海外スマートフォン市場探訪
韓国で発売されたLGの「Optimus LTE」の魅力
LTE対応スマートフォン「Optimus LTE」 |
韓国では、LG Electronics製のLTE対応スマートフォン「Optimus LTE」が10月10日に発売された。この発売にあわせてLGは、日本のメディアを対象にプレスツアーを10月4日~6日にかけて開催し、LTEへの対応を含めた携帯電話事業の取り組みと、LTE対応新製品の詳細、生産体制の紹介などを行った。
■LGのLTEへの取り組みを紹介
LG Electronics本社 |
携帯電話事業を手がけるMC(Mobile Communication)事業本部が所在するソウル市内のオフィスビルで行われた合同レクチャーでは、LGのLTEへの取り組みを中心に携帯電話事業の戦略が紹介された。
1996年に世界初のCDMA方式の携帯電話を開発したLGは、現在では販売台数で世界3位の携帯電話メーカーに位置している。LTEへの取り組みは他社よりも早く、2008年に世界初となるLTE準拠の携帯電話向けモデムチップを独自開発し、2009年にLTEとCDMAで自動的な切り替えを行うハンドオーバー端末のデモに成功した。2010年には、世界初となるLTE対応のUSBタイプのデータ通信端末を米国と日本向けに提供している。
また、スマートフォンブランド「Optimus」を確立し、Android搭載スマートフォンとWindows Phone 7搭載スマートフォンを展開。2011年に世界初のデュアルコアスマートフォン「Optimus 2X」、世界初の3D液晶スマートフォン「Optimus 3D」を発表し、米Verizon Wireless向けとしてLTE対応スマートフォン「LG Revolution」を提供した。
LG Electronics Japan モバイルコミュニケーション プロダクトグループ課長のキム・ヒチョル氏は、米投資会社のジェフリーズ・アンド・カンパニーが発表したLTE関連特許の評価を紹介し、2011年時点でLGが業界首位となる23%のLTE関連特許を保有していると述べた。そのうえでキム・ヒチョル氏は、「LTEの経験とノウハウを持つLGが、LTE対応スマートフォンをいよいよ韓国で発売する」とした。
LGの携帯電話事業とLTEの沿革 | 世界初のデュアルコアスマートフォン「Optimus 2x」 |
世界初の3D液晶スマートフォン「Optimus 3D」のCM | LGは業界首位となる23%のLTE関連特許を保有している |
■LTE対応スマートフォン「Optimus LTE」の概要
韓国で発売されたLG製のスマートフォン「Optimus LTE」は、CPUに1.5GHzのデュアルコアプロセッサを搭載し、OSにはAndroid 2.3を採用。ディスプレイは、4.5インチ(1280×720ドット)の「IPS True HDディスプレイ」を搭載。「IPS True HDディスプレイ」は、LGのグループ会社、LG Displayが開発した最新の液晶パネルで高解像度、広視野角、高い色再現性が特長。
microUSBケーブルからHDMI変換ケーブルを通してHDMI出力が可能なほか、DLNAに加え、端末同士でWi-Fiを使ったデータ転送ができる「Wi-Fi Direct」をサポートし、対応機器とのコンテンツ共有が容易となっている。
メインカメラは約800万画素で、裏面照射型CMOSセンサー、LEDフラッシュを搭載。インカメラは約130万画素。大きさは132.9×67.9×10.4mmで、重さは約135g。約10.4mmと薄型ながら、1830mAhの大容量バッテリーを搭載している。
韓国でLTEを展開する「SK Telecom」と「LG U+」の2社の通信キャリアから発売され、LG U+での通信速度は、下り最大75Mbps。LTE対応エリアでは優先的にLTEに接続し、LTEに接続できない場所では3Gに接続するというように通信方式が自動で切り替わる仕組みとなっている。
場所によってLTEと3Gが自動で切り替わる仕組み | 「Optimus LTE」の背面カバーを外した様子 |
