KDDI田中社長、「いろんなことができる時代」とCATVの戦略を語る


 日本ケーブルテレビ連盟などが開催したケーブルテレビ事業者向けの講演イベント「ケーブルコンベンション 2012」が7月18日、19日に都内で開催されている。初日の基調講演にはKDDI 代表取締役社長の田中孝司氏が登壇し、「大競争時代におけるケーブルテレビの成長戦略」と題した講演を行った。

「ケーブルの多チャンネルは成長の岐路」

KDDI 代表取締役社長の田中孝司氏
KDDIから見た3つの事業分野

 田中氏は、KDDIの主な事業分野であるモバイル、FTTH、ケーブルテレビ(JCN)の多チャンネル(有料のオプションチャンネル)3つの分野について、それぞれのシェアを示した上で、「モバイルはシェア27%で売上も大きいが、FTTHは圧倒的にNTT東西。多チャンネルのシェアは、J:COMが38%でJCNが11%」と、ケーブルテレビ関連を取り巻く競争環境が厳しいものになっているとする。また、「これまでは(この3つの分野が)きれいに分かれていたが、これからは境目が無くなる。これが“大競争時代”で、今後立ち向かっていかなければならない」と語り、ケーブルテレビには、多チャンネルの事業だけではなく、モバイルやインターネットなど、ほかの事業分野を巻き込んだ競争の時代が到来すると指摘する。

 田中氏からはここで、地デジ化前後の状況にまで遡って、デジアナ変換の視聴可能世帯が2299万世帯になるなど、ケーブルテレビが地デジ化に際して大きな役割を果たしたこと、また東日本大震災をきっかけに、地域メディアとしての役割が再認識されたことが挙げられた。そして、地デジ化後にやってくる大競争時代では、「ケーブルテレビの多チャンネル」対「(Huluなどの)OTT(Over the Top)」、「ケーブルインターネット」対「FTTH」、「地域多様性サービス」対「全国均一サービス」という競争の構図になるとした。

 同氏からはケーブルテレビを取り巻く状況として、ケーブルテレビが比較的普及している米国の状況が紹介された。米国では多チャンネルの契約数は年間2~3%の割合で減少しており、NetflixやHuluなどOTTと呼ばれるサービスと競合している状況。一方、ケーブルインターネットは年6%で成長しており、FTTHが普及している日本とは対照的に、米国ではケーブルインターネットが54%のシェアを占めるという。


米国ではケーブルテレビが普及している背景もあり、ケーブルインターネットが主流

 

 日本の状況はというと、多チャンネルの契約数は横ばいで都市部では純減する傾向も見られる一方、HuluやNHKオンデマンド、NTTグループのひかりTVなど多チャンネルと競合するサービスが登場している。またブロードバンドインターネットではFTTHの伸びが高く、ケーブルインターネットの加入者は増えているもののシェアは低下している状況。

 田中氏はこれらをふまえ、日本のケーブルテレビを取り巻く環境においては、「ポジティブに見れば、有料加入者が伸ばせるようにみえる。リソースはあるのに売れていないとも言える」と指摘。さらに、米国の状況や、インターネットを中心に世の中が進化していること、OTT事業者の存在がどんどん大きくなっている状況を挙げ、「多チャンネルのユーザーが減っていき、厳しくなっていく環境をインターネットで埋められたのではないか。事業分野の境目が無くなると、今後どうやって生きていくのか、考えさせられる」と、危機感を隠さない。こうした厳しい競争環境は今後も続く見込みで、例えばNTTグループのFTTHは2000万件に到達しようとしており、セットトップボックスなど垂直統合モデルを推進中。田中氏はグループの一体請求サービスなどにも警戒感を示す。

 「多チャンネルサービスは成長の岐路にきている。ニュートラルな視点で見て、そう思っている。米国のようにインターネットの加入増を実現しないといけないが、活路は見いだせていない。2400万世帯もあるのに、活用が不十分で、(KDDIの子会社である)JCNもそういう課題を抱えている」と田中氏は語り、ケーブルテレビの事業が難しい局面を迎えていることを改めて指摘した。


日本ではFTTHが伸び、ケーブルインターネットはシェアが低下ケーブルインターネットには伸びる余地があるとする
NTTは垂直統合型で事業を強化ケーブルテレビの成長は岐路にたたされていると指摘

 

「地域事業者」対「NTTグループ」

 ではKDDI自身はどう考えているのか。成長する市場とは何なのか。「ユーザーは、ケーブルテレビ業界、モバイル業界と分けて見てくれない」と語るように、ここでも事業分野の境目が無くなりつつあることが示された。しかし、例えばFTTHでは、NTTグループとの「圧倒的な規模の違いからは、逃れられない」と語るように、足元の数字を冷静に分析。その上で、競争の構図とは「ケーブル」対「FTTHキャリア」ではなく、「(多様性の)地域事業者」対「(全国均一の)NTTグループ」であるとし、この構図をもとにKDDIとして戦略を考えているとした。

 またその戦略の方向性は「地域密着を維持しながら、多様性のある地域メディアの魅力を最大化する。これに横の連携を組み合わせる」とし、モバイルとの連携を進めない限り発展は難しいとの見方も示した。また、直近の課題として「ネットユーザーの獲得」などを挙げ、「強力な商品ラインナップ」「一体化したマーケティング」の2点が大きな課題であるとした。


「地域事業者」対「NTTグループ」という構図を示した「強力な商品ラインナップ」「一体化したマーケティング」が重要とした

 

「Smart TV Box」で多チャンネルとOTTを一緒に提供

ケーブルテレビでスマートTVを実現する「Smart TV Box」

 ここで田中氏からは、ケーブルプラス電話やauスマートバリューなどケーブルテレビ関連の施策が紹介され、その流れの発展系として、またケーブルテレビ事業者の事業領域ではカバーできない新商品として、同日(18日)に発表された「Smart TV Box」が紹介された。

 「Smart TV Box」はAndroid 4.0を搭載し、ケーブルテレビと組み合わせて“スマートTV”を実現するセットトップボックス(STB)。STBで高いシェアを誇るパナソニックとの共同開発で、一般的なSTB同様にケーブルラボの使用に準拠。ケーブルの多チャンネルを楽しめるほか、Android端末としてAndroidプラットフォームのコンテンツや「ビデオパス」などauのコンテンツ、インターネット上の動画サービスなどを利用できる点も特徴になっている。


「Smart TV Box」の特徴

 

 田中氏は「Smart TV Box」を提供する目的について、「ケーブルテレビの収益基盤である多チャンネルのユーザーを獲得し、それでいてインターネットユーザーも獲得する」と説明。「多チャンネルの世界とOTTの世界を一緒にして、両方提供できるようにした。だいぶ前から開発してきた。イチゼロの世界ではなく、これが次の世界」と新しいSTBをアピールした。

 田中氏は最後に、「今日紹介したようなスマートTVの時代は必ずくる。それは、ユーザーが求めているから。多チャンネルは提供したいが、これは提供しない、と蓋をしてしまうと、成長は無い。JCNを見ていて、インターネットへのシフトがもう少し早ければ波の乗れたと、強く思う。大競争時代とは、新しい、いろんなことができる時代。そこに漕ぎだしていきたい」と集まったケーブルテレビの関係者に語りかけ、講演を締めくくった。

 

会場の展示


「Smart TV Box」の特徴

パナソニックのセットトップボックス

 

プレゼンテーション


 




(太田 亮三)

2012/7/18 18:52