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鳥取・皆生温泉の名旅館が「楽天モバイル×Buddycom」でどう進化したのか、“観光業のDX”現場レポート

 旅行需要が回復しており、訪日外国人観光客も増加していることから、日本の重要な産業として注目されている観光業。

 一方、旺盛な内需に反して顕在化しているのが、人手不足などの課題。働き手からみて魅力のある職場とするためには、観光業のDX化は欠かせないポイントだ。

米子皆生温泉の名旅館で

鳥取県・米子皆生温泉 皆生松月

 鳥取県・米子皆生温泉 皆生松月(かいけしょうげつ)と皆生游月(かいけゆうげつ)も、観光業のDX化に取り組んでいる宿泊施設のひとつ。

 皆生松月と皆生游月は、皆生温泉海遊ビーチに隣接する立地。皆生松月は昭和2年に創業し約100年の歴史を誇り、全19室からと、おもてなしのできる規模にこだわり続けている老舗だ。

 一方、皆生游月はその姉妹館として2019年にオープン。「ホテル」でもなく「旅館」でもない「RYOKAN」として、新たなリゾートスタイルを提供する宿泊施設となっている。

鳥取県・米子皆生温泉 皆生游月

 この皆生松月と皆生游月で、 現場のDXのソリューションとして導入したのが、IP無線サービスの「Buddycom」で、楽天モバイルの法人向けモバイル回線とあわせて 活用導入している。

旅館への「Buddycom」の導入で進むDX

 Buddycomは、いわゆる「インカム」と同じように、 リアルタイムでのグループ内コミュニケーション を可能とするサービス。

 スマートフォンとBluetoothのマイク付きイヤホンを使用し、安定した通話やチャット機能が利用できる。

スマートフォンを使ったIP無線サービスの「Buddycom」

外でも使える

 以前より、皆生松月と皆生游月では、Wi-Fi接続によるインカムを導入しており、従業員同士の音声によるリアルタイムコミュニケーションは行っていた。

 ただし、このインカムシステムにはいくつか欠点があり、もっとも大きいのが接続の安定性だ。Wi-Fiでの運用となるため、基本的には館内での使用となり、屋外で使うと電波が途切れてしまう。

 また、皆生松月と皆生游月は隣接しており、その距離は100mも離れてはいないが、お互いを行き来したときには電波が途切れて接続できなくなってしまった。

 その点、「Buddycom」の通信は、楽天モバイルの回線を使ったスマートフォンが担うので 館内外でも安定 して利用可能。両宿泊施設から離れた場所での遠隔利用もできる。

楽天モバイルの回線を使っており、どこでも利用できるのがポイント

 たとえば両施設では、皆生温泉観光センターへの送迎を行っており、そこで 送迎担当者が、迎えに行った先で利用客の要望を受けて、その場で館内のスタッフにその情報を伝える といった使い方もできるわけだ。

アナログ無線機はもうすぐ利用不可に

 ちなみにインカムシステムでは アナログ無線機を使ったものもあるが、2024年12月から使用されていた周波数が法改正により使えなくなる デバイスも多い。アナログ無線機のインカムを使っている宿泊施設もいまだ多く、移行先としてBuddycomは注目されている。

Buddycomを装着した状態
通話ボタンはクリップ式で装着

DXがもたらす「サービス力向上」

 両施設では、出勤スタッフのほぼ全員が装着できる数のBuddycomを用意している。松月旅館の代表取締役 福元隆司氏は「サービス力の向上、顧客満足度の向上というのは避けては通れない。そこを突き詰めていかないと、いつまでたってもぼんやりとしたサービスしかできない。そこに しっかりとした通信手段を整えれば、どんな旅館、ホテルでもワンランク、ツーランク上のサービスが提供 できる」と、楽天モバイルとBuddycomを導入した経緯について話す。

松月旅館 代表取締役 福元隆司氏

 さらに、リアルタイムでのやりとりができることに関して、福元氏は「音声は瞬時に伝わって理解できる。フロントで夕食の時間や人数をお客さまとやりとりするときに、厨房側にもリアルタイムで伝わり、それを聞いた瞬間に指示が出せる。 同じ情報が一緒に伝わるので、皆でその瞬間に向かってそれぞれやるべきことに取りかかれる 。情報伝達をする上で大切なことで、誰か一人が知っていていればいいというものではなく、全員が知っていた方が早くスムーズに次の対処ができる」と、その重要性をポイントとして挙げていた。

 さらにBuddycomがこれまでのインカムシステムと違うポイントとして、 会話をテキスト化 できることがあげられる(※Enterpriseプランのみの機能)。通話内容が自動でテキスト化されるので、リアルタイムで聞き逃したり、あとから確認する際に音声を再生したりする必要がない。

