インタビュー
フランスの新興メーカー「Wiko」の日本展開を聞く
最新モデル「WIM」の投入にも意欲
2017年3月29日 12:20
Wiko(ウイコウ)はフランス発の新興スマホメーカーだ。2011年設立で、欧州を中心に展開しているが、アジアにも進出中で、ついに今春は「Tommy」をひっさげて日本市場にも参入した。
Wikoのスマホは、デザイン性を重視しつつも安い価格付けとなっていて、明確に若い世代をターゲットとする方針をとっている。日本参入第1弾の「Tommy」も、カラフルなボディカラーと5インチHDディスプレイを搭載しつつ、価格は1万4800円と、非常に攻めた内容となっている。
今回はWikoの事業や日本での展開などについて、Wikoの日本法人であるウイコウ・ジャパン 代表取締役社長の前田浩史氏に話を聞いた。
――まず前田社長の経歴について少しお聞かせいただけますか。
前田氏
私は最初、アメリカのモトローラにいて、当時のDDI(現在のKDDI)向けに、最小・最軽量を謳った「マイクロタック」などを扱っていました。
そのあとベンチャー、衛星関連の会社を経て、シンビアンにスカウトされて日本オフィスの立ち上げに携わりました。次はマイクロソフトから声がかかり、初期のWindows Mobileを手がけました。
次はノキアからスカウトがありました。S60をグローバルに展開する流れで、S60をドコモに採用していただきました。しかしノキアのCEOが変わって日本戦略の方針が変わり、その後の日本での端末ビジネスの展開がなくなりました。
(※2008年11月27日、ノキアは日本市場から撤退すると発表し、ドコモは翌日に発売予定だった「Nokia E71」の発売を中止した。ソフトバンクは11月28日に「N82」を予定通り発売したが、12月中旬に発売予定だった「E71」の発売は中止した)
その後はノキアを出て、フィンランドのNPOからの誘いで日本とヨーロッパのコンテンツの橋渡しなどをしていました。その後は合弁事業や起業に携わるなどして、2015年からWikoに所属しています。
――Wikoについて、日本ではまだ馴染みがないので、どのような会社なのか、概要をお聞かせください。
前田氏
Wikoは2011年に設立されました。当時はノキアがグローバルで急速に沈んで行った時期でもあります。そのころ、モバイル関連のステークホルダー(利害関係者)は、今後グローバルでフィーチャーホンとパソコンの融合、スマートフォンが伸びると見ていました。ちょうどiPhoneが伸びて、AndroidもREGZAやXperia、HTCも出てきたころです。そうしたスマートフォン市場に乗り遅れないように、深センのODM会社が製造を担当する形でWikoが設立されました。
2011年の設立当初は大きな販路もなく、まずはEコマース中心にフランスで2000台を販売しました。そのあとは成長を続け、2016年は1000万台を売り上げました。今年は1500万台を目指しています。
Wikoのマーケットとしては、やはり本国フランスが一番大きく、2014年にはiPhoneを抜いてフランスのシェア2位になっています。スペインやポルトガル、イタリアでも強く、2位や3位にいます。西ヨーロッパでみても5位です。近々ギリシャに進出し、これまで小規模だったイギリスも大々的に展開する予定です。
私は2015年より本国フランスのWiko Globalに所属し、そのあと日本にブランチオフィスを作って、2016年1月にウイコウ・ジャパンとして法人化しました。そこからちょうど1年で製品を日本に投入した形です。
――欧州ではWikoのスマートフォンは若者世代に人気とのことですが、最初からそういったコンセプトでやってきているのでしょうか。
前田氏
「スマホは若者のコミュニケーションツールになる」という観点を持っています。フランスのテイスト、“フレンチタッチ”といった観点を持ちつつ、手に取りやすい価格で販売していく、と。最初からカラーバリエーションも揃えていましたし、デザイン的にもユニークなラインナップを揃えています。
若者層に触れていただきたいという価格帯で出していますが、それよりも上の層のユーザーも増えているので、これからはそこにも響くハイエンド端末もやろう、となっています。Wikoのハイエンド端末というのは、日本の事業者ではミッドレンジかローエンドに相当しますが、機能的には十分なものをミッドやローの価格帯で提供しています。
あとはアクセサリも充実させています。カバーケースやBluetoothイヤホン、スピーカーなどがあり、これらを使うことでスマホは電話だけじゃないよ、と。もともと「電話」という観点から離れていて、メッセージやゲームを楽しんでもらうことにも重きを置き、アクセサリを充実させています。
――日本ではTommyを第1弾として参入されましたが、これに対する反響や手応えは。
前田氏
温かい目で見てもらっているな、というのが私どもの感想です。反響というかフィードバックでよく帰ってくるのは、「次のカラーはいつ出るの」という問い合わせです。これは非常に難しい。代理店さんなどとの相談によりますが、たとえばピンクを大量導入しても売れるのか、などです。しかしバリエーションは揃えたいと考えています。ピンクも、サンイエローも。
――カラーバリエーションの追加のタイミングは?
