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「鉄道路線5G化」を掲げるKDDI、担当者が5Gの取り組みを語る
2021年7月3日 09:00
KDDIは6月30日に、JR東日本の山手線全30駅とJR西日本の大阪環状線全19駅で、5Gネットワークの構築を完了した。対象駅のホームで5Gが利用できるようになっている。
同社は「鉄道路線5G化」を掲げ、2021年度までに私鉄を含む関東21路線・関西5路線で、主要区間のホームや駅構内、駅間の5Gエリア化を進めていく構えだ。
今回はその取り組みに関して、KDDIの担当者が説明を行った。
- KDDI パーソナル事業本部 パーソナル企画統括本部 次世代ビジネス企画部 部長 長谷川渡氏
- KDDIエンジニアリング モバイル設計本部 エリア設計部 加藤純人氏
- KDDI 技術統括本部 エンジニアリング推進本部 エリア品質管理部 通信品質強化G 小野田倫之氏
5Gに関するKDDIの取り組み
冒頭で長谷川渡氏は、山手線と大阪環状線の全駅ホームが5Gエリア化されたニュースを改めて紹介した。その上で、「(駅の)ホームだけでなく、駅間の5Gエリア化にも取り組んでいる」とアピールする。
「5Gエリアを拡大していく中で、どこへどのように広げていくのがユーザーにとって望ましいのか、ということを考えている。当然、基地局の数も重要な指標ではあるが、場所も意識している」と長谷川氏。
そのような考えのもと、代表的な2つの路線として山手線と大阪環状線が選ばれたというわけだ。KDDIは引き続き、2021年度末までに「鉄道路線5G化」の計画を進めていく。
長谷川氏は、ユーザーに対して5Gの利用可能エリアを示す「5Gエリアマップ」の拡充に関しても紹介した。
5Gの商用サービス開始当初から同マップは公開されていたが「こうしたマップだけでは、どこで使えるのかが伝わりづらい部分があった」(長谷川氏)という。そのため、鉄道路線と商業地域に関しては、新しく個別にエリアマップが用意されている。
同氏は、「鉄道に関しては、ホーム・駅間・屋内など、どのような場所で5Gが使えるのかということを、ユーザーの皆さんに対してしっかり伝えていきたい」とコメントした。
「見えづらい」5Gエリアをどのようにしてユーザーに理解してもらうかを検討した結果、生まれたのがピーナッツとのコラボ企画「ARスヌーピーに会いに行こう!」だ。
実際の体験画像は本記事の最後でご紹介するが、これはスマートフォンアプリ「XR CHANNEL」を用いた企画で、3D ARのスヌーピーが5Gエリアに登場するというもの。
長谷川氏によれば、「5Gによって3Dオブジェクト(3D ARのスヌーピー)のクオリティを上げることに成功し、より高精細な映像を楽しんでいただける」とのこと。同氏は、さらにさまざまなキャラクターとのコラボレーションも進めていきたいとし、今後への意欲を見せた。
5G電波の特性とエリア設計の苦労
続いて登壇した加藤純人氏が紹介したのは、5G電波の持つ特性と、その特性を踏まえてエリア設計をする上で苦労したポイントだ。
KDDIが5Gで利用している周波数は、大きく分けて「ミリ波」「Sub6(サブシックス)」「NR化」(4G向け周波数を5Gへ転用すること)の3つ。
このうちミリ波とSub6の2つは、5G向けに新規に割り当てられた周波数。それに対してNR化は4G LTEで使っている周波数のことで、KDDIはこの一部を5Gで利用している。このメリットは、既存基地局を活用し、より早く5Gエリア化を進められるという点にある。
KDDIが保有する周波数は、全部で10種類。このうち、700MHz~3.5GHzまでが4G LTEで使っていた周波数で、5Gで転用されるのは700MHzと3.5GHzだ。
そして、3.7GHz、4GHz、28GHzの3つが、5Gに向けて新規に割り当てられた周波数となる。周波数が高くなればなるほど、電波の減衰が起きやすかったり透過しづらかったりして、障害物の向こう側に電波が届きにくくなる。
低周波数のたとえとして加藤氏が挙げたのは「音」。たとえば誰かが声を出しているときに、パーティションなどで音を完全に遮断することは難しい。隣の会議室で話していることが壁越しに聞こえる、という経験は珍しくないはずだ。音と同様に、低周波数は「回折」といって障害物を回り込める性質が強いため、壁の向こう側にも届きやすい。
そして、高周波数は「光」をイメージするとわかりやすい、と加藤氏。大きな壁があったとして、そこに光を当てても、光は壁の向こう側まで回り込むことができず、壁の影になってしまう。
周波数が高い5Gのエリア設計においては、「狙いたいエリアに見通しを確保することが重要である」と加藤氏はコメントした。
