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任天堂キャラのスマホアプリ登場へ、任天堂とDeNAが業務資本提携

 任天堂とディー・エヌ・エー(DeNA)は、業務・資本提携に合意し、グローバル市場を対象にしたスマートデバイス向けゲームアプリの共同開発と運営、サービス提供を行っていくと発表した。任天堂のキャラクターを含む知的財産(IP)を活用したゲームアプリが、新規に開発されるとしている。提供開始時期は年内を見込む。

任天堂 取締役社長の岩田聡氏(右)、ディー・エヌ・エー 代表取締役社長兼CEOの守安功氏(左)

 提携を通じて、任天堂のコンテンツ(知的財産)を活用したスマートデバイス向けゲームアプリを新たに開発、運営する。会員制サービスは、パソコンやスマートフォン、タブレットに対応した基幹システムを新たに構築して、そのシステムを用いて2015年秋にも開始する方針。

 資本提携では、両社がどちらも220億円ずつ拠出して第三者割当の形で、互いに相手の株式を取得する。DeNAは、任天堂の発行済株式(任天堂の自己保有分)のうち1.26%(総額約220億円、175万9400株)を取得し、任天堂の第10位の株主になる。任天堂はDeNAの発行済株式(DeNAの自己保有分)のうち10%(約220億円、1508万1000株)を取得、DeNAの第2位の株主になる。

業務・資本提携の経緯と背景、方針

 3月17日には都内で記者発表会が開催され、両社から業務・資本提携の経緯や背景、今後の方針が説明された。発表会には両社から代表として、任天堂 取締役社長の岩田聡氏、ディー・エヌ・エー 代表取締役社長兼CEOの守安功氏が登壇した。

 なお、提供タイトルなどの具体的な取り組みは、今後改めて発表されるとし、発表会は提携の方針説明が中心になった。

 提携内容の骨子は、スマートフォンが中心になると思われる「スマートデバイス向けゲームアプリ」の共同開発・サービス運営がひとつ。もうひとつは、今回発表のスマートデバイス向けを含む、任天堂のさまざまなゲームプラットフォームを連携させる、新たな会員制サービスを、両社で共同開発するというもの。

 ゲームアプリについては、キャラクターなどの知的財産(IP)と企画・開発を任天堂が中心になって行い、DeNAは主にサーバー側の構築や運営で強みを発揮していく。タイトルにより共同開発の内容は異なるが、任天堂はゲームの“手触り”といった根本的なノウハウや、子供でも安心してプレイできる信頼性をスマートフォン向けにも提供できるとし、DeNA側はスマートフォン向けタイトルで養った開発ノウハウやインフラ構築の技術力を活かしてく。

任天堂の全IPが対象、新規に開発、過去タイトルの移植は「一切ない」

 投入されるゲームアプリについて、任天堂は、「(日本を含む)グローバル市場で、億単位のユーザーに提供する」とし、活用する任天堂のIPに「例外は設けない」とする。一方、複数タイトルの投入に言及するものの、いたずらに数を増やさず、厳選したものになるとした。

 任天堂がすでに提供している「ニンテンドー3DS」「Wii U」といったゲーム専用機向けのタイトルについて、岩田氏は、「過去タイトルの移植は一切予定していない」と明言。「コントローラーとタッチデバイスは大きく違い、最高の体験を提供できないなら傷がつくだけ。スマートデバイス向けには、同じIPを活用しても、全く別のゲームになる」と説明した。

IPの価値の最大化にスマートデバイスを活用

 岩田氏は会見で、スマートデバイスの活用について以下のように語る。

 「(任天堂の)ゲーム専用機ビジネスへの悲観論は、最大のコンテンツを誰が提供しているのかが無しの議論だ。最大のコンテンツを提供しているのは任天堂で、ユーザーが最も価値を認めている対象は、任天堂のIPという考え。これまではゲーム専用機に集中してきたが、IPの価値を最大化する、戦略的な取り組みを開始する」。

 「テレビがこの世に存在していなかった時代から商品を提供してきた任天堂が、テレビを積極的に活用していったのと同じように、スマートデバイスを活用しない手はない。映像コンテンツ化など、さまざまな取り組みも行っていき、任天堂IPに触れる人口の最大化を図っていく」。

「タイミングがきた」

 これまでスマートデバイス向けのゲームの投入には慎重な姿勢を見せてきた任天堂だけに、この点についても説明された。

 「スマートデバイス向けコンテンツは、価値のデフレ化、新陳代謝も激しい。しかし、これに任天堂なりの答えが出せた。非常にシンプルなことで、(ゲーム専用機と)同じゲームを出さないこと。(著名IPの移植タイトルでは)たくさんの人に触れてもらえるが、十分な満足は得てもらえない。ビジネスモデルの差からくる価格差も明らかになる。スマートデバイスはゲームができるという意味でゲーム専用機と親しいようだが、実は全くの別物。こうした考えに整理がついた。今日はとてもすっきりしている」。

