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KDDI高橋社長、楽天との提携の狙いや料金値下げへの対応について説明

 KDDIは11月1日、2019年3月期の第2四半期決算(2018年4月~9月)を発表し、決算説明会を開催した。決算と同時に、KDDIと楽天が決済・物流・通信の分野で提携を結んだこととも発表された。

KDDIの高橋社長

「協争」という新しい概念で結んだKDDIと楽天の提携

 楽天との提携は、楽天が決済基盤と物流基盤をKDDIに提供し、KDDIが通信ネットワークをローミング形式で楽天の通信サービス事業に提供する。楽天モバイルはすでにauネットワークを使ったMVNOサービスを提供しているが、今回の通信分野の提携はMVNO事業ではなく、楽天が来年提供予定のMNO事業に対してのローミング接続となる。楽天は4月に1.7GHz帯の免許を付与されており、来年10月よりMVNOではなく、自社ネットワークを使ったMNOとしてモバイル通信事業を開始する予定だ。

「事業協争」という発想で競合と提携

 KDDIと楽天は、決済・物流・通信サービスのいずれの分野でも競争関係にある。このことについて高橋社長は、「今後は信頼できるネットワークを整備した上で、上下のプラットフォームレイヤーを活用した新しいビシネスモデル環境を構築することが重要になる。こうした新たな競争軸を踏まえ、今回、楽天とは、『協調』と『競争』を合わせた『協争』という新しい概念で提携することにした。ローミングを提供しつつ、楽天が先行する決済物流ネットワークをお借りする。協争という新しい概念で、双方のアセットを利用して基盤整理することが非常に重要」と説明した。

 具体的な取り組みとしては、まず決済分野では、auは来年4月よりQRコードを使った決済の「au PAY」の提供を開始するが、このサービス立ち上げに際して、楽天が提供している「R Pay」加盟店に相乗りする形で、一気に利用可能店舗を拡大するという。

KDDIと楽天の提携で社会基盤を構築し、サービスを強化する

 物流分野では、auのWowma!で楽天スーパーロジスティクスを使って物流と配送を改善してコストを削減し、加盟店へのサービス品質向上にも繋げる。

 通信サービス分野では、楽天からローミング接続の要望を受け、真摯に協議を行い、条件面で合意したという。ローミングを提供するのは混雑エリアの都市部(東京23区と大阪市、名古屋市)を除く、全国エリア。UQコミュニケーションズのネットワークも含まれる。

 一般論として、郊外や山間部などのエリアのネットワーク整備は、時間やコストがかかり、手間やノウハウも必要ともなる。新規参入事業者となる楽天にとって、そうしたエリアのネットワーク整備は難しい。一方で郊外のエリアはトラフィックが集中しないので、既存事業者にとっては通信キャパシティに余裕がある。帯域の逼迫する都市部や混雑エリアは、楽天自身が新規帯域でネットワークを敷設し、郊外エリアはまずはKDDIに借りることで、全国サービスするという考えだ。

 このローミング協定は2026年3月末までという時限が定められている。楽天はこの時期までに郊外での自社ネットワーク建築を進め、完成した地域から自社ネットワークに切り替えて行く、という方針になるという。

 楽天との提携に至った経緯について高橋社長は、「今年になってから楽天からローミングの申し入れがあった。楽天は他社とも交渉したのだろうけど、条件で決まったのだろう。KDDIは楽天が持つ加盟店や物流にも興味があったので、『協争』という概念を持って一緒にやれるのではないかと思い、合意した。いずれにしても、もし我々が断わっても他社が対応するのだろうなと思った。混雑エリアを除いてお貸しするので、それほど新たな投資がかかるわけでもない。適切な料金であれば、競争の原理に基づいて良い結果が得られると考え、提携した」と説明した。

