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KDDIスマートドローンが遠隔操作のAIドローンを“常設”設置する理由とは? 「SaaSのようなサービスを」と博野社長
2025年10月16日 18:05
KDDIとKDDIスマートドローンは16日、石川県能登地域でAIを搭載したドローンを常設し、AIドローンを活用した遠隔運航実証に成功したと発表した。能登地域に合計4台のドローンを設置し、東京と北海道にいるオペレーターが遠隔で運航し、道路設備の点検や災害時の被害確認などを実施した。
同社では、今後全国に1000拠点を展開していくといい、全国にAIドローンの拠点を整備し、場所を意識せずにドローンが利用できる環境を整備していくという。
能登地域で平時と災害時の両方を想定
実証では、平時と災害時の両方でドローンが有用に機能するかが確かめられた。
ドローンの拠点は、輪島市の中屋トンネル付近と輪島消防署、七尾市の和倉温泉お祭り会館、西部水質管理センターに設置された。拠点には、ドローンの車庫となる「ドローンポート」が設置されており、遠隔で出入庫や充電などが行える。平時には、中屋トンネルの3Dモデリング撮影や能登島大橋でのインフラ設備の定期点検などを実施する。その最中に、大きな地震が発生したという想定で、自治体の要請を受けて、和倉温泉の護岸や輪島市沿岸において地震や津波の被害状況を確認する流れで、平時と有事のそれぞれで、有効に機能することが確認された。
遠隔運航に欠かせないドローンポート
今回の実証では、ドローン「Skydio X10」が使用された。このドローンには専用のドローンポート「Dock for X10」が活用されており、各拠点にはこのドローンポートが設置されて運用された。
ポートには、上部にヘリポートのようにドローンが離発着できるステージが用意されている。ステージでは、ドローンを固定し充電をしたり、ステージごとカバーを掛けて車庫のようにしたりすることができ、これらは遠隔でも指示を出せる。高い防水と防塵性能を持っているほか、ヒーター機能も備えており、カバーが凍り付くような過酷な環境でも使用できる。
ポートは通信機能を備えており、リアルタイムでドローンの飛行状況やバッテリーの状態を遠隔で確認できる。クラウド上で制御と監視ができるため、24時間365日リモート運用ができるという。
このドローンポートにより、平時ではパトロールや施設巡回、夜間警備など時間によらないサービスが実施でき、有事の際はいち早く運航できるため、被災地や事故現場での一次確認や救助者の捜索活動を迅速化できるなどのメリットがある。
加えて、ドローンポートとしてパッケージ化しているため、場所を選ばずに設置できることも大きなメリットとなる。公共施設だけでなく、市中に出店しているコンビニなどにも設置できるようになり、同社が出資する「ローソン」にポートを設置する考えもあるという。
たとえば、最寄りのローソンのポートから、山中で遭難した行方不明者を遠隔ドローンで捜索したり、交通事故現場にいち早く向かい現場で初動対応を実施できたり、大雨など河川の氾濫が予想される際に、河川の氾濫状況を把握したり、ドローンに搭載しているスピーカーから住民に避難を呼びかけたりできる。面的にポートを配置することで、有事の際にいち早く対応できるようになる。
全国どこでも10分で急行し、社会問題を解決
ドローン拠点を展開する背景に、KDDIスマートドローン代表取締役社長の博野雅文氏は「ドローンと通信を掛け合わせることで、さまざまな社会問題を解決できる」と説明。労働人口の減少とあわせて過去に整備されたインフラ設備の老朽化が進んできている。これに加え、災害の頻発化と激甚化が浮き彫りになってきており、これらの問題をドローンが解決できると語る。博野氏は、ドローンの活用について、「人が現地まで運びドローンを制御する」形から、通信を活用し「どこからでも遠隔制御」できる形とすることで、さまざまなユースケースが実現できると話す。
今回の実証踏まえて、ドローンポートを1000拠点に展開することで、「全国どこでも10分で駆けつけられる」サービスが実現できるようになるといい、展開にあたっては、ドローンの拠点がどこにあるかを意識せずにサービスが利用できるよう、面的に展開していくという。
