NEC、LTE基地局などの生産ラインを公開


 NECは、NECグループの生産分社、NECワイヤレスネットワークスの本社工場を、報道関係者を対象に公開した。同工場は福島県福島市にあり、コンシューマー向け製品は製造していないが、無線通信の基地局など、インフラ側の設備を生産している。今回の公開では、同工場で生産されるLTEの基地局やiPASOLINKシリーズの事業概要、そして同工場で実践されている「ものづくり」に対する取り組みが紹介された。

スマートフォンなどの追い風を受けるワイヤレスブロードバンド事業

NECの手島氏

 まずNECの執行役員 ネットワークプラットフォーム事業本部長の手島俊一郎氏が、同社のワイヤレスブロードバンド事業について紹介した。

 同社のワイヤレスブロードバンド事業は、有線・無線を含めた通信事業者に対して製品やシステム、サービスを提供するキャリアネットワーク事業の1つという位置付けで、NECでは2012年度にキャリアネットワーク事業全体で9000億円、ワイヤレスブロードバンド事業で2500億円の売り上げ高を目指しているという。

 ワイヤレスブロードバンド事業では、LTEや3G、フェムトセル、WiMAXなどの基地局の「ワイヤレスブロードバンドアクセス」と、基地局とコアネットワークを無線接続する「iPASOLINK」シリーズなどの「モバイルバックホール」の2つの分野をNECは手掛けている。

キャリアネットワーク事業領域ワイヤレスブロードバンド事業の位置付け

 

ワイヤレスブロードバンドの事業環境
LTEの事業戦略

 手島氏は、このワイヤレスブロードバンド事業について、国際的なスマートフォンの急増などでモバイル通信のトラフィックが増え、とくにLTEについては高速通信と低遅延を実現するシステムとして期待が高まっており、NECの事業機会に追い風が吹いていると紹介する。また、基地局間の通信についても、トラフィックの増加やLTEの新規導入、GSMから3Gへの乗り換えなどで、インフラ側の高度化ニーズが高まっており、こちらもNECの追い風になっているという。

 LTEの事業戦略として手島氏は、世界の通信事業者のうち、70カ国で180社がLTE導入を検討中で、すでに52カ国、128社がLTE商用サービスを発表、そのうちNTTドコモを含む数社が実際に商用サービスを開始していることを紹介。こうした環境で手島氏は、「LTEの世界市場が2012年には4500億円規模になり、さらに成長すると見込んでいる」と語った。

 このようなLTE市場に対するNECの取り組みとしては、国内ではドコモに対し基地局やコアネットワークのシステムなどを納入し、商用サービス(Xi)で使用されている。「NECの強みは、世界のトップグループとして実用化を進め、ドコモの商用サービスで実績を作ったこと。この実績を元にグローバルに展開していく」と説明した。

 LTEに対しNECは、1つの基地局でセル半径500m~数kmをカバーする通常のマクロセルに加え、LTEの高速性を活かすスモールセル(セル半径200m以下)製品を提案している。通常のマクロセルの場合、アンテナ直下に設置するRREと屋内に設置するBDEの2つの機器からなり、それぞれがそれなりの大きさとなっているが、NECのスモールセル向け製品は、小型で設置場所を選ばず、また周囲の基地局との干渉を自動的に調整するSONにも対応するため基地局増設が容易になっているという。

 セル半径の小さいスモールセルならば、セル内に収容できる端末数が少なくなり、1ユーザーあたりのサービスが高速・高品質化が可能となる。LTEはその性質上、都市部などデータ通信が密集している地域から導入される傾向にあり、NECではそうした用途に向いているスモールセル・ソリューションを積極的に提案していく。

 中国政府主導で推進されているTD-LTEについても、NECは取り組んでいる。中国WRI社とLTEインフラ分野で協業し、共同で製品開発するとともに、WRI社の販売チャネルを活用する。そうして中国市場への算入を足がかりに、そのほかの海外市場でもTD-LTEを展開していくという。

スモールセルソリューション展開戦略中国でのTD-LTE参入戦略
NECによるLTE製品10Wクラスのスモールセル製品

 

モバイルバックホールの位置付け

 こうしたアクセス部分の無線通信だけでなく、基地局間の通信についても、NECでは「モバイルバックホール」として事業を手掛けている。具体的には、基地局とコアネットワークを無線通信で結ぶPASOLINKシリーズを販売している。

