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グーグル、AI教育支援を強化 Geminiで探究学習・教員の働き方改革も後押し

 グーグルは15日、「Gemini Day for Education」を開催し、AIが教育にもたらす新たな可能性と、日本における具体的な取り組みを発表した。

グーグルのビジョンとAI教育への注力

 基調講演には、グーグルのヴァイスプレジデントで、アジア太平洋・日本地区マーケティング担当の岩村水樹氏が登壇。「AIと教育の未来」をテーマに発表。グーグルは1998年の創業以来、「世界中の情報を整理し、誰もがアクセスし活用できるようにする」というミッションを掲げ、2016年からは「AIファースト」を掲げてきた。

グーグル ヴァイスプレジデント アジア太平洋・日本地区 マーケティング 岩村水樹氏

 日本では、「AIの力で解き放とう、日本の可能性」というビジョンのもと、高齢化や人口減少という社会課題の解決が急務であること、政府がAI新法を策定し明確な方針を打ち出していること、さらにアニメや漫画文化を背景にAIやロボットへの親和性が高いことの3点から、AI活用の可能性を強調している。

 同社はこれまでも、日本リスキリングコンソーシアムの設立や、ギガスクール構想を通じた「Google for Education」や「Chromebook」の導入支援など、教育分野へのテクノロジー活用を継続。現在は、AIと教育を「取り組むべき最重要課題のひとつ」と位置づけ、AIスキルの重要性の高まり、AIによる学びの質と速度の向上、教員の働き方改革と教育の質向上という3点を理由に挙げている。

教育向けGeminiの進化

 グーグルは、教育向けに最適化したAIモデル「Gemini」を提供。その中核となるのが、ユーザーに自らの発見を促す教育特化型の学習モデル「LearnLM」。これによって強化されたGemini 2.5 Proは、能動的学習の促進や好奇心の刺激、学習者への適応といった点で教育現場からも高く評価されているという。

 教育機関向けのGeminiアプリやNotebookLMは、Google for Educationユーザーに追加費用なく提供。エンタープライズレベルのデータ保護も適用され、利用データはAIモデルの学習に使われない。2025年3月時点の調査では、校務で生成AIを活用する教育機関の約半数がGeminiを導入しており、「業務効率化で生徒と向き合う時間が増えた」「授業の工夫に集中できる」「生徒の興味に合わせた教材提供ができる」といった声が寄せられているという。

教育者向けGeminiアカデミーの提供も

大学生向け支援施策

 大学生向けには、「Google AI 学生アンバサダープログラム」を新設。AIに関心のある学生が学びを広げ、活用を広める活動を支援するもので、初年度は500名を募集。参加者には、プロンプトスキルを学ぶ「Geminiアカデミー 大学生向け」や、グーグル公式認定プログラム「Prompting Essentials」、活用事例ワークショップ「Gemini Day for Students」などが用意される。

 さらに、最上位Geminiモデルが12カ月無料で利用できる「Google AI Pro 無料キャンペーン」第2弾も8月にスタート。大学のGoogle Workspaceアカウントだけでなく、個人のGmailアカウントでも利用できる。NotebookLMの音声解説機能で講義資料を要約しポッドキャスト化したり、カメラ機能で数式の解き方を確認したり、クイズ機能で講義資料から問題を自動生成するなど、学びを支えるツールとして活用できる。

小中高向け支援・自治体連携も強化

Google for Education 営業統括本部 本部長 杉浦剛氏

 小中高校向けにも支援を拡充。GeminiはGoogle Workspaceのコアアプリに組み込まれ、Vaultなどの監査ツールでの利用管理が可能に。有料プランのGemini 2.5 Proも、教育向け「Gemini for Education」として利用できるようになり、Canvasとの連携によるアプリ開発支援も行える。

 NotebookLMもアップデートし、50以上の言語で情報ソースをアップロードし日本語要約を受け取れるほか、動画概要生成、コンテキスト アウェア アクセスポリシーでアクセス制御にも対応。Google Classroomには「Gemini in Classroom」を導入し、約30種のカスタムプロンプトライブラリで採点や学習補助、教材共有がワンクリックで行えるようになる。

 GeminiとNotebookLMの年齢制限も撤廃され、Workspaceユーザーなら児童生徒も利用可能に。チャット内容のレビューやモデル学習への利用も行われず、管理者による利用環境の制御ができる安全な環境を整えた。

 さらに、児童生徒向けのプロンプトライブラリや動画学習サイトを7月下旬にリニューアル予定。ギガスクール導入自治体向けには生成AI研修を追加したキックスタートプログラムも提供する。加えて、日本独自の「Gemini パイロット自治体プログラム」も始動し、意欲ある5自治体とともに教員の働き方改革や学習準備、生徒活用のモデルケースを構築。9月上旬に選考結果を発表し、約半年間の伴走支援を行う。

AIと共に学ぶ名張青峰高校の教育実践

 三重県立名張青峰高校では、Google Workspace for EducationとChromebookを全校で活用し、AIを「やりたいことを実現する道具」と位置づけ積極導入。向山教諭は、AI活用には保護者説明や教職員の理解、AIの仕組みの把握が不可欠と強調。「ハルシネーション探し」などを通じ、AIの特性を生徒に体感させている。

三重県立名張青峰高校 情報科教諭 向山明佳氏

 総合的な探究の時間には、生徒の多様なテーマにAIがテーマ設定や深掘りを支援。個別対応が難しい中、プロンプト集を活用し、生徒自身がAIを効果的に使いながら探究を進めている。Geminiによるレポート評価や、密なフィードバックの実現、Gemini Canvasでのアプリ開発も進み、英語学習アプリや中国語クイズ、メイクの色彩アプリなど、生徒の創作意欲が高まり、作品の質も向上している。

 さらに、AI時代のクリエイターとしての倫理意識も醸成。「ギモンタイム」にはAIやアプリ開発への質問も増え、生徒はゲームやアニメの世界が現実化する可能性を感じるとともに、期待と課題の両方に目を向け始めている。グーグルはこうした事例を通じ、普通の学校でもAIを活用することで、生徒の「やりたいこと」のレベルを引き上げ、創造の楽しさと責任を学びながら学びを深められると考えている。

生徒からの疑問の一例