ニュース
「Googleマップ」は機械学習とユーザー投稿でさらなる進化を遂げる、キーパーソンが語る秘密とは
2020年2月14日 16:42
誕生から15周年を迎えた「Googleマップ」。スマートフォンでは欠かせないアプリとしてユーザーから多くの支持を集めるサービスだ。
だが、その誕生時、その利用スタイルは、「印刷して持ち運ぶものだった」と語るのは、グーグルのシニアバイスプレジデントであるジェン・フィッツパトリック(Jen Fitzpatrick)氏だ。
グーグル最初のインターン、グーグル初の女性エンジニア
フィッツパトリック氏は、米グーグルで最初のインターンシッププログラムに参加。そのままグーグル初の女性エンジニアとしてさまざまな製品を担当。
2009年からGoogleマップを担当し、現在はスンダー・ピチャイCEO直下で、Googleマップ全体を統括している。
当初は印刷、モバイル対応が大きな革新
そんなフィッツパトリック氏は、「Googleマップ」登場以前、人々は紙の地図を主に使い、目的地までの行き方や、旅行ならば付随する情報を事前に調べていた、と振り返る。それは最初期のGoogleマップも同じで、当時はプリントアウトしてドライブするのに使っていたと当時の記憶を探るフィッツパトリック氏。
そんな状況が大きく変化したのは、2008年、Googleマップがモバイル対応になってからだ。日本ではそれ以前からフィーチャーフォン向けの徒歩ナビゲーションサービスは存在していたが、パソコン向けサービスで人気を得ていたGoogleマップは、その後、着実にモバイル向けの機能を拡充。
フィッツパトリック氏は「地図に関する情報を、バッグやポケットに入れられるようになった。それが普通になった。それまでは前もって計画しなければいけなかったが、モバイル対応によって、リアルタイムに情報を収集しながら移動できるようになった」と解説。Googleマップの歴史の中で「モバイル対応が最も大きなトピックだった」と評する。
「地図が進化すると、人々からの質問も変化してきた」
現在、220以上の国と地域で利用できるまでになった「Googleマップ」は、工事や渋滞までわかるリアルタイムでの交通状況の反映、徒歩~電車~タクシーと切り替わる交通手段にも対応しながら一貫してルートを案内できる機能、あるいは最新の機能として、カメラで周囲を判別して行くべき道を示すライブビューなどが盛り込まれている。
単なる地図ではなく、経路検索や店舗の情報など、提供できるコンテンツが増えるに従って「ユーザーからの地図への期待が変化し、質問の内容も変わってきた」とフィッツパトリック氏。
以前はレストランの名前から、電話番号や場所を調べる程度だったが、「そのラーメン屋までどうやっていく?」「どれくらい混雑している?」「地元の人に人気のメニューは?」などといった質問が寄せられるようになった。
その結果、現在のGoogleマップでは、店舗に関する情報や、混雑状況などを投稿したりできるようになり、ユーザーからの情報が反映されるようになった。情報を投稿するユーザーは「ローカルガイド」と呼ばれ、世界で毎日2000万件、情報が提供されており、地域ごとに異なる状況にあわせ、「使いこなすための必要な情報が寄せられている」(フィッツパトリック氏)という。
15周年を迎えた2月7日の発表では、新機能として、世界2億カ所のランチ情報や観光地情報を得られる「スポット」、ルート検索の「経路」、ユーザー自身が気になる場所を保存しておける「保存済み」、ユーザーから寄せられる情報をまとめた「投稿」、そして周囲に新しい店舗がオープンした際などに通知してくれる「最新」という5つのタブが案内されている。
地域によって異なる取り組みも
世界中で利用されるGoogleマップとはいえ、国や地域によって、街の特徴は異なる。
たとえば東京は歩ける道が地上か地下かさまざま。これをきちんと判定し、正確なルート案内に活かせるようになれば、東京だけではなく似たような構成を持つ地域でも活用できる。「これはワクワクするチャレンジ」とフィッツパトリック氏は期待感を示す。
そうした地域によって異なるチャレンジのひとつに、インドの例がある。クルマよりもスクーター、バイクが「1対5でバイクがすごく多い」(フィッツパトリック氏)地域であり、クルマとバイクでは走行パターンが異なる。そこで、Googleマップのインド担当チームは、スクーター用を提供したところ、「すごく受けた」(フィッツパトリック氏)という。
似たような交通状況の街は、インド以外にもあるため、そのコンセプトは他の地域でも活用される。世界中で学習し、ローカルのニーズを学ぶ。街によって異なる課題があり、Googleマップには常に解決すべき課題がある、とフィッツパトリック氏は語る。
「機械学習」とユーザーからの投稿で地図をアップデート
現在のグーグルと言えば、AIなどとも呼ばれる機械学習をリードする企業のひとつでもある。そのテクノロジーは、もちろんGoogleマップにも活用されている。
「地図を新しい方法で、より効率的に作れるようになった」とフィッツパトリック氏。
機械学習により、街の最新状況を、自動的に地図へ反映していく仕組みが実現した。たとえばストリートビューのデータ収集や、衛星写真の活用はそのひとつ。もし地図上にない建物や道路の情報を、画像から得られれば、機械学習による判定を経て、地図がアップデートされるのだという。ユーザーのスマートフォンから得られる情報をもとに交通状況を推定することもできる。
それ以外でもユーザーからの情報投稿も、最新状況のアップデートには有益だ。たとえば店舗がオープンする際、一番確かな情報は、店主からの情報投稿だ。あるいは近隣の住民からの投稿も参考になる。
このとき懸念すべきはユーザーからの情報が正しいかどうか。「私たちが本当に時間を割いているもののひとつ」とフィッツパトリック氏は、情報の信頼性担保に注力しているのだという。
投稿された情報ひとつだけは参考にせず、さまざまなユーザーから1カ所に関する情報が得られれば、それぞれを比較することで、正しさが分かってくる。あるいは地元の事業者からの協力を得て調査することもある。はたまたストリートビューとの比較で、店舗の開設や移転も推定できる。こうして、「寄せられた情報が信頼できるかどうか」判断するためのパターンがある程度できあがっている。
「あらゆる種類の情報に、それぞれ異なるシグナルがある。ユーザー自身、不正確だと思ったコンテンツをグーグルへ通報することもできる」とフィッツパトリック氏は説明し、複数の取り組みで、信頼性を高めていることをアピール。
そうした中で、Googleマップは約1年前、地図の内容を刷新。当時、ユーザーからは「Googleマップが劣化した」と話題になった。
「これまでと異なるアプローチに切り替えた」と振り返るフィッツパトリック氏は、その異なるアプローチにより、ユーザーコミュニティからの情報をより活用できるようになったと説明。以前よりも、情報を深掘りして、世界中でたとえばタクシーの乗り降りできる場所。歩道の場所などが詳しく見えるようになったのだという。
究極の目標は、実世界にあるものを学び、理解し、ユーザーからの全ての質問に答えられるようにすることとフィッツパトリック氏。何か目的をもって移動する、あるいはどこかを訪れるユーザーに対して、Googleマップにできること、やるべきことはまだまだある、これからの15年も楽しみにしている、と語っていた。