 F-04Bはスライド式のiモード端末だが、ディスプレイユニットをはずすとQWERTYキーが現れ、ディスプレイユニットにはプロジェクターユニットを取り付けられるという、未だかつてないユニークなスタイルが楽しめる端末だ。

 このF-04Bの可能性や富士通の狙いなどを、モバイルフォン事業本部 マーケティング統括部 第二プロダクトマーケティング部 担当部長の古木健悦氏、同事業部 セールスプロモーション部 担当課長 坂本秀幸氏に伺った。

開発コンセプト

古木健悦氏

――セパレート型と呼ばれる端末は業界初ですが、作るに至った経緯を教えてください。

古木氏
 一昨年のCEATECで、コンセプトモデルを出したのがきっかけになります。その中で、いろんな案、モックを出したんですが、非常にご好評を得たということで、わずか1年で製品化に至りました。もともと弊社は、これまでのヨコモーションやスライドヨコモーションのようにユーザの使い勝手にあわせた新しい形を提案してきましたが、今回のセパレートケータイというのも、ユーザーに新しいベネフィットを与える新しい形ということで提案しています。

――ディスプレイユニット側が携帯電話の機能をもち、取り外したキーボードはBluetooth接続で動いているという理解でいいですか。2つに分けると、両側に電池を持たせるなど、不利になる部分もあると思いますが、その辺りで工夫されたところはありますか。

古木氏
 仕様はまさにその通りです。双方に電池を2つに持たせると、最終的にどうしても大きくなってしまいますので、いかに小さく作るかというのが設計上のポイントでした。また、ディスプレイユニットにほとんどすべての機能を乗せていますので、バランス的にはどうしても頭が重くなってしまいます。そこで、いかに持ちやすくするかというのも課題の1つでした。キーボードがかなり薄いですが、電池の配置や、中の細かい部品の配置、スライド量を工夫し、なるべく負担のかからない重量バランスを実現しています。

――この形はスライドヨコモーションのF-09Aとデザイン的に近いものがありますが、開発タイミングとして因果関係はあるのでしょうか。

古木氏
 スライド構造は若干ありますが、そんなに因果関係はないですね。

坂本氏
 F-09Aの頃は、まだこの端末のコンセプトが出たくらいです。むしろF-09Aで見えてきた課題を、ここでは結構クリアしているんです。F-04Bのスライドの構造って実はかなりスゴイんですよ。しかも背面が白くキレイになりました(笑)。

古木氏
 F-09Aは「ナスカの地上絵」って言われてましたからね(苦笑)。スライド構造もF-09Aよりかなり薄型化してるのも進化点ですね。一番違うのはタッチパネルです。ディスプレイユニットだけで使うというシーンも前提に考えていますから、タッチの使いやすさは格段に進化しています。

――ディスプレイユニットしか持っていなくても使えるんですね。

坂本氏
 そうです。ディスプレイユニットには1220万画素のカメラも搭載していますので、これだけで使えますよ。通常はディスプレイユニットを超薄型のタッチパネル携帯として使っていただいて、電池がなくなってきたら、キーボードをガチャッと取り付けていただければ、とキーボード側のバッテリーから給電する仕組みも搭載しています。

――キーボードが外付けバッテリーみたいな感じになるんですね。ディスプレイユニットだけだと、待受時間や通話時間はどれくらいですか?

坂本氏
 ディスプレイユニットだけの待受時間は約250時間、キーユニットと合わせると約600時間です。F-01Bより若干長いくらいです。

――普通のケータイをiPhoneっぽく使えるなら、それで十分という人もいそうですね。

古木氏
 そうですね。これだけ超ハイスペックで、カメラついてるし、FeliCaもついてるし、ディスプレイユニットにはキーボード以外は全部ついてますからね。F-01Bからキーを外したくらいですね。

――そのF-01Bと比べて、機能的な違いがあったらご紹介ください。

古木氏
 指紋センサーはないですが、あとはほとんど同じです。強化点としては、加速度センサーがディスプレイユニットとキーユニットの両方に搭載されている点ですね。F-01Bの場合ディスプレイと一体型ですので、ゴルフのスイングシーンなんかでは腰に付けると画面が確認できなくなってしまったんですが、F-04Bの場合は、キーボード側にも加速度センサーが乗ってますので、ディスプレイを机に置いたままキーボードを腰につけてスイングレッスンができます。

 タッチパネルの反応速度も大分向上しています。弊社としては常に改善している点です。またハードキーを2個設けて、フルタッチキーとしての使い勝手もかなり向上した設計になっています。

――カメラも1220万画素ですし、機能的には本当に最高スペックに相当すると思うんですが、やはりそこはこだわった点ですか?

