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KDDIと京大、宇宙空間で約6万kmの通信を可能にするレーザー開発に成功

 KDDI、京都大学、KDDI総合研究所、公立千歳科学技術大学は、宇宙光通信などの長距離光通信の活用に向け、高品質な通信を少ない電力で可能にする新たなフォトニック結晶レーザーの開発に成功した。

 今回の研究により、約6万kmの距離の通信が可能となった。今後も、地球と月の間の大容量宇宙光通信への適用を視野に、技術開発を継続するという。研究の成果は、10月14日に英国科学誌Nature Photonicsのオンライン版に掲載され、12月号で出版される予定。

 研究グループは、多数の複雑な光学素子からなる従来の宇宙用光送信機を、単一の半導体素子であるフォトニック結晶レーザーのみで置き換えられることを示した。新たに開発したフォトニック結晶レーザーは、内部に異なる共振周波数を持つ2つのフォトニック結晶を備えている。

 この2つのフォトニック結晶への注入電流を高速に増減させて、従来のフォトニック結晶レーザーの発振周波数の変化幅を2倍に増大できることが確認された。あわせて、結晶に注入する電流の合計値を一定に保つことで光の強度変化を抑制し、伝送時の雑音を1/16に低減できることも確認された。

 これにより、宇宙空間での長距離通信をシミュレーションした実験で、従来のフォトニック結晶レーザーよりも少ない電力で、約2倍の距離まで光増幅器を使わずに通信できることが実証された。

背景

 実証実験の背景には、従来の半導体レーザーは出力を高めるために光出射面積を大きくすると、発振モードが多モード化してコヒーレンス性が失われる上にビームの広がり角も非常に大きくなるため、レーザー光源とは別に光増幅器やビーム整形用光学系が必要となり、システム全体が大型化・非効率化するという課題があった。

 研究グループは、この課題を解決すべく、高出力と高ビーム品質を両立できるフォトニック結晶レーザーの利用を提案し、光ファイバー増幅器を用いることなく静止軌道衛星と低軌道衛星間の約3.6万kmの自由空間光通信が可能となることを実証した。

 今回の実証実験では、さらに長距離かつ高速な宇宙光通信の実現を目指し、レーザーの発振周波数を高効率かつ高速に変調できる新たなフォトニック結晶レーザー構造を提案し、実証した。その結果、従来と比較して周波数変化量を2倍に向上しつつ、通信時の雑音の増加の原因となる光の強度変化量を1/4に抑制することに成功した。