前田氏
ほんっとに決めかねている状態です。出すならモックアップやカバーも揃える必要がありますし、悩んでいる問題です。
――ボディカラーの多色展開は、日本ではフィーチャーフォン時代から一般的ですが、海外でカラフルなラインナップは少ないですね。iPhone 5cが多色展開にチャレンジしましたが、あまり成功しませんでした。一方のWikoがこれだけのカラーバリエーションでも成功しているのは、なぜでしょうか。
前田氏
やはり購買層です。メインターゲットが20代で、その層に受けるカラーを出していることです。もうひとつはやはり、ポップな感じのコミュニケーションツール/ガジェットとして展開しているので。
ただ、欧州でもよく売れる人気カラーは、黒とグレー、そしてこの“ブリーン”の3色です。とくにTommyはそうですね。ピンクやレッドはその次です。
欧州でもフラッシュレッドを出していますが、レッドは日本の方が人気があります。逆に欧州ではピンクの人気があったりします。このあたりは逐次要望に応えて出していく考えです。
――MWCで「WIM」などの新製品が発表されました。このあたりの日本投入はどうお考えでしょうか。
前田氏
基本的には、あと数機種を2017年中に、と考えて動いています。中でもWIMは、ぜひ日本でも検討したいな、というプロダクトです。非常に良くできていて、VoLTEやキャリアアグリゲーションなど、日本の事業者のスペックにもミートする基本仕様なので、少し変更するだけで、日本の要求周波数帯に対応できます。
あとは我々のラインナップでいうミッドティアも考えられるかな、と。
――日本投入の可能性としては、WIMが有力機種でしょうか。
前田氏
有力機種とお考えください。
――Tommyの日本での発表会では、対応周波数だけアナウンスされて、その後、発売前にauネットワーク対応ということになりましたが、そのあたりの背景は。
前田氏
接続試験をお願いしていて、発表会の2日後にOKとの結果が出ました。OKになるとはわかっていましたが、結果が出る前だった発表会時点では、言えないのですよね。
――今後もauの接続試験を通していくのでしょうか。
前田氏
ケースバイケースですね。これはディストリビュータやMVNO、通信事業者と調整して、どの周波数帯を使うか、どのVoLTEにするか、どのキャリアアグリゲーションにするかを機種ごとに決めていきます。キャリアアグリゲーションだけでも6パターンとかありますので、どうするか大変です。
――今後は5Gとかになって、もっと難しくなりますね。
前田氏
難しくなります。チャネルに応じて出す機種を変える、というようなことも考えられます。
――欧州でもキャリアビジネスが強くなっていますが、日本では?
前田氏
やりたいと思っていますが、まずはオープンマーケット(SIMフリー端末)で実績を作っていきます。キャリアとやるとなると、1年がかりの仕事になります。端末を相当作り込む必要があり、腰を据えてやるプロジェクトだと考えています。たとえばいまキャリアとお話できても、端末が出るのは来年になるので、来年の端末を先行して持ってきて、こういった内容でやる、と作り込まないといけません。
――欧州でもそのような形でキャリアビジネスを展開されているのでしょうか。
前田氏
キャリア対応チームがいて、フレームワーク的にこういった仕様を、と作っています。とくにTommyは、最初から欧州のキャリアの販路から出すことを前提に作っていて、キャリアからの仕様を汲み上げた端末になっています。
――MWCで発表されたWIMも同様にキャリア向けなのでしょうか?
前田氏
WIMは両方で出す可能性があります。“WIM”は「Wiko in Marseille(マルセイユのWiko、の意味)」から名付けられたフラッグシップモデルで、多岐にわたって販売チャネルを構築しようと考えています。事業者に対応したスペックで最初から作っていて、欧州では事業者チャネルからも出ます。
――WIMはデュアルカメラなど面白い端末だと思います。最大の特徴はやはりカメラなのでしょうか。
前田氏
やはりカメラです。カラーとモノクロから合成し、クリアな映像が撮れます。手ぶれ補正機能も、日本メーカーのビデオカメラ並みです。デザイン面でもカーボン素材を使ったりとか、高級感を持たせていて、それでいて価格でも勝負と言うことで、欧州では399ユーロ(約4万8000円)を予定しています。
――デュアルカメラ端末としてはかなり安い印象です。
前田氏
これも相当頑張っています。とにかく1回、こういったものを導入しないと、マーケットで勝てないよ、と導入した機種です。値段もここまで攻めないと勝てないよ、と。ギリギリまで絞っています。
日本でも展開することになれば、為替レート次第ですが、ギリギリまでユーザーに受け入れられやすい価格に調整したいと考えています。
――なるべく早く出て欲しいですね。
前田氏
日本の技適など、いろいろな許認可があるので、2カ月は遅れてしまいます。
――実際にMWCの会場でWIMのカメラを試しましたが、非常に良いと感じました。動画の手ぶれ補正もしっかり作られているな、と。
前田氏
各分野のトップクラスのエンジニアをスカウトして、マルセイユの開発センターに置いています。とくにマルチメディア分野では、某日本企業のトップエンジニアをスカウトしています。
――研究開発の拠点はマルセイユなのですか?