古木氏
 基本的にセパレートだからといって、特別な機種だとは考えていないんです。今回、そういう意味も込めて、PRIMEシリーズとして出してますし、まず妥協したくなかったというのがあります。セパレートはあくまでも使うひとつの形であって、その機能は別にPRIMEであっても当然いいと思っているんですね。セパレートが機能じゃないと思ってますから。“使う人に合わせて形を変えていただく”というのが最大のコンセプトですので、今回はPRIMEと同じ機能を搭載しています。

坂本氏
 なぜこれが「PRO」シリーズで出ていないかというところは、結構大きな意味がありますね。

――「PRO」じゃないというお話がありましたが、通常こういうものを作ろうとすると、スマートフォンという形で実現しようとするのかなと思うんですが、あえて通常のiモード端末で出された。これにはどういう意図があったんでしょうか。

古木氏
 あくまでも普通の携帯電話の使い勝手をそのまま持つ、というところをコンセプトにしていますので、まずはiモード端末として出しています。ただ将来的にはスマートフォンという形もあるとは思ってます。

坂本秀幸氏

坂本氏
 冒頭でもお話ししましたが、ヨコモーションなど、新しい携帯の使い方やスタイルを提案していく中で、タッチでも使えて、スライドして普通のテンキーでも使えて、離してQWERTYキーでも使えて……と、ユーザーのいかなる使い方にも対応できる新しいケータイのスタイルというのを、弊社として出していきたいなと思っていたからですね。

 この先いろいろ予定されているLTEに向けても、非常に有効な形じゃないかなと思うんです。キーボードが分離することで、通話しながら画面を見て操作したりするというスタイルは、通信速度が上がるにつれて、できることがいろいろ増えてきます。そういった可能性を模索している端末でもあります。

――コンセプトとしても物としてもチャレンジングな端末だと思います。開発途中で障害になった部分や、作る上で苦労したところというのはありますか。

古木氏
 この端末は弊社としての強い思いもありましたが、ドコモさんとしてもこういう端末を出したいという非常に強い思いがありましたので、ベクトルは最初から合っていました。ただ、実際に作る過程では、どういうスタイルにすべきだろうか、という議論がかなり白熱しました。CEATECのときは磁石でくっつくタイプだったんですが、結局はスライドをベースにした形になりました。それにたどりつくまでに、さまざまなスタイルが検討され、最終的に、重量バランスだとか使い勝手を考えて、現在の形に落ち着きました。

――技術的に難しかった部分はどんなところでしょうか。

古木氏
 ディスプレイユニットにすべての機能を閉じ込めるというのが一番の課題でした。もう一つは脱着構造です。ここはかなり難しかったですね。磁石の構造などいろいろ考えたんですが、最終的には確実に保持したり、ロックを確実に外したいという市場からのご要望も取り入れて、ロック感がしっかり分かるような、爪で確実に固定する構造にしています。

ゲームコントローラーとしても使えるQWERTYキーを用意

――国内の場合、テンキーだけでも十分かなと思えるんですが、QWERTYキーを積んできた理由というと?

古木氏
 使い慣れた人ならテンキーでもかなり早く打てるんですが、やはりテンキーよりもQWERTYキーのほうが、文字入力は格段にやりやすいということで搭載しました。また、スタイルフリーの特徴として、実はこれはゲームでも使えるんですね。QWERTYとしても、普通のゲームコントローラーのように使えるということで、こういった形になりました。

――QWERTYキーを作る上でこだわられた点はどんなところでしょうか?

古木氏
 “ケータイ電話のQWERTYキー”として、決定キーと、オンフックとオフフックの両方を搭載したこと、マルチキーに相当するファンクションキーを搭載したことですね。あとは押しやすい形状にしたいとういことで、微妙に立体形状してる点がこだわりです。両手で打ちやすいですよ。

――QWERTYキーの場合、数字キーのために段数を1段上に増やすかどうかという部分で、みなさん結構悩まれるようですが、いかがでしたか。

古木氏
 それは悩みましたね。キーの数はできるだけ増やして、かつ面積も広くとれればいいんですが、エリアは限られてます。その中で一番使うキーと、携帯電話としてどうしても必要なものを最低限残しているという感じです。

――分離した状態では、どちらも同時に使えるんですか?

古木氏
 スライドした状態でテンキー、閉じた状態でQWERTYキーが自動的に切り替わるようになっています。開いた状態でQWERTYキーを触っても反応はしないです。閉じたら自動的にQWERTYキーが使えるようになります。

――接続はBluetoothですよね。他のF-04Bのキーボードをつなげたりもできるんですか?

