インタビュー

「Android One S2」開発者インタビュー

京セラらしい安心感をAndroid Oneで表現

Android One S2

 「Android One」は、Googleが主導するスマートフォンプラットフォームだ。Androidをベースとするが、普通のAndroid端末に比べると、ハードウェアでGoogleがコントロールする部分が多く、メーカー独自要素を減らす代わりにOSアップデートを容易にしたり、互換性の向上、操作性の共通化といったところを狙っている。

 元々は新興国向けの安価な端末(1万円以下レンジ)向けに展開していたAndroid Oneだが、昨年、ワイモバイルがGoogleと協業し、日本市場向けの「507SH」(シャープ製)が投入されている。

 507SHはSnapdragon 617を搭載するなど、価格やスペックも海外でのAndroid One端末に比べると上位に設定されているが、「(507SHのおかげで)ワイモバイルのAndroid分野でのシェアは約2倍にまで拡大した」というくらいのヒット商品となったという。そしてこのヒットを受け、今春、シャープ製の「Android One S1」と京セラ製の「Android One S2」の2モデルが投入される。

 Android Oneは、メーカーにとって他社との差別化が難しい側面もある。その難しい課題に京セラがどう取り組んだのか。今回は開発を担当した京セラの通信機器事業本部 通信事業戦略部 商品企画部 商品企画2課の横田希氏、同本部 通信国内事業部 国内技術部プロジェクト2課の石川肇氏、同本部 通信事業戦略部 デザインセンター デザイン2課の久田風子氏にお話を伺った。

「京ぽん」ユーザーの乗り換えを意識した赤外線通信機能

横田希氏

――まずAndroid One S2の製品開発のコンセプトや経緯についてお聞かせください。

横田氏
 昨年、ワイモバイルさんがGoogleと協業し、Android Oneを全体で導入するようになり、端末としても1号機が登場しました。京セラとしてもGoogleさんに合わせてAndroid Oneでいく戦略だったので、自然の成り行きとしてワイモバイルさん向けにAndroid Oneを作ろう、ということで採用いただきました。

 Android Oneはカスタマイズがしにくいプラットフォームでもあります。しかし、そこは京セラらしい頑丈さとか安心感をしっかりと盛り込んでいます。一方でワイモバイルさんが求めている、UIの統一でワイモバイル端末を使っていれば誰もが使い方を教え合える、認知しやすいところの相乗効果、この特徴を捉えた端末としました。

――DIGNOをベースにソフトウェアをAndroid Oneに置き換えた、という感じでしょうか。何か独自のソフトウェアのカスタマイズはされていないのでしょうか。

横田氏
 ハード面はDIGNOベースですが、ソフトウェアが関わるところでは、赤外線通信機能に対応していることと、歩数計のウィジェットでもソフトウェアを絡めたカスタマイズを入れています。

――歩数計は組み込みが難しいのでしょうか。

横田氏
 他社向けモデルでもやっていますが、歩数計はマイコンを別途搭載して作り込んでいます。電力消費も少なくなっています。

――赤外線はやはり旧ウィルコム時代の京セラ端末、いわゆる「京ぽん」のユーザーを意識されたのでしょうか。

横田氏
 もともと弊社のウィルコム向けモデルはずっと赤外線を搭載していますが、それをお使いのお客様もまだまだいる状況です。ワイモバイルさんとしても、どちらかというとスマホに移行して欲しいという考えがあります。京セラの旧ウィルコム端末はシェアもあるので、そこを置き換えして使ってもらいやすくするには赤外線通信機能が必要、と考えています。もともと旧ウィルコム向け京セラ端末は価格が安いところですが、Android One S2もそれほど高くならないので、移行しやすいかと思います。

背面カバー内。背面カバーには防水機能はなく、内部のカードスロットカバーなどに防水機能がある

石川氏
 前機種(DIGNO E)では、販売店の方から「赤外線通信があるので売りやすい」という声をいただいていました。その同じカテゴリーでやっていこうと考えていたので、赤外線通信は必要だろうな、と。

――赤外線通信はそんなに使われているものなのでしょうか。

横田氏
 使われていますね。販売時は店頭のオペレーションが楽だと評価を受けています。赤外線通信ならば、従来のフィーチャーフォンと同じやり方ですぐに理解してもらえます。スマートフォンになれている方ならばGoogle経由とかになりますが、元がPHSフィーチャーフォンとなると、やり方がわかりにくいこともあるので、赤外線通信ができるのは楽なようです。

――今後も赤外線通信機能は搭載し続けるのでしょうか。

横田氏
 ユーザーがどう使うかによります。今後、赤外線通信以外のデータ移行方法がすんなりと受け入れてもらえるような状態が続けばいらないということになるかもしれません。

――赤外線通信だけでなく、赤外線リモコンのアプリを追加するのはいかがでしょう? とくにAndroid Oneだとプリセットアプリを充実するのが難しいですが、Google Playで京セラ純正アプリを配信することなどは検討されていますか?