サービスの拡充
今回の発表とあわせて、現在提供している遠隔運航サービスが拡充されたことも発表された。
運航時間の拡大とスポット運航の提供開始
これまで、平日昼間が中心だった定期的な巡視、測量サービスの提供時間を24時間受けられるようにサービスを拡充する。夜間や早朝でもドローンによる業務ができるようになったため、大型施設における「毎日8時間おきに行う巡視」の代替や、工事現場などが稼働する前の早朝などに現場データを確認するなど、代替できる業務の幅が広がる。
また、ユーザーが任意のタイミングで運航を依頼できる「スポット運航」サービスを新たに始める。「降雨後に建設現場の状況を確認したい」や「センサーが異常値を示しているので確認したい」といった、偶発的な事象の確認にも、ドローンが活用できるようになる。これは、平日9時~17時30分のサービス提供となる。
測量サービスのパッケージ化とAIチャットでのデータ確認
測量サービスの測量からデータ提供までの業務をパッケージ化し、現場対応を最小化することで、3D点群データなどの測量結果を、短納期かつ低価格で提供できる「測量パッケージ」を展開する。
これまで、撮影前の事前調査から設置準備を行い、点群データの生成、編集など、データの提供までにかかっていた手順を見直し、ドローン航行後最短3時間でデータが提供される。
加えて、ドローンが撮影した現場データを、AIチャットで問い合わせするだけで呼び出せるサービスを年内に提供する。たとえば「昨日のエリアAの撮影データが欲しい」とチャットに入力すれば、そのデータが出力されるなど、自然言語ですぐにデータが取り出せるようになる。同機能は、業務提携を行っているMODEの生成AIソリューションが活用される。
災害時に有用な手段、警察や消防からのニーズが高い
博野氏は、ドローンの配置について「災害時の取り組みは非常に重要な部分」と話す。今回の展開が能登地域からスタートしたのも、災害時にすぐに飛ばせる環境を構築したいという想いからだとし、南海トラフ巨大地震など大きな災害が予想されているような場所からの展開を進めたいと話す。災害時でも、AIドローンであれば電源と通信が確保できれば飛ばせるとし、人が現地に行く必要がないので、「災害時に非常に有用な手段」と胸を張る。
通信の冗長性については、モバイル通信のほか、ドローンポートとドローンの間でも通信を行っている。このほか、衛星通信「Starlink」を活用する取り組みも進めており、今後実証していくという。
ニーズとしては、警察や消防からのニーズが高く、連携しながら進めていくとする一方、平時の需要がなければ、ビジネスとして成立しにくくなる。建設会社などとも合わせてユースケースを今後拡大していくとした。
運航人員は足りるのか? 1000拠点の用途
全国1000拠点の設置を目指すという同社。1人のオペレーターに対して複数のドローンを運航するとはいえ、ドローンを運航する人員は確保できているのだろうか。
博野氏に訊くと「現在30数名の国家資格を持つ人員がいるが、全国で21校のドローンスクール事業を実施している」とし、このスクールの卒業生から人員を確保できるようなサイクルを実施しているという。今回の実証では、北海道のスマートドローンアカデミー新十津川校に有事を想定した運航を依頼しており、実際にドローンを運航できる“操縦技能を持った”人員の育成も進めている。
また、運航拠点の分散化について博野氏は「東京が震災に遭った場合に、1000拠点のドローンポート展開の意味がなくなってはいけない」と検討する姿勢を見せた。
1000拠点に設置したドローンの用途について、今回の実証ではインフラ点検や災害時の捜索、確認業務が中心だった。工場の巡回など民間用途との共用はあるかを訊くと、ビジネスモデルの構築中と前置きした上で「面的に展開するメリットとして、ユーザーがどこにドローンがあるかを意識せずにドローンを飛ばしてデータを取る形、いわゆるSaaS型のモデルになるのでは」とコメント。どこにいてもすぐに利用できる「社会基盤としてのドローンサービス」を目指す考えを示した。


































