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NTTとトヨタが描く「モビリティAI基盤」と両社の想い

トヨタ自動車代表取締役社長の佐藤恒治氏とNTT代表取締役社長の島田明氏

 NTT(持株)とトヨタ自動車は31日、共同で記者会見を行い、モビリティと通信、AIから成る「モビリティAI基盤」の共同開発を含めた取り組みに合意したと発表した。

 NTTは通信分野の中で国内トップ、トヨタ自動車も同様に自動車分野でトップだが、そんな国内トップ企業同士が取り組むのは、“交通事故ゼロ社会の実現”に向けてのモビリティAI基盤の構築だ。両社それぞれが描く未来の社会と想いはどのようなものだろうか。

車側だけでは“交通事故ゼロ”に限界

トヨタ自動車代表取締役社長の佐藤恒治氏

 「人々の暮らしをもっと豊かにしたい」という志があると語るのは、トヨタ自動車代表取締役社長の佐藤恒治氏。佐藤氏は、車と情報通信が一体となり、社会基盤を築くことの重要性がますます高まっているとし、2017年からコネクテッドカーの普及を見据えデータ処理基盤などの技術開発を共同で進め、2020年には車から“街”へと視点を広げ、スマートシティ基盤の構築をテーマに協業を深めてきた。

 そのなかで、今回は新たなステップとしてAI通信基盤を構築し、“社会全体”の車の未来を変える取り組みを加速させていく。トヨタが掲げる最も重要な提供価値を「安心・安全」とし、「交通事故ゼロ社会」の実現に貢献し、すべての人に移動の自由を提供することにもつながると、“車”だけが関係する取り組みではないと佐藤氏は強調する。

 トヨタでは、自動車側のソフトウェアプラットフォームと電子プラットフォームの刷新を進めており、必要なデータを抽出し、適切な通信手段でデータを収集できるように進めており、あわせてソフト更新が迅速になるよう基盤システムも見直している。

 一方で、日本における交通事故の要因別発生件数を見てみると、この10年で予防安全技術の普及により事故件数は減少しているが、追突事故や出会い頭の事故、右左折時の事故は依然として多い。佐藤氏は、「AIと通信を活用した自動運転技術の進化がカギを握る」とし、自動車側の技術発展だけでは交通事故ゼロ社会の実現に限界があることを指摘する。

交通事故ゼロ社会の実現に向けた2つのアプローチ

 トヨタでは、交通事故ゼロ社会の実現に向けて2つのアプローチを進めている。

 1つは、データに応じて適切な処理をする「データドリブンシステム」の開発だ。走行データをAIが継続的に学習し、さまざまな運転シーンを生成、データが少なくても学習できるようにすることで、シミュレーション精度が向上し、迅速なソフト改良、自律型制御性能向上に寄与する。

 2つ目が、「三位一体型のインフラ協調」だ。ここでいう三位は、インフラやほかの車、人を指し、自動車がこれらの情報を継続的に収集することで多くの事故を予防できるようになる。情報をもってAIが学習し、人や車の動きを高精度で予測することで、交差点での出会い頭の事故防止や高速道路でのスムーズな運転支援、郊外における自動運転サービスの提供など、さまざまなシーンでの安心、安全な移動が実現する。

モビリティAI基盤を構築する意義

 これらの取り組みを進めるため、今回構築するモビリティAI基盤では、主に3つの基盤を構築する。

 1つ目は、データセンターの整備だ。トヨタの試算では、双方向通信でソフト更新できる車「ソフトウェア・ディファインド・ビークル」(SDV)の台数が増加し、必要な通信量が2030年には現在の2.2倍になることが見込まれている。膨大な計算量を支えるべく、NTTの先端技術でデータセンターを分散配置する。

 2つ目は、信頼性の高い次世代通信。交通環境に応じて最適な通信方法をAIが判断し、必要な通信を高速かつ途切れない通信基盤を構築する。

 3つ目はAI基盤。計算資源と通信基盤で収集したデータをもとにAIモデルを構築し、自動運転やAIエージェントなどさまざまなサービスの実装と新たな価値創出につなげる。