■「Optimus LTE」の特長とこだわりを紹介
LG Electronics Japanのキム・ヒチョル氏は、「Optimus LTE」の特長を紹介する前に、LTEが導入される背景を解説。日本でもスマートフォンの普及による3G回線の逼迫が指摘されているが、韓国でも状況は同じであり、2012年にはトラフィックが5万TBに達する見込みであるという調査を紹介。その解決策のひとつがLTEであるとした。また、大容量のコンテンツをスムーズにダウンロードしたいというユーザーのニーズにも合致すると述べた。
キム・ヒチョル氏は、「Optimus LTE」の特長として、「IPS True HDディスプレイ」を取り上げた。スマートフォンでは、コンテンツやアプリケーションを綺麗に映すためのディスプレイがまず重要であり、そのディスプレイを活かすために、OSや通信速度、バッテリー、端末のデザインにこだわるというLGのスマートフォン戦略を紹介。そのうえで、「IPS True HDディスプレイ」は、広視野角が特長で液晶TVなどに幅広く採用されている「IPS液晶パネル」をもとにLG Displayが開発した最新の液晶パネルであり、解像度、明るさ、色再現性をさらに向上させたものになっていると述べた。LTEを利用して高画質のビデオ通話を楽しむことができ、さらに広視野角のため複数人でのビデオ通話にも適しているとアピールした。
また、他社のスマートフォンに採用されている有機ELディスプレイよりも自然な色調を再現できるほか、電力効率も優れているとし、バッテリーの心配なくHD動画を楽しめると説明した。
LG Electronics Japan モバイルコミュニケーション プロダクトグループ課長のキム・ヒチョル氏 | 韓国国内におけるスマートフォンの普及とトラフィックの関係 |
液晶TVなどに採用されている「IPS液晶パネル」の特長 | LG Displayが開発した最新の液晶パネルである「IPS True HDディスプレイ」 |
■従来機種から採用されている技術
電話の着信中に端末を裏返すと着信音をミュートにできるといった「ジェスチャーUI」 |
LG Electronics MC事業部 日本Team課長のイ・ジヒョン氏は、日本でも販売された「Optimus bright」など、従来の「Optimus」スマートフォンから採用されている技術を紹介した。その一つ、「ジェスチャーUI」は、端末を持ち上げたり、裏返すなどのアクションをすることで、各アプリケーションを操作できる機能。例えば、電話の着信中に端末を裏返すと着信音をミュートにでき、音楽や動画を再生中の場合に端末を裏返すと再生を一時停止することが可能だ。
もう一つ、「On-Screen Phone」は、スマートフォンをBluetoothまたはUSBでPCに接続して、PCからメール作成やファイル操作などの遠隔操作ができる機能。イ・ジョンヒョン氏は、スマートフォンを鞄に入れたり、他の部屋に置いたままPCから操作ができると説明し、「ユーザーから大きく支持を得ている機能」だと述べた。
また、「Optimus」スマートフォンでは、LG独自のコンテンツマーケット「LG world」が利用でき、アプリケーションのほか、韓国ドラマなどの動画コンテンツをダウンロードできることを紹介した。
スマートフォンをBluetoothなどでPCに接続して遠隔操作ができる「On-Screen Phone」 | LG独自のコンテンツマーケット「LG world」が利用できる |
■開発担当役員への質疑応答
合同レクチャーの後には、LG Electronics役員らへの質疑応答の時間も設けられた。「Optimus LTE」の開発責任者である同社 MC研究所 製品プラットフォーム担当常務のオ・ヒョンフン氏は、「他社との差別化を図るために、どこにポイントを置くか?」という質問に対し、「ユーザーの生活に付加価値を与えること。生活をどう素晴らしく変えるかが重要」と回答した。
また、同社 MC事業本部 日本Team長 常務のペ・ヒョンギ氏は、「LTEでどのくらいのシェアを目指すか?」という質問に、「気持ちとしては80%を狙いたいが、まずは50%を目指す」と答えた。