 もしなにかトラブルが起きた場合でも、そのやりとりを「見える化」できるわけだ。

Buddycomでは、会話をテキスト化できる

 福元氏は「テキストで確認できるので、(現場の様子が)ずいぶんわかります。接客が上手な人がどういうふうにやっているのか、全部テキスト化できるので、それを研修に使うなど、いろいろなやり方ができる」と、テキスト化でマニュアル作成が容易になることに期待していた。

翻訳機能も

 また、Buddycomには翻訳機能も搭載されており、リアルタイムで複数言語へ翻訳可能。

 皆生松月と皆生游月には外国出身のスタッフも在籍しており、そのひとりのアンズンさんは「聞き取れなかったりしても、なかなか相談しづらかったが、翻訳で聴けるのと、あとからテキストで確認できるので、ミスが防げる」と話している。

 ちなみに、Buddycomの翻訳機能は、Buddycom同士での音声コミュニケーションが対象となっている。そのため、皆生松月と皆生游月では外国人の宿泊客とのコミュニケーションには、楽天モバイルの回線を使ったAI通訳機「ポケトーク」を導入している。ポケトークでは、世界85言語の音声、またはテキストを翻訳できる(74言語は音声・テキストに対応、11言語はテキストのみ対応)。

外国人の宿泊客とのコミュニケーションには「ポケトーク」を使用
「ポケトーク」の回線も楽天モバイルが使われている

現場に聞く「楽天モバイル×Buddycom」

 取材した時点では、Buddycom導入後、まだ数週間ではあるが、すでに現場ではかなり使いこなしている様子がうかがえた。

ワインの在庫をチェックして、オーダー可能かどうかの情報を瞬時にフロアと共有できる

 レストランのホールマネージャーで、ソムリエでもある大江さんは「例えばワインのオーダーの場合、欠品があったときに、このボトルは最後の1本だといった、情報を全体に連絡でき、全員が一斉に注文を受けないように切り替えられる」と語る。

フロントで受けた宿泊客の要望を、全スタッフへ一気に共有できる

 またフロントスタッフの前谷さんは「送迎時に今から出発しますと話せば、玄関で待機しているスタッフがあと何分後に到着するか、おおよそ伝わるだけでなく、お客さまのお名前を聞いておけば、玄関やカウンターでチェックインをする係に事前連携ができます」と、先回りしてサービスを提供できることをBuddycomの便利な点として挙げた。

シェフの望月さんによれば、レストランフロアの様子を調理場から確認でき、その情報を元に調理する順番やスピードを調整できるとのこと

 福元氏は、楽天モバイルとBuddycomの組み合わせをかなり高く評価している。その理由として「デジタルとアナログのさじ加減」と指摘している。

福元氏
「今の定番では、レストランでのオーダーでQRコードを読み込んでいただく、あるいはフロア内を配膳ロボットが歩いているところもあります。どの手段を用いるかは、その企業次第の考え方でしょう。ただ、皆生松月と皆生游月のレストランでは、ちょっと雰囲気と合わない。たとえば、呼び鈴とBuddycomを連携させるなど、オペレーションやブランディングに合った方法を取り入れたいと思っている」

 福元氏の指摘は、スタッフ同士、顧客とのコミュニケーションとして、 人と人のアナログな部分を残しつつ、いかにDXを進めるかが重要 というわけだ。こういった声に対しても、楽天モバイルでは積極的に対応方法を検討しているという。ただサービスを導入するだけではなく、導入先に合った使い方を相談できるのも、楽天モバイルの強みだ。

楽天モバイルは「お客さまに寄り添って一緒に走る」

 楽天モバイルの法人向け事業としての、ソリューションサービスはまさに業種や業態、事業規模に合わせたソリューションを提供できるのが強みだ。

 楽天モバイルのエンタープライズソリューションビジネス本部 DX推進課の増田太陽氏は、強みの元となっているのは「楽天グループとして、多くのサービスや多くの事業を抱えており、それぞれの事業が連携して動けること」と語る。

 たとえば今回の皆生松月と皆生游月について、増田氏は「もともと楽天トラベルの登録施設という入口があり、楽天トラベルとして業績を伸ばすための相談などを密に行っていた」と話している。常日頃から連携して、一緒に寄り添っている楽天トラベルの担当者も含め、導入のレクチャー~アフターサポートまで対応している。

 ソリューション部門だけでは、実際の現場での問題点がすぐに見えないこともあるが、現場が分かっている担当者がいることで、より適切なソリューションを迅速に提供できるというわけだ。もちろん、モバイルを入り口として、エコシステムを活用したDXを進めていくことも可能だ。

 スマートフォンをいざ導入しても電話かけられるだけ、メールができるだけではフィーチャーフォンと変わらない。スマートフォンならではでのソリューションを提供するのが、楽天モバイルの狙い。さらに増田氏は「業界特化のサービスや、より楽天エコシステムを活用したサービスも、少しずつラインナップを増やしているところ」と話しており、観光業だけでなくあらゆる産業や業界のDXが楽天モバイルによって進みそうだ。