レビュー
格安スマホの選び方
格安スマホの選び方
これからはネットワーク品質がカギに
(2014/12/10 07:00)
MVNO(仮想移動体通信事業者)と呼ばれる事業者による“格安スマホ”の台頭が著しい。安価で高性能なSIMロックフリー端末も続々と登場しており、ユーザーの選択肢は大きく広がっている。
大手キャリアがデータ通信容量に段階的な上限を設けたのを潮目に注目を浴び始めた、MVNOによる大胆な料金施策の格安スマホ。現在は音声通話が可能なプランを取り扱うMVNOも増え、数百円で利用できるデータ通信専用のSIMサービスから、音声通話・SMS付きのSIMサービスまで、バリエーションも豊富になってきた。ユーザーとしては、今後どんなところに注目して選ぶべきだろうか。
料金だけで決めるのは間違い!?
近頃は、低速ながらも通信し放題だったり、最大通信速度は低いもののネットワーク側の工夫で体感速度を上げていたり、他キャリアからの乗り換えも可能なMNPに対応していたりと、特徴的なサービスで各社が魅力を打ち出している。しかし、どのサービスにおいてもそこに通底しているのは、やはり大手キャリアの標準的なプランに比べ「安価である」ということ。MVNOやサービスの種類が増えるに従い、MVNO同士においても価格競争が激化してきているのが実情だ。
他方、最近ではカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)や楽天モバイルのように、端末とSIMカードをセットにして販売する例も目立ってきた。日本郵便が格安スマホを販売するという報道も一部で流れ、“格安スマホ”は業界の枠を越えた流れにもなりつつある。
しかし、ここまで多彩なSIMサービスが増えてくると、ユーザー側もどれを選べばいいのか迷ってしまう。そのなかでもわかりやすい基準として、価格面に注目してしまうのは仕方のないところだろう。普段の用途、過去の使用状況などを考慮し、自分の使い方に合った機能と通信容量のSIMサービスを探すのは当然として、結局のところその範囲で一番安価なサービスを選んでいるのではないだろうか。
ところが、最近になってこの“安さ”にも大きな落とし穴が潜んでいることが明らかになってきた。たとえば、「LTE通信対応」といううたい文句で下り最大数十~150Mbpsの速度が出るとして提供されているにもかかわらず、実際にはそれよりかなり低速な速度でしか通信できないサービスも見受けられるのだ。
そもそもLTE通信の最大速度は理論値であり、その速度が100%出ることはなく、電波状況や地形、周囲のユーザー数などによって速度は大きく左右される。とはいえ、1Mbpsにも満たない速度になってしまうのは、そうした状況的な理由だけでは片付けられない問題だ。なぜこんなことが起こっているのだろうか。
格安SIMで速度が出ない理由とは?
それを知るためには、少し回り道をしてしまうが、MVNOを取り巻く事情を簡単にでも知っておく必要がある。
MVNOは、大手キャリアであるNTTドコモやKDDIなどのMNO(移動体通信事業者)から、全国に張り巡らされた膨大なネットワークを間借りすることでSIMサービスを提供している。また、多くの場合、MVNE(仮想移動体サービス提供者)と呼ばれる事業者がMVNOとMNOの間に入り、MNOとの交渉、MNOのネットワークへの接続や通信制御、課金システムの提供(ユーザーからの料金徴収の手段提供)などのサービスをMVNOに対して行っている。MVNO、MVNE、MNOの三者が一体となってサービスを展開しているのだ。
ユーザー側からしてみれば、実際にSIMカードを販売しているMVNOしか表面上は目立たないものの、実際にはそこに大手キャリアが関わっており、さらにMVNEも大きな役割を担っている。こういった仕組みにより、MVNOはネットワーク設備にかける費用負担が最小化でき、複雑で大規模なネットワークに接続し、制御するための技術と、料金徴収のためのシステム構築などに多大なコストをかけずに済む。結果的にユーザーに対してリーズナブルな料金でサービスを提供できるわけだ。
