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「開発者が描く未来を現実にしていく」――Armのシガース氏、ARM VISION DAYで講演

 Armは、オンラインイベントの「ARM VISION DAY」において新たなアーキテクチャー「Armv9」を発表した。

  現世代のArmv8から10年ぶりに刷新された。データ保護としてArmv9では「Arm Confidential Copmute Architecture」(コンフィデンシャル・コンピューティング・アーキテクチャー:CCA)を導入した。

 Realm(レルム)の動的作成を新たにサポート。業務用のソフトウェアでは、レルムによって機密データやコードを保護できるとしている。Arm リチャード・グリセンスウェイト氏は「より安全な世界で、通常のソフトウェアが利用できる。たとえばライドシェアアプリでは、OSが破損しても、データを保護できる。データ盗難を防ぎ、雇用主の監視制御も対応することで、社員が業務用端末を保つ必要がなくなる」としている。

 また、不正にアクセスされても、被害を最小限に留める産業用の仕組み「Morello」(モレロ)をマイクロソフトやグーグル、エディンバラ大学などと実証しており、今後の10年以内にArmv9に組み込んでいく。

 Arm ジェム・デイビス氏は、省エネの重要性を指摘。AI処理で使用条件に応じて家電の消費電力を1割減少させることができると説明。また、ヘルスケア分野においても今後5年間でAIによるヘルスケアの予測精度が12%かそれ以上、向上するのではと推測した。

 Armでは、富士通との協業でScalable Vectro Extension(SVE)を開発しており、Armv9ではこれをベースとしたSVE2を採用。これまでよりも幅広い機械学習やデジタル信号処理において優れたパフォーマンスを実現するという。

 同社では、詳細な仕組みなどについて、2021年夏頃に公開する予定という。

 画像処理やスマートホーム用のアプリケーション、XRや機械学習において処理能力が強化され、Armでは今後MaliとEthosで進めているAIの新技術と併せてCPUの行列乗算機能を強化し、AI機能を発展させていく。

 Armでは今後、次の2世代のモバイル・インフラストラクチャーCPUでは、性能を30%以上向上させるとしており、自動車やIoTなど同社がサポートする製品全体を通じて「Total Compute」の設計思想を取り入れ、キャッシュサイズの向上やメモリーレイテンシーの低減を通じてArmv9ベースのCPUの性能向上のための技術開発に取り組んでいくとしている。

10年で目覚ましい成長を遂げたArm

 発表の場では、アーム(日本法人)代表取締役社長の内海弦氏が登壇。内海氏は、2020年をコロナ禍による混沌があったとしつつも、業績は好調だったと紹介。半導体の需要高まりがあり、2020年第3四半期のチップセット出荷数は過去最高の67億個を記録、累積では1800億個に達したという。

アーム 内海氏

 新規ライセンス契約も伸長し、Arm採用のマイコンも過去最高の出荷数になったという。10年前のチップセット出荷数は240個だったことに触れ「この10年で大きく成長できた。Armv8の発表時にはいろいろな声があったが、パソコンやゲーム機などさまざまなデバイスに浸透した。Armv9を10周年の区切りとして『ARM VISION DAY』で発表したが、Armにとっても社会にとってもひとつの区切りになるのでは」と語った。

Armv9で新しい時代を切り拓く

 Arm CEOのサイモン・シガース氏がビデオ出演した。同氏は、リモートワークにより人気の少なくなったシリコンバレーのオフィスから、同社製品のユーザーで建物の制御装置を扱うジョンソンコントロールズ(JCI)の取り組みを紹介。

Arm サイモン・シガーズ氏

 「AIは未来のものではない」というシガース氏。JCIは、冷却水循環システムにAIを取り入れ、50%以上のエネルギー削減に成功している。

 これ以外にもパートナー企業のイノベーションと専門知識により、Armの技術は幅広い製品に応用できるとシガース氏。一例として、新型コロナウイルスのワクチンを受けたデジタル証明書をスマートフォンで表示するということもあるだろうと説明。しかし、実際にはコロナウイルスに限らず、個々人のアレルギーや投薬データといった自身の医療データを常に持ち歩けることに意味があるという。

 そういったことが実現できれば、重要な情報に素早くアクセスできるようになるが、そのためには、従来以上の高度な暗号化が必要となる。

 新型のArmv9-Aでは、メモリータギングにより安全性の問題を解決。レルム管理はデータを安全に管理できる「金庫室」だと語る。また、SVE2の採用でAI機能も強化されていくと説明。「AIは効率的な演算能力を求め続ける。Arm製品のユーザーはAIの未来を実現したいと願っており、私達の機会をパートナーのために活かせるかどうかにかかっている。それがNVIDIAとArmの将来に対して期待している理由だ」とシガース氏。ArmとNVIDIAのAI技術を組み合わせることで、AI時代をリードするICT企業になれると自負した。

 Armのレネー・ハース氏は、Armv9はこれまでArmがやってきたこととは異なるものだと語る。これまでの達成した性能向上の具体例として「M55」と「U55」というレネー氏。この組み合わせで500倍近くの性能を向上させたといい、自動車における自動運転など多様な分野での商品化を予想し「Armv9によって何がもたらされるかが楽しみ」とした。

 Armv9で本当に楽しみなのは開発者に対して何が起こるかということというレネー氏。「Write fast run fast」という言葉を具現化するのがArmv9と語る。

 Armv9最大の特徴はセキュリティ。数年前に猛威を奮ったコンピューターウィルス「Spectre」と「Meltdown」を例に出し「v9ではレルムを使ったCCAにより、開発者やユーザーによって(セキュリティ面で)すばらしいものになっている」とコメント。

 南アフリカの輸血サービスのドローンやインドネシアの違法伐採の音声監視装置などArmのテクノロジーが使われている製品の例を上げ、幅広い分野でArmの技術が使われていることを紹介するシガース氏は、今後5年以内に1000億個のチップセットが出荷されると予測する。

 「Sparking the World's Potential(可能性が開花する)というArmのビジョンは、多くの開発者が描く未来を現実にする。Armはミクロの視点での詳細とそのテクノロジーがもたらすマクロ的影響の両方に焦点を当てていく。Armv9時代がどんな10年になるかが楽しみだ」と語った。