 これらのモビリティAI基盤は、トヨタとNTTが独占的に利用するのではなく、オープンイノベーションを通じて多くのパートナーとともに発展させるべく、標準化することを前提に構築する。たとえば、トヨタ以外の自動車会社がこの基盤を活用したり、NTT以外の通信会社が提供する通信基盤を選択して通信したりすることをあらかじめ想定して開発が進められる。

NTTのIOWNを活用

NTT代表取締役社長の島田明氏

 NTT代表取締役社長の島田明氏は、これらのAI基盤のキーとなるのは、同社の次世代情報通信基盤「IOWN」だと紹介する。

 IOWNでは、これまでの電気信号に代わり光信号だけで通信することで、高速かつ省電力な情報処理、通信が期待できる技術。IOWNを通じて街の車や人、街からさまざまデータを収集し、膨大なデータ処理を高速かつ低消費電力実現できるスペックを備えており、あわせて、AIがさまざまなシミュレーションを行い現実世界に反映させる「デジタルツイン」やICTリソースを最適化する「Cognitive Foundation」(コグニティブファウンデーション)の基盤を備えている。

 これらにより、自動車のカメラやセンサーから大量のデータを低遅延のネットワークで取得し、デジタルツインでシミュレーションし、先読みできるようになる。

 これを、圧倒的な電力効率により行うことで、モビリティと情報通信が一体となって豊かな社会基盤を形成できると島田氏は語る。

NTTのネットワークを利用

 取り組みでは、国内のデータセンターに自動車などから収集した膨大なデータを蓄積、処理する分散型計算基盤を構築する。ネットワークは、NTTのネットワークを活用し、AIがリアルタイムで最適な通信経路を選択し、切れ目のない通信でさまざまなデータを収集する。

NTT 島田氏

 島田氏は、膨大なデータを蓄積したモビリティAIとして「いわば『LMF(Large Mobility Foundation)』と呼べるものだ」と提唱、言語だけでなくさまざまなマルチモーダルデータを直接入力し、分析し、モビリティにおける解決策を提供していくものになると説明。これらのAIを組み合わせて、交通事故ゼロや自動運転の高度化、人に寄り添うAIエージェントなどの施策やサービスを進めていく。

 両社は、今後モビリティ基盤の開発をスタートさせ、2028年頃からはさまざまなパートナーと三位一体型のインフラ協調によるモビリティ社会の社会実装を開始、2030年以降の普及拡大を目指す。2030年までに、約5000億円規模投資し、基盤開発を進めていく。

自動運転は安心、安全のための“手段”

トヨタ 佐藤氏

 佐藤氏は、今回の取り組みで登場する自動運転について「三位一体型のインフラ協調構築のための手段の1つ」とコメント。人を中心として考える中で、「人の運転」を完全にゼロにするのではなく、多くの人々の“移動の自由”が提供できるようになるなど、交通事故ゼロ社会の実現に向けての方法の1つであると強調する。

 今回構築するモビリティAI基盤は、まずは国内での運用、展開を目指す。海外展開について佐藤氏は「各国の状況や交通関係、通信関係などがさまざま」と指摘。まずはベースとなるモデルを日本で運用し、この基盤にさまざまなパートナーが集うものを構築していく。

 また、トヨタが静岡県で構築している実験都市「ウーブン・シティ」との関わりについては「ウーブン・シティは人中心の街、モビリティのテストコースという大きなミッションを持っている。当然この協業の中で具体的なテーマが出れば、そのテストコースに持ち込んで実施していく」(佐藤氏)と、関連して取り組みが進められる。

両社CTOの熱い想い

 会見終了後、NTTの代表取締役副社長 CTOの川添雄彦氏とトヨタの副社長 CTOの中嶋裕樹氏も駆けつけた。

 中嶋氏は「両社の熱い想いがぶつかり合っているが、それを互いに共感できる状況にある」、川添氏は「グローバルでやっていきたい想いがある」と、CTO同士でもさまざまな検討が進められていると説明。

記者の囲み取材に応えるNTTの代表取締役副社長 CTO 川添雄彦氏

 島田氏は、「これからの最大の社会課題は、消費電力が増えてしまうこと」とコメント。あわせて、「AIでシミュレーションすることも重要だが、万が一AIが間違えてしまう可能性も考慮し、それを監修するAIも必要」と、連鎖型AIの必要性を説き、これらを実現するためのIOWN技術を取り入れていくと意気込みを見せた。