前田氏
2つあります。WIMは完全にマルセイユでコンセプトからデザインしています。ただし、中の基板の作り込みや無線部分のチューニングは、中国の深センで最終的な手直しをしています。2カ所で連携しています。
たとえばフランスが凄くオシャレなデザインをしても、無線通信できないこともあります。電波的な問題やRF感度を上げることには苦労しています。
今後はNFCや決済も。アクセサリの日本参入も検討中
――MWCの発表では、今後はNFCや決済系も力を入れるという話もありました。日本ではFeliCaが標準的ですが、そちらへの対応は。
前田氏
対応を検討しています。ただしSuicaまで入れるとなると、開発に8~9カ月かかるかと。FeliCaだけならばもっと早く対応できます。
――防水対応は?
前田氏
このあいだマルセイユに行ったとき、話した宿題のひとつになっています。向こう側はだいぶ顔を曇らせていました。防水にすると、Wikoの特徴でもあるデザインに影響が出てきます。たとえばメタルデザインの端末も、評判が良いので来年モデルでもう一度、と考えていますが、それに防水を加えるのはちょっと難しいと思います。
――WIMと同時に発表されたアクセサリー、Bluetoothイヤホンなどは面白いと思いました。これらも日本に入るのでしょうか。
前田氏
非常に前向きに考えています。アクセサリーポートフォリオの中からはいくつか、日本に持ってこようかと。ただしBluetooth製品は技適が必要です。スマホ本体ほどは時間がかからないと思いますが。
Wikoはアクセサリー製品もリーズナブルなので、日本で出すときは極力、欧州に近い価格で出したいと考えています。あとは販売方法も考えないといけません。
――スマホの販売チャネルとして、いまはMVNOが大きいかと思いますが、どこかのMVNOとタッグを組むような可能性は。
前田氏
可能性はあります。というのも、Wikoのラインナップは多機種にわたるので、たとえばスポット的に特定の機種を特定のMVNOで、という話があれば、十分に検討できます。いまはすべてのチャネルがフラットですが、モデルによって可能性はあります。
――Wiko全体として「Game changer.」がテーマに掲げられていますが、欧州で躍進しているのは、何を「変えた」からだとお考えでしょうか。
前田氏
やはりまずは価格とデザインですね。あとは販売面でも、たとえばフランスでスマホをブリスターパック(透明なプラスチック製のパッケージ。壁面に吊るしたりできる)に入れて販売しているのも、Wikoが初めてなのではないかと。買いやすくする工夫もしています。
――日本でももっと手軽に買えるようになると面白そうですが、Wikoは日本市場をどう捉えているのでしょうか。
前田氏
ハイレベルなマーケットと認識しています。5Gへのシフトが始まっていて、SIMフリーでもVoLTEやキャリアアグリゲーションを入れなさい、となってくるかと。そういったものに対応した端末をタイムリーに出せればいいな、と考えています。
日本はおそらく、事業者が主導するハイエンド市場と、ミドルレンジより下のSIMフリーの二極化が始まるのではないかと考えています。まずはミドルレンジより下の市場を、我々の機種で埋めて行ければ、と。
日本は非常にマーケットバリューが高く、日本市場は独特とも意識しています。グローバルでも日本はアジアではなく、別枠に考えています。マーケットの構造が違うので、基本的に欧州の事業者向けと同じような体制を日本向けにも組んで対応しています。
――日本のスマホ市場からWikoが取り入れたい要素というのはありますか?
前田氏
まずは5G技術とそれに対応する仕様ですね。日本は通信技術では世界一なので、その日本で何ができるかは、先行してフィードバックしたいと思っています。
個人的な考えですが、日本で成功している事例は、全部世界で通用していると思います。たとえばアップルのiTunesやApp Storeの囲い込み戦略は、iモードをそのままスケールアップしたものと言えます。日本発でグローバル展開ができなかっただけで、日本が作ったビジネスモデルと、私はそう見ています。フルブラウザなんかもそうです。
――日本の状況が本国の開発チームに伝わり、開発に反映されると日本のユーザーにとってありがたいですね。
前田氏
日本では欧州と同じように音声通話が減っている、とは伝えています。メインアプリは何か、と聞かれるので、やはり「LINE」と伝えています。あとはFacebook、Twitter、Instagram、このあたりは並べないとダメ、と。日本はこれらのSNSユーザーが多く、コミュニケーションツールとしての使い方が多いです。このあたりは、Wikoの当初からの考え方と日本は非常に合っていると思います。
――発表会などで「コミュニケーション」という言葉が出るのが大事ですね。端末メーカーからはあまり出てこない言葉です。ユーザー同士のコミュニケーションが最大のコンテンツと理解していることは、いまのスマホにとっては大事かと思います。
前田氏
「コミュニケーション」は我々の端末のコンセプトです。Wikoの社名は「We communicate」などから来た造語です。コミュニケーションすることは基本コンセプトです。
スマホメーカーですが、コミュニケーションツールを提供するという考えで、革新的なデザインと低価格で裾野を広げ、それが上手くいってヨーロッパで急成長できました。
――本日はお忙しいところ、ありがとうございました。