横田氏
 そのあたりは弊社内でも検討しています。ほかのDIGNO E/Fなどでは、初心者向けのホームメニューなどが好評でした。Android Oneでは載せられないところですが、店舗の説明会とかではこれが欲しいというような声もいただいているので、弊社はアプリ配信はあまりやってこなかったのですが、そこは検討しているところです。

――ダウンロードアプリでもキャリアを超えた京セラらしさを見せれば面白いですね。

横田氏
 どのようにやるかは考えたいと思っています。しかしジレンマとして、京セラらしさは「使いこなせない人でも簡単に使える」というところにありますが、そうした方にややハードルが高いダウンロード配信で提供するのは矛盾しているかな、とも。どのようにやるかは、キャリアさんの力を借りて、そこを含めてやっていかないといけません。

――Android Oneの特徴の一つとして、OSのアップデートを一定期間、続けないといけないというのがありますが、このフォローアップは大変なのではないでしょうか。

石川氏
 大変です。そもそものコンセプトとして、最新OSとセキュリティパッチに対応し続けていくというものがあります。メーカーが作り込んだ部分、例えば赤外線通信や歩数計やカメラといった部分は、メーカーが対応する必要がありますが、この周辺のソフトウェアをいじりすぎると、バージョンアップへの追従に時間がかかってしまいます。そういったところを意識しながら、素早くバージョンアップに対応できるよう、企画当初から考えに入れて開発しました。

横田氏
 実は、赤外線通信については、DIGNO Eなどでは赤外線アプリの中に送信と受信の両方を用意しています。しかし、本来のAndroidには「共有」という思想があります。送信するときは、送信したいものからアクションに入ります。ですので、今回のAndroid One S2では、赤外線アプリには受信機能しかありません。たとえば連絡先を赤外線で送信するときは、連絡先を表示し、そこから共有します。このように設計の細かい思想が違うので、どうやってフォローしていくか苦労しました。

――ここで培ったノウハウは他のDIGNOシリーズなどにも反映されるのでしょうか。

石川氏
 それはなんともいえません。

横田氏
 使い方や利便性の考え方は、DIGNOとAndroid Oneとでは異なっています。弊社がどのような立ち位置でやるかも違うので、それぞれ、というスタンスになります。

耐衝撃・防水をAndroid Oneとして表現

久田風子氏

――Android Oneとして外面デザインで狙ったところなどはありますか?

久田氏
 Android Oneという特徴的なOSと耐衝撃や防水性を感じていただけるデザインを目指しました。側面の凹み形状で持ちやすくしたり、シルエットも薄く見えるようにして、手に馴染むことも考えながらデザインしております。

――Android One端末のデザインのガイドラインのようなものはあるのでしょうか。

久田氏
 ありますね。

――カラーリングは?

横田氏
 そこは自由ですね。確認は入りますが、デザイン面で作り込んだところにNGが出ることはありません。

――Android Oneは正面から見るとみんな似てしまいますが、工夫できるのは側面と背面になるのでしょうか。

久田氏
 そうですね。今回はカラーによって特徴をつけています。深い質感の色と鮮やかな色を組み合わせることで同じ色味でも、カラーを引き立てるように工夫しています。

――耐衝撃性能がデザインに影響していたりするのでしょうか。

横田氏
 落としたときにガラス割れを防ぐために、縁の部分が少し出っ張っています。デザインと耐衝撃性を両立させる最適解として縁を出っ張らせています。

石川氏
 現行機種のDIGNO E/Fよりもさらに進化させるために、素材や構造を強化し、耐衝撃性を向上させています。ワイモバイルの中では引き続き同じユーザー層を獲得するべく、耐衝撃を含めてスペックを上げつつ、Android Oneにしました。

