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ソフトバンク、24年度3Qは増収増益 モバイルは成長軌道で「強い企業構造に変革」

 ソフトバンクは、2025年3月期第3四半期決算を発表した。営業収益は4兆8115億円で前年同期比7%増、営業利益は8219億円で前年同期比12%増の増収増益となった。

ソフトバンク 宮川潤一社長

増収増益の3Q

 コンシューマー事業の売上高は2兆1810億円で前年同期比3%増収。そのうち、モバイル売上高は256億円と前年同期の-38億円と比較して大幅な改善となっている。

 スマートフォン契約数はソフトバンク、ワイモバイル、LINEMOの3ブランドあわせて3127万契約で、前年同期比4%増という結果になった。さらにワイモバイルからソフトバンクへの移行収支もプラス基調を維持しており、通期でもプラスになる見通し。

 ファイナンス事業は、2036億円を売り上げ、前年同期比19%の増収。収益性は大幅な改善を果たしており、PayPayの黒字化もこれを支えた。PayPayの連結売上高は1837億円と前年同期比18%の増収。AliPayやLINE Pay、PayPayクレジットを含む連結決済取扱高は11兆3000億円と前年同期比23%増となった。

 2024年12月には、PayPayによるPayPay銀行子会社化が、今回の決算発表当日には同じくPayPay証券の子会社化が発表されており、複雑に入り乱れていた資本関係を単純化するとともに、サービス間の連携を深めて金融関連のサービスを強化していく姿勢が示された。

 このほか、エンタープライズ事業では6736億円を売り上げ、前年同期比10%の増収。LINEヤフーを含むメディア・EC事業では1兆2523億円を売り上げて前年同期比4%の増収となった。

 いずれの事業でも増収増益と堅調な実績を積み重ねた。ソフトバンク 宮川潤一社長は「通信以外の領域も収穫期に入ってきた。収益源の多様化の結果が出てきており、本業のモバイルも成長軌道。従来より強い企業構造に変革できたと思う。4年前の値下げ以来元気のなくなった業界だが、各社も同様に変革を進めてきた。投資家の皆様にも注目してほしい」と話す。今後、モバイル事業では純増数増による顧客基盤の拡大、ARPUの改善も進めるとした。

AIと次世代インフラ推進

 宮川氏は、次世代に向けた「社会インフラ」として「AI-RAN」の構築を進めることを説明。NVIDIAなどとともに取り組んできたもので、携帯電話ネットワークがあまり使われない、計算能力が余剰になる時間帯にAIによる推論サービスを携帯電話ネットワークで提供することで、新たな収益源につなげる。

 AIデータセンターの構築に向けては、大阪府堺市のシャープ堺工場跡地での建設を進める。2026年中におよそ150MW規模、将来的には250MW規模の規模を目指している。主な使途としては、AI開発、推論アプリケーションなどが示されている。宮川社長はAIデータセンターを中心に「産業集積地」を造成し、経済成長を促進したい旨を説明。「未来の産業の進化に役立てたい」と話した。

 ほかにAI関連の取り組みとしては、OpenAIとの協業による法人向け「Cristal Intelligence」がある。宮川氏はCristalを、自動運転の限定的にドライバー不要な「レベル4」にたとえ、今後は完全にドライバーが不要な「レベル5」の性能にまで進化させ「企業の自動化」を実現すると話し、ソフトバンクで導入したのちに社会実装に進めたい旨を語った。

 また、マイクロソフトやグーグルの「Azure OpenAI service」「Gemini」も並行して提供することで、多様な生成AIの選択肢を提供することを説明した。ほかに、国外ではソフトバンクグループとOpenAIが新会社「Stargate Project」を設立している。

質疑応答では

――PayPayについて、通信業界で金融関連の競争が激しくなっているがPayPayの足りない部分や強化すべき部分などをどう考えているか。

宮川氏
 PayPayはそろそろIPO(上場)するのかと聞かれますが、それも考えております。しかし、いつと明言はしません。決済というポジションでは本当に良いところまで来ましたが、もうすこし「改造」ができるのではないかと考えています。

 PayPayとは1階、2階、3階建て構造で成長するんだと議論してきましたが、今はまだ1階建ての状態です。2階、3階とかたちを作ってから次のステージに行ってもらえると、我々としても投資した甲斐があったというものです。(競合他社の)誰に勝った、負けたということではなく、PayPay自身がやりたいことを完成させたうえで親離れしてほしいと思っています。

――AIに必要な電力をどうまかなっていくのか?

宮川氏
 北海道苫小牧市で確保できているのは300MW、大阪府堺市では250MWを予定しています。数百MW級がGPUを動かすために必要な電力です。昔のデータデンターは2~5MWでよかったものが今100倍にもなりつつあり、電力への危惧は常に抱いています。データセンターをつくることでその都市が電力喪失してしまうのではと懸念しています。

 (データセンターが多数あることで知られる)千葉県の印西市はもうその状態になりつつあります。並行して再生可能エネルギーの開発もするために今、学習していますが核融合のようなものがかたちになれば、日本のエネルギー問題も解決されるのではということで、大きな金額ではありませんが、我々もそういった分野に投資しています。

 いつかは発電事業も手掛けていきたいと社内では言っています。自分たちで使う電力くらいは自分たちで作ってみようじゃないか、という気持ちです。

――Cristal Intelligenceは来期提供予定というが、SB OpenAI Japanは具体的にいつ事業が始まるのか?

宮川氏
 会社の設立では最終的な議論をしていますが、半年以内に設立できると思います。どういうかたちでCristalを導入するかという方法の確認をしています。

――Cristalと同様のサービスが出てきた場合、強みはどこにあると考えるか?

宮川氏
 ソフトバンクの強みというよりOpenAIの強みだと思います。Cristalを超えるものが出てくれば、OpenAIも苦戦するでしょうが、それに勝るものの情報は我々も掴んでいないので、今はOpenAIにかけたいという感覚です。

 iPhoneを日本で発売する前に孫正義氏の大号令で全社員にiPhoneとiPadを渡して、紙の書類を排除し「iPhoneをつかったら企業がどう変わるのか」を自ら試して実践してきました。今回もCristalはまず我々から使い、その教訓を活かして提案していくと最終的にソフトバンクの強みにつながるのではと思っています。

――DeepSeekをどう見ているか? ソフトバンクのAI戦略に影響を与えないか?

宮川氏
 (DeepSeekに関する)長い論文を読みましたが通常、人が作成したデータを用いる事後学習にAIが作成したデータを用いるという手法を使っていると思います。数学のような論理推論に強いところは本当に評価できると思っています。(AIを)さらに安く作れるかもしれないな、という希望が見えたということで評価しています。

 (ソフトバンクの事業としては)得られるものばかりだと思っています。良いところは全部取り入れていこうという主義ですから、我々の長期ビジョンの実現に向けた取り組みに影響はないと思っています。

――フジテレビへのCM差し止めの再開への考えと中居正広を起用したCMの差し止めへの考えを聞きたい

宮川氏
 差し止めの理由は一連の報道を踏まえた総合的な判断によるものです。中居氏出演のCMについては人権問題になるのであれば擁護できないものであり決断しました。