レビュー

Firefox OSスマホ「Flame」をセットアップする

Firefox OSスマホ「Flame」をセットアップする

開発者以外でも使える? 初期段階の環境構築編

 Firefox OSを搭載し、開発者向けの端末として「Flame」が日本で発売された。日本国内ではまだ珍しいFirefox OSを搭載している点や、開発者向けの機能が注目を集めているが、SIMロックフリーであることや、税込・送料無料で2万円を切る価格など、一般ユーザーでも気になる点は多い。

 留意していただきたいのは、開発者向け端末は、“開発者にとって便利なように設計されている”という点。そのため、一般ユーザーには不便・不親切と感じる部分もある。一方で、キャリアが販売する端末にはない、極めて高い自由度があるのもまた確かだ。

 コンピュータ全般にいえることだが、ユーザーが知識や経験を得れば、そのほとんどが成果として返ってくる。Flameの自由度の高さや楽しさを知るうちに、アプリ開発に興味を持ち、開発者コミュニティに参加していくことになるならば、Flameが一般ユーザーでも入手できることに意味があるといえる。

Firefox OS搭載の「Flame」

環境構築とMDNの情報

 最初に断っておくと、Flameを含めたFirefox OSのセットアップや更新については、Mozillaの開発者向けWebサイト「Mozilla Developer Network」(以下MDN)で詳細が公開、解説されている。ここで公開されている情報を活用すれば、FlameのUIだけを最新のものに差し替えたり、Firefox OS自体を最新版に載せ替えたりすることも可能だ。

 FlameはSIMロックフリー端末ということもあり、さまざまなSIMカード(標準サイズ)を装着できるが、現在出荷されているFlameのOS(のビルド)では、ドコモ網を使うMVNOのSIMカードの多くは、接続に必要なAPN設定を端末上に保存できない問題があるようだ(NTTドコモから提供されているSIMカードは問題なく利用できるケースが多いようだ)。また、端末にプリインストールされているFMラジオアプリは周波数を調整できる範囲が海外向けで、これも設定変更で改善できる。

 現在、Flameの初期段階のセットアップでは、これら2つのポイントを改善するというのが基本になっており、MDNにあるFlameの日本語ページでも解説されている。

 そこで本稿では、MDNで解説されているうちから、Flameの初期段階のセットアップ手順や、さらにその前段階に必要なWindowsでの環境について、簡単な解説を試みたい。

Mozilla Developer Network(MDN)

必要な環境

 Flameを快適に使うにあたっては、パソコンと連携させて、パソコン経由でデータを書き込んだり、設定を変更することなどが必要になる。開発者ではない一般ユーザーにとって、最低限必要な環境はどのようなものだろうか。

  • adbコマンドの実行に必要なadb.exe(Android SDKに含まれている)
  • adb.exeに「Path」を通す
  • コマンドプロンプトの基本的な使い方
  • FlameのWindowsドライバ

adb.exeの入手

 FlameをWindowsパソコンとUSBケーブルで接続し、各種の操作を行う際には、主に「adbコマンド」を使う方法が比較的簡単だと思われる。実態としては「adb.exe」という実行ファイルが必要で、これにはGUI(グラフィカルユーザーインターフェイス)が搭載されていないため、Windowsに搭載されている「コマンドプロンプト」(cmd.exe)上で操作することになる。

 上記でいう「adb」は「Android Debug Bridge」のことで、adb.exeは、無料でダウンロードできるAndroidの開発者向けツールに含まれている。Androidの開発者向けツールにはいくつかの種類があるが、「Android SDK Manager」で選択してダウンロードできるうち、「Android SDK Platform-tools」にadb.exeが含まれている。インストールすると、インストールディレクトリにある「platform-tools」フォルダにadb.exeが置かれる。

 インストールディレクトリは「Android SDK Manager」上で確認でき、Windows 8.1の筆者の環境で「platform-tools」フォルダの位置は、「C:\Users\ユーザー名\AppData\Local\Android\android-sdk\platform-tools」となっている。

