レビュー

世界中どこでも安価にチャットし使い放題の格安SIM

アイツー「海外ローミング放題SIM」レビュー

 「海外ローミング放題SIM」は、海外渡航者向けのSIMカードだ。MVNOサービスの一種で、SIMフリーのスマホに挿すことで、海外で通信サービスを利用できる、というものである。

 これを販売するアイツーは、ほかにもいろいろなローミング向けのSIMカードを販売しているが、この海外ローミング放題SIMは、「チャット専用」という制限の代わりに、きわめて安価に利用できるという特徴を持っている。

 今回はこのSIMカードを海外出張で試す機会があったので、その特徴や使い勝手をレポートしたい。

「海外ローミング放題SIM」

チャットと通話に機能を限定したからこその格安料金体系

 海外ローミング放題SIMは、チャットと音声通話にフォーカスし、世界各国でチャットアプリやSMSを利用できるというSIMカード(回線契約)である。主要なチャットアプリ以外のデータ通信はできないが、その代わりに「ほぼ初期費用だけ」で使えるのがポイントとなっている。

 初期費用は音声通話なしが4000円(SMS対応)、音声通話ありが4500円で、これだけで1年間、世界中のどこででもチャットが利用し放題となる。1年以降は、1年延長ごとに12ドル。あとはSMSと通話で使った分だけ、チャージしたプリペイド残高からの従量課金になる。

 利用できるチャットアプリは、「LINE」と「Facebook Messenger」、「WeChat」、「Viber」、「WhatApp Messenger」の5つのみ。アプリ上での音声通話などのストリーミング系の機能は利用できない。また、これらのアプリ以外のデータ通信は一切できない。かなり割り切った仕様だが、そのおかげで「4000円(4500円)で1年間、チャットし放題」という思い切った価格で提供できているというわけである。

Facebook Messengerも送受信が可能。米国CESの会場にて

 なお、チャットアプリ上でのテキストチャット以外のデータについては、通信速度は保証されないもののスタンプや写真の送受信は可能。スタンプについては、アプリにプリセットされているものや、事前にWi-Fiを使用するなどして双方が取得済みのものであれば、チャット中で快適に利用できる。ちょっとした裏技として活用いただきたい。

主要な国がローミング対応エリア

 海外ローミング放題SIMは、日本を含む76の国・地域で利用できる。日本人が普通に観光で旅行に行くような国であれば、ほぼ使えるハズだ。詳細は公式サイトで確認して欲しい。

 従量課金となる通話料金は利用する国・地域によって違うが、通話料金は1分で0.29~2.5ドル、SMS送信料金は1通0.2~0.85ドルとなっており、日本の主要キャリアのローミング料金よりは安い。

 国際ローミングだと通常、通話着信時とSMS受信時に国際転送料がかかるが、海外ローミング放題SIMの場合、主要な欧米各国でこの転送料がかからない。転送料がかかる場所としては、日本人がよく行く場所として香港やマカオ、台湾、オーストラリア、シンガポール、インドネシア(バリ島)などで転送料がかかるので注意が必要だ。

日本で設定してから持って行ける

 海外ローミング放題SIMは、実は北欧はバルト海に面するエストニア共和国のSIMカードだったりする。日本国内においてもローミング状態となるので、日本で使えるように設定できれば、ほかの対応エリアでも同様に使えることになる。

 設定はというと、「SIMカードを端末に挿入する」「APN設定をする」「*146*941#にダイヤルする」の3ステップだけだ。

 当たり前ではあるが、SIMロックがかかっている端末では利用できない。しかしSIMロックが解除されていれば、iPhone、Androidのいずれでも利用できる。

 ちなみにiPhoneの場合もネット接続に必要な「APN」は手動設定となるが、APNに「MSG」と入力するだけなので、日本国内のMVNOでよくあるプロファイルダウンロードよりもカンタンだったりする。ただし、すでにあるMVNOのプロファイルはアンインストールする必要がある。

アクティベーションすると、SMSが飛んできて、そこにAPNも書かれていたりする

発信はコールバック方式

 今回、海外ローミング放題SIMを昨年末の段階で準備してもらい、1月頭のアメリカでの「CES」の取材中に試してみた。

 データ通信回線は別途確保しているが、通話/メッセージ用として、モトローラ製デュアルSIM/デュアルスタンバイ(DSDS)対応スマホ「Moto Z」に、国内で使っている国内キャリアのメイン回線のSIMカードと、この海外ローミング放題SIMを挿して使うこととした。

「Moto Z」のSIMカードトレイに2枚のSIMカードを装着

 Moto Z上では、メイン回線のSIMカードはデータローミングをオフにし、海外ローミング放題SIMのみデータ通信をする設定にした。

 日本国内で設定し、動作を確認してから出国したので、アメリカでは到着して電源を入れるだけで、通話とチャットが使えるようになった。カンタンというより何もやる必要がないというレベルだ。

 海外ローミング放題SIMから電話をかけるのは、ちょっと特殊な仕様となっている。電話番号を入力して発信すると、すぐに切断され、そのあとすぐにコールバックがかかってくる。これに出ると相手に電話がかかるという仕組みだ。

 コールバック局を中継するが、相手には海外ローミング放題SIMの電話番号(エストニアなので国番号は+372)が発信者番号として通知される。電話を受けた人は着信履歴をタップして、海外ローミング放題SIM宛の電話をかけることができるが、当然だがエストニア宛の国際電話料金がかかる。携帯電話会社にもよるが、日本国内の携帯電話からだと、だいたい30秒で65~199円くらいとなる。

 デュアルSIM端末を持っていない場合は、国内の番号にかかってきた電話を海外ローミング放題SIMに転送する設定しておけば、電話を受けることができる。ただし、この場合は転送時にエストニアまでの国際電話料金がかかるので、注意が必要だ。

「チャット専用」でも使い道はいろいろアリ

 海外ローミング放題SIMはチャット以外のデータ通信ができないため、利用シーンとしては万人向けとは言えないところもある。しかし4000円(通話対応でも4500円)の初期費用(12ドルのチャージを含んでいる)で1年間、それ以後も1年あたり12ドルと、比較的安価に世界各国で使い続けられるので、長期間海外に滞在する人や複数の国を訪問する人、1年に何度も海外に行く人に最適だ。

 海外旅行の機会が多い人はとりあえず予備回線として1枚契約しておくのも便利そうだ。乗り継ぎ空港での連絡手段や、国内キャリアのデータ定額を利用するまでもない短時間の連絡手段など、いろいろなシーンが想定できる。

 海外旅行の頻度が少ない人や不慣れな人も、家族や友人と一緒だったり、団体ツアーで移動するならば、海外旅行に慣れた同行者にデータ通信サービスなどの手配は任せて、現地での連絡手段として、海外ローミング放題SIMでチャットアプリを使うという手もあるだろう。

 ちなみに海外ローミング放題SIMには、今後はチャット以外のデータ通信をするためのオプションパックが追加される予定だという。詳細は正式発表までわからないが、必要なときにだけオプションパックを購入してデータ通信ができるというのは便利そうだ。

 「チャット専用」というのはかなり割り切った仕様だが、それだけに、この海外ローミング放題SIMに最適な利用シーンもある。海外での通信手段に悩んでいる人は、この海外ローミング放題SIMを検討してみてはいかがだろうか。