携帯マルチメディア放送、民主党議連が2枠割当を主張


 8月3日、衆議院第2議員会館において、民主党の情報通信議連主催のワーキンググループが開催された。総務省で検討が進められている「携帯端末向けマルチメディア放送」に関するヒアリングが行われた。民主党の議員に対して、NTTドコモ側、KDDI側がそれぞれの主張を述べる場となった。

 司会は、同議連の事務局長を務める民主党の高井崇志衆院議員が担当。NTTドコモ側は、NTTドコモ代表取締役社長の山田隆持氏、マルチメディア放送(mmbi)代表取締役社長の二木治成氏が、対するKDDIからは、代表取締役会長兼社長の小野寺正氏とメディアフロージャパン企画代表取締役社長の増田正彦氏がそれぞれの事業計画、置局方針に関して説明を行った。それらの内容は、これまで行われた2回の公開ヒアリングや、非公開ヒアリング後の囲み取材で述べられたものと同様となった。ただし、民主党議員からの質疑を受け、これまでの議論を踏まえた指摘なども為された。

ドコモ山田氏mmbi二木氏
KDDI小野寺氏メディアフロージャパン増田氏

総務省が目指す「携帯マルチメディア放送」の姿

 携帯向けマルチメディア放送とは、アナログテレビが用いていた電波を再利用し、携帯電話などのモバイル機器で利用できる情報配信サービスのこと。放送設備を持つ受託事業者と、コンテンツを提供する委託事業者の参入を募り、これまでにないサービスの実現に向けて議論が進められている。

 これまでの公開ヒアリングなどを通じて、ドコモ側とKDDI側、それぞれの主張が繰り広げられてきた。置局設計思想の違いや、エンドユーザー向け料金プランの考え方などが議論の主題になることが多かったが、今回のワーキンググループは、議員への説明とあって、冒頭、情報流通行政局総務課長の大橋秀行氏(7月27日付けで異動、前情報流通行政局放送政策課長)から携帯マルチメディア放送の概要が説明された。

 これに対し、民主党の勝又恒一郎衆院議員が「なぜ免許の割当枠が1つなのか」「諮問を受ける電波監理審議会はそこまで判断できるのか疑問」「1つの事業者ということは技術も1方式に限られるが、それを政府が決めて本当に良いのか」と質問を投げかけた。

総務省の大橋氏

 大橋氏は、総務省の基本的な考え方として、「アナログテレビの跡地を使って、携帯向けマルチメディア放送をより多数の方に使って欲しいと思った。そのためにどういう制度にするかが出発点」と語る。携帯マルチメディア放送では、VHF帯と呼ばれる帯域のうち、207.5MHz~222MHzという14.5MHz幅を使う予定だが、これを2事業者に割り当てるとなれば、単純に利用できる帯域幅は半分になる。さらに全国でサービス展開するため、2事業者が似た技術を使ってインフラを二重に構築し、その上で同じ番組がそれぞれのサービスで提供される可能性もある、といった点を懸念し、「荷物をどう視聴者へ届けるかが目標で、そのための最善策として1事業者にした」(大橋氏)と解説。さらに、正式決定する前に意見を募集し、どちらの事業者からも異論がなかったとして、最終的に免許を1枠にしたと語る。また、電監審へ答申を求めることについては、総務省が評価した内容はどうか、という形で諮問するため、評価自体は総務省側がプロの立場でしっかりと評価すべく、これまで準備を進めてきたと説明する。

 方式を絞ることについては「どちらの方式も要求される水準を満たしている。どちらの方式がより優れているか、ではなく、どちらが優れている事業計画か、優れている提案になるかと考えている」と述べ、技術はどちらも総務省が掲げる“携帯マルチメディア放送”の概念を実現できるとして、事業者の計画性を審査する方針とした。

勝又議員

 後述する岸本議員の主張などを経て、大橋氏は、携帯マルチメディア放送の導入について「放送というものにパラダイムシフトを起こしたい」と意気込みを見せた。これまでの手法と異なる市場を構築できる技術が出てきたからこそ、そうした希望が持てるとした大橋氏は「ベンチャーにも大いに参画して欲しい」と意欲的な姿勢を見せた。ただし、番組やコンテンツを提供する事業者(委託事業者)よりも、放送設備を展開する事業者(受託事業者)の割当から先に入ったことについては「我々も悩みながら取り組んでいる」と心境を吐露。もしスタートしても、ユーザーに受け入れられるか、その見通しは厳しいとの見方を示しながら、委託事業者が参入しやすい環境作りを行うことが行政の使命であり、成功すれば放送のパラダイムシフトが起こるとした。

 会合後半にビジネスモデルの厳しさについて、委託側への参入を希望する事業者から「現行のままでは厳しいと相談を受けている」という高井議員が、市場として成立するかどうか問うと、KDDIの小野寺氏は「ビジネス問題は非常に難しい。大橋氏のベンチャーを入れたいという気持ちはわかるが、非常に難しい。受託事業者だけで(ビジネスモデルを)描けないのは確か」と述べた。

