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Arm、スマホのAI体験を強化する新プラットフォーム「Arm Lumex」発表

 Armは、フラッグシップスマートフォンなどに向けてAI体験を加速させる最新の演算サブシステム(CSS)プラットフォーム「Arm Lumex」の提供を開始した。

 「Arm Lumex」は、アシスタントや音声翻訳、パーソナライズなどのオンデバイスAIをリアルタイムで実行でき、AI性能を最大で5倍に高速化する。IPC性能は6年連続で2桁成長を続け、レイトレーシング性能も従来比で2倍に向上。よりスマートで高速、かつパーソナライズされた体験をコンシューマー機器へ広げていくとしている。

AIファーストの包括的ソリューション

 LumexはAI時代の要求に応えるためにゼロから設計されたフルスタックのプラットフォームで、高度に統合されたコンピューティング、ソフトウェア、ツールを備え、次世代モバイルワークロードに最適化されている。

 高性能CPUやGPU、システムIPを統合することで、パートナーはAI対応デバイスを短期間で市場へ投入できる。これにより、デスクトップ級のモバイルゲームやリアルタイム翻訳、進化したスマートアシスタント、パーソナライズされたアプリケーションなどを実現できるようになる。

次世代CPUクラスターとSME2

 Lumexには、SME2に対応した次世代Armv9.3 CPUクラスターが搭載されており、C1-Ultra、C1-Premium、C1-Pro、C1-Nanoの4種類を用意している。

 C1-Ultraはフラッグシップ機器向けにピーク性能を重視し、シングルスレッド性能を25%向上。大規模モデル推論や生成AIに適している。C1-Premiumは同等のパフォーマンスを35%小さい面積で実現し、音声アシスタントやマルチタスク処理に向く。C1-Proは持続性能と電力効率を改善し、動画再生やストリーミング推論に適した設計。C1-Nanoは電力効率と省面積化を重視し、ウェアラブル端末など小型デバイスに適用される。

 これらはすべてSME2を追加可能で、Arm史上最高のAI性能を実現する。さらに電力効率に配慮したC1-DSUも提供され、スマートフォンからパソコンまで幅広いデバイスでスケーラブルに利用できる。

オンデバイスAIを飛躍的に強化する「SME2」

 SME2はAI性能を大幅に引き上げる機能で、CPUに統合されているため、開発者にとって扱いやすいハードウェアマクロとなっている。また、CPUのセキュリティモデルを継承しており、幅広い用途での活用が可能。

 SME2を追加することで、音声ワークロードのレイテンシー(遅延)を大幅に削減し、音声生成を高速化するなど、リアルタイム推論の可能性を広げる。

 Armは2030年までにSMEとSME2を30億台以上のデバイスに展開し、100億TOPSを超える演算性能を追加すると見込んでいる。これにより、低遅延やプライバシー強化、コスト削減を実現し、ユーザー体験をさらに高めていく考え。

デスクトップ級のゲーム体験を

 新しいMali G1-Ultra GPUは、専用のレイトレーシングユニット「RTUv2」を搭載し、前世代比で2倍の性能を実現した。最大24シェーダーコアまで対応し、電力効率にも配慮され、未使用時にはピーク電流をゼロに抑える仕組みも備えている。

 推論性能は最大20%高速化され、主要タイトルで描画や応答性が大幅に改善。G1シリーズはウルトラ、プレミアム、プロのSKUを揃え、すべてにレイトレーシング機能が標準搭載されている。

 Lumexは3nmノード向けに最適化され、CPUやGPUの実装を複数ファンドリーに提供する。Lumex搭載デバイスは2025年後半に出荷予定で、まずはモバイル製品への採用が中心となる。

KleidiAIで開発者フレンドリーなAI環境

 LumexはPyTorch ExecuTorchやONNX Runtimeといった主要AIフレームワークに対応しており、KleidiAIを介することでコードを変更せずにSME2の加速効果を利用できる。

 CPU中心のプログラミングモデルによって、GPUやNPUへの移植負担が軽減されることも開発者にとっての利点となる。

AIが拓く新たな時代とArmのビジョン

 ArmはAIを単なる機能ではなく、次世代モバイルやコンシューマー技術の基盤と位置づける。AIは道具からパートナーへと進化し、日常生活に自然に溶け込む存在になるとし、声を理解し、ニーズを先読みし、文脈を踏まえて応答することが当たり前となる時代の到来を予測している。

 そのなかでオンデバイスAIは即時性や常時利用、プライバシー保護、低消費電力の観点から不可欠であり、クラウドAIとのハイブリッドモデルも重要になる。さらにArmは、ハードウェアにとどまらず開発者エコシステム全体におけるソフトウェアの重要性を認識し、システムレベルでの変革に応えるプラットフォーム戦略への転換を進めている。