Android SDK Manager

 なお、前述のFlameのAPN設定およびFMラジオアプリに関する修正パッチでは、スクリプトファイルなど一式をダウンロードした中に、adb.exeが含まれている。この2つを利用するだけなら、adb.exeを別途導入する必要はない。

adbコマンドを快適に使うための準備

 コマンドプロンプト上でadbコマンドを快適に使うには、「Path」を通すという設定も必須になるだろう。CUI(テキストコマンドだけで操作するユーザーインターフェイス)であるコマンドプロンプト上では通常、ユーザーが操作の対象とするディレクトリ(フォルダ≒現在位置)を明確に指示する必要があり、cd(カレントディレクトリ)コマンドで操作したい場所に“移動”するか、対象のファイルをCドライブ(C:)から始まる絶対パスで指定するなどする。しかし、「Path」を通す設定をしておけば、コマンドプロンプト上でいつもでadbコマンドを使えるようになる。

 ここで指定する「Path」とは環境パスなどと呼ばれ、Windows 8.1であれば「システムのプロパティ」→「詳細設定」タブ→「環境変数」→「システム環境変数」にある「Path」の項目のことだ。ここに「編集」で、前述のAndroid SDKのインストールディレクトリのうち、adb.exeが置かれているディレクトリを絶対パスで記述すればよい。すでにいくつかのディレクトリが指定されていると思われるので、これらは変えないように注意し、記述の最後にセミコロン(;)を加えて区切り、上記のadb.exeが置かれたディレクトリを追加する。「Path」の設定変更後は、パソコンを再起動するのが無難と思われる。

「Path」の設定

 Pathが正しく設定されているかは、コマンドプロンプトを起動して「adb」と入力してみればよい。エンターキーを押して、adbコマンドのバージョン情報やオプションがズラーっと一覧表示されればPathの設定は成功だ。エラーが表示されればPathの設定は失敗している。

 コマンドプロンプトは、Windowsのスタートメニューの検索(Windows 8ならWindowsキー+Q)で「CMD」あるいは「コマンドプロンプト」などと入力すると現れるcmd.exeで起動できる。

 なお、コマンドプロンプト上でディレクトリの文字列を入力するのが面倒な場合は、マウス操作のペーストで貼り付けることができるほか、目的のフォルダをドラッグ・アンド・ドロップすることでもディレクトリのパスを入力できる。また、一度入力しエンターで実行したコマンドは、カーソルの↑キーで履歴として呼び出せる。

 FlameのWindows用ドライバは、MDNのFlameのページでも紹介されているので、これをパソコンに予めインストールしておく。

コマンドプロンプト

Flame側の設定変更

 Flame側でadbなどの開発者向けのコマンドを受け入れるには、Flameにある「Remote Debugging」という項目をオンにしておく必要がある(初期設定ではオフ)。場所は、Setting→Device information→More information→Developer settingsのDeveloperを選んだ後の画面の中だ。

コマンドプロンプトでadbコマンドを使う

 「Remote Debugging」をオンにしたFlameをWindowsパソコンに接続し、ドライバのインストールが完了した後は、adbコマンドでFlameを認識できるか試す。

 コマンドプロンプトを起動し、以下のコマンドを入力する。

adb devices

 エンターを押し、以下のようにデバイスIDが表示されれば成功だ(表示されるIDは端末によって異なる)。

デバイスIDが表示されればadbコマンドが通っている

 なお、Flameの画面がスリープしている状態や、ロック解除画面では、端末はadbコマンドで認識されず、adbコマンドは通らない。作業中は、画面スリープをオフにするとよいだろう。また、何かの拍子に認識できなくなってしまう場合もあるので、adbコマンドを実行する際は、その都度このコマンドで接続を確認するぐらいがよい。

SIMカード、FMラジオの設定を日本向けに修正する

 ここからの内容は、基本的にMDNのFirefox OSゾーンにある「開発端末ガイド」のFlameの項目で解説されている。

 本稿の執筆にあたっては、MDNでも精力的に活動しているMozilla Japan モバイル&エコシステム マネージャ テクニカルマーケティングの浅井智也氏にも協力を仰いでいる。

 浅井氏によれば、Flameの初期出荷のモデルは、基本的に海外向けのソフトウェアになっているため、一部のSIMカード(MVNO系のSIMカードの多く)のAPN設定を保存できないケースに対応するスクリプトや、FMラジオの周波数の調整範囲を日本向けに変更するスクリプトが、定番的な対応として公開されている。また、MDNや関連したコミュニティでも有志により同様の改善方法が解説されている。

 MDNの開発端末ガイドの「Flame」の項目では、「データ通信をするには」「FMラジオを聴くには」という2つの項目で、スクリプトが公開されており、必要なファイルをすべて同梱し、この2つの問題に対応する1つのZIPファイルが提供されている。