坂本氏
 取り付けると自動的にペアリングしますので、どういう組み合わせでも使えます。

スマートフォンとの差別化ポイント

――スマートフォン、たとえばAndroid端末との、一番の差別化のポイントはどこだと思いますか。

坂本氏
 一番大きなところは、やはりiモードが使えるかどうかだと思います。

古木氏
 これはiモードのスライドケータイの使い勝手を生かしたまま、セパレートの使い勝手もプラスしてますので、そういう意味では完全に差別化はできると思っています。

――ボディカラーですが、今回は黒と白の2色です。割と固い線でシンプルな感じはしますが、多色展開は考えなかったのでしょうか。

古木氏
 やはり市場で白と黒というのは一番売れる色でもありますから、本気で売るために白と黒にしています。特に白は白好きの方が好むように、全体的に白くし、白のイメージが崩れない抑え気味にするなどの工夫も凝らしています。

単体でも購入できるコンパクトな「プロジェクターユニット(F01)」

――ワンセグの視聴など、「プロジェクターユニット」を使ったデモはかなり惹かれますね。大きなテレビ電話としても使えそうですが。

古木氏
 相手から送られてくる映像を大きく映し出すことができます。

――これでゲームをしたらすごそうですね。

古木氏
 ボウリングゲームなんかはかなり面白いですよ。キーボード側の加速度センサーを使って、まるで某テレビゲーム機のように操作できますから。PRIMEシリーズなので、「ドラクエ」も楽しめます。

――確かに今までのモーションセンサーのゲームは、遊ぼうとすると画面が見えませんでした。そういう意味で確かにセパレートになってる意味は大きいですね。アプリを作る側は、特にプロジェクターのアウトプットなどは意識しなくても大丈夫なんですか?

坂本氏
 全く必要ありません。モーションセンサーに対応したアプリを開発してもらえれば、それでOKです。

――この「プロジェクターユニット」は別売ですか? F-04Bがなきゃ売らないよ、ということはないんですよね?

坂本氏
 別売ですね。もちろん単体でも買えます。実は普通のビデオケーブルも同梱してるんですよ。つまり、PCやデジタルカメラなどにも簡単につながります。

古木氏
 プロジェクターの機能として、台形補正は入っていませんが、オフセット調整は入ってます。F-04Bで使うときは、映しているときに電話がかかってきて、相手の電話番号なんかが映ると困るお客さまもいらっしゃいますので、公共モードに切り替えるかどうかも自動的に聞いてきます。

通話中のメール、アドレス帳やスケジュールチェック、写真撮影などが可能

――御社として一番想定されているのはどういう使い方ですか? 普通のスライド端末として使うというのが一番ウエイトを占めているんでしょうか?

古木氏
 今回1番ポイントになっているのは、「ディスプレイを見た状態で通話をする」という“ながら通話”ですね。これを今回最大の特徴にしています。電話をかけながら「住所教えてよ」「あなたの電話番号教えてよ」と言われたことがあると思うんですが、覚えていないときは、おそらく今まではケータイを耳から離して、一度端末を見ていたと思うんです。それがF-04Bでは簡単に切り離して、電話番号も調べられますし、スケジュールも見られます。

坂本氏
 カメラも付いてますから、話ながら「ちょっと写真撮って送るから」と、キーユニットで通話しながら、ディスプレイユニットで写真を撮ってメールを打ったりできますね。また、今までのテレビ電話って音が周囲にダダ漏れになりましたよね。これだったら漏れないというところもメリットですね。

――つまり、ディスプレイユニットは、通話中に分離してもいいということですか?

古木氏
 もちろんです。電話をかけると、すぐBluetoothに接続しに行くんです。なぜかというと、通話中にディスプレイユニットを切り離しても、すぐBluetooth通信ができるようにするためです。これも工夫のひとつですね。切り離されたディスプレイユニットでは、自動的に「通話中ランチャー」が起動します。これは通話中に使いたい機能をまとめたもので、ワンタッチで基本機能が使えます。電話帳やスケジュールなど、画面を見ながら使いたい機能がすばやく起動します。電話帳、スケジュール、受信メール、ドキュメント、カメラも使えますし、フルブラウザで調べることもできます。ほとんどの機能使えますよ。

