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IoTけん玉、ブラウザでできるプログラミング――「KDDI∞Labo」第9期スタート

 KDDIは、スタートアップ企業や開発者を支援するプログラム「KDDI∞Labo」の第9期を開始した。これまでに培った、パートナー企業とともにサポートする体制や、地方との連携を押さえつつ、新たにハードウェア開発を支援する部門を用意する。

 Labo長の江幡智弘氏は、5年目を迎えたKDDI∞Laboでは、新たな取り組みとして、パートナー企業を訪れてピッチ大会(短時間でのプレゼンテーション)を開催し、パートナー企業内のさまざまな部署との可能性を探ることを紹介。地方との連携では、第8期の卒業生でIoTと養蜂を組み合わせたBee Sensingが広島を拠点にしていることを踏まえて、広島県とともに活動を進め始めているという。東京以外からの応募は、前回と比べて倍増した。

 「∞Labo」の初期は、Facebookのようなソーシャルメディアが勢いよく成長していた時期だったこともあり、ネット専業なサービスばかりだったが、徐々にジャンルが拡大。今回はハードウェア支援部門を用意したこともあり、ハードウェア関連の応募も2倍になった。第9期に選ばれたのは、Webサービス系のオリジナルプログラムで4チーム、ハードウェアプログラムは3チームで計7チーム。このうち、特に目をひいたものをひとまずご紹介しよう。

Labo長の江幡氏
パートナー企業もメンターとして参加
10月からは卒業生がパートナー企業でピッチを行う
5年目を迎え、ジャンルも変遷してきた
オリジナルプログラムで採択された4チーム
ハードウェアプログラムで採択された3チーム

ブラウザ上でプログラミング、Web開発を支援

 「App Motor(アップモーター)」は、学生チームが進めるWebサービス開発者向けのサービス。ブラウザ上でプログラミングできる環境を提供するもので、PythonやRubyなどがをサポート。プログラミング言語の導入やデータベースの設定など開発環境の構築が不要になる。開発中の内容は、URLをシェアすることで、他のユーザーと共同編集することもできる。

 KDDIと住友不動産が支援する予定で、開発者からのニーズが存在することなどから、App Motorを選定した。安価なパソコンやタブレット、場合によってはスマートフォンでも利用可能とのことで、幅広い環境で導入しやすいサービスを目指す。開発者向けとのことで、プロユースを前提にしたものになりそうだが、初めてプログラミングに触れる子供など教育用途などでの応用も期待できそうだ。

先進国と発展途上国で人材マッチング

 大阪発のチームであるHR Databankは、人材マッチングサービスの開発を目指す。韓国人のサービス企画担当者と、チュニジア人エンジニア(日本とチュニジアに拠点)3名で構成され、人手不足に悩む日本の中小企業と、職を求めるチュニジアの現状から、国境を越えた人材マッチングの可能性に挑むことになった。

 日本とチュニジアという時差のあるエリアに拠点を持つことから1日24時間のうち大部分を開発に充てられる点をアドバンテージとして、言語能力自動評価システム、ビザ申請書類自動作成システムを開発する。人材のデータベースを活用して、別のサービスを開発することも視野に入れる。国内外での展開などからグーグルがメンター企業として支援する。

センサー搭載、対戦も可能な「電玉」

 電玉(でんだま)は、IoT技術を用いて、現代風にアレンジしたけん玉。センサーによって、うまく皿に載せた回数をカウントする、といった機能のほか、通信経由で他のユーザーと対戦できるようにする。対戦する際、自分が難しい技を決めれば、対戦相手のけん玉の球に内蔵されたモーターが動いて球の軌道を変化させ、相手のプレイを邪魔する、といった要素を採り入れる。

サービスの概要
開発チームから2人が登壇

 もともとはKDDIが別の場で実施していたハッカソンでプロトタイプまで開発したチームで、その技術力の高さから第9期に選ばれた。広島県廿日市市がけん玉発祥の地と言われていることから広島との協力の可能性、あるいは渋谷でけん玉の世界大会が開催されるなど、日本のみならずグローバルでけん玉の人気が高まっていることから、市場性もある、と評価されている。

電子ペーパーの絵画ディスプレイ「UUSIA」

 「UUSIA(ウーシア)」は、“遊べる絵画”をコンセプトにした商品。電子ペーパーを採用し、省電力なデバイスを開発。世界中のクリエイターがアップロードした作品をスマートフォンで選べば、部屋の中に飾った電子ペーパーディスプレイに表示できる、というもの。気分にあわせてアートをいつでも変更でき、電子ペーパーディスプレイ自体のデザイン(額縁)もバリエーションをもたせる。

世界で戦うチームへ

 江幡氏を支えるLabo長補佐として、登壇したのは、4年間、KDDIアメリカで活躍した豊川栄二氏。シリコンバレーのスタートアップとの関係強化や出資などに奔走してきた同氏は「第9期のチームは、日本代表として世界で戦えるのではないか」と評する。

豊川氏

豊川氏
「米国では、ハードウェアでIPOしたり、ユニコーンと呼ばれる時価総額1000億円超の未公開企業が続々と出てきている。特徴的なのは、アクションカムのGoProやVRのOculus、フィットネスのFitbitなど、、エンターテイメント寄りなところが多い。今回の第9期も世界でブームが起きそうなけん玉など、世界で戦えるかなと。日本の製造業の元気がないと言われるなか、新たなスタートアップが世界で戦っていくのを支援したい」

ハードウェア部門採択チームの1つは、子供用自転車に付ける“しっぽ”を開発。ただし第9期を通じて製品化を目指すではなく“かわいい”をコンセプトにした別のアイテムを開発する
Xactiの伊佐治岳生会長

 ハードウェア支援部門では、三洋から独立したXacti(ザクティ)社のほか、ソフトフロント、ユカイ工学がサポート役となる。オリジナル部門には1チームごとに異なるメンター企業がつく形だが、ハードウェア部門の3チームにはXacti、ソフトフロント、ユカイ工学がまとめて面倒を見る形。これは、物作りの国と言われてきた日本ではあるものの、そのノウハウは限られた人だけが保有しており、量産以前に形にしていくのがハードルになっているため。サポート役の3社は、ハード部門採択チームに対して個別に対応しつつ、講座も開いて物作りに必要とされる視点を伝えていく。また他にもサポートする存在が今後加わるとのことで、ハードウェア支援部門では6カ月かけて、採択チームの成長を促す。

ソフトフロントサービス事業部長の高須英司氏
ユカイ工学CEOの青木俊介氏

関口 聖