 詳細はスクリプトの導入方法を解説したページを確認していただきたいが、ユーザーはここでコマンドプロンプトとadbコマンドを使って、Flameにファイルを送り込み、必要な設定を書き換えることになる。バッチ(.bat)ファイルが用意されているので、実行するファイル自体はSIMカード用、FMラジオ用の2つのみだ。

 コマンドプロンプトを起動したら、ダウンロードし解凍したフォルダまで「cd」コマンドで移動する。cdと入力し、半角スペースの後にフォルダの絶対パスを入力する。成功すると、カーソルの左側に、現在(移動後)のディレクトリが表示される。その後は、解説ページにもあるように、フォルダ内にある「patch-apn.bat」や「patch-fmradio.bat」のファイル名を打ち込んで実行すれば、スクリプトが適用される。

 「patch-apn.bat」の実行後は、端末のホームボタン長押しでタスクマネージャーを表示し、「Setting」を終了すれば、次に「Setting」起動する時には変更が反映されている。一方、「patch-fmradio.bat」では端末起動時に読み込む部分を変更するので、機能を有効にするには端末を再起動する必要がある。

 現在のFlameに搭載された「Firefox OS 1.3」の初期出荷のビルドでは、NTTドコモから提供されているSIMカードの場合、そのままでも通信が可能。しかし、ドコモ網を使うMVNOのSIMカードの多くは、そのままでは通信に必要なAPN設定を保存できないなど、上記のスクリプトが事実上必須になるようだ。

 上記のスクリプトを適用すると、APN設定の項目ではカスタム設定としてあらかじめ登録されたMVNOのブランドなどが表示されるので、設定は格段に簡単になる。設定終了後、ステータスアイコンの電波表示に「H」(Highspeed)のマークが出れば、設定変更は成功だ。現在開発されている、しばらく先のビルドまでは、このAPN設定の問題は継続する見通しとのことなので、パッチを利用する機会は今後もあると思われる。

MVNOのSIMを挿入すると、カスタム設定で代表的なブランドを選択できる。マニュアル設定も可能

 MDNのFlameの項目では、ファイルの書き換えなどに失敗し、端末が起動しなくなった場合の対処法も解説されているので、一読しておきたい。ここではリカバリーモードとfastbootモードがあるが、リカバリーモードは履歴やデータの消去といった側面が強く、データが壊れたOSを元に戻す場合はfastbootモードの利用が中心になるようだ。

日本語環境構築の解説ページとコミュニティ

 前述の浅井氏によれば、今後は、日本語環境の導入をまとめた項目を公開できるよう、準備しているとのこと。日本語入力のためのIMEについては、ユーザー自身が導入することは現在でも可能だが、今後公開されるビルドでは、商用化が予定されているIME「iWnn IME for Firefox OS」をビルドに含めていく計画もあるという。こうした日本語表示が可能なビルドは、ダウンロードする形で提供される。

Mozilla Japan モバイル&エコシステム マネージャ テクニカルマーケティングの浅井智也氏。手にしているFlameにはFirefox OS 2.0が搭載されている

 今回の記事ではOSの更新や日本語環境にまでたどり着けていないが、Firefox OSでは、OSそのものを書き換えなくても、ユーザーが直接触れるユーザーインターフェイス(UI)である「GAIA」と呼ばれる部分を書き換えれば、UIの変更や日本語化が可能になっている。

 Flameに搭載されたFirefox OSは「1.3」だが、8月11日現在、Flame向けの最新版として「1.4」「2.0」「2.1」がMDNで公開されている。実際にこれらを今すぐに導入することも可能だ。Nightly Buildと呼ばれる開発版であることには留意が必要だが、いずれのバージョンでも「Production builds」「Engineering builds」の2種類が用意されている。このうち、「Production builds」については多言語ビルドとなり、日本語UIも含まれている。

 このほか、開発版ビルドではなく安定版ビルドについては、おおむね3カ月ごとのスケジュールで、無線経由のソフトウェア更新にて提供される見込みにもなっている。

 Firefox OS関連は、「Firefox OS コミュニティ」が開設されており、開発者でなくても参加でき、情報交換やイベントの案内なども行われている。こうしたコミュニティに参加していくことで、より幅広い知識を得られるだろう。

太田 亮三