では、5Gのエリア構築の難しさはどのような部分にあるのだろうか。先にご紹介したように、5Gの高周波数帯域は、減衰しやすく回折しづらい性質を持っている。そのため、4G LTEに比べて電波が届く範囲が狭くなってしまう。
これを踏まえ、加藤氏は「既存の4G LTEエリアに加えて、新たに5G基地局の設置場所を確保していきたい」とした。
もうひとつの難しさは、電波の干渉対策だ。加藤氏によれば、5G向けに新規に割り当てられた周波数は、携帯電話専用で使っている周波数ではなく、別の事業者も使っているものだという。したがって、そういった事業者に迷惑をかけないような配慮が必要となる。
そこでKDDIでは、微妙に傾きを変えてアンテナを取り付けるなど、可能な限り干渉を防ぐ努力をしている。ユーザーの通信品質の確保と、ほかの事業者への影響の考慮。この2つを意識しながら、最適なエリア設計を行っているとのことだ。
「エリア最大化」と「パケ止まり抑制」を両立するきめ細やかな品質管理
小野田倫之氏は、KDDIの技術統括本部によるきめ細やかな品質管理について語る。同氏は、「エリア最大化」と「パケ止まり抑制」の両立がキーポイントだとする。
たとえばユーザーが5G基地局の近くにいる場合は、5Gで快適なデータ通信が実現する。一方で問題となるのは、基地局から離れた場所で5Gの電波が弱い場合だ。
こうした状況で、切断直前まで5Gの電波を引っ張ろうとすると、確かにエリアは広くなるが、通信ができなくなってしまう「パケ止まり」のリスクは高まる。そこで、早いタイミングで5Gを諦めて4Gの電波で通信をすると、エリアは狭くなるが、ユーザーは快適に利用できる。
このバランスを調整するのがKDDIの技術統括本部で、実に数百ものパラメーターを調整し、通信品質の維持に努めている。
質疑応答
――5Gの電波で、ほかの事業者との干渉を防ぐという話があったが、そもそも街の中にそうした干渉のポイントは多くあるのか。
加藤氏
事業者間で、どれだけの電波を出してどれだけの影響を与えるのかというところは、協議の上で決めた値がある。街の中に数多く存在するというわけではないが、我々が基地局を拡大するにあたっては、基準値を決めてそれを超えないようにしている。
――干渉は、アンテナの向きを少し変えるだけで対応できるような話なのか。
加藤氏
アンテナの向きを変えれば解決するケースと、そうではないケースがある。最悪の場合は、アンテナを取り付ける位置を替えるという形になる。
――それは、実際に取り付けてみないとわからない?
加藤氏
机上でも計算はできる。ただ、アンテナを取り付ける位置は(建物の)オーナーとの交渉ごとになるため、交渉で決まった位置に取り付けても大丈夫かどうかということがなかなか難しい。
長谷川氏
干渉の距離感でいうと、数十キロ先の施設が影響するというレベルなので、肉眼で見えるところにあるというものではない。
――そう考えるとなかなか使いにくい電波ではないか。
加藤氏
現状では、難しさも感じている。
――干渉対策に苦労している3.7GHzと、4Gから転用している3.5Ghzを比べても、周波数は0.2GHzくらいしか違わない。何か決定的な違いはあるのかどうか教えてほしい。
加藤氏
まず3.7GHzと3.5GHzは特性が近い周波数なので、電波の特性としては似たようなものになる。
ただし、周波数的には0.2GHzしか違わないが、ほかの事業者へ与える影響を考えると、3.7GHzのほうが圧倒的に難しい。
――既存の周波数の転用では、通信速度があまり上がらないという話もあるが、そのあたりを詳しく聞きたい。
長谷川氏
速度については、帯域幅が非常に重要になってくる。あとは、複数の基地局でどれだけカバーできるかという点も大切。
既存周波数の3.5GHzを転用しても、その局数をしっかり増やしていけば、(ユーザーが)現在使っているアプリケーションは満足して使っていただけるような速度を確保できると考えている。
通信量が多いような場所では5G向けの新規周波数が役立つが、より早くより広い場所で5Gをご利用いただくという視点では、既存の周波数も有用といえる。したがって、両方を組み合わせることを重要視している。
東京駅ホーム内の基地局見学
説明と質疑応答の終了後、山手線東京駅ホーム内の基地局見学に移った。同駅のホームには、3.7GHzと3.5GHzのアンテナが設置されている。
冒頭でご紹介した通り、山手線全30駅で5Gが利用可能になっているが、駅の広さや利用者数に応じて、アンテナの設置数は異なるとのことだ。
今回はデモ機を借りてauの5Gのスピードテストも実施したところ、下り(ダウンロード)速度は1Gbpsを軽く超えるという結果に。5Gの特性のひとつである高速性を、目に見える数値として確認することができた。