――そのほかデザイン面での特徴はありますか? 内面の設計はそれほど変わっていないように見ますが。

石川氏
 そうですね。イヤホンジャックを出っ張らないように作っていますね。

横田氏
 コストを抑えないといけないモデルなので、イヤホンジャックをオリジナルにするとコストがかかるのですが、その中でもスッキリ見せつつコストがかからない方法を検討しました。

――そういえばストラップホールもありますね。

横田氏
 これも前機種に無かったところですが、ターゲットユーザーを見て搭載しました。

イヤホンジャック部の背面パネルには切り欠きがある
ストラップホールはケースを外さないでも脱着できるタイプ
側面ボタンの色は、ホワイトボディのモデルは白、レッドとネイビーのモデルは黒

――プロセッサーやメモリーはAndroid Oneとして決まっているのでしょうか。ストレージ(内蔵16GB)なんかはギリギリ感もありますが。

石川氏
 現時点ではこのスペックがAndroid Oneとして成り立っています。

横田氏
 チップセットなどのスペックはGoogleさんと調整しないといけませんが、このスペックで良い、ということになっています。ですので、今後のOSも、このスペックを視野に入れて開発してくれると思います。サポート期間中に使えなくなることはないかと思います。

――そのほかにデザイン上の特徴は?

久田氏
 側面のボタンですが、こちらは塗装していません。カラーに対しても馴染みやすくなるよう、色として全体のバランスを統一されるように考えました。塗装しないことできっちりした硬さやスクウェア感を出しています。

買い替えサイクルの長期化を意識

――Android Oneというと、2年間のセキュリティアップデート保証期間があったりしますが、長期利用を想定したデザインになっていたりするのでしょうか。

横田氏
 耐衝撃もそうですが、塗装もできるだけ剥がれにくいものを採用しています。先ほどもあげましたが、ディスプレイ側の縁を出っ張らせて割れにくくしたり、裏の素材も強度を増したりと、長く使ってもらえるような配慮をしています。

石川肇氏

石川氏
 あとはバッテリーも長持ちするよう、優しく充電するようにしています。

――そこは給電をコントロールしていると?

石川氏
 充電が急速になりすぎないように、ちょっと優しくゆっくり充電するようにしています。買い換えサイクルが長くなると思っているので、そこはほかのモデルも同様に気を遣っています。

――従来は2年くらいで買い換えるサイクルでしたが、今は3年くらいでの買い替えを想定しているのでしょうか。

横田氏
 そのくらいを想定しています。このモデルは2年間はセキュリティアップデートがあるので、そこから半年か1年となると、2年半~3年は使われる可能性があると考えています。

――今回はワイモバイル向けですが、オープンマーケット(SIMフリー)やMVNOへの展開は?

横田氏
 今回のモデルはワイモバイルさん向けです。ここはこれからお話をしながら決めていく、という段階です。ワイモバイルさんとGoogleさんとの調整もありますし、なかなか早急には決められません。

――デュアルSIM/デュアルスタンバイ(DSDS)といったところも盛り上がっていますが、そこはメーカーとしてどうお考えでしょうか。

横田氏
 将来的に可能性があると思っています。私自身も個人的に欲しいところです。しかし、コストやユーザーのリテラシーなどの問題があります。例えばDSDSとなると、リテラシーが低い人にとっては過剰品質になり、使わないのにコストが上がるということになってしまいます。しかし、デュアルSIMの世界は来ると思っています。

――最新OSが使えるというのはリテラシーが高い人にとっても魅力的だと思うのですが、もう少し高リテラシーを狙ったAndroid Oneというのは?

横田氏
 507SHはミドルレンジに近いので、そこのあたりを検討するかも知れません。

 もともとグローバルでは、Android Oneは安い端末向けという話でした。しかし日本ではミドルレンジ相当で、売れている状態です。そこを含めて、Googleさんと協議しながら考えないといけないと思います。

――京セラはアメリカ向けに安価なHydroシリーズなどを展開されていますが、そちらにAndroid Oneが向かう可能性は?

横田氏
 ユーザーレンジが違うと考えています。今回のAndroid One S2のスペックは、日本ではローエンドですが、アメリカではミッドローくらいの位置になってしまいます。こういった部分の戦略をどうするかは、Googleさんとも相談しないといけません。そもそもAndroid Oneはアメリカではほぼ展開していません。しかし、可能性がないとは言いません。チャンスがあればやりたいと考えています。

――本日はお忙しいところありがとうございました。

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