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ソフトバンク、課題のスプリントは「反転攻勢への設計図が見えた」

2015年度上期決算、アリババ上場益の反動で減益も「順調に成長」

 ソフトバンクグループは、2015年度第2四半期(7~9月)および上期の決算を発表した。決算説明会にはソフトバンクグループ 代表取締役社長の孫正義氏が登壇し説明を行った。

ソフトバンクグループ 代表取締役社長の孫正義氏

 ソフトバンクグループは7月1日に設立された持株会社で、国内で通信事業を手掛けるソフトバンクのほか、スプリント、ブライトスター、スーパーセル、アリババ、ガンホーなどは子会社にあたる。

 ソフトバンクグループの2015年度上期の連結業績は、売上高が前年同期比10%増の4兆4238億円、営業利益が21.4%増の6858億円、純利益が23.9%減の4267億円だった。純利益が前年割れになっている点については、前年同期に中国のアリババが上場した際の一時益が影響しているとし、「去年の一時益が無いのでマイナスになっている。毎年アリババが上場するわけではない。それぞれ順調に伸びている」(孫氏)と説明されている。

ネットワークは全米ナンバー1を公約、スプリント反転攻勢に自信

 ソフトバンクグループの決算に先駆けて、スプリントは単体で業績を発表、その数値は改善しているものの、引き続き純利益は赤字となっていることが明らかになっている。こうしたことを受けてか、各指標で順調な業績とする決算会見では、冒頭から「一点だけ、十分ではないのはスプリント」と集まった報道陣の疑念に先んじて指摘し、プレゼンテーションの中盤でも多くの時間とスライドを使って、スプリントの業績が改善傾向にあることや、「全米ナンバーワンのネットワークにする」と公約する今後の戦略が語られた。

 同氏によれば、スプリントはCEOにマルセロ氏を据えて以降、純増などの数を追うため、端末代金の踏み倒しが多発していたというサブプライム層もターゲットとしていた方針を変更したという。緩くなっていた審査を厳しくして、契約後の収益に確実に貢献するというプライム層にターゲットを移すことで、解約率がスプリント史上最小の1.54%にまで改善し、将来にわたる収益性が改善しているとする。

 またスプリントの純利益が赤字になった点について、「営業利益は黒字に転じており、その差額は(負債の)金利だ。スプリントの手元資金は7000億円程度の現金とそれに同等のものを持っており、来年分の返済財源まで調達は整っている」と解説し、端末の割賦販売にかかる収支のギャップを吸収する子会社の設立をはじめ、資金調達を多様化させていく施策を明らかにした。

 スプリントのネットワークについても、エリアや品質などを大幅に改善させる方針で、「この3~4カ月で自信が出てきた。反転構成への設計図が見えた。実行に移すはっきりとした道筋が見えた」と自信を語り、ネットワークの品質を大幅に改善させる“秘策”がまもなく実行に移される様子を語る。

 スプリントの事業の運営費用(OPEX)については、人員削減も視野に入れながら、下限を年間20億ドルとして、継続的に、大幅な経費削減を2016年度から行っていく方針も明らかにしている。このネットワークの反転攻勢については「巨大な設備投資をせず、経費をかけずにやる」(孫氏)とのこと。「内容については事前に細かくは言わない。結果をとにかく見てくださいと、これまでも示してきた。今から2年後には、相当良くなったと思ってもらえるようなものにしたい」(孫氏)と、今後1年半~2年の間に大幅に改善させていく方針を明らかにし、「いろんなネットワークの統計で、間違いなく一番になったと思ってもらえる、そういう責務がある。全米ナンバーワンになれなかったら、孫正義のせいだと言ってもらって構わない」とネットワークの改善に自信を見せた。

国内通信事業の中心はネットワーク品質

 日本国内の通信事業については、iPhoneとAndroidについて販売が好調とする一方、「今では、端末は各社で同じようなものを揃えている。一番重要な製品はネットワーク」と同社の現在のスタンスを示した上で、J.D.パワーの顧客満足度調査で、法人向けネットワークサービス(大企業向け)とクラウドサービスでナンバー1の評価を得たことが紹介された。