しかしながら、MVNOとしてはMNOのネットワークを借りるための費用がいずれにしても必要となる。単純に大手キャリアで実現しているものと同等の速度、キャパシティを得ようとすると、莫大な金額になってしまうことは想像に難くないだろう。そうなれば、大手キャリアで提供している通信プランと差を付けることは結局できなくなり、MVNEがMVNOの事業を支援している以上、それより高額になってしまうことも十分に想定される。
そこで、MVNOは帯域を絞る形にしてMNOからネットワークを借り受けることにし、コストを抑えている。仮に150Mbps分の帯域を確保している場合、同時接続が1ユーザーであれば150MbpsのLTE通信1本をフルで実現できる。しかし、同時に接続するユーザーが10人、100人と増えていけば、必然的に150Mbpsを人数で割った速度しか出ない。さらに1000人が同時に接続したら、0.15Mbps、つまり150kbpsでしか通信できないことになるのだ。
料金が安価ということは、それだけ借り受ける帯域を絞ってコストを圧縮している場合がある、という意味にもなる。サービスによって速度が全く出ないのは、ユーザー数とネットワーク帯域という需給のバランスがうまく取れていないのが大きな理由と言えるだろう。格安スマホに注目が集まり、ユーザーが急拡大し始めている弊害が、速度にそのまま表れてきているわけだ。
したがって、格安スマホを選ぶ上では、料金だけに目を向けるのではなく、帯域をはじめとするネットワークの品質・信頼性と、それらを管理・担保するMVNEがどこであるか、といった点にも注意を払いたいところ。ただ残念ながら、どのMVNOがどれくらいの帯域を借りているのか、どのMVNEを利用しているのか、といった情報はまだほとんど公開されていない。同じMVNOの中でも、提供しているプランによってMVNEが異なる場合もあるようだ。
続々登場する格安スマホも使いやすさ、ネットワーク品質に注目
では、MNO(MVNE)とMVNOについて現状どのような選択肢があり、それぞれにどういったメリット・デメリットがあるのか、簡単におさらいしておこう。
今のところMVNOのほとんどがドコモのネットワークを採用しており、ネットワークの知識がある人なら、実際に契約してネットワークの経路を調べることでMVNEがどこであるかも見当が付けられる。これらMVNOのSIMサービスでは、多くのドコモの端末をそのまま(SIMロック解除せずに)使用できることから、ドコモユーザーにとっては導入しやすいというメリットがある。ネットワーク自体もドコモということで信頼性は高いだろう。
ただ、現在の一番の問題は、ごく一部のMVNOを除き、MNPで乗り換える場合に数日の空白期間が生じてしまうことだ。新規に契約するのであれば問題ないが、高額な料金を抑えるべくMVNOへの乗り換えを検討している人にとって、MNP時にメインの電話回線が数日使えなくなるのは痛手。MVNOのサービスがより使いやすいものになるには、この部分の改善が課題の1つとなりそうだ。
一方、唯一KDDIのネットワークを使用しているMVNOが、「mineo」を展開するケイ・オプティコムだ。mineoでは、KDDIが提供するau 4G LTEの通信を利用でき、ドコモと大差のないネットワーク品質を実現していると考えられるが、mineoではさらにMNPを行う際の切り替え処理をユーザー自身が実施できるという利点がある。
2014年8月には、KDDIがKDDIバリューイネイブラー(KVE)という子会社を設立し、KDDIのネットワークを使ったMVNOとしてサービス提供していくという発表があった。いわばキャリア直轄のMVNE+MVNOのような位置付けになるわけだが、それだけでなく、KVEが支援する形でKDDIのネットワークを採用したMVNOが今後続々と参入することにも期待できる。また、仕組み上はおそらくmineoと同じように、MNPをユーザー自身で行えるようになると見られる。
このように、MVNO自体の数がこれからもますます増え続け、さまざまなサービスが入り乱れることにより、ユーザーは一層選択が難しくなっていく。だからこそ、これからは料金のみで判断するのではなく、乗り換えのしやすさやネットワークの品質・信頼性にも気を配り、常に快適に通信できるMVNOを選びたいもの。表面的なお得感に惑わされず、本質を見抜くための“目”も、ユーザーに求められる時代になってきている。