 「単独でやるより、有力なパートナーとやったほうがスピーディーにできる。守安さんからは、『ある意味で“黒子”になってでも協業を考えたい』と言ってもらえた。これで、我々がとれる戦略オプションがはっきりした。DeNAは我々の知らないノウハウをたくさん持っている。任天堂が得意でないことに人員を投入することもなく、またDeNAからは会員制サービスの構築にエース級の人材を投入してもらえるとコミットメントもあった。今回の提携は事業環境の変化にやむなく対応するための消去法ではなく、ポジティブな選択であり、山ほど(同様の)提案を頂いている中からDeNAを選んだ。選んだ理由は、一言で言うと、DeNAの情熱。ほかの会社からもノックはしてもらったが、本当に任天堂が応じるのか? と思っていたのでは」。

 「(質疑応答で)スマートデバイス向けの取り組みが遅いという指摘があったが、それは『遅い』という意見。数年後の結果を見て判断すべきで、『遅い』が真実かどうかは数年後に分かるだろう。(今日を振り返って)ベストなタイミングだったと言われるかもしれない。いろいろなことを平行して進めてきて、“タイミングがきた”と自分では感じた」。

ビジネスモデルの発明にも意欲

 スマートフォン向けアプリでは、「ガチャ」に代表される遊び方が中心になるタイトルなどで、「射幸心を煽る」などとしてシステムやビジネスモデルが問題視される場合もある。こうした懸念に対し、岩田氏は以下のように回答している。

 「任天堂が納得しない方法で提供されることは、あり得ない。Free to Start(=プレイ無料のアイテム課金制など)を一律に否定はしないが、(現在でも)ビジネスとして行き過ぎではないか? 子供に提供してもいいのか? というものはある。任天堂のIPでそれらはない」。

 「実際に、たくさんの人に遊んでもらって、それではじめて意味がある。どうしたら受け入れてもらえるのか。任天堂は天邪鬼な会社だ。(Free to Startが当たり前だからと)その通りやるのか? 我々がやる上では、それだとつまらない。DeNAと一緒に、いろいろトライすると思う。お互いに、新しいビジネスモデルの発明ができたら最高ですね、と言っている」。

専用機は任天堂のコアビジネス、開発コード「NX」の投入に言及

 岩田氏は一方で、ゲーム専用機ビジネスが同社のコアビジネスであることには変わりがないと強調する。今回の提携とは関係がないものの、「ゲーム専用機ビジネスに対する展望や情熱を失ったわけではない。むしろ今まで以上に展望がある。IPの認知のきっかけとして、スマートデバイスの活用は合理的」とした上で、同社のゲーム専用機ビジネスへの本気度を示す証拠として、開発コード「NX」と呼ぶ新たな家庭用のゲーム専用機を開発中であると発表した。

 同氏は、「スマートデバイスは最も間口が広く、ゲーム専用機に誘う架け橋。よりプレミアムな体験はゲーム専用機で提供する。限られた需要を(スマートデバイスとの間で)奪い合うのではなく、相乗効果を生み出せると確信している。DeNAとの組み合わせは、極めて強力な組み合わせになる」と提携による取り組みについて自信を語っている。

お互いの強みが補完関係

 DeNAの守安氏からは、競争環境が激化する中で、ゲームタイトルの差別化が重要になっており、多くの有力なIPを持つ任天堂は、「(協業できるのは)戦略オプションの中で、もっとも有力なものだった」とする。2010年から話し合いをはじめたとのことで、長期にわたって交渉してきており、「何度も議論をする中で、お互いの強みが補完関係であると分かってきた」という。

 守安氏は、企業文化が合わないのではないか、という疑問を先取りし、「むしろ真逆。プロジェクトは円滑に進行しはじめており、大きな化学反応が起きて、作品やゲームを生み出せると確信している。今回の発表内容に関わらず今後も提携を検討しており、新たな展開に注目してもらえれば」とした。

任天堂プラットフォームの再定義

 岩田氏は最後に、「スマートデバイスで成功しているコンテンツ供給者は、単一タイトルに依存している傾向が強い。我々は早期に複数のヒットタイトルを生み出せるようにしたい」と抱負を語るとともに、「従来のゲーム専用機のプラットフォームは、デバイス単位だったが、スマートデバイスを統合して、より多くのユーザーに、ソフトを、的確な形で届けたい。これは任天堂のプラットフォームの再定義であり、DeNAとの協業で、より早期に実現を目指したい」と、今回の協業がプラットフォーム全体の戦略に影響するものであるとした。

プレゼンテーション

関口 聖

太田 亮三