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スマホとStarlinkで西表島の生き物を守れ、KDDIや沖縄セルラーらが新たな環境保護の取り組み

 KDDIと沖縄セルラー、バイオームの3社は、沖縄県西表島でスマートフォンや「Starlink」を活用した外来種調査を実施した。得られた情報は、西表島の生態系の保護などに役立てられる。

「外来種」による生態系破壊が問題に

 総数わずか100頭ほどと絶滅の危機に瀕している「イリオモテヤマネコ」をはじめとした、貴重な固有種が多く生息する西表島。しかし今、その生態系に危機が及んでいる。人間が知らずのうちに持ち込んでしまうなどして、島内に入り込んだ外来種がその原因のひとつだ。

 高い競争力のある外来種は、在来種を駆逐してしまい、その地域の生態系を大きく変えてしまうなどの強い影響力を持つ。外来種への対策は差し迫った課題のひとつ。今回、KDDIをはじめとした3社が取り組むのは、衛星ブロードバンド「Starlink」とスマホアプリ「Biome」(バイオーム)を活用した外来種の調査だ。

見つかった生き物の一例。左からアオミオカタニシ、イシガキトカゲ。いずれも在来種という(提供:KDDI)

 従来、沖縄セルラーなどによりIoTカメラなどを活用した生態系調査は行われてきた。しかし、そこでカメラではデータ量が十分ではないことや調査が行われるエリアでは通信が不安定な場合があるなどの課題がある。

Starlink×スマホで生態系を調査

 今回の調査では、衛星ブロードバンドであるStarlinkを活用して山中に通信環境を構築。下り通信速度130Mbpsほどで通信できていたという。

川岸の岩場の設置されるSarlinkのアンテナ。この周辺は携帯電話ネットワークを利用できない

 Biomeは、スマートフォンのカメラで撮影した写真から写っている生き物の種類を判定できるアプリ。AIにより生き物の名前が判定されることから、従来の調査のように専門家が現地に出向く必要がない。これにより、動植物の専門的知識がなくとも調査への参加が可能なことから、調査の加速が期待される。

調査現場の様子。動物のみならず植物も判別できる
見つかった生き物の一例。左からイシガケチョウ、タイワンヤツボシハンミョウ。右は在来種か外来種か研究中という(提供:KDDI)

 今回の取り組みで、バイオームはアプリの提供以外にも、収集された生物データの分析などを担当している。

 今回の調査は「沖縄自然保護プロジェクト」の一環。西表島をはじめ、奄美大島、徳之島、沖縄島北部は2021年に世界自然遺産へ登録された。これらの地域は絶滅危惧種や固有性の高い生態系を有する。生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)では、2030年に向けた生物多様性保全の世界目標が採択されており、さまざまな産業へ影響を及ぼす自然環境の保全は、喫緊の課題といえる。

生態調査にも最新技術を

 調査の場には、沖縄セルラー 代表取締役社長の菅隆志氏も姿を見せた。地元を代表する通信企業である同社が沖縄の環境保護に取り組む意義を、同氏は「沖縄が抱える課題をいかに解決するかが我々のミッション」として、生物多様性にあふれる沖縄の環境を後世に残すのは沖縄の企業の責務とも話す。

沖縄セルラー 菅氏

 この調査の実施の前日、西表島にある大原小学校では、沖縄セルラー社員や環境省、バイオームらによるBiomeを用いた生態系調査の体験授業も行われた。外来種の危険性や沖縄セルラーなどのこれまでの取り組みを真剣な様子で聴く子どもたち。Biome(Chromebookで使用)を使い、友達同士でにぎやかに校庭の生き物・植物を撮影する姿が見られた。

体験授業が行われた竹富町立大原小学校

 同日体験授業に出席した、環境省で自然保護官を努める石原航氏は、道なき道を進むような奥地まで進入する調査の難しさを説明。西表島は外来種調査に限らず、奥地の環境の調査が進んでいないとも語り「通信技術がそういうところの突破口になる」と最新テクノロジーの生態調査への取り入れに強い関心を示す。

西表の景色

 生徒らとともに授業に参加した大原小学校 磯部幸代 教頭は同校の子どもたちが生き物に関心が高いものの「外来種についてはなんとなくしかわかっていなかった。良い機会だった」と実感を述べた。

 今回の調査で得られた結果は、環境省や沖縄県、竹富町へ提供して西表島の環境保護や外来種対策に活用。生物多様性保全の取り組みの支援につなげられる。