 第2四半期のARPUは4720円で2四半期連続で向上。通信ARPUは前年同期比で40円下がって4190円になっているが、サービスARPUが60円上がって540円になり、合計のARPUは上昇を続けている。

 孫氏はまた、主に鉄塔の建設を中心にコストをかけてきた設備投資が一巡し、設備投資額が減少していく見通しであるとし、結果として今後はフリーキャッシュフローが従来よりも増加、経営内容にプラスの効果をもたらすとした。

 孫氏からはこのほか、投資事業として、投資した海外の企業が順調に業績を伸ばしていること、フィンテック(フィナンシャルテクノロジー)分野としてSoFiの筆頭株主になったことなどが紹介された。また、ニケシュ・アローラ氏の下で約10人からなる投資対策のチームが組まれ、以前よりも積極的で、投資先とも密に連絡をとりあう体制になっているとのことで、「さらなる成長に向かって、種を植えていく」と語られている。

総務省タスクフォースには「より安いメニューを用意」

 質疑応答では、総務省のタスクフォースにおいて、料金の引き下げや、それにともなう端末・通信料の分かりやすさの改善といった議論がなされている点について聞かれた。孫氏は日本の通信サービスが先進国の中でも優れていること、iPhoneなどグローバルで販売されている端末が安価に入手できること、スマートフォンがカメラやスケジュール帳といったほかの機器の機能も包含し代替していることなどを指摘し、決して高いとは考えていないことを示すが、「もっと安いほうがいいという声があるのも認識している。より安いメニューを用意していきたい。より高度なものを求める人には、もっと複合的なサービスを用意していく」とし、何らかの対策を行っていく構えをみせている。

 政府主導で料金の引き下げを議論すること自体の是非については、「真摯に受け止める」とシンプルな回答。「以前の私ならカーッとなって言っていた。大人の発言だ(笑)」と会場の笑いを誘った(孫氏はかつて、総務省にガソリンをまいて火をつけると脅し、その後に冗談だったと撤回したこともある)。

 端末価格と通信料金やその割引について、分かりやすさを求める意見については、割賦販売(スーパーボーナス)の導入により、それまでの、販売奨励金で端末をタダ同然にする販売手法を脱した実績を説くものの、「通信料から値引くのは、通念として分かりづらいところはある」と理解を示し、「検討を開始した。ノーではない。真摯に受け止めている」としている。ただし、「iPhoneが世界一安く提供されているのは厳然たる事実。こういうメリットがあることも時々は思い出していただきたい」とも付け加えた。

質疑応答に臨む孫氏

 2015年度上期の累計契約数は、Y!mobileブランドと合計で3160万4000件、純増数は5万9000件で、特に純増数が少ないのではないか? と質問が及んだ。孫氏は「国内は3社ともたいした数字ではない」とした上で、「かつては、みまもりケータイやデジタルフォトフレームなど、こまごましたものをいっぱい売った。しかし利益としての貢献は小さい。今は数ありきではなく、中身にこだわってやっている。PHSや、PHSのデータ通信端末のユーザーも減っていく。過去にこまごまと売ったものが解約され、マイナス作用として効いてくる。収益では増益が続いており、濃い内容。数あわせのようなことはしていない」と、純増数を大胆に追求していた過去とは決別している様子を改めて語った。

 PHSについては「時代がPHSからスマートフォンに移っているのは事実。今でもPHSが大好きなユーザー、好んでいるユーザーがまだたくさんいる。M2Mでも使われており、これらはこれで、需要があるところはサービスを続けないといけない」(孫氏)とサービスの継続は語る。一方、PHSの停波(サービス終了)の可能性について聞かれると、孫氏は「常に何事もサービスには終わりはある。検討は常に行っている」と答えている。

太田 亮三