民主党の岸本議員、「官主導を許してはいけない」

 これらの大橋氏の説明に対し、議連の一員として参加する岸本周平衆院議員は「納得できない」と一喝。続けて勝又議員から「こうした重要なことは市場に任せるべきではないか。官僚ではなくユーザーの中で淘汰され優劣を決めることが主流ではないか。総務省が“天の声”としてやらなければいけない理由はあるのか」と続けて問うた。

 大橋氏は「多数の事業者が参入希望している場合、どの事業者にするか決める、ということが天の声ということだろうか。帯域が無限にあれば別だが、14.5MHz幅と限られている中では1枠が適当と判断した。これが“天の声”ということであれば、そうした判断は確かに行った。しかし、勝手に決めたものではなく、意見を公募し、技術的にも専門家の知見を得ている。独断的に行政判断したというのは違う」と反論。しかし、勝又議員は「手続き論ではない。双方の技術が要件を満たしているのであれば、本当に今、絞るのがいいのかどうか」と1枠に限定することへ再度疑問を呈した。しかし大橋氏は、現在の開設計画の指針は、放送サービスとして広くあまねく伝わるエリア設計を求めており、利潤だけを追求する私企業の論理だけではなく、エリア拡充などの配慮を国として求める必要があるとする。そうした制限があるなかでの制度設計では、現行の方針は最上の設計とする。さらに確実に成功するビジネスとの保証はない、としながらも、各企業から詳細なデータを求め、現在検討を続けており、割り当てを決める際にはきちんと納得できる理由付けをするとした。

岸本議員
高井議員

 これに対し、元大蔵省官僚でもあった岸本議員は「大橋氏は元同僚で優秀なのはよく知っている」としながらも、こうした判断を官僚側が行ったとしても、「役人は責任を取れない」と指摘する。電波監理審議会を経るという手続きについても、事務方から提示される内容は否定されることがなく、官僚は舞台作りに長けていると解説する。

 岸本氏は「もし電波オークション(割当予定の周波数帯に対して事業者が入札する制度、日本では未導入)をするなら、パーフェクトな事例になり得た。こういっては何だが、規模の小さなマーケットなので暴騰して困ることない。役人は恣意的にやるが、マーケットメカニズムを使うのは本当に正しいやり方になる」と指摘。今回の事例について、「一部の官僚に奪われていいのか。本当に大切な瀬戸際だと思っている」と語り、7月の電波監理審議会についても「参議院選挙の後にやると決まっていたが、これは国会議員のいないタイミングであり、それは困ると(諮問を)待っていただいた」とした。今後についても「(事務局長の)高井議員と一緒に、部門会議で問題提起していきたい。こういうことを許してはいけない。2社でやってもらったらいい。競争して設備投資することで、雇用も生まれ、景気対策になる。経済成長になる」と会場にいた関係者に向けて語りかけ、今後積極的に活動するとした。

 会見後の囲み取材で岸本氏は「もともと電波オークションすべき分野。審議会という隠れ蓑を使って政策決定過程が不公平。電波オークションするには時間切れかもしれないが、本当に今日明日やらなきゃいけないものか。ビジネスモデルとしては成り立っていないものだから、ひょっとしたら1年かけていいかもしれない。本当は電波オークションと言いたいが、実務的な人間なのでそこまでは暴れない。少なくとも2社で競争させればいい。従来型の、官僚が恣意的に案を作って、電監審という隠れ蓑を使って公平公正ばプロセスを経た、説明責任をしたというのは、ほとんどの人が嘘だと思っているのにしゃんしゃんと通すのは、政権交代した意味がない。非常にベステッド・インタレスト(既得権益層)の人たちが従来型の動きをしている」と述べ、現行の方針や手法にあらためて疑念を呈した。

 一方、事務局長の高井議員は、「電波オークションについて勉強をしている中だが、国会の日程や“8月中に目処”という原口総務大臣の発言を踏まえると(今回の勉強会の影響として)何らかの成果、というのは難しいのではないか」と慎重な見方を示した。

ドコモは1枠割当を支持、KDDIは2枠割当を許容

 1社への割当ではなく、2社への割当について、ドコモの山田氏は「ユーザーの利便性」「投資効率」という2点を指摘し、設備投資額は同じながら利用できる帯域が半分になることなどから、委託向け料金が上昇するのではと懸念を表明。ビジネスモデルとしては厳しさがあることは認めつつも、「しっかりやれば花が開くと確信している」と述べ、品質と効率のバランスをとった設備投資と、魅力的なコンテンツの提供でビジネスとして成立する目算があるとした。

 一方、メディアフロージャパンの増田氏は、「2社割当であっても参入したい。最終的にはユーザーの選択になるだろうが、ぜひとも参入したい」と強い意欲を見せた。

 



(関口 聖)

2010/8/3 21:19