 質疑応答で寄せられた、「QR決済は手数料が下がっていて、提携で加盟店が増えても利益を出しにくいと思うが、勝算はどこにあるのか」との質問に対しては、高橋社長は「アピール下手で申し訳ないが、KDDIはau WALLETを提供している。ポイントとチャージ額を合算すると、だいたい1000億円を超えてきている。それをリアルの店舗で使ってもらうのがプリペイドのau WALLETカードで、これにQR決済を追加するのがau PAY。具体的にどのくらいの手数料にするかといったことは、今月末にお話しするように準備しているが、ご存じのように、単独のQR決済だけでは商売にならない。我々からすると、1000億円超のお金を使ってもらうことで顧客満足度が上がり、通信契約のリテンションも上がり、ほかの金融サービスにもつながる。全体として利益を創出していく」と回答した。

値下げ問題については「KDDIはNTTドコモより先に宿題をすませている」

 前日の10月31日、NTTドコモが決算説明会を開催しており、その中でNTTドコモの吉澤社長は、「利用状況によるが、2~4割、利用料金を値下げしたい」と発言し、その値下げによって4000億円規模のユーザー還元(売り上げの減少)になるとの見方を示している。これは菅官房長官が携帯電話の料金について、「4割下げられる」と発言したことに対する対応と受け止められている。

 NTTドコモが大幅な値下げすれば他社も同様に値下げするだろう、という憶測が広まり、11月1日は携帯電話3社の株価が大暴落し、とくにKDDIは終値ベースで前日から-16.15%も下落している。KDDIほどの大企業の株価にとって、10%の動きはかなり大きい。NTTドコモ吉澤社長の発言は、国内外の投資家にとって、大事件と受け止められているのである。

 質疑応答ではこのNTTドコモ吉澤社長の発言に対してどう考えるか、という質問も寄せられた。高橋社長はそれに対して、「正直驚いた。今日決算発表なのに株価が大きく揺れていて、非常に苦しんでいる」としつつも、「昨日、NTTドコモは具体的なことを言っていなくて、唯一言及しているのが、端末と通信料金の分離モデルを中心に値下げすること、と理解している。KDDIはこの分野について、すでに真摯に取り組んでいる」と説明する。

 一昨年頃から、「端末販売のインセンティブ(販売奨励金)が多い」ということで業界ガイドラインが設けられ、KDDIもそれに従ってインセンティブを抑制してきた。その後、端末と通信を分離した料金にするべきという機運が高まり、KDDIでは業界でも先鞭をつける形で去年夏から「auピタットプラン」と「auフラットプラン」として分離モデルを導入している。こちらは1000万契約以上が移行済みで、これによって解約率も減り、満足度も向上した。KDDIでは分離モデルを導入した昨夏から今夏にかけ、約3000億円以上の収入が下がった(ユーザー還元した)と計算している。

 NTTドコモの吉澤社長は前日の決算説明会で、4000億円規模のユーザー還元と発言している。高橋社長は「KDDIにおいて下がった約3000億円がNTTドコモの言う4000億円と同じところなのではないか」と語り、NTTドコモ吉澤社長の発言したような値下げとユーザー還元は、KDDIではすでに実施済み、との考えを示した。

 一方でKDDIは民間の株式会社なので増益を目指す必要もあるが、KDDIでは端末販売インセンティブを抑制しつつ、サービスや商品に付加価値を付け、さらに会計制度も変わったこともあり、今期は増益を果たした、という。

 高橋社長は「我々はNTTドコモより先に宿題を済ませているので、NTTドコモの料金値下げが来たから、我々が同じ規模で追従する、ということにはならないと思っている。我々からすると、来期に中期計画を発表するけど、持続的成長して初めて5Gやお客さま還元ができるので、民間の知恵を絞りだして、なんとか増益の持続的成長を続けようと考えている」と語った。

