ニュース

「980円SIMも高速な時代に」、IIJが語る低価格SIM市場の現在

 「IIJのSIMカードユーザーは20万を超えたくらい」「今春登場したNTTコミュニケーションズのサービスで競争が激しくなった」「低価格SIMでも高速通信になってきている」――18日、インターネットイニシアティブ(IIJ)が開催したMVNO(仮想移動体通信事業者)市場に関する記者説明会で語られた内容だ。説明会では、IIJの取り組みやMVNO市場全体の動向が紹介された。

IIJのMVNOユーザー、個人・法人あわせて20万人

 日本で最初にインターネットの商用化を手がける企業として、1992年に設立されたIIJは、法人向け市場では、その信頼性から高いブランド力を誇る一方、個人市場での認知度は低い。そんな同社が個人ユーザー向けにSIMカードパッケージの提供を開始したのは、2012年2月。まだ2年も経っていないが、先頃、開示された同社の決算資料では、2013年度第1四半期に1万8700件、第2四半期に2万2000件と、上半期で約4万件の純増を記録したことが明らかにされた。

IIJの神田氏
IIJの青山氏

 IIJが示した調査会社の資料によれば、2012年度末(2013年3月末)時点でのIIJのユーザー数は約17万件。これは個人・法人あわせての数値で、2013年度に入ってからの純増数を加えると、IIJの個人ユーザー数は10数万回線、法人をあわせると「20万回線を超えたと推定」(IIJサービス戦略部サービス企画1課長の青山直継氏)という。第1四半期よりも第2四半期のほうが純増数が多いことから、IIJとしてもSIMパッケージ市場の拡大は今後も続くと予測している。なお、IIJのSIMパッケージユーザーでは解約率が2%~3%で推移しているとのこと。「この手のサービスでは低いほうではないか」(青山氏)という。

 通販に加えて量販店でも取り扱われるようになったことで、ITリテラシーの高いイノベーター層やアーリーアダプター層に続き、アーリーマジョリティ層への浸透を目指しているとのこと。ネット上でテクニカルな話題を紹介するブログを展開して、ITリテラシーの高い層とのコミュニケーションを進めて、信頼度の向上を図る一方、たとえばイオンの店内で、SIMカードの使い方を紹介する店頭イベントを実施するなどの取り組みを進めている。こうした取り組みの背景にはIIJブランドの向上をIIJ単独で実施するのは困難との判断がある。「定期的にユーザー調査をすると、IIJの認知度は非常に低い。認知度向上のため多額のプロモーションを実施するという戦略はないと思っている」(IIJサービス戦略部長の神田恭治氏)との判断があるという。

 たとえばイオンとのコミュニケーションの中では、イオン側が来店客に向けたサービスの理想像を掲げ、それに対して、いかにスピーディな対応をIIJがとれるかがポイントと神田氏は語っていた。

IIJの個人向けサービスの沿革
これまでのユーザーはITリテラシーが高い、30代~40代の男性が中心
今後の変化の見通し
イオンでの取り扱いで、より幅広い層への浸透を目指す

【お詫びと訂正 2013/11/19 12:10】
 記事初出時、IIJのサービス契約数(20万人)を個人ユーザーのみと記しておりましたが、正しくは法人ユーザーとあわせた数値です。また解約率の表記に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

サービス内容での競争

 まだユーザー層が限られるSIMカード単体での利用だが、この市場が成立する背景にはスマートフォンの普及、通信技術の進展などがある。IIJにとって、技術的な側面では、IPネットワーク上での品質管理という点が挙げられる。携帯各社のネットワークが進化したことで、IPネットワークの活用に強みを持つIIJがこれまでのノウハウを発揮できる環境が整った。また理論値とは言え、下り100Mbpsを超えるなど高速化したことで、有線と無線の垣根を超えて通信サービスを提供するようになったことも大きい。さらにスマートフォンの普及などによる業界変動で低速ながら安価なプランを求めるユーザーも拡大している。

 今後のIIJのモバイル事業において注目するキーワードを挙げた神田氏は「デバイスの低価格化」「SIMフリーデバイスの拡がり」などを挙げる。デバイスの低価格化では、M2M(機器間通信)市場が本格化している。またSIMフリー端末については、かつてiPadに興味を持つ法人はいても、Androidに対する関心は低かったところ、最近はNexus 7のような端末で、関心が高まっている。

NTT Comのサービスで新たな競争軸がもたらされた
ドコモなどのサービスと比べた場合

 個人向けのSIMカードパッケージでは、月額980円といったプランが多い。このラインアップでは、「NTTコミュニケーションズ(NTT Com)が今春、提供を開始したサービス(当該記事)の登場が大きい」と青山氏は指摘する。このNTT Comのサービス「OCN モバイル エントリー d LTE 980」は1日あたり30MBという通信量の制限が設けられているものの、それまではLTEの通信速度で利用できるというもの。通信量が限られるテキスト中心のTwitter、Facebookといったサービスを快適に利用できる、ということで、IIJも追随し「今や、低価格SIMは、低速ではなく高速になった」(青山氏)とする。IIJとしてはクーポンの考え方をSIMカードパッケージに採り入れており「980円のプランに500MB分の通信量を利用できるクーポンを付けた。クーポン=高速通信するための権利という形。クーポンで利用できる通信量を増やすなどの取り組みも行った」として、値付け自体は980円という形ながら、そこで利用できる内容で差別化を図っていると説明し、直接的な値下げ合戦という価格面でのしのぎあいではなく、サービス内容での競争軸が現在の主流との見方を示した。

訪日外国人向けサービスは慎重に検討

 質疑応答で、訪日外国人向けの通信サービスの可能性について問われると青山氏は「慎重に検討を進めている」とコメント。

 訪日旅行者向けの需要は大きいと認識しているものの、旅行者が持ち込む携帯電話が、日本国内の基準(いわゆる技適マークなど)をクリアしているかどうかが不透明。「旅行者向けには技適の問題がある。日本の技適をクリアしていない端末での利用を推奨するのは電波法に抵触する」(青山氏)といった点から具体的なサービスの提供に二の足を踏んでいる。

“TD-LTE×ドコモ回線”はあり得るか?

 会見後、青山氏に「たとえばTD-LTE対応のAXGPやWiMAX2+などと、ドコモ回線を組み合わせたサービスはあり得るか」と質問したところ、現状では厳しいとの見方を示した。デュアルSIM対応のルーターなどを同社が取り扱い始めたものの、通信方式・周波数の面から、端末メーカーが手がけるかどうか、といった面で、まだ現実的ではないという。ただ地域WiMAX事業者といった立場でのニーズなど、そうした端末の登場を望む声はあるようだ。

関口 聖