LG Electronics MC研究所 製品プラットフォーム担当常務のオ・ヒョンフン氏 | 同社 MC事業本部 日本Team長 常務のペ・ヒョンギ氏 |
■生産工場「LG Digital Park」を見学
プレスツアーでは、平沢(ピョンテク)市にあるLGの生産工場「LG Digital Park」が公開された。LGの携帯電話端末の工場は、平沢のほか、中国、インド、ブラジルの計4ヶ所にあるが、平沢ではプレミアムな製品がつくられており、日本向け製品も同工場で作られている。
品質管理のフロアでは、試作機の耐久性、安全性のテストが行われている。各キーを2万5千回ずつ押すキープレス試験や、1.5mの高さから落下する落下試験、ケーブルをわざと傾けて挿すケーブルコネクション試験などがオートメーションで実施されている。また、防塵、防水の試験のほか、脳波への電磁波の影響を調べる試験なども行われている。
品質管理については、とりわけ日本の通信キャリアの基準が厳しく、当初は取引先の各国の基準でテストが行われていたが、現在ではLGが主体的にテスト項目を策定し、テストを実施しているという。
組み立てラインでは、流れ作業により、組み立てから製品テストまでの工程を行っている。キャリアの機種別にラインがつくられ、一人が一つの作業を行うごとに次の担当者へと端末が渡される。作業には、ネジが締まっているかの確認や端末の電源をONにするといったものもある。各ラインの先頭には、液晶パネルで今日の生産目標と実際の生産数、目標との差が表示されているため、進捗を一目で確認できる。
RFテストもラインの中で行われ、入力は手作業、判定はコンピューターと半自動化されている。ラインの最後尾では、テスト用のソフトウェアをアンインストールし、製品版のソフトウェアをインストールし直す作業を約500秒かけて行い、最後に外観をチェックして製品の完成となる。
ラインの見学時には静電気防止用の白衣の着用が必要で、前室を通って入場するなど、フロアは清潔に保たれている。従業員は若者の男女が中心で、黙々と作業に徹する姿が印象的だった。ラインでは立った状態での作業となるため、休憩ブースには足のマッサージ器が多数設置されているなど、働きやすさへの配慮もなされている。
平沢市にある「LG Digital Park」。なお、内部の撮影は禁止されており、外観のみの写真となる | 壁にはLGのスローガン「Fast, Strong & Smart」が書かれている |
■韓国の携帯ショップ店頭の様子
LG U+のショップ「U+ SQUARE」 |
ソウル市内にあるLG U+のショップ「U+ SQUARE」では4日、10日に発売予定の「Optimus LTE」が展示され、事前予約受付が行われていた。ショップ店員は「Optimus LTE」の特長を「LTEで高画質のビデオ通話や本格的なネットワークゲームが楽しめる。写真や動画を好きな時にPCやTVに転送できる」とアピール。LG U+のLTEサービスの利用エリアは現在のところソウルなどの都市部に限られるが、来年の春までには韓国全土に拡大していくとした。
LG U+は、LGグループの携帯キャリアだが、LGだけでなくSamsungなどの他社製スマートフォン、フィーチャーフォンも取り扱っており、店頭にはLGやSamsungのスマートフォンが多く並んでいた。現在は販売する端末の90%以上がスマートフォンであるとのこと。
「Optimus LTE」を事前予約しているユーザーは20~30代の男性が中心だという。男性店員の一人は個人的にも「Optimus LTE」を購入したいと述べ、「端末が魅力的。ゲームが好きなので楽しみたい」と理由を挙げた。
LG U+は、「Optimus LTE」の発売によるスマートフォンでのLTEサービスの開始にあわせて様々なイベントを催しており、4日からはソウル市内の明洞(ミョンドン)に、LTEを体験できる特設ブースをオープンしている(10月30日まで)。特設ブースは、スピードゾーン、マルチメディアゾーン、ダイナミックゾーンの3つから構成されている。