 記者から「さらなる対応はしないのか」と質問されると、高橋社長は「そこは繰り返しになるが、勘違いがある。NTTドコモは分離モデルの最終ランナー。我々はすでに実現している。ここはご理解いただきたい」と強調。一方で、「我々はこれだけ利益を出している以上、それだけ社会的貢献やユーザー還元しないといけない、という指摘は真摯に受け入れる。5G投資で地方創生に結びつけたり、キッザニアとの提携のような教育貢献もやる。株主にも還元しないといけない。当然、お客さまへの還元も考えないといけない。ただ、NTTドコモが言っているようなものは、すでに我々はやっているので、その分野でKDDIがいまから4000億円の売り上げ減があるとは考えていない」と語った。

 このような考えを語った上で、別の記者から「本日、KDDIの株価は16%以上(-16.15%)も下落した。NTTドコモ(-14.71%)やソフトバンク(-8.16%)よりも下げている。KDDIが値下げのフロントランナーだとすると、なぜ市場でこのような評価を受けたのか」と質問されると、高橋社長は「どうなんでしょうね。うちが単純に追従すると憶測されて下落したとしか考えられない。決算でお見せしているように事業は順調。分離プランもすでにやっている。インセンティブを下げたり新規事業やミャンマー事業などで増益に持って行っている。民間企業として一生懸命やっている。今日はっきり言わないといけないなと思っていることは、いま中期計画を作っている最中だが、そこでも減益を発表することはなく、基本的には持続的成長を目指す」と説明。さらに「株価については、今がちょうど買い時なんじゃないかな」と付け足して会場の笑いを誘った。

 分離プラン導入によってKDDIにはどれだけのプラスとマイナスの効果があったのかという質問に対しては、「通信ARPUは減少した。一方でプラスの要素として販売コストが270億円減った。これに加えてMVNO収入増の105億円がのっているので、このあたりで増益になっている。今後は楽天へのローミング使用料も入るので、このあたりは中期計画に反映される」と説明した。

上期決算は増収増益。今年度の通期見通しは順調

増収増益で計画を順調に消化している
分離モデルによる値下げで、上期だけで利益は292億減ったが、他事業が好調だったため増益に

 2019年3月期の上期決算(2018年4月~9月)としては、売上高も営業利益も増え、現行の中期目標達成に対して順調に進捗していると発表している。

 上期の営業利益をみると、前年同期(5425億円)に比べると、分離プランによるARPA(契約者あたりの売り上げ)減少により292億円減ったが、一方でMVNO収入が105億円増、付加価値商品で154億円増のほか、ビジネスで62億円、グローバルで67億円、そのほかで91億円と増え、合計で+187億円の増益となっている。

通信ARPAは減少
分離プラン契約で請求額は約3割低減

 特に昨夏導入した分離プランである「auピタットプラン」と「auフラットプラン」は、9月23日時点で1000万契約を突破し、ユーザーへの平均請求額は導入前のユーザーと導入後のユーザーで比較すると、約3割低減したという。いわば企業としては売り上げが減った格好だが、KDDIとしては引き続き料金プランの低価格化とシンプル化に向け、積極的に対応していくという。

 こうした取り組みもあり、auの解約率は減少し、外部機関(J.D.パワー)が調べる顧客満足度でも、個人法人ともにナンバーワンとなっているという。

解約率とモバイルID数は成長中
通信事業ではない分野での流通総額は急増中
付加価値部分でのARPAは小さいながらも着実に増加中

 一方、auかんたん決済やau WALLETなどの決済収入も順調で、auスマートパスプレミアム(月額499円)が574万契約に達しているなど、減少する通信料収入を補う付加価値商品の売り上げが順調に増えていることも紹介した。こうした付加価値商品によるARPAが減少する通信ARPAを補い、総合ARPAの拡大を牽引しているという。

ライフデザインサービス
通信収入が減っても、付加価値の増加でカバーする

 楽天との提携は、通信事業ではローミング収入も得られるが、付加価値ARPAとなるauの決済やショッピングを強化することにもつながる。auでんきやNetflixパックといったサービスも含め、auが進める通信を中心としたライフデザインサービス全体を強化していくことで、顧客満足度の拡大やリテンション強化、タッチポイント強化を行ない、収益基盤を拡大する方針だ。