【Mobile World Congress 2012】
モルフォ、HDRと画像タグの2つの新技術を披露


 モルフォは、「Mobile World Congress 2012」に合わせる形で、画像に関連した2つの技術を発表している。ひとつは、画像のダイナミックレンジを従来より拡大させた「Morpho Full HDR」。もうひとつは、画像にタグを埋め込むアノテーション技術についてだ。

 

「Morpho Full HDR」

TIのブースで実施されているデモの様子

 「Morpho Full HDR」は、より人の視覚に近い画像を作成できる、ハイダイナミックレンジ(HDR)合成技術。ドルビーが保有する「JPEG-HDR」を基にした新技術を組み合わせて実現されている。両社では、2012年中の実用化を目指している。

 「Mobile World Congress 2012」においては、ドルビーのブースで「JPEG-HDR」の画像を表示するデモが実施された。また、「Morpho Full HDR」でOMAPがまずはサポートされていることから、TIのブースでもデモ展示が行われた。


ドルビーのブースで実施されているデモ。右半分が「JPEG-HDR」の画像で、タッチした場所に最適な露出を合わせられる。これにより、白飛びを元に戻すといった操作が可能。RAW画像のよう露出が可変の状態で、なおかつJPEG互換の画像となっている

 

 「Morpho Full HDR」の基本的な仕組みは、露出を変えた複数枚の写真を撮影し、合成する段階で位置合わせや被写体のブレなどを補正、「JPEG-HDR」としてエンコードすることで、16bit以上(32bitまでサポート)という非常に広いダイナミックレンジを持つ画像を合成できるというもの。一般的に、パソコンやスマートフォンなどで扱うJPEGなどの画像は8bitが基本となっており、「JPEG-HDR」は既存の画像にはないダイナミックレンジを備えていることになる。一般的な8bitの画像を約1600万色とすると、「Morpho Full HDR」では、技術的には約1000億色、理論値では数十兆色の表示がサポートされる。モルフォは、画像の撮影や合成の段階を担当し、ドルビーは「JPEG-HDR」フォーマットやエンコード、デコード部分の仕様策定を担当している。

 「JPEG-HDR」フォーマットは、ドルビーが2007年に買収した企業の技術を発展させたもので、現存のJPEGと完全な互換性を保っているのが大きな特徴。また、既存のJPEGに対し、データの増加量は30%程度に留まるのも特徴のひとつになっている。

 「JPEG-HDR」として保存された画像は、専用のビューワーのほか、前述のように互換性を持つことから、JPEGの表示に対応したビューワーでも閲覧が可能。ただし、JPEG互換の表示は、JPEGで保存した時と同等の内容になるため、「JPEG-HDR」の特徴は、あくまでも同フォーマットに対応したビューワーで閲覧した場合に得られる、ということになる。

 「JPEG-HDR」に対応したビューワーで閲覧すると、露出を任意に変更できるのが、閲覧時の最大の特徴。影になった暗い部分が“黒つぶれ”していたり、明るい部分が“白飛び”していたりといったように、既存の8bit表示では、一度に表示できる輝度の範囲(ダイナミックレンジ)は、人間の視覚と比較しても、大幅に限られている。これは、画像フォーマット、表示ディスプレイがいずれも8bitでの利用を前提に設計されているため。一方、「JPEG-HDR」では16bit超のデータが保存できるため、幅広いダイナミックレンジの情報を収めており、8bitの範囲でしか表示できないディスプレイであっても、黒つぶれを無くして見やすくしたり、白飛びを抑えてディテールを露わにしたりといった、表示させる露出範囲の操作を、完成した画像に対して行える。

 もっとも、こうした「露出の操作」は、表示ディスプレイが8bitであることが前提で、現在は8bit表示のディスプレイが標準だ。16bitの表示に対応したディスプレイが登場してくれば、こうした操作は必要なく、16bitの階調をフルに活かした表示が行えることになる。

 「JPEG-HDR」では、具体的には、撮影・合成後に、JPEG互換のベース画像を生成した上で、輝度比率や色差を残差画像として記録する。残差画像はモノクロの扱いで、ベースとなるJPEG画像の30%程度の容量に収まるという。ドルビーは、新しい技術を用いて、これらの画像のエンコード、デコード技術を開発した。

 当初はスマートフォンへの搭載を見込んでおり、まずTIのOMAPで動作がサポートされたのも、そうしたターゲット市場の表れとなっている。

 

画像に半自動でタグを付けるアノテーション技術

半自動の画像アノテーション技術のデモ

 モルフォからは、MWC期間中に、画像にメタデータを半自動で付加する、画像アノテーション技術についても発表された。製品化前の段階で、フィードバックを得ながら今後も開発が継続される。同社では、2012年中の商用化を目指している。

 公開されたデモでは、スマートフォンで写真を撮影後、すぐにタグの候補が表示されるようになっていた。画像全体の特徴量を抽出するといった認識技術などで候補が表示される。また、ユーザーが新たにタグ作ることも可能。タグを付けられた写真は、ギャラリーなどでタグごとに分類して表示できるほか、そのほかの応用も検討されている。

 画像へのタグ付けは、文字入力の変換候補のように学習機能を備えており、類似の画像に同じタグを付けていると、ユーザーの嗜好に合わせたタグの候補が上位に表示されるようになる。さらに精度が高まると、撮影するだけでタグが選択された状態で表示されるようになる。

 こうした“辞書データ”に相当する学習済みのデータは、ユーザーが利用するほかの端末と同期させるといった応用が考えられるほか、広告を表示する際にも活用できるとしている。


写真を撮影。最適なタグは見つからなかった状態任意でタグを追加でき、チェックを入れて決定する
2回目の撮影。任意に追加したタグは下位に表示された3回目の撮影。角度は変わっているが、任意で追加したタグが学習効果で上位に表示された。この後チェックを入れ決定する
4回目の撮影。自動的にチェックまで入り、あとは決定ボタンを押すだけになった。タグは複数付けることも可能半自動でタグを付けられるようになれば、さまざまな分類も簡単にできる

 




(太田 亮三)

2012/3/2 04:36