――なるほど。確かに周りから見ても、ヘッドセットをするより違和感はないかもしれません。

坂本氏
 電話しているというのが分かるというのが一番のポイントですね。かなりスマートだと思います。

――分離するということは、ウッカリ片方を置き忘れるなんてこともあるかと思うのですが、対策はいかがですか。

古木氏
 キーボード側からディスプレイ側を探すこともできますし、逆に、ディスプレイ側からキーボードを探すこともできる「ケータイサーチ」という機能を用意しています。実はこの機能を付けたときには、そんなに強いご要望があるとは思っていなかったんですが、いろんな発表会や説明会を開催する中で、「なくしちゃいそうで心配」という声がありました。「ケータイサーチ」をご紹介すると安心されるようです。

――その他にユニークな機能がありましたらご紹介ください。

古木氏
 「フォトライト」ですね。実は「フォトライト」はキーユニット側についています。どういうことかというと、離した状態でも、被写体のすぐ近くにライトを置いて撮れるというわけです。

卓上ホルダと充電方法

――セパレート型となると、充電方法も気になるところですが、卓上ホルダにはどういう形で乗せるんですか?

坂本氏
 それぞれのユニットを合わせた状態で、カシャッと縦型に乗せます。充電端子も付いていますので、ACアダプターを差し込んで充電するというのがもう1つのやり方になりますね。

――メイン側のボディの給電は当然ケーブルをつなげばできると思うんですが、キーボード側を単体で充電、というのはできないのでしょうか。

古木氏
 キーユニットの充電は、ディスプレイと合体させた状態で行います。卓上ホルダに置いたときも、キーボード側から給電するのか、ディスプレイ側から給電するのか表示されるので、どちらか好きな方を自分で選べるようにしています。基本は消費量の多いディスプレイユニットになるんですが、一応ユーザーが選択できるんです。放っておくとディスプレイ側から充電を開始します。

坂本氏
 充電には結構特徴がありまして、使用中、片方が電池がなくなったとしても、電池のあるほうから補完充電するような構成になってます。それはキーボード側から親機であっても、親機からキーボードであっても両方可能なんです。

――つまり、バッテリーが心配になっても、周りにF-04B使ってる人が多ければ、いざというときに「ちょっとキーボード貸して」みたいな感じで充電させてもらえたりするわけですね(笑)。

坂本氏
 その通りです(笑)。

サードパーティを巻き込んだ、機能やデザインの拡張も

――キーボードがゲームコントローラーのように振る舞えるということでしたが、もしサードパーティさんが本当にゲームのコントローラーだけのユニットを出してきたら使えるんでしょうか?

古木氏
 キーボードのプロファイル(HID)に合わせていただければつながります。普通の大きなキーボードも当然使えますし、小さなゲームコントローラー専用機を作っていただければ対応できますね。

――ということは、仕様は公開されるということですか? 「プロジェクターユニット」以外のいろんな機器がでてくる可能性も考えられますね。

古木氏
 まだ具体的に公開はしていないんですが、今ドコモさんと一緒に、サードパーティの方が入って子機のオプションを作っていただけるような環境も用意しようとしています。当然開発していただけるサードパーティの方にはメカニカルな構造や、電気的な仕様を公開することになると思います。今回プロジェクターユニットを提供していますが、仕様を公開することで、我々の気づかないオプション子機を考えられる方が結構いらっしゃると思うんですよね。

――細かい部分ですが、ストラップホールはキーユニット側だけですよね。2つに分けて、ディスプレイ側だけ持ち歩くようになると、そちらにも必要になるのではないかと思うんですが。

坂本氏
 実はディスプレイユニットにもつけるという話があったんですが、動く部分ですので、どこにつけても邪魔になってしまうんですね。また、持ったときのデザイン性も考慮して、無いほうがいいだろうという判断で今回はつけないことにしました。こちらもサードパーティさんを巻き込むと言ったら変ですが、ご協力いただくような形で実現したいなと思っています。ディスプレイユニットだけで持ち歩きたいっていう人のために、背面にストラップホールのある、なんらかのものをカチャッとつけるとか、その中が実は大容量バッテリーだったとか、いろんなアイデアが考えられると思います。デザイン的にもいろんな広がりが見込めると思いますし。

――最近のFシリーズのキャラクターとしては防水機能があげられますが、将来的にはこのタイプも防水化も考えていますか?

古木氏
 当然あると思っています。我々の技術でしたら、ディスプレイ、キーボード、どちらのユニットも非常に高い防水性能を保つことは可能だと考えています。

――最後に読者に一言お願いします。

坂本氏
 iモードが利用できて、使う方に合わせて自由にスタイルを選べる世界初のセパレートケータイを、ぜひお楽しみいただきたいです。

――本日はどうもありがとうございました。



(すずまり)

2010/4/12 12:06