特集:ケータイ Watch20周年

石川温が見た「ケータイ業界」約20年の面白さ

 ケータイWatch「20周年」、おめでとうございます。

 自分が出版社を辞め、ケータイジャーナリストとして活動し始めてから憧れの媒体であり、そこで書かせてもらえるようになり本当に光栄です。引き続き、よろしくお願いいたします。

 さて、私がケータイ業界に首を突っ込みはじめたのも20年ぐらい前のことになります。当時、トレンド情報誌の編集記者をしていたのですが、ある日、「広末涼子が登壇する記者会見がある」という情報をキャッチ。アイドルとして絶頂期だった広末涼子を観るためだけに「NTTドコモ iモード記者会見」に行ったのでした。

 確かに広末涼子は初々しくてとても可愛かった。しかし、会場では広末涼子よりもiモードの可能性に衝撃を受けたのを覚えています。ケータイが話す道具から使う道具になっていく。しかも、NTTドコモだけでサービスを提供するわけではなく、名だたる銀行や新聞社などが参加することに驚きを隠せませんでした。

iモード記者会見での広末涼子(1999年1月25日撮影)
最初のiモードケータイのひとつ「N501i」

 早速、iモードの正体を知りたくて当時、iモードの開発担当であった夏野剛さんにインタビュー取材に行きました。さらに夏野さんからは、iモードによって世界が変わるという話を聞かされ、さらに「ケータイの未来ってすごいことになるかも」と感心したのでした。

 一方、DDI(今のKDDI)も、ケータイ向けのインターネットサービスをたちあげており、取材しようと、開発担当だった高橋誠さん(今のKDDI社長)にも何度もインタビューしたのでした。

 この時からケータイ業界を取材するのが楽しかったのですが、トレンド情報誌の編集記者であったため、毎月、取材対象が変わります。クルマを取材したりビジネスホテルの覆面調査をしたり、ヒット商品を探し出したりと、なかなかガッツリとケータイ業界を取材することができませんでした。一方で、ケータイ業界からはどんどん新しいニュースが飛び出してきます。あまりにケータイ業界が気になり出したので出版社を辞め、ケータイジャーナリストとして独立したのでした。

 では、なぜ、会社員を辞めてまでもケータイ業界を追うようになったのか。

 ケータイ業界は、単にキャリアとメーカーだけではなく、さまざまな業界、企業が参入してくるのが魅力なのです。ワンセグが搭載されればテレビ業界、デジタルラジオが始まればラジオ業界、着うたなど音楽業界が参入してきたかと思えば、電子書籍で出版業界もケータイに本気になってきます。

 iモードやEZweb、EZアクセス、J-スカイがスタートした当初は2G(PDC)で、単にキャリアを中心に取材しているつもりでも、幅広い業界がケータイに参入し、取材対象が勝手に広がっていくのが楽しく、飽きないのです。

 2007年6月、アメリカだけでアップルがiPhoneを発売するということで、発売日当日、飛行機に乗って、ハワイのアラモアナショッピングセンターにあるアップルストアに直行。「スティーブ・ジョブズは携帯電話をどう再定義するのか」を自分の目で見たくて、朝から並んで購入しました。

 iPhoneが登場して以降、デバイスはケータイからスマホへとシフトしていきました。

 iPhoneやAndroidのアプリストアにより、これまたさまざまな業界が参入し、我々の生活は一変しました。ケータイもスマホもプラットフォームとして、コンテンツやアプリが集まってくるという点においては違いはありません。ケータイはガラケーと揶揄されるように日本が中心でしたが、スマホになって、その経済圏が世界規模になったと言えるでしょう。

 もう一つ、私がケータイやスマホに魅力を感じているのが、どんなに高性能となり、カメラが大量に搭載されたとしても、結局は「人を繋ぐ道具」に過ぎないという点です。誰しも「人とつながっていたい」と思い、ケータイやスマホを手にしています。

 iモードがヒットしたのも、みんな「NTTドコモの絵文字で会話したい。仲間外れになりたくない」という気持ちが強かったのではないでしょうか。当時、他社のケータイともメールのやりとりはできましたが、絵文字が「〓」に変換されてしまうため、意味が通じなかったことがありました。ちゃんと絵文字でコミュニケーションしたいと、こぞってiモードケータイにした人が多かったように思います。

 スマホになって、LINEが一気に普及したのも「LINEで友達とスタンプのやりとりしたい。仲間外れになりたくない」という人が増えたからだと思います。

 ケータイがスマホになり、2Gが3G、さらに4G、5Gと高速大容量となっても、結局、人々が会話する数十文字のテキストのやりとりで満足していたりします。ネットワークがどんなに高速化しようと、人々が言いたいことを言い、他人のコメントを読むとなると、Twitterの140文字ぐらいがちょうどいいのかも知れません。

 2020年、世界がコロナに悩まされるとは誰が想像したでしょうか。しかし、我々にはスマホがあって本当に良かった。スマホにカメラがあり、アプリがあったからこそ、誰もがZoomなどで繋がることができ、外出自粛時間も仕事をこなすことができ、人々とオンラインで出会うことで寂しさを紛らわすことができました。

 確かにパソコンがあればいいのですが、世間的に「一人一台」普及しているとは思えません。スマホであれば、一人一台になりつつあるだけに、Zoomといったサービスが一気に広がり、仕事に飲み会に大活躍したといえます。

 コロナによってリモート社会が当たり前になりつつあります。しかし、そのリモート社会を支えるのはスマホという存在があるからこそです。

 これから5Gのエリアが広がり、5Gスマホも普及することで、Zoomなどのビデオ会議アプリは、もっと高精細、もっと高音質で、人々と繋がることができるのではないでしょうか。

 また、5Gがプラットフォームになることで、さらにさまざまな企業が参入してくるはずです。

 結局、2G、3G、4G、5Gと世代は進化しても「人と繋がる道具」「さまざまな企業が参入するプラットフォーム」という点において、ケータイ・スマホ業界は何一つ変わっていないのです。

 これまでの20年間、ケータイ・スマホ業界は本当に楽しく飽きずに取材ができました。これからの20年間も、きっと楽しくワクワクするデバイスやサービスが登場し、我々を飽きさせないケータイWatchの記事が出続けることを期待しています。