スピードゾーンでは、3GとLTEの速度の違いを体感でき、マルチメディアゾーンでは、PCとLTEモードで接続したスマートフォンでPCのゲームをプレイできるほか、クラウドサービスをLTEで利用して動画を鑑賞できる。ダイナミックゾーンは、周囲360度からの撮影を行なって映画「マトリックス」のような写真が撮れるゾーンとなっている。
5日にオープニングの挨拶を行ったLG U+副社長のパク・ジョンウク氏は、スマートフォン向けのLTEサービスがいよいよ10日からスタートすると述べ、「(スマートフォンで)PCのように高速通信ができ、TVのようにHD動画を視聴できるようになる」とアピールした。
店内に展示されていた「Optimus LTE」 | LG製や他社製のスマートフォンが多く並べられていた |
ソウル市内の明洞にオープンしたLG U+の特設ブース | 3GとLTEの速度の違いを体感できる「スピードゾーン」 |
LTEモードで接続したスマートフォンでPCのゲームをプレイできる「マルチメディアゾーン」 | 挨拶を行うLG U+副社長のパク・ジョンウク氏 |
■「Optimus LTE」の実力をソウル市内で試す
最終日の6日は、LG U+から発売される前の「Optimus LTE」を使用する機会を得たので、ソウル市内の各所で「Optimus LTE」を使い、どの程度の通信速度で実用できるのかなどを試してみた。まず、地下鉄に乗ってソウル市の中心部へと向かったが、韓国の地下鉄はトンネルでも携帯の電波が入り、3GまたはLTEでの接続が行われているのを画面の電波表示で確認できた。実際に走行中の電車内でも通話をしたり、携帯電話やスマートフォンを操作している人を多数見かけた。
LTEの通信速度を調べるために、市内の3地点でスピードテストを実施した。Androidアプリの「Speedtest.net Mobile」を用い、各地点で3回ずつ通信速度を計測したところ、以下のような結果になった。
■忠武路駅前
下り:平均5.2Mbps(最高5.9Mbps/最低4.5Mbps)
上り:平均11.1Mbps(最高12.5Mbps/最低9.9Mbps)
■明洞
下り:平均21.6Mbps(最高26.1Mbps/最低14.2Mbps)
上り:平均23.0Mbps(最高23.3Mbps/最低22.7Mbps)
■南大門市場
下り:平均6.4Mbps(最高7.0Mbps/最低5.6Mbps)
上り:平均13.2Mbps(最高14.6Mbps/最低10.8Mbps)
地点によるばらつきはあるが、どの地点も下りの速度で平均5Mbps以上と、通常のインターネットの利用では十分と言える速度を示した。また、各所とも上りの速度が平均10Mbps以上と高速になったが、これはLTEサービスが始まったばかりであるため、混雑が少ないのが要因であるかもしれない。とりわけ、明洞では下り・上りともに平均20Mbpsとなり、他の2地点と比べて圧倒的に高速だった。20Mbpsあれば、アプリのインストールはもちろん、大容量の動画のダウンロード・アップロードも快適に行えると言える。
また、約800万画素の裏面照射型CMOSセンサー搭載のカメラの実力を確かめるために、市街を撮影してみた。昼間の撮影だったため、裏面照射型CMOSセンサーの特長のひとつの暗所での撮影は試せなかったが、カメラの設定を変えたり、構図を考えることなく撮影し、以下のような4枚が仕上がった。
10月4日~8日に開催された「CEATEC JAPAN 2011」では、NTTドコモのブースにおいて、LTEサービスの「Xi」に対応した未発表のスマートフォン4機種のケース内展示が行われた。そのうちの1機種がLG Electronics製であり、韓国で発売された「Optimus LTE」をベースにした機種となることが予想される。通信速度はネットワーク次第となるが、高画質ディスプレイや大容量バッテリーをはじめとして、「ジェスチャーUI」や「On-Screen Phone」など端末としての魅力も高いため、Xi対応スマートフォンの中でも注目の機種の一つとなりそうだ。
2011/10/14 08:00