 昨年9月には2方向との通信が行える「iPASOLINK 200」が発売されたのに続き、工場公開当日に4方向との通信が行える最新機種「iPASOLINK 400」も発売された。iPASOLINK 200は、主に基地局間の1対1の通信に使われていたが、iPASOLINK 400では最大で4つの相手との通信が可能になるため、複数の基地局からの通信をまとめるアグリゲーション部分にも対応できる。

 手島氏によると、PASOLINKシリーズはモバイル市場の成長に伴い出荷台数も急増しており、昨年8月で累計150万台出荷を達成した。iPASOLINK 200も発売から4カ月しか経っていないが、すでに18カ国から2万3000台を受注したという。

 このような状況で、アクセス分野とバックホール分野をあわせたモバイルブロードバンド事業で、NECは2009年度に1000億円だった売り上げを、2012年度には2500億円にまで成長させることを目標としている。

iPASOLINK 4002012年度にキャリアネットワーク事業全体で売上高9000億円を目指す

 

革新を続ける生産ライン

NECワイヤレスネットワークスの水村社長

 続いてNECワイヤレスネットワークス社長の水村元夫氏が、同社の概要について説明した。NECワイヤレスネットワークスは、無線通信だけでなく放送や交通・公共関係機器などの製造を手掛けている。具体的には、先に紹介されたLTEなどの基地局やPASOLINKシリーズに加え、ファクトリコンピューターやテレビ放送の送信機、変わったところでは昨年地球に帰還した小惑星探査機「はやぶさ」の電源ボードなども手掛けているという。水村氏は、そうした製品の製造を担当する会社として、「ものづくり」への取り組みを紹介する。

NECワイヤレスネットワークスが製造する製品群NECグループ全体のものづくりへの取り組み

 

PASOLINK生産の特徴

 例えばPASOLINKシリーズは、ベースとなるモデルの違いはもちろん、使用する周波数やネットワーク構成の違いによるインターフェイスの違いなどがあり、製品のバリエーションは数万種、実際にメジャーな組み合わせでも2000種類があるという。これだけの種類があるため、受注後に生産を行っている。

 一方、納期に対する市場の要求は厳しくなっており、3年前には3~4週間、速くても2週間だったリードタイムが、現在では4週間という例はほとんどなくなり、2~3週間に短縮されているという。こうした短納期や他品種生産に対応しながら、高品質を維持しつつコストを下げていけるよう、NECワイヤレスネットワークスでは製造現場レベルから取り組みを進めているという。

市場の要求PASOLINK事業の強み

 

ものづくりに対する取り組みの歩み

 具体的には、NECワイヤレスネットワークスでは、トヨタ自動車の「かんばん」方式を導入するなど生産ラインの革新やライン内の作業を効率化する自動化設備の導入などに取り組んでいる。

 特徴的なものとしては、生産ラインの作業スタッフ自身が教育を受け、生産ラインの改善や自動化設備の発案・製作を行う「ラインクリエイター」という制度がある。現場の担当スタッフ自身が生産ラインの弱点を改善していくことで、生産ラインが自立的に進化し続けられるという仕組みで、NECワイヤレスネットワークスでは数年前からこのラインクリエイターの育成に取り組み、昨年3月までに、すべての製造部門スタッフがラインクリエイターになっているという。現在ではさらに製品の品質やコスト低減に取り組めるよう、「スーパーラインクリエイター」となる人材の育成を行っているという。


生産ラインの革新。ラインの細かい手順まで分析改善するインライン自動化設備。生産ラインのスタッフが発案製作する
生産ラインの改善に全員が取り組むというラインクリエイター制度さらに各スタッフが自発的に各プロセスに取り組むフロントローディング制度も実施中
フロントローディングにより、全部門が「プロアクティブ」になった2010~2012年の経営革新活動
LTE基地局の生産ライン。奥から手前に向かって行程が進み、製品が流れているPASOLINK屋外機の生産ライン。こちらも奥から手前に向かって行程が進む

 

2011年4月には統合新会社となる

 一方で、NECグループでは製造部門の統合も行っている。昨年10月にはLTEの基地局生産をNEC埼玉よりNECワイヤレスネットワークスの福島本社工場に移管しており、ワイヤレスブロードバンド部門の一元化を目指している。さらに2011年4月にはNEC東北とNECアンテンを統合する。水村氏は、「さらなるプロセス改革を全社で展開し、新しい会社として、ダントツの品質と価格競争力、短納期対応を進めていく」と語った。


 



(白根 